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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
本編終章 夢の満ちる二つの世界

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第437話 超神力砲

「これはなんというか、地獄のような光景、だね?」

「モノちゃん。来てくれてありがとう」

「いい、よ? いよいよ大詰め、だ。ぼくもしっかり役にたつ、よ?」


 神々による総攻撃が、閃光と爆炎の輝きを休む間もなく照らし出す。

 そんな戦場に、地上の、戦艦の内部に本体があるという特殊性から到着が遅れていたモノが、ここに到着を果たした。

 その吸い込まれそうな黒い瞳には決意の光が灯っているようで、この一戦にかける並々ならぬ想いが感じられるようだった。


「ハル様。まかりこしましてございます」

露草つゆくさも、よく来てくれたね。お、メタちゃんも参戦?」

「ふみゃーう!」

「ありがとう。今日は気が乗らないのかと思ったよ」

「むみゃみゃう! みゃうみゃう!」

「準備してただけ? そっか、ごめんごめん」

「にゃっ」


 そのモノに導かれる形で、外部の神でありハルの監査役を自称する露草、お屋敷の自由きままな猫であるメタも戦列に加わってくれた。

 メタは、エーテルに対する評価が高く、割と肩を持つことも多かったので、彼女と戦うことに気が乗らないならばお屋敷でお昼寝していても構わないとハルは思っていたのだが、しっかりと手伝ってくれるようだった。


「ゼニスも来たそうだったけど、上手く転移許可が与えられなそうだったから、今日は不参加、だよ」

「それは申し訳ないことをした。僕が通信封鎖受けたばっかりに」

「気にすることはないわハル様。意地を張って、いつまでもこちらの陣営に加わらないから、そうなるの」

「マリーゴールド。一人だけ、サボりかな? 皆、必死で攻撃してる、よ?」

「サボってはいないのよ!? 今は私も必死でハル様のサポートをしているの!」


 今も魔法の嵐を要塞に向けて浴びせかけ、破壊に次ぐ破壊を繰り広げている中、マリーゴールドもモノに言い返すのはほどほどにして解析に集中する。

 この攻撃の中にモノも加わるのだ、ハルもおちおちしていられない。

 下手をすれば、要塞を攻略したのにハルとマリーだけ準備が遅れている、ということになりかねない。


「にゃにゃん!」

「うん。ぼくらもやろうか、メタちゃん」

「私はそちらに合わせましょう。指揮を頼みましたよモノさん」

「うん。露草は、物質化の部分を、よろしくね?」


 モノたちも到着早々ではあるが、すぐさま攻撃に加わるようだ。

 だが彼女たちは直接の魔法攻撃には加わらず、まずは武器の準備を行うらしい。


 本来モノは、巨大な円盤状の戦艦の艦長として、それを武器として戦うスタイルである。

 しかし、今その戦艦は、ゲームの舞台マップのひとつとして、常にプレイヤーやNPCが滞在している。それを、ここへ持ってくる訳にはいかなかった。

 ならばモノは無力かといえば、そんなことは無い。その戦艦の設計は、彼女自身なのだ。


「目には目を、結晶化には結晶化を、だね? 本来、結晶化による武器の生成はぼくの分野、だよ?」

「にゃ~~~ご!」

「うんうん。メタちゃんは、物質化による武器の生成が、大得意、だね」

「にゃう!」

「そんなあなたがたならば、即席であの要塞に匹敵する装備を組み上げられるのでして?」

「普通なら、無理。だけどここには、使い切れない魔力が、あるよ? ちょうど、冷却が得意なきみも、いることだし、ね?」

「冷却は構いませんけど、私は放熱板ではないのですが……」


 魔力の<物質化>や、特に魔力そのものを凝縮して物質にする『結晶化』は万能の生成技術ではあるが、どうしても材料である魔力の量がネックとなる。

 この世界規模での魔力不足が続く時代、巨大兵器を好き放題に生成する、という無駄遣いはなかなか行うことは難しかった。


 しかし、今この場にはゲーム全体の魔力を合わせたよりも大量の魔力量が満ちている。

 それを自由に使って、超高火力の兵器を生み出す気なのだ。

 ……いや勿論、好きに使ってもらうと言っても、すべてが終わった後は返してもらうが。


「さて、やっぱりぼくは、神力砲をつくる、よ?」

「戦艦の主砲だね。あのビットを出すのかな」

「うーん。ぼくがあれしか作れないと思われるのは不本意だから、もっと違うの作りたいところ、だけど……」

「にゃーん……」

「だよねメタちゃん。ここでじっくり設計している、時間はないね」


 時は一刻を争う。求められるのは理論上の最大火力よりも、量産可能な通常火力。

 モノは、そのだぶついた袖ごと腕を高くかかげると、そこには次々と戦艦の主砲、球体状の浮遊ビットが生み出されていった。

 それは細部までが一切の差異なきコピー。次々と『貼り付け(ペースト)』を連打するように、空間に球体が浮き出てくる。


 その中央に空いた、目玉のような砲口部分に光が灯され、生み出された傍から最高出力による砲撃の連打が要塞に撃ち込まれるのだった。


「むぅ……、やっぱり効きがいまいち、だ」

「みゃーう……」

「仕方がありませんでしょう。これは本来、現地人の反抗勢力を掃討するための装備。これ以上の出力は、過剰というもの」

「露草も参加したの?」

「いいえハル様。放っておくだけで自滅する生き物に、わざわざ手を下す趣味はありませんでしたので」

「しんらつー」


 言い方は辛辣であるが、露草の言うようにモノの戦艦は本来はそういった目的の艦である。

 今のゲーム世界。かつては避難民を集めた最後の楽園を、外敵たる侵略者から守るための戦艦だ。

 そこに求められるのはコストパフォーマンスの良さ、すなわち省エネ性能であり、あらゆる物を破滅させる火力ではなかったのだ。


 そこが裏目に出た。エーテルの塔の変形した要塞に致命打を与えるには、それでは少し威力が不足している。


「……ハルさん、『次元断裂砲』の設計図は、残ってる、かな?」

「極端から極端に走らないのー。あれは今度は強すぎだから、だめだよ」

「うん。ごめん、ね? いってみた、だけ。でも、だとすると、どうしよう、かなぁ……」

「にゃうにゃう!」


 モノが次の一手を悩んでいると、メタが、てしっ、とその小さな体に飛び乗り、彼女の頭をぽんぽん叩いた。

 モノがそれに釣られてメタの物質化していた装置に目を向ける。それは、ビットを丸ごと内部に取り込んでしまえそうな、巨大な砲身だった。


「大砲、だねメタちゃん。でも未完成、だ。これは砲身部分だけで、動力はどうする、のかな」

「にゃっにゃっ、にゃう!」


 メタがその愛らしい前足を砲の各部へと向けてゆく。モノがそれを目で追ってしばし見つめていると、言いたいことは伝わったようだった。


「なるほど、ね? つまりぼくのビットのエネルギーを束ねて、これで発射する、んだ」

「ふみゃっ!」

「ずいぶんと用意が良いのですねメタ。これは今この場で設計を? ……ふむ? お昼寝の合間に色々考えていた? それは、お昼寝とは呼べないのではありませんでしょうか?」

「みゃーご……」


 露草の冷静なツッコミにメタがしょんぼりしてしまう。

 仕方がないのだ。元々がAIであるメタたち神様は、本来睡眠を必要としない。人間となったカナリーさえもハルを参考に人化したため眠ることはなく、基本的に皆、睡眠という概念からは遠いところに居た。


「……そういう意味では、エーテルは唯一、『眠り』を知ってる神なのかな」

「かも知れませんわハル様。現地のものに生まれ変わったというならば、彼ら同様に睡眠も必要かもしれないですね」


 そのハルのつぶやきに、この場に集った神々も砲身の先に居るだろうエメの存在をその目で見据えた。

 魔法の弾幕を打ち込み、破壊の限りを尽くしていれども、その目はどれも、倒す敵ではなく救うべき味方を見る優しいものにハルは感じられるのだった。





「よし、準備できたよメタちゃん。いつでもいける、ね」

「にゃっふっふ」


 メタの作り出した長大な砲身。それの発動準備が整った。

 砲身それその物には、火薬と弾にあたるエネルギー発生装置は搭載されていない。肝心のそれは、外部から供給される。


 その外部供給装置アタッチメントとなるのは、もちろんモノの作り出した砲台だ。

 砲の周囲を取り囲むように、円周上に浮遊するビットが整列して浮かんでいる。その数は二十、三十とどんどん増えてゆき、即席の大砲台はここに完成を迎えた。


「第一リング、供給開始、するよ?」


 そのビットが並んだ円周リングの一つが、砲身に向かってエネルギーを照射しながら回転を始める。

 本来は対象を破壊するための赤い光が砲身へ吸収されて行き、内部へとエネルギーを蓄積していった。


「にゃう!」

「出力安定。第二リング、回転。エネルギー蓄積正常進行中。蓄積率60%」

「みゃごっ!?」

「砲身が異常加熱。オーバーロード予測まで十五秒。メタちゃん。慌てる必要はないよ」

「私の出番というわけですのね。……本当に放熱板扱いは、どうかと思います」

「ふみゃーっ……」

「砲部冷却中。冷却完了。第三リング供給開始……、いくよ、全リング、最大出力!」


 計算よりも加熱され、あわや熱暴走し爆発かというところを、露草が得意の冷気で抑え込む。

 ……本当に、放熱フィン扱いだ。少々哀れなので、後でフォローしておこうと心に誓うハルであった。


 そんな露草たちの活躍により、砲身には莫大なエネルギーが蓄積されている。

 今にも砲台ごと周囲を吹き飛ばしそうに力が膨れ上がっているのを、離れた位置で見守るハルからもしっかりと感じ取れた。


「『超神力砲』、エネルギー充填100%。メタちゃん、いつでもいい、よ?」

「なうん……、うみゃーーーん!!」


 メタの発射の号令(だろう、多分)により、開放を待ち望んでいたその力の全てが解き放たれる。

 束ねられ一条の光となった砲弾は、その光の射す道筋を、敵からの砲撃、味方の放つ魔法、その全てを切り開いて直進して行った。


 その道を妨げる存在は一切の容赦なく、それは当然、堅牢な要塞の防御であっても変わりない。

 壁面を貫き、内部構造を突貫し、背部まで貫通すると、そのまま次元の狭間の彼方へと一直線に通路は続いて行くのだった。


「うなー……」

「残心」

「……ここで必要なのは残心ではなくて、第二射の準備ですよメタ」

「にゃ!」


 一撃の発射で、砲台の砲もボロボロに破損し吹き飛んで、使い物にならなくなっている。

 通常ならば、ここで打ち止め。第二射など望むべくもない。


 しかし、ここに集うは神々であり、これを作り出したのは魔法である。

 破損した砲台はすぐに消し去ると、まったく同様の新品がすぐに姿を現した。


「うーん。他人ひとがやってるのを見ると、これはズルだね」


 改めて、<物質化>の規格外さを実感するハルだった。

 一発で破損する、というデメリットありきであるから許されている装備を、その破損を帳消しにして再利用するなど、撃たれる方から見ればたまったものではない。


「……でも、第二射は必要なさそうだね」


 しかし、それを撃ち込むべき要塞は、先ほどの砲撃で沈黙していた。

 胴体に風穴を開けられ、マゼンタの言っていた回復のための設計図が、維持できなくなったのだろう。


 これで、攻撃を気にせず直接内部へと乗り込むことが可能となった。

 ここからは、ハルの仕事となる。エメと再び対面しての、総仕上げの段階となるのであった。

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。(2022/7/1)

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