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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
本編終章 夢の満ちる二つの世界

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第436話 ここぞとばかりに振るわれる力

「いぃやっはぁーーーーー♪♪」


 陽気な声に絵を向けてみると、マリンブルーが小型艇に搭乗して、超高速で要塞に向けて突撃して行くところだった。

 彼女を乗せたままの船(ウィストが最初に乗ってきたものだろう)、それはそのまま要塞の外壁に突き刺さり大爆発を起こしたかと思うと、次の瞬間には船だけが無事に垂直に飛び出してくる。


「相変わらず無茶な軌道だ……」

「マリンちゃんは乗り物に乗ると、性格が変わるタイプなの」

「性格は、変わってないよね。テンションは異様だけど」


 一人ハルの隣に残り、コアの様子を見てくれているマリーが解説してくれる。

 個人戦闘能力に欠けるマリンブルーだが、こうして高速移動する装備を得ると、とたんに手が付けられない強さを発揮するそうだ。


「まあ、船を得ると強くなるのは、海洋神としてぴったりかもしれないけどさ」

「きっとそうなのよ! 多くの人の為になる、素敵な力だと思うわ!」

「いやー……、少なくとも、三半規管を搭載したユニットにはオススメできないなあ……」


 乗り物酔いなどという、生半可な症状では済まないだろう、あの暴れ馬に乗りこんでしまったら。

 そんな小型艇の後部座席に、よく見れば無謀にも着席している影が見える。非常に勇気ある行為だ。

 ハルはそんな勇敢な同乗者に、通信を繋いでみることにした。


「《あー、聞こえる? 後部座席の勇者へ。今のお気持ちをどーぞ。オーバー》」

「ははは、もはや景色が風景として成り立っていないので、逆に気にならなくなりましたよ。前衛芸術として見れば悪くないのでは。オーバー」

「《何かを悟ったような感想どーもジェード先生》」

「……なんと言いましょうか。乗り物酔いする機能を付けていなくてよかったと心底思いましたよ」

「船酔いっていうのは人類の錯覚と、技術進化の象徴なんだ♪ それを克服した時、人間は新たなステージに至れるんだね♪」

「《興味深い意見だねマリンちゃん》」

「つまりそれをオミットしちゃったジェード先生は人間の理解からほど遠い存在なんだぞ♪」

「いやはや、こんな形で我が身にダメ出しを受けるとは。……って、貴女、船酔いする機能を搭載してそれなんですか!?」


 通話の最中も、あり得ない速度と軌道で要塞に向けて突撃アタックを続けるマリンの操る小型艇。

 視界も少し共有してみたが、これは人間の乗る乗り物ではない。

 人類が『酔う』錯覚を克服する進化を遂げたとて、これに乗りこむには至らないだろう。


 さて、そんな突進を繰り返す小型艇だが、当然だがそんな正面衝突を耐えぬく耐久度はもっていない。マリンの能力も、操舵技術が大きく、船の力そのものを底上げする能力は薄いはずだ。

 となれば、当たり前ながら第三者による要因であることが思い浮かぶ。


「ジェードって、バッファーだったんだ」

「エンチャンター、かしら? 彼の空間拡張の技術はかなりのものよ。私も、いえ神界全体が、けっこうお世話になってるの」

「確かに、彼のマーケットは中身が伸縮自在だったね」


 ということは、船の装甲もその力を使って強化しているのだろう。

 空間系の能力ということは、ハルの使っている環境固定装置に近いものだったりするだろうか?

 ハルの装置の力は、境界面の空間を極限まで分割し、それを最大限に引き延ばしたものだ。つまりは『距離』によって外部の環境から防御されている。

 例えばハルに剣で切り付けても、その剣先は押し込めど押し込めどハルに届くことはない。


 似たような空間制御か、あるいはハルも未だ知らぬ大いなる力なのか、その技術をもってマリンの暴走的操縦をサポートしているようだった。

 その役割分担について、ハルの隣のマリーゴールドは一言もの申したいようである。


「サポートがジェード、防御はマゼンタ、オーキッドは魔法使い。それに比べてうちの女の子たちは、前衛に出すぎだと思うの」

「あー、確かにね。セレステはもろにそうだし、マリンちゃんも……、あれは前衛、でまあいいか……」

「今は居ないけれど、カナリーも前衛だったでしょう?」

「……いやー、カナリーちゃんは、前衛ではないかなあ。後衛って訳でもないけど」

「自由過ぎると思うわ?」

「そういうマリーちゃんはどうなのさ。今は後ろにいるけど」


 ハルがそう尋ねると、マリーゴールドは可愛らしく首をかしげてこう答えた。


「ヒーラーなんて似合うと思うわ!」

「まあ、確かに見た目や雰囲気はそれっぽいよね」


 ただ、困ったことにこの世界には『回復役ヒーラー』という役目は明確に存在しない。

 ゲームのシステムからしてそうだ。回復は魔法などではなく、各自で回復薬を事前に用意しておいて、主にそれを使って行われる。

 回復魔法といったスキルは無いこともないがメジャーではなく、専用に役割を立てるよりは、その枠を火力、すなわち攻撃役に振ったほうが効率よく立ち回れる。


 ゲームがそのようなシステムになっているのは、遡れば魔法そのものの仕組みが原因となる。

 キャラクターや、神の体を構成するのは魔力そのもの。それを回復、という行為は、魔力を補充し、それを組み替えて体を再構築する行いに他ならない。

 要は、他人がやるより自分で行う方がずっと効率がいいのだ。


「外から回復かけるとなると、まずはセキュリティを突破して、他人の体を弄ってってなるから。戦闘中にそのリスクを負うのは現実的じゃないよね」

「やはり、全ての権限を握った王による、一元管理の兵隊が理想なの」

「また危ないこと言い出さないの」


 確かに全ての権限を持った指揮官ならば、個々のセキュリティを無視して回復してやることが可能だろう。

 実際ハルも、今戦っている神様たちに魔力を供給して回復してやることも可能である。


「えっ、つまりヒーラーは僕? また後衛の男比率が増えたんじゃない?」

「むぅ……、私はせめて後衛に居るわよ? 今もこうして、ハル様のお世話をしているもの」

「でもマリーちゃんの本領って精神支配だよね。防御の適わないそれを一撃必殺するというか」

「もう、もう! それじゃあアサシンじゃないの! いじわるね、ハル様は」


 そう言いつつも、ハルは知っていた。マリーがハルのコアを調整しながら、そこに残ったデータをもとに、術者であるエメを逆探知し、その精神に介入して事態を収拾しようとしていることに。

 だがしかし、コアに関する知識はやはり相手が一枚上手。その逆侵攻は、うまく実現しそうにはないようだった。


「……NPCリストからの<誓約>の強制は、掛ける事はできなさそう?」

「ええ。そうなのよ。きっと“ここ”に居るからでしょうね。あれは地上のNPCを支配するもの。彼女が知っていたかどうかは、定かではないけれどね?」

「知らなかったのだとしたら、ほんと強運だな」


 神の『住民票』による強制効果は、この次元の狭間には届かないらしい。

 それが動作するならば、現地住民として生を受けたエメを一発で拘束できるのだが。

 しかし知ってか知らずか、その効力はここまで届かず、エメに追い風となる環境となっていた。


「そもそも、なんで人の身でコアに簡単に干渉できるんだか……」

「いま、それを手掛かりに調べを進めているわ。ハル様はじっとして、この保健室のお姉さんに任せてちょうだいな!」

「あまり身を任せたくない相手だなーマリーちゃんは」

「もう! そうやって人を腹黒扱いしないで欲しいの!」


 人の身で、NPCの身で行える手段となると、ほぼ現地の魔法に限られる。

 手口が絞られれば、解析も進むというものだ。ハルとマリーゴールドは、互いに互いの分野の調査を、軽口を叩きながらも進めていくのだった。





「ハルさんの回復の話を聞いて思ったんだけどさぁ」

「《聞いてたの?》」

「うん。マリーゴールドは腹黒」

「《……こじれるのはこっちの会話なんだから混ぜ返さないでマゼンタ君?》」


 視点をマゼンタとウィストのペアに移してみると、そちらも解析が進んでいるようだ。

 いや、解析を進めるために、強引な手段に出ているらしい。つまりは攻撃に対してどんな反応を見せるか読むための、威力偵察。


 先ほどからウィストの魔法が、魔法神ご自慢の超威力の<魔法>攻撃が、要塞に向けて次々と炸裂しているところだった。


「《すっごい威力。僕と戦った時とは、比較にならないね。これ撃たれてたら危なかったよ》」

「そう言いつつ、『その時はルシファーを使ってでも勝つけどね』、って余裕を見せちゃうハルさんなのでした」

「《……マゼンタ君、本題に入ってくれたまえ》」

「はいはいー」


 今はどの神様も、本体を降臨させて全開の攻撃を繰り出している。

 ウィストから放たれる魔法も、その一撃一撃が災害級。炎は都市を丸ごと飲み込みそうなほどに渦を巻き。雷はハルと戦った時の最大威力のものを、下級魔法かのように気軽に連発している。

 別の場所ではジェット気流も真っ青な速度の乱気流が吹きすさび、大洪水のような水流が荒れ狂ったかと思えば、一瞬でその周囲を凍結させていた。


 各種、属性魔法の大盤振る舞いだ。魔力もここではハルのものを使い放題。

 ゲームシステムの外にいる相手のため、属性間による相性はダメージには考慮されない。

 しかしながら、発動する物理現象はもちろん各属性により差異が出てくる。それによる反応の違いを、こうして属性別に観察しているようだった。


「うーん、冷気による凍結なんかも、大した妨害にはなってないみたいだね。もし行けるなら、露草にも来てもらおうかと思ったけど」

「《雪女さんだね。声は掛けてる、モノちゃんと一緒に来るらしい。僕が直接呼べれば早かったんだけど》」

「仕方ないよね。それでさ、純粋な物質じゃないからか、素直に物理法則には従ってくれないみたいなんだ」


 有効な攻撃、いわゆる弱点を探し出そうとしているが、明確な有効打は打てていないようだった。

 これは、攻撃が魔法であるという事がマイナスとなっている部分が大きい。


 結晶化の特性として、周囲の魔力をその色に関わらず強制的に利用可能というやっかいなものがある。

 魔法攻撃である以上、その発動が終わればそこには必然的に魔力の残滓ざんしが残る。それが、相手の回復の材料にもなってしまうようなのだった。


「《それで、回復の話だっけ?》」

「そう、ああちょっとまって、シールド強化するから」

「《回復ってのは、言うなれば設計図通りの再構築だよね。そのDNAにあたるものはコアだったり、脳内だったりに収納されてる》」

「待ってって言ってるじゃんハルさん! ボクの解説取らないでよー。まーハルさんには釈迦に説法だろうけどさー」


 その収められた設計図に照らし合わせ、不足した、すなわち破損した部分を修復する効果が『回復魔法』だ。

 しかし、何の工夫もなくやればそのデータ量は膨大となる。それこそ、体の大半を占めてしまうほどに膨れあがることもあるとか。

 それを、要約してキャラクターボディの設計担当、『幽体研究所』の主であるマゼンタは説明してくれた。


「だから基本的には圧縮されたそれを、ボクら自身の処理能力で展開してそのつど処理してるんだ」

「《……なるほど、つまり、その処理能力がエメ一人では絶対に足りないあの要塞は、修復のための設計図も膨大になってると》」

「だから解説取らないでってば!」


 であるならば、一撃で、いや一定時間内に、その設計図が維持できないレベルの大打撃を要塞に与えることができたならば。

 その時は設計図そのものが維持できなくなり、修復はそこで停止すると考えられる。


「ふん、つまりは破壊しつくせばいいだけのことだろう。そんな小賢こざかしい理屈など語る必要はあったか」

「オーキッドも! 勝手に火力上げないで号令とか待ってよ! ボクの見せ場とか考えてよ!」


 方針が決まるとすぐに全体へとそれは伝わり、マゼンタの周知や号令の暇なく、神々による総攻撃が始まるのだった。

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