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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
追章 メタ編2 ~あるいは陽だまりで微睡む平和な世界~

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第480話 母のおせっかい

 しばらくハルとアルベルトがその場で待機していると、奥の間からルナの母が、ルナを伴って現れた。

 メタはこの家に居るのはないしょにしているようで、いつの間にか姿を消していた。

 恐らくだが、他の使用人が居ない時などにしれっと奥様の前に姿を現しているのだろう。


 ハルたちは立ち上がると、深く礼をとって彼女を迎える。

 一瞬、ハルにだけ気付く程度の微妙な変化で、寂しそうな表情を見せたルナの母だが、持ち前の鉄仮面をすぐに張りなおした。

 ルナの母親なだけあって、その表情の冷徹さは鋼のように鍛えられている。

 だが本心では、息子同然のハルに他人行儀な態度を取って欲しくないようだった。


 それを押し殺して、彼女は高圧的にその口を開く。いつもの奥様劇場の開幕だった。


「おかえりなさい光輝さん。お変わりありませんか?」 (おかえりハルくん! 美月ちゃんとはどう? 進展した?)


「ご無沙汰しております、奥様。おかげ様で、変わりありません」


「変わりないのは怠慢ですね。常に精進なさい。そして目上の者に挨拶はきちんとなさい」 (だめよ、もっと美月ちゃんとイチャイチャしなきゃ! あと挨拶は『ただいま』でしょ!?)


「失礼いたしました、奥様」


 彼女の本心を同時翻訳して重ね掛けで脳内再生する、『奥様翻訳機』を黒曜が起動する。

 その冷徹な物言いがらは想像がつかないような本心が、予測の近似値として再生された。二人きりの時の態度を思うに、正解のはずだ。相変わらず信じられないが。


「こちらの小林は役に立っておりますか、奥様」


「ええ、優秀ですよ。光輝さんにも見習わせたいくらい」 (完璧な人材ね、流石はハルくんの部下。特に、ずっとおうちに居てくれる部分をハルくんも見習って欲しいな~?)


「善処します、奥様」

「お褒めに預かり恐縮です」


 流石は完璧超人の秘書神様、アルベルトの入ったボディである。

 当たり前だが、神である彼の計算力に適う人間などハルくらいしかいない。この世の誰より優秀に違いない。


 加えて、寝ない食べない休まないで働き続けられるので、いち使用人としても群を抜いて優秀。

 弱点といえば、機械の体が周囲にバレないように気を付けなければいけないくらいだろうか。

 そこについても、ルナの母は既に知っているのでフォローが効く。心配する点は皆無であった。


「その者は、今後もこの家に置いておくつもりですか光輝さん?」 (アルベルトちゃん居るとありがたいなーハルくん。ハルくんのお話も、よくしてくれるし)


「……っ! え、ええ。奥様さえよろしければ、預かっていただければ幸いです」


「問題ありません。その分の仕事は、してもらいますが」 (やったー! 他の奴らにいじめられないように見張ってるから、任せてね!)


「寛大な御心に感謝します」

「よろしくお願いします、奥様」 (僕について余計なこと言うなよ、アルベルト?)


 つい自分も脳内で本心を重ねてしまうハルだったが、当然ながら、その言葉は誰にも届かないのだった。





「して、事業は順調ですか光輝さん。学生だからといって、手を抜く言い訳にはなりませんよ?」 (お仕事、一周年で大変じゃないハルくん? 学業との並行が厳しかったら、いつでもお母さんに言うのよ!)


「もちろんです、奥様。現在は、この小林の所属していた企業を合併し、更に多方面へと手を伸ばしていっています」

「微力ながら、お手伝いさせていただいております」


 ハルたちはルナの母に連れられて場所を移し、邸内の奥まった部屋にて腰を落ち着けた。

 とはいえ、今も使用人が近くに待機しており、心からくつろげないことにルナの母は不満気だ。そのうちアルベルトともども追い出しそうな予感がする。


「多方面、とは言いますが、同じゲーム会社なのでしょう? 本当に事業の幅は広がるのですか?」 (異世界の技術は、使うなら慎重にやらなきゃダメよ? ハルくん、無茶しがちなんだから)


「ご心配なく。ゲームそのものよりも、開発者に優秀な者が多く、彼らを使い新たな道が開けるでしょう」

「ゲームとは言っても、使われている技術は全て最先端よ。多くの分野で役に立つわ、お母さま」


「そうですね。光輝さんの紹介してきた経済アナリストも非常に優秀でしたし……」 (ジェード先生の予測は無敵ね! お母さん、天下取っちゃうわよ!)


「……奥様、悪だくみはほどほどに」


「……失礼なことを言うものではありませんよ、光輝さん」 (えっ、バレてる? お母さんのサプライズ、バレてるのかしら!?)


 やはり、ジェードたちと結託して奥様は何か企んでいるようだ。

 もちろんハルの、そしてルナの害になることであるとは微塵みじんも心配してはいないハルだが、神々のやらかすことだ。

 奥様も想定していない方向からの混乱や、後始末などの仕事増加を考えると、今から頭の痛いハルである。


 そうしてしばらく、取り繕った表面上の報告会をルナと共にこなしたハルたちは、その日はこの本邸に泊まってゆくこととなるのだった。





「っん~~! やっとわずらわしい監視の目から解放されたわ~。ここから本当の、家族団欒の時間ね!」


 その夜、数々の業務を済ませてプライベートな時間とし人払いを済ませたルナの母が、その鉄仮面ごと窮屈な服も脱ぎすてて、ラフな、いや言ってしまえばだらしない格好でハルとルナを自室に招いてきた。

 残念ながらアルベルトは、使用人として同時に外へと追いやられてまだ仕事中だ。哀れ。


「……お母さま、相変わらず、スイッチ切った後がだらしなさすぎるわ?」

「いいのよー。むしろ、美月ちゃんが堅すぎるの! オフの時も“そーんな”顔じゃあ、ハルくんに嫌われちゃうぞー?」

「ご心配なく。ハルはこの私が好きだって言ってくれるわ」

「きゃー! 美月ちゃんがノロケてるー! レア~!」

「お母さまが言わせたのでしょう!?」

「……せめて、僕の居ないとこでやってよね二人とも」


 ハルから見れば、ルナも十分気が抜けている。やはり、敬愛する母と共に居られるというのは彼女にも気が休まる時間なのだろう。

 奥様が、指でわざわざ自分の目を抑えてルナ特有のジト目を作り、そんな変な顔じゃあないとルナが必死に反発していた。非常に和む光景だ。


「ところで奥様。ジェード先生たちと何をやってるんです? あまり話が大きくならないうちに、教えておいていただけると助かるんですけど」

「そうよ、お母さま? あの世界の話って、一気に世界規模の事態に話が広がって、収拾が大変なんだから」

「あらら。大変な冒険をしてきたのねー二人とも。そうして絆は深まって、色々中略してベッドイン……」

「茶化さないで、お母さま……」


 出来れば、計画が纏まるまで秘密にしておきたかったらしい奥様だが、バレているなら仕方ないと観念したのか、話してくれる気になったようだ。

 近況報告、先ほどの上辺のものだけでない、真の近況報告もかねて、そのことを語ってくれる気になったようだ。


「うーん、仕方ないわねー。全部決まったら、プレゼントみたいに発表したかったんだけど……」

「お母さま、それってきっと、残業のプレゼントにしかならないわ……」

「まあ、実績を増やしていただけるにしても、また事務作業が増えるのは必須事項だしね」

「すぐに慣れるわ、あなた達も」


 けろりとした顔で、彼女はしれっと語る。この辺りが、希代の実業家であるルナの母の普通とズレた部分である。

 くぐってきた修羅場デスマーチの数が違う。


「まず、最初はうちの経営を手伝ってもらったの。これだけでも、結構なことよ? 流石は経済の神様ね。もう私抜きでは、世界は回らないわ」

「……ジェードの野郎、やり過ぎだ。もっと首輪を付けておくべきだったか」

「……やられたわね。『ハルのためだ』、と言えば、主人の利になるという名目で制限を無視できるのね?」

「冗談よ、二人とも……? とはいえ、十分な功績として、ハルくんに文句が言える人は減ったわよ! そこは確かね!」


 経済エコノミストとして、ルナの母の仕事、特に金の流れに関することにアドバイスをしてくれたらしいジェードの仕事を、ハルの功績として対外的には発表しているらしい。

 これによって箔を付けて、ルナとの結婚に向けて着々と手を進めているらしい奥様だった。


 そこに神様が一枚噛んでいるということに何となくモヤモヤとした気持ちが無いでもないが、気遣いは当然ありがたい。特に否定することはないだろう。

 しかし、これについてはルナの母も別に隠していた様子はない。ここまでは前提であり、本題はこの先の話にあるはずであった。


「それで、奥様はその裏で何を。別にその部署を、ルナの会社に編入しようという訳ではないのですよね?」

「ええ、それは考えてないわ。別にそれでも良いのだけれど、美月ちゃんの会社はゲーム屋さんでしょ? 例えば保険部門を入れたところで、“ただお金が増えるだけ”よ」

「さっきは『多角的にしなさい』、ってお母さま言ってたくせに」

「ごめんねー美月ちゃん。未来の息子に嫌味を言うのも仕事なの。お母さんも心が痛いのよ?」

「お気になさらず」 (うっそだー)


 つい心の声が漏れそうになってしまったハルだった。

 あの程度で痛むほど、やわな精神をしている奥様ではない。


 彼女の言う『お金が増えるだけ』、というのは、お金の価値を知っているからこその言葉だろう。資金を軽んじている訳ではない。

 資金の量だけ増やすことに意味はない。それをどう使うか、どのように信用に、業績に変換していくかこそが重要である、という話だった。


「それでね。やっぱりゲームが良いとお母さん思ったのよ」

「……嫌な予感がしてきたわ」

「まあ、大丈夫だよルナ。大事おおごとにはならない、はずだ、今回は」

「……? でね! ジェードさんを通して他の神様に話をつけて、お母さん新しいゲームを作ったの! これを、美月ちゃんの会社にプレゼントして、ハルくんの功績にするわ!」

「やっぱり……っ!」

「まあ、そうなるよね」


 また、神様がらみのゲームの話かと、ルナが頭を抱える。

 ハルも、予想通りとはいえこれには、苦笑いを浮かべるしか反応が返せないのであった。

※一日お休みする旨のお知らせを削除しました。現在再開中です! ご迷惑をお掛けしました。


 誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。(2023/5/18)

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