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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
追章 メタ編2 ~あるいは陽だまりで微睡む平和な世界~

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第482話 熟練者たちの展開予想

 結局、外の神々が企画しているという新ゲームの詳細は分からなかった。

 しかし企画の戦略的部分、特にジェードや、ルナの母が考えている戦略については話を聞かせてもらったハルだ。


「つまりは、賞金で釣るんだ」

「言い方は悪いけど、そうなるね」


 今は久々にゲーム内、神界にあるギルドホームにて、ユキにその詳細を伝えている。

 一周年を直前に控え、盛り上がりを見せる城下町を、ハルとユキの二人は立ち入り禁止区画となっているお城の上階からのんびりと見下ろす。


 その新ゲームの話、特に興味を示しそうだったのがこのユキであった。


「んで、おいくら? 大量に集める餌にするんなら、さぞかし莫大なんだろうねぇ?」

「ん。こんくらいだって」

「うわぁ……、桁が一つ違う。こりゃ本気だね……」


 通常、賞金付きで開かれるゲームの大会とは大きく乖離かいりしたその額面。その高額さに腕を広げて大げさに驚いてみせるユキ。

 誰もが参加可能である大会において、特にこれはあり得ない額であった。


 ゲームの大会には大きく二種類があり、誰でも参加できるものとプロ専用のものがある。

 当然プロ専用の方が賞金額は圧倒的に高く、スポンサーのつかない一般的なプレイヤーは、そうした高額賞金の大会には出られない。


 超人的な能力スキルを持つユキも、そこまでの大金持ちではない理由がここにあった。ユキは誰かの下につくのは嫌う。

 ありがたいことに、ハルを除いては。


「よく許可下りたねそれ。確か、規制とか厳しかったでしょ、国の」

「そこは奥様の力だね。その影響力を利用するために、ジェードは、ひいては外の神様は奥様に協力を求めたんだろう」

「ルナちーマザー、恐るべし……」

「だね」


 一般向けの大会、その賞金が低いのにはいくつか理由がある。企業の体力が持たない、費用対効果に見合わないのはもちろんあるが、大きなものは法律的な規制だ。

 プロ用の開催ステージでなければ、国から認可が下りないことが殆どだからだった。


 理由はいろいろとあるが、混乱や犯罪の防止が大きなものを占める。

 誰でも参加できるとなると、人が殺到する、悪用し利益を掠め取ろうとする、等の問題が簡単に予想されるためだ。

 そこを解消できると確約するのに、ルナの家の影響力が力を発揮していた。


「でもさでもさ、なにやんの? アクションゲームとかカードゲーム、ボードゲームなんかじゃないんだよね? あとはハル君の好きな」

「戦略ゲームかな?」

「そうそれ。ストラテ」

「でもないみたいだよ。どうやら数時間で決着が付くゲームじゃなくて、何日も何日もかけるらしい」

「あ、そっか。本当の目的は魔力を集めることだから……」

「うん。長期間こっちの世界に精神を留めておかなきゃだね」


 いくら賞金を広告代わりに人を集めると言っても、目的はゲームの知名度アップや興行ではない。

 いや、ルナの母はそれを、ひいてはハルの名声アップを狙っているのだが、神々がこの企画を提案した理由は魔力の増加であった。


 異世界において、日本人が、特に大人数集まることで魔力は大きく発生する。

 そのため、大会が一日二日で終わってしまっては、最大の成果を得られない。可能な限り長期に渡って、異世界に滞在してもらう必要があった。


「でも、何すんだろーねー? なんでジェーどんは教えてくんなかったん?」

「守秘義務だって。“参加者”に内部情報を喋っちゃいけない。そういう契約だ」

「ほう……、“参加者”」

「だね。外の神様、僕らも参加させる気でいるね」


 賞金ありの大会において、主催の関係者となる者が出場するなど言語道断だが、神はそんな俗事など知ったことではないようだ。ハルたちも参加させる気でいるらしい。

 まあ、ハルとしてもそのゲームには興味があるし、『バレなければいい』程度の感覚しか持ち合わせていないのが困った部分であるのだが。


「賞金をハル君が回収しちゃえば、ルナちーのお母さんの懐も痛まないって訳だ」

「なるべく賞金には手が掛からないようにしたいけどね」

「でも勝負が白黒はっきり付く形式なら?」

「その時は譲らない。絶対勝つ」

「ですよねー」


 負けず嫌いのハルだった。企業倫理より勝負が優先。


「でも、推察するにそういった直接対決は少なく出来そうなゲームっぽいよ?」

「ほえー。詳しくおせーて?」


 開発状況は教えてもらえなかったが、開催概要からある程度想像はつく。

 その、来たるゲームの予想図を、わくわくしながら二人は空想していくのだった。





 眼下の城下町に立ち並ぶ店の数々を、プレイヤーたちが物色して回っている。

 ハルやルナが日々デザインし、スキルによって製造を重ねている武器防具を購入する者。ハルの技術力によってしか生み出せない、精密な魔道具を探しに来たもの。

 または、この広いギルドホームの土地を借りて、出店している他ギルドの出店を覗きに来た者。


 今は懇意こんいにしている、シルフィードたちのお菓子屋さんが居を構えていた。

 カナリーもお気に入りだ。このまま眺めていればその姿が見れるかもしれない。


 そんなギルドホームの様子を見ながら、ハルとユキはまだ見ぬゲームの青写真を描き出してゆく。


「RPGで競技って、どんなんだと思う、ハル君は?」

「この場合、浸透した意味じゃなくって、文字通り役割を演技(ロールプレイ)を上手く出来た人の勝利なんじゃないかな、って思ってる」

「ほう? というと演劇的な?」

「演技の上手さは重要じゃないはずだよ」

「まあ、そこ競ってもつまらんしねー」

「うん。重要なのは、結果的に“何者になれたか”じゃないかと思うんだ」

「最終的に、王様になったら優勝とかかー」


 そういうことになる。ハルの予想は、ゲーム開始時は皆同じ条件で、例えば平民だったりといったスタートで、立場の向上を目指す。

 そしてユキの言ったように、最終的に王様だったり、最も『影響力ポイント』のようなものを獲得できたものが勝利となるシステムを予想している。


「そう思った理由はいかに?」

「そうだね。奥様がくれた情報に興味深いのがあって、全プレイヤーが半強制的に生放送を配信しながらプレイになるみたいなんだ」

「おや、そりゃまた大胆な? 苦手なひとはどーするん?」

「完全強制じゃないからね。苦手ならしなくてもいいんじゃない? ただし、」

「ただし、絶対に高ポイントは得られない。かな」

「だろうね」


 ハルが『ロールプレイそのものが競技になる』と推測した理由がこれだ。

 全てのプレイヤーがその“生きざま”を競技参加者以外にも晒すことで、それ自体をコンテンツにする。

 それにより、ただの効率プレイ一辺倒になることを防ぎ、攻略内容に多様性を持たせられる。

 更には、参加者以外にも大会の幅が広がり、経済効果は更に増すだろう。


「これは、奥様の案なんじゃないかな。ここできっちり賞金のための出費を回収にきてる」

「流石は進化系ルナちー。ということは、課金要素あるんだ?」

「だね。多数の視聴者を集められたプレイヤーは、当然のように広告が付くし」


 例えゲームであろうとも、発生した影響力というものは経済にとって力となる。そこでの宣伝は高い効果を発揮し、多大な収益が上がるだろう。


 そして更に、参加者以外のファンも課金してお気に入りの選手を応援できる。

 それは選手の賞金となり、例え優勝できなくとも収益のプラスが約束される。これは参加への後押しとなり、更に参加者まりょくは増えるだろう。


 そこまで聞いて、ユキはこのシステムに潜む巧妙な罠に気付いたようだ。


「あー、でもさ、これって……、課金できるのきっと、選手側もだよね?」

「気付いてしまわれたか……」

「目立てば収入が増えるなら、目立つための“投資”として、自分に広告を打つ事だってしたくなるはず」

「結果、視聴者を集められれば、何倍にもなって帰ってくるからね」

「集まらなければ悲惨だけどねー」

「全くだ」


 最小の投資で、最大の効果を得る。そのバランスの見極めこそが、センスの見せ所なのだろう。

 様々なゲームの課金要素を見てきたユキも、十分ありえそうだとハルの予想に賛同してくれる。


 日本の経済界を牛耳る者の一人であるルナの母と、商売に特化したAIであるジェードの企みだ。十分に、考えられる話であった。


 賞金以外の面においても、放送をするしないの選択はセンスを問われそうだ。

 例えば、進行に大きく関わりそうな重要なイベントを発見したとして、単純にそれを放送すればいいとは限らない。

 放送したままプレイすれば、その重要イベントは当然、全体に公開される。

 それを隠したまま自分だけが恩恵に与るか、それとも大きな見どころとして公開しファンや賞金を増やすか。悩みどころだ。


「いいねいいね。わくわくしてきたよ! 私、自分でもけっこう魅せるプレイすると思うんだ!」

「そうだね。ユキはかっこいいよ」

「あは。て、照れゆ……」

「今のユキは可愛い」

「もー! じゃなくて! でも確かに、そーゆーシステムでやる気がしてきた。さっすがハル君、いい読みだ」

「実際は分からないけどね。でも、それならRPGで競技ってのも、いけそうな気がするんだ」


 賞金を餌に、選手に留まらず、見るだけの者たちも巻き込んだ一大イベント。

 もしこれが、視聴者さえも異世界にログインする仕様にできるのならば、発生する魔力はどれだけ大きくなるのだろう?


 それを考えると、ユキではないが、この計画にわくわくしてくる気持ちが抑えられないハルである。


「でも、平気なん?」

「どうかした? なにか心配事かな」

「そんなに大成功したとして、うちの神様たち追い抜かれちゃわないん?」

「ああ、確かにね。初期費用とノウハウを提供する代わりに、『売り上げ』の一部を得られる契約だから、成功すればするほど得にはなるんだけど」


 それでも、得られる魔力うりあげが増えれば増えるほど、彼我ひがの実力差は拮抗することは間違いない。

 別に敵ではないし、世界全体のためになるので良いことではあるが、新たな運営となる外の神は完全に味方という訳ではない。多少の懸念はでてくるというもの。


 相手も神である以上、契約は絶対に遵守されるのが安心材料か。

 これが人間だと、収益が莫大になると分かった段階で契約を踏み倒すなど、日常茶飯事だ。


「エメの、エーテルの例があるからね。神様でも、完全に日本の為になる存在だとは言い切れない」

「それ、エメっちには言うなよーハル君? 泣くぜ?」

「言わないよ。もう本人にその気はないからね」

「なら良かった。いじめ、くない」


 どうやらエメのことが気に入っている様子のユキであった。陽気な性格同士、気が合うのだろうか?

 二人ともその陽気さの裏に、気弱で臆病な気質を潜ませているあたりも共感があるのかも知れない。


 そうしてハルとユキは思いつくままに、まだ見ぬ新しいゲームの仕様を予想していった。

 合っているものもあれば、まるで違うものもあるだろう。ユーザーの考えと運営の考えは違ったりもする。


 だが、こうして好き放題に予想している時間というのも、ゲームそのものと同様にまた楽しいものだ。それが、自分の理想のゲームになりがちだからだろうか?

 そんなハルたちの想定を、外の神々のゲームはどう超えて、またどう裏切ってくれるのだろうか。今は予想図を花開かせながら、期待して待つハルたちである。 

 一周年の話を挟み、規模の大きなゲームにハルたちは参加していきます。お楽しみに。

 現代とは金銭の価値基準が違うので明言はしなかったのですが、これの最高賞金は一億とかそういう世界です。夢がありますね。


※誤字修正を行いました。報告ありがとうございました。(2022/7/1)


 追加の修正を行いました。(2023/5/15)

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