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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
本編終章 夢の満ちる二つの世界

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第444話 空を極光に飾る追跡劇

 カナリーの指摘した、コアが体内に存在しないという事実。これは、どう考えてもコアだけを外部に切り離し、逃がしたという結論が導き出される。

 コアの開発に深く携わり、その扱いをよく知るエーテルだ。そういった操作もお手の物だろう。

 つまりは、ハルがよくやる遠隔操作の逆バージョンだ。


「ここに居る君は分身で、コアだけでこっそり逃げるってことか。やってくれる。どうあっても、出し抜いて僕らの視界から逃れたいと見える」

「《あぅ……、その、怒りました? ハル様……?》」

「いいや、怒ってないよ。ただ、やっぱり君は戦闘不能にして、縛り上げるしかないんだなって思っただけ」

「《お、怒ってるじゃあないですかぁ……》」


 怒っていはいない。少し、度重なる逃亡、に次ぐ逃亡にイラっとはしているが、その徹底した諦めの悪さにむしろ感心しているハルだ。

 しかし、賞賛しても逃がしてやることは出来ない。

 最後にはやはり、戦闘して撃破するしかないようだった。


「この一年、どれだけ君を探したことか。ここで逃がして振り出しに戻るのは僕も避けたい。もう逃がさないからね」

「《こ、言葉だけ聞くとロマンチック、ですね? 目と、手の中のものが非常に物騒ですけれどぉ……》」


 切り離したコアも、こっそりと移動しているであろう関係上、まだそう遠くへは行っていないはずだ。

 ハルは手の中の物騒なもの、『神刀・黒曜』を無造作に振り回すと、光の剣を周囲にばら撒き、反応を探る。

 彼女の体自体には防がれてしまうが逆に言うと、剣光の途切れたその位置に、彼女の体に類するものがあるということである。


「《ひぃぃ! むちゃくちゃですぅ……、そ、その、止めませんかぁ? 当たり所が悪いと、防ぎきれませんのでぇ!》」

「当たり所が良いように頑張って」

「《やっぱりハル様、怒ってるんだぁ!》」


 怒ってはいない。ただ、手心を加えるとまた彼女のペースに乗せられて、逃げられてしまうと理解しただけだ。

 もはや一切の同情も躊躇もなく、彼女の本体を完全に浸食して支配するまで、止まらないとハルは決めたのだ。なので怒ってはいないのだ。


 幸い、周囲には何も存在しない完全な荒野だ。

 ハルはクレーターの内部を、いつぞやのカナリーのように、滅多矢鱈めったやたらと切り裂いていった。

 すぐに周囲は空間ごとズタズタに切り裂かれてゆき、荒野の地面は更なる荒れ地へと、次々と刀傷かたなきずの断層が刻まれて行った。


 その中に、ほんの僅かな違和感をハルは発見した。

 切り刻まれる地面の中、光の剣筋が少しだけ歪む。それはすなわち、そこにエーテルの体があるということだった。


「なるほど、地面の下か」

「《み、見つかってしまった……》」


 秘密裏に逃がしたコアの位置をハルに察知され、もはや隠密行動は止めてわき目もふらずにそのエーテルのコアは地下を目指す。

 このまま地中から逃げる気だろうか? 否、どうやら逃げ方はそんな気配ではない。

 その進む先に、何かしらの目的地があるようだった。


「手伝うのです!」

「アイリ! 助かる!」


 しかし場所は地中、コアだけの彼女を器用に追えるスペースは無い。

 神剣の光で切り開こうにも、ハルの肉体が入って行ける広さにはなかなか届かない。対してコアの彼女には、十分な大きさの穴となってしまう。


 その追跡劇に、アイリが参戦してくれる。

 ハルの腕の中に飛び込むようにすっぽりと収まると、その中で魔法を発動する。必要な魔力は、ハルを通して使い放題に供給された。


「懐かしいです! 以前の対抗戦のときも、こうして二人で地面を掘りました!」

「もう随分と昔に感じるね。半年くらいしか、経ってないはずなのに」

「はい! 楽しいこと、いっぱいありましたから!」


 アイリの魔法によって次々と周囲の土がどかされてゆき、地中深く潜っていたエーテルのコアにぐんぐんと近づく。

 コアはそれ以上の進行に難儀しているようで、その場を動かずに右往左往していた。


「もうすぐ、追いつきます!」

「……待った、ストップだアイリ。完全に停止してるのは、さすがにおかしい」


 ハルが警戒しストップをかけたその一瞬の後、コアの居た位置が、激しく光り輝いたのだった。





「……魔力が、溢れて出てきます!」

「なるほど、地下から逃げるつもりだったんじゃない。このポイントを、エーテルは目指していた訳だ」


 まるで間欠泉が吹き出すように、地下から湧き出してくる魔力の渦を、エーテルのコアが吸収していく。

 見ればわずかにゲートの反応があり、地下そのものではなく、別の空間から飛び出してきているようだ。


 いわばここはエーテルの貯金箱。

 この地の性質と、次元に関する独占的な知識により、不測の事態の際の備えを、こうして他の神々に察知されることなく用意していたということだろう。


「ほんっっとに、用意周到だこと」

「《わたし、臆病で、自分に自信がないですから……、だから、人一倍準備をしておかないと、安心できなくて……》」

「その周到さに僕もずいぶんしてやられたよ。自信をもって良いと思うよ。そこは君の強みだ」

「《えへは、褒められちゃいました……、あ、でも……、自信を持ったら、準備しなくなるから、やっぱりわたしは、自信が持てない……》」

「いや自信もって準備しなよ……、面倒だね君……」


 面倒な性格をしているのは、神様共通のようだ。エーテルも相当に面倒くさい。


 しかしその面倒な性格がもたらした結果は本物。

 彼女の纏う魔力の総量は、先ほどとは比べ物にならない。なんとか体を作成できるだけの緊急用のものが先ほどまでだとしたら、今は予備の燃料もばっちりだ。


 当然、その身の繰り出す速度も突破力も、先ほどまでと比べ物にならない。


「《当たり所が良いように、頑張ってください……!》」

「意趣返しかっ!」

「ハルさん! バリアに、“あらーと”が出ています!」


 地下に追い詰める形で出口を塞ぐハルとアイリに、エーテルから魔法の光が放たれる。

 相手が攻撃に回る余裕が出た途端、先ほどと立場は逆転し、今度はハルが防戦に回る側となってしまった。


 そのほとばしる魔力の波動は、ハルを押しのけ、その勢いでがりがりと周囲の地形を削って脱出路を砕き開く。

 そうして魔法への対処をしているハルを脇目に、彼女自身も凄まじい速度で上昇して行くのだった。


「逃がさないと、言ったはずだ!」

「《逃がして、くださいよぅ!》」


 敵の魔法の光を打ち消したハルはアイリをそっと降ろすと、空に向かって疾走するエーテルを追う。

 もう先ほどまでのように魔法で飛行していては、最高速度でも引き離されかねない。

 ハルは神刀を引き絞るように構えると、己の後方へと向けて勢いよく解き放った。


「《めちゃくちゃですよぉ!》」

「はははっ! 嫌だったら、そっちも滅茶苦茶なスピードを止めるんだな!」


 本来は空間を切り裂くように、先へ先へと伸びていくように使う神剣の光を、伸ばさず手元で爆発させる。

 対ゼニスブルー戦において実用化に至った、ハルの新必殺技だ。


 剣光を飛ばす形の攻撃は、次々と進行方向の空間を切り裂いて、連鎖的に新たなエネルギーをそこから取り出すため、次元に精通したエーテルには止められてしまう。

 しかし、この手元で爆発する形になると、発生したエネルギーを全てその場で純粋に破壊力に使ってしまうため、エーテルでも無効化のし様がなかった。


 ハルはその勢いのまま一気に彼女の進路の先に躍り出ると、刀をその場で翻し、輝きのままにエーテルに叩きつけた。


「食ら、えぇっ!」

「《食らったら死んじゃいますよぉ!! 何考えてるんですかハル様ぁ!》」

「今のちょっとエメっぽかった!」


 当然、力を防御に回すより他なくなる。

 空へと一直線に向かっていたエーテルの進路は強引に閉じられ、くの字に曲がって叩き落される。

 だがしかし、そこで再びハルとは距離が離れ、彼女は諦めることなくハルとは逆方向へと飛翔して逃げる。


 それを、ハルも再び許さない。

 黒い極光として輝く流星の尾を引きながら、ハルはエーテルの前に回り込む。

 そうして彼女を叩き返し、彼女が持ち直して逃げ、ハルが回り込み、叩き落し、諦めることなく逃げる。

 その繰り返し繰り返しが、ほんの数秒の間に、このクレーターの中の空に青と黒、二色の光の軌跡となって、不格好ながらも何故か見入ってしまう、そんな歪んだ一筋を描き出していた。


「どこに逃げる、エーテル! もはや神の身に戻った君だ! 逃げたところで、いずれ察知され、探し当てられるぞ!?」

「《それでも、逃げます! 見つかったら、また逃げるんです! 何度も、何度も……、過去も、ハル様も、追って来なくなるその時まで……!」

「このわからずや!」


 何度追い抜かれようと、何度叩き返されようと、エーテルに諦める気配はない。

 絶対に逃げる。そんな後ろ向きながらも前向きな、圧倒的に強い意思を感じざるを得ないハルだ。気を抜けば、このまま高速度で離脱される。


 長時間の戦闘も望むところのハルだが、このスピードはさすがに堪える。

 手の中の暴れ狂う神剣の光は、その見た目の反面、ほんの少しも狂いの無い繊細さが要求される操作だった。

 望んだ方向に、正確にはその逆方向に爆発させるには、ハルの計算力をフル稼働させ続けなければならない。


「《だから諦めてくださいよぅ。もう人間の体じゃないわたしは、何時までだってこれを続けられます。ハル様、体に毒ですよぉ?》」

「諦めるのは君だエーテル。次元の狭間の魔力を全て使える僕は、魔力切れが無い。対して君は、その貯金を使い切ってしまえば終わりだ」

「《……他にも、貯金箱はあるんですよ、って言ったら?》」

「呆れた執念深さだ、ってため息が出るだけだね」

「《執念深いのはハル様ですってばぁ……》」


 かたや絶対に逃げる。かたや絶対に逃がさない。

 その派手すぎる鬼ごっこは、その後もしばらく続きそうなのであった。

※誤字修正を行いました。(2023/5/14)

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