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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
追章 メタ編2 ~あるいは陽だまりで微睡む平和な世界~

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第459話 君と共に遊ぶために

 天空城。ハルたちの現在の異世界における拠点であり、また今の皆の家とも言える。

 日本にあるユキの購入した家もまた同様にそうだと言えるのだが、なんとなく皆、天空城のお屋敷へと集まって行く傾向があった。


 今もそうして、各々(おのおの)の用事を済ませた皆がお屋敷に集合し、いつも通りにお茶とお菓子を頂きながら、最近の自分たちに起こったイベントを報告し合っていた。


「すごいですー……、そんなにおっきな木に、桜が満開だなんて、幻想的すぎますー……」

「まあ、確かにゲームならではのファンタジー感だよね」

「この世界も十分ファンタジーだけど、そーゆーの無いもんねぇ」

「ぶーぶー。悪かったですねー、物理法則から逃れられない世界でー」


 異世界をゲーム仕立てに装飾したこのカナリーたちのゲーム。

 当然、実際の世界であるので、地球と同様のしっかりとした物理法則がまず下地にある。

 それは、非常にリアルなゲームを演出するという点ではとても役立っている要素だが、逆に、ゲームとしてのあり得ない誇張演出は苦手という弱点にもなる。


 天にも届くような巨大樹を用意する、というのも、そのためここでは難しかった。


「もちろんー、やろうと思えば出来ますよー? 出来るんですからねー?」

ねないのカナリーちゃん。分かってるよ」

「そうね? 現実である反面、魔法の世界ですもの。魔力で世界樹を全て構築すれば、ゲームと同様に再現が可能よね」

「そうですよー?」

「でも、それやっちゃうと大きすぎるからボツだったんだねカナちゃん」

「ですねー……、それともう一つ、あまりにインパクトのあり過ぎるオブジェクトを用意してしまうと、そこがまた信仰の対象になってしまうんですよねー」


 この異世界において、カナリーたち運営のAIは神々として現地の人々、NPCを導き、信仰されている。

 しかしながら、その状況を永遠に続けようと神々も思っていない。

 いずれはこの地を、この星を以前のように現地の人々の手に返すことを前提として、少しずつ発展を重ねている。


 そこに、目に見える形の巨大な象徴シンボルを残してしまっては、彼らの独り立ちを阻害してしまうだろうと、そう考えたのだ。


「特に私は引退する気まんまんの身でしたからねー。物理的な置き土産は、あまり残さない方向でしたー」

「……それに、作ったとしても魔力だからね。真に物理的とは言いがたい」

「ですねー。超長期間に渡り維持するには、メンテナンスが無いと、どうしてもー」

「強度を上げようとすると『結晶化』に手を出す必要がある、ということね?」

「そんな魔力の無駄遣いは出来ないんだねー」

「ですよー?」


 魔力を物質化するまで凝縮する技術を、ハルたちは『結晶化』と呼んでいる。

 これは世界中に使い切れないほどの魔力が満ちていた、古代人の時代に主に使われていた技術であり、今の世界にはそぐわない。


 少ない魔力をやりくりして、なんとかゲーム世界の地域を覆っているのが現状だ。

 そんな中で、大量の魔力を使ってしまう『結晶化』で、巨大な世界樹など作る余裕などまるで存在しなかった。


 その主に二つの理由から、このゲームではファンタジーらしい、物理法則に反した巨大なシンボル、というものはあまり存在していないのだった。


「わたくしも、見てみたいです!」

「あはは、ファンタジー世界のアイリちゃんが、ファンタジーを求めちゃうかー」

「求めちゃいます! ……んー、そうですね。あっ、そうです! 今度、ハルさんの世界の、“らんどまーく”を見に行きたいです!」

「そうだね。ビルやなんかの建築でも、こっちより日本の方が普通に高い」

「そうね? 物理的な物に関しては、エーテル技術で日本の方がずっと先行しているわ?」

「私は、あっちだの体だと眩暈めまいしちゃいそう。あはは」


 エーテル技術、ナノマシンを使った微細技術により、建材の素材強度は目覚ましい発展を見た。

 それにより安全性は飛躍的に増し、前時代では不可能だった高さの建築も可能となっている。その技術発表を兼ねた非常に高いタワーが、今の日本には存在する。


 反面、どこもかしこも高層建築という訳ではなく、日本の建築の高さ平均は年々落ちてきているらしい。

 これは、やはりエーテル技術によって、短時間での建て替えが容易となったためだ。

 3D印刷するかのように家を建築プリントし、簡単に間取りもデザインも変えられる。そんな需要により、流行は手軽な小規模さ、となっていた。


「“てーまぱーく”にも、行ってみたいです! 大きなものが、たくさんありました!」

「そうだねアイリ。これからいろんな所に、行ってみよう」

「はい!」


 アイリにとってはファンタジーである、日本の世界。そこを旅することに、彼女は今から目を輝かせている。

 異世界を取り巻く様々な事情に決着がつき、遊園地テーマパークだろうと高層建築ランドマークだろうと、好きに遊びに行ける時間が取れる。

 望むままに遊び歩いて、存分に彼女にとっての異世界を堪能してもらいたい。


 しかしそんなアイリも、決して『行きたい』と言い出すことなく我慢している場所があった。


「……ねーハル君? アイリちゃん、まだVR世界にはログインできないん?」

「そうだね。まだそこは、解決してない」


 そう、アイリは未だ、フルダイブ型のゲームはプレイすることが出来なかった。

 これは異世界人であることは、実はそこまで重要な事ではなく、ハルと精神が融合していることが問題となっている。

 正確にはログイン自体は出来るのだが、ログインしても『アイリ』ではなく、『ハル』とシステムに判定されてしまうのだ。


 このことは、この異世界において、ハルと一緒に神界へ転移して行けるように調整した時の弊害へいがいなのであった。


「その、おかまいなく、ユキさん! わたくし、日本を旅行したいのは嘘ではないのです! 本当に楽しみなのです!」

「でもさ、最新ゲームもやりたいよね? アイリちゃん、ゲーム大好きだし」

「ううっ! それは、好きなのですが。で、ですが、もしハマってしまったら、大変ですし!」

「アイリちゃん、廃人の素質ありますからねー?」

「やりすぎなければいいのよ。私がちゃんと見ているわ?」

「ルナお母さんなのです!」

「誰がお母さんよ……」


 とはいえ、やりたいのを我慢しているのも事実だ。贅沢だと言われようと、そういう気持ちが出てしまうのは仕方のないこと。

 心が繋がってしまっているので、その我慢の気持ちもハルには伝わってしまうのだ。


 平和になったことであるのだし、そろそろ、その問題も解消してもいいのかも知れなかった。





「という訳でお呼ばれしてわたしが来ましたよー。いやはや、ここが噂の天空城ですか! や、素敵ですね、これぞファンタジック! カナリーたちがやらないから、ユーザーが率先してファンタジー施設を作る流れが来てるんですよねぇ」

「ぶっとばしますよー? ケンカ売りに来たんですかー?」

「ひぃ! さーせんカナリー姉さん! でも実際その流れってあるっすよ? いいんです、ほっといて?」

「構わないでしょー。使徒と、私たち神はもうNPCとしても切り離して考えてくれますしー」

「使徒は、プレイヤーはなんか変なことやる人達だ、ってね。いらっしゃいエメ」

「どもっす! お招き感謝ですハル様!」


 相変わらずやかましく登場したのは、かつての騒動の中心人物であったエメ、エーテル神その人だった。


 今は他の神々と同じようにハルたちの仲間になり、以前の音信不通から一転、気楽に連絡を取り合える仲になった。

 彼女はこのゲームの中核技術である“コア”の技術の第一人者で、ハルとアイリの問題にも最も詳しいと考えられた為である。


「今日はお仕事がんばります! いや、ラッキーでしたね。罰ゲーム終わるまで呼んでもらえないと思ってましたから。えへへ、今日は仕事にかこつけて、ハル様のおうちを堪能するぞー。出来るだけ長引かせちゃうぞー」

「長引かせるな……」

「ぶっとばしますよー?」


 まあ、口ではこう言っているが、根は真面目な彼女のことだ。仕事はきっちりとこなしてくれるだろう。

 早く終われば、その時は好きなだけゆっくりさせてやってもいいだろう、そう思うハルである。


「罰ゲームって、引き継ぎはそんなに大変?」

「いい気味ですねー。ハルさんを困らせた罰になってるなら何よりですよー?」

「ぐぬぬ……、そですね、結構めんどうっす。大変というより面倒、が先に立つ感じですねやっぱ。そこそこ、時間かかりそーです」


 人間として瑠璃るりの国に潜伏していたエメ。そこで、彼女は人としての生活を持っていた。

 神として復帰はしたが、現地の人々に迷惑をかけないためにも、いきなり消えさせる訳にはいかない。

 そこでハルが課したのは、エメの行っていた業務を引き継ぐことが終わるまでは、かの地を去ることを許さない、という罰であった。


 今までは実質エメ一人で回していた仕事であり、引き継ぎの体制を整えるまでにはまだ時間がかかるようである。


「案外、惜しんでくれましたねえ、辞めるって伝えた時はみんな。ちょっと、意外です。便利屋程度の認識だと思ってたのに」

「慕われてたんだね、エメ」

「人の心の認識がまだまだですねー? 人になってたくせにー」

「おっしゃるとおりで」

「むー、大人しすぎますねー。弄りがいがないですねー」


 反省している、ということだろうか。カナリーたち神々にも、迷惑をかけたという気持ちが強いのだろう。


「……さて、雑談はともかく、そろそろお願いできるかい?」

「らじゃっす! 内容は、ハル様とアイリちゃんの混線の解除でしたね!」


 コアには開発の第一人者であるエーテル、エメにしか分からない機密構造ブラックボックスが存在する。

 その為、ハルとアイリの関連付けを行った施術者であるカナリーにも、今まで完全な解除が不可能となっていたのだ。


 その絡まったもつれを解きほぐすため、エメはコアのあるハルの胸へと手をかざすのだった。





「んー、だいたいなんとかなったと思います。ただ、元々の原因はコアそのものじゃなくて、ハル様とアイリちゃんの同化ですからね。そこがコアを通したときエラーとして蓄積されていって、魔法の行使に悪影響を与えていった、ってのが原因となってます。これは、開発者であるわたしの想定不足っすね。めんぼくない」

「仕方ないよ。というか想定されてたほうが怖い」


 一言で平たく言えば、『コアのバグ』、ということになるのだろう。

 精神が同化した人物、などという想定外の状況にあるハルが使ったために、解除が出来なくなっていた。

 そこを、エメはハルの状況に合わせて調整し最適化してくれたのだ。


「その、つまりハルさんとわたくしの、えっと……、“関連付け”は治ったのですか?」

「それはまだですよーアイリちゃん。あくまで今後は、使ってもそうならないってことですねー」

「そうなのですね! でも一歩前進なのです!」

「あとは僕らの問題、ってことだね。なに、外部要因が無いならすぐになんとかなるよ」

「楽しみです!」


 今まで解決しようとしても、コアによりそこが阻害されていた。ログアウトすればマシになっていたのだが、ハルの意地のようなもので、ずっとログインはしたままだったのも原因だ。

 その部分がエメにより最適化され、今後はこれ以上複雑に絡まることが無くなった。


 後は、アイリと二人でそこを解きほぐしてゆけば良いだろう。


「治ったら、何がやりたい? やっぱり桜の世界樹を見る?」

「えと、それも良いのですが……、わたくし、ニンスパがやってみたいです!」

「おや、ちょっと意外だ」

「ハルさんとルナさんの作ったゲームですもんねー。アイリちゃんならやってみたいですよねー」

「はい!」

「いいっすねー。わたしもやってみたいです!」


 なんとも、ハルとしては嬉しい話だ。

 その願いを叶えてやるためにも、このバグ取りは手早く終わらせてしまうとしよう。

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