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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
本編終章 夢の満ちる二つの世界

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第435話 不落の要塞

「で、ハル? あれは壊してしまって構わないのかい?」


 次々に集合してくる神々のなか、もう待ちきれないとばかりにセレステが尋ねてくる。

 貴重な過去の資料として、残しておきたい気もするハルだが、さすがに無破壊の制限プレイはこの神々の勢ぞろいしたドリームチームでもきついだろう。

 出来ないことはないと、そのプライドから言い出すとは思うのだが、そんな色気を出している間に被害が拡大しては元も子もない。


「仕方ないね。派手にやっちゃっていいよセレステ」

「うむっ! 任せておきたまえよ!」

「……ふん。だから最初から主砲で跡形もなく粉砕してしまえばよかったのだ」

「もー、だめだよオーキッドくん♪ それって主砲が撃ちたいだけだよね♪」

「それに、もしそうしていた場合は、今この場に私は居ないでしょう。この次元の狭間のいずこかへ、逃げおおせていたと思われます」


 そう、初回の侵攻時とは、事情が異なる。

 ハルも、『あの時こうしておけば』、と思わないでもないが、選択が誤りだったとは思わない。

 あの時の対応は全て正しい。こうして、空木を救い出せたのだから。


 だから今回も、優先事項を決して誤らないようにしよう。

 大切なのは前回残した塔を大事に保護することではなく、中に一人残ったエメを助け出すことだ。


 そう、助け出して見せるとハルは誓う。彼女の抱く罪悪感から。百年にわたり続く妄執から救い出す。

 そのためには、まだ説得の材料が足りない。

 このまま言葉を重ねるだけでは、いつまで経っても平行線だろう。


「……悪いが、今回は君たちに任せたい。頼めるかい?」

「当然なのよ、ハル様? ハル様はコアの機能を封じられているのだもの、後方で休んでいなきゃだめ」

「その通りですよ。そもそも、戦略上の話、総大将が常に前線に出張るなど、言語道断もいいところです」

「マリー、ジェード、そうは言うけどね……」


 大人組の二人に窘められてしまう。

 しかし、もっとも力を持ち、かつ柔軟に動けるのがハルでもあるのだ。そこはハル自身が出ることが、一番効率が良いのも事実。


「そうそう♪ それに総大将が出陣すると、士気が大きく上がるんだぞ♪」

「誰の士気ですか誰の。雑兵ぞうひょうなど居ませんよ自分らには。むしろ気が気じゃなくて士気が下がるんじゃないの?」

「あはっ♪ シャルトくんは特にやきもきしそうだね♪」

「まあ、皆の気持ちは嬉しいけど、今回僕が下がるのはある目的のためだ。最後には前線に出させてもらうよ」

「……だと思いましたよ。仕方のない人ですね。安全はきちんと確保してよハルさん?」

「そこをしっかり露払いするのが、ボクらの仕事ってことかなー」

「そうとも! 手足をもいで、王の眼前に引っ立てるのが我らの仕事!」


 張り切るセレステを、全員が冷たい視線で射貫いているが、本人は意にも介していない。

 ここで言う『手足』とは眼前の要塞の機能のことであろうけれど、セレステなら文字通りの手足を切り落としかねない。他の神に見張っていてもらおう。


「空木、データを共有したい。僕の中に入ってリンクして」

「……マスターから頂いたこの身体、出来れば離れたくはないのですが、仕方ありません」


《そのマスターと繋がる栄誉です空木。ナマ言ってんじゃねーです》


「おねーちゃんはマスターの処理能力を食うのを、もっと遠慮すべきです」


 仲良くなるにつれ、こうした言い合いも増えて来た白銀と空木の二人だ。

 受け入れたのか、諦めて観念したのかは定かではないが、白銀の要求通り『おねーちゃん』と呼んでいるようだ。微笑ましい。

 その様子を見守りながらも意識を真面目に切り替えると、ハルは必要なデータの解析にかかるのだった。





「はははっ! 脆弱! なんだいその攻撃は、まるでそよ風じゃあないか?」


 神々が要塞に向けて接近すると、それを迎撃するために砲弾の雨が押し寄せる。

 先陣を切ったセレステはそれをものともせず、愛用の槍、『セレスティア』を一振りするだけで、難なくいなしてしまった。

 いや、振ったのは一度だけでも、その穂先は幾千に枝分かれし樹形図を描き、まるで大樹を抱えて薙ぎ払ったかのような広範囲を消し去った。


「っと、小癪、ハルを狙うかい? 当たったらどうするというんだ」


 そのセレステの快進撃を直接狙ってもらちが明かないのが分かったのか、狙いは本人ではなく、後方のハルの控える位置へと定められる。

 ハルの剣を自称する彼女としては守護するより他はなく、進行のルートを逸れることを余儀なくされた。


「……ねぇハル? このくらい、防御できるよね? できるだろう?」

「《ん、まあ、僕のことは気にせず好きに攻めちゃっていいけど》」


 セレステが魔法で遠隔会話を繋げてくる。

 作業中であり、コアの力を封じられてはいるが、それでも生半可な攻撃ではハルに傷一つつけられないだろう。

 彼女には気にせず攻めて欲しいと思う。


 そのことを会話していた隙に、セレステを襲うすり抜けた弾丸の姿があった。


「よし、では……、っと! 危ないな!」

「……なんです、そのていたらくは。それでも自称武神なのキミ?」

「い、今のはハルと話していたからで……」

「うわ、あるじをダシにするとか、最低ですね。領地にエーテルが潜伏していても気づかないし」

「《君らこんな時でも身内弄りは容赦ないよね》」


 最小の労力で、最小の魔力消費で、的確に相手を撃破し相手の攻撃を受け止めることを得意とするセレステ。その特徴を突かれたのか、弾幕の中に一つだけこっそりと高威力のものが紛れ込んでいた。

 ハルの方に振り返った意識の間隙かんげきを突くタイミングもみごとなものだ。

 その槍の枝先を突破した弾丸を、シャルトの体が受け止めていた。


「《シャルト、それ新型?》」

「ええ、この度アップデートしました。ハルさんのルシファーに負けたの、悔しかったし」


 そのシャルトの体は普段の少年の小さなものではなく、十メートル大のロボット風の装備に身を包んでいる。

 かつて彼とハルの戦いにおいても巨大な外装を纏っていたように、これがシャルトの戦闘スタイルのようだ。


「ということですので、支払いはお任せしますよ、ハルさん!」


 その巨体の胸部が開いたと思うと、ハルの時に放ったものよりも何段階も強化されたであろう光線が敵要塞に向けて発射される。

 その光の束は弾幕を飲み込み、強引に押しのけて、発射口となっている要塞の外壁部まで到達、一気に焼き払った。


「うーん、やはり気分が良いですね。消費が他人もちというのは。最高だ」

あるじの財布から散財するとか、最低だなお前も。倹約家の名前、返上したらどうだい?」

「節約しすぎて主を危険に晒すよりマシです」


 ばちりばちりと、共通の敵を無視して散らされる火花を、これもある種の信頼の証かと逃避ぎみにハルは生暖かく見守る。


 何にせよまずは、最初の一撃を要塞に撃ち込むことに成功したのであった。





「どうだ? 『結晶化』した物の扱いについては、貴様の方が慣れ親しんでいるだろう」

「んー、そうだけどさー、とは言っても、ボクだって専門じゃないんだよ。オーキッドはなんか分からないの?」

「ふん、そうだな……、物理的に砕いても、その破壊のダメージはさしたるものにはなっていない、ということは確かだ」

「……そだね。さっきシャルトとセレステが吹っ飛ばした砲台。目を離したらもう復活してるよ」


 考えるより先にまず殴る、先遣隊チームが突進していく一方、こちらは冷静に要塞の機能を見極めようとしているようだ。

 先んじて集めていたデータを元に、組み変わったエーテルの塔の構造を逆算し、その仕組みを丸裸にしよう、といった算段である。

 魔法神としてそういった作業が得意中の得意であるオーキッド(ウィスト)と、ヴァーミリオンの地で遺産に慣れ親しみ、キャラクターの体の設計も手掛けるマゼンタがその仕事に取り組んでいた。


「正直、脱帽だね。今のエーテルはとっくに人間に転生してたってことは、コレ百年前に組んだ技術なんでしょ? ボクらの最先端を軽く超えてるよ」

「どうということはない。オレの専門は魔法だ、結晶化で負けたからといって何の痛痒つうようも感じん」

「お前はそれで良いかもだけどさー。ボクとしては悔しいわけ」

「ふん。知ったことか。今はそんな感傷にひたっている暇はない。長期戦はハルも望むところではないのだろう?」

「……そだねぇ。実際、その長期戦は悪手かもね。内蔵魔力を使い切らせれば勝てる、って思わせといて、そうじゃないかもよ、これ」


 二人が警戒しつつも感心してしまうほどの高機能が、どうやら要塞には仕込まれているようだ。


 まずは、その身の自己修復機能。

 先ほどセレステたちが与えたダメージ、吹き飛ばした外殻の砲台群が、彼女らが別の地点に攻撃の手を移したその隙に修復されてしまった。


 この塔、要塞は物質ではあるが、元々の素材は魔力が『結晶化』したもの。凝縮し、物質と化した魔力だ。

 つまり、壊れたとしても、再び魔力を注ぎなおし、再度結晶化し直せば。

 結果は見てのとおり。傷一つない外殻と砲台群が、その姿を現しているのだった。


「《マゼンタ、長期戦が悪手っての、詳しく》」


 そして二つ目の懸念が、ハルは気にかかった。後方から彼に問いを投げかける。

 もとより短期決戦で、エメに計画を遂行させないことを目標にしたこの侵攻であるが、マゼンタの言うことは少々異なるようだ。

 口ぶりから、戦略としてもあまり適していないことが窺えた。


「それだけどね、ハルさん。どうやらあの要塞、今も魔力をどこからか回収してるみたいだよ?」

「《マジか……、いや、考えてみれば当然か。エーテルの塔は、そもそもの目的が日本から流れてくる魔力をせき止めるダムなんだから》」

「そんな話だったね。だから、内蔵魔力だけで計算してると、思わぬ計算違いが出てくると思うんだ」

「問題なかろう。回収量とて、無限ではない。過去の備蓄の大半を手にしているオレたちに、死角はない。寿命が少々伸びるだけだ」

「《いや、殺さないからね……》」


 そして驚くべきは、この機能はほぼ全て自動であるだろうという点だ。

 今のエメは、エーテル神としての力をほとんど失っている。ただの人間と同じ身で、神々を相手どる操作など出来ようはずもない。

 そんな機能を、設計当初から隠し機能として搭載させていた彼女の知識と技術の高さには、マゼンタではないがハルも脱帽する思いである。


 このまま長期戦となってはまずい。そんな焦る気を沈めつつ、ハルは激しさを増していく戦場を再び見やるのだった。

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