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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
本編終章 夢の満ちる二つの世界

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第434話 集いし力

「さて、どうしようかねこの状況」

「やっぱり、あのとき私の手で塔を破壊してしまえば良かったです」

「そう言わないの。貴重な文化財だよ空木」

「ああなっても、貴重な文化財ですか?」

「うーむ……」


 過去に異世界にあった街の建造物をつぎはぎに組み合わせて作ったエーテルの塔。その塔が、更にバラバラに分割されて組み替えられていっている。

 縦に長い塔状だった形は丸く球状に近くなり、家々をはじめとする各種の建物は、もはや細分化されすぎて原型を留めていない。


 随所に仕込まれていた隠しコードをそうして細かく継ぎ直すことで、新たに大規模な魔法的プログラムが、あの建物に発動しているのだ。


「しかし、確かにこうなっては、破壊せずに済ませようなど、言っていられないかも知れない」

「一部を奪われたとはいえ、大半の魔力は退避が済みました。持久戦に持ち込めばたやすく……、あっ」

「そうだね。それは出来ない。むしろ僕らは、なるべく早く決着をつける必要がある」


 ハルたちの目的は、エメによる日本への干渉の阻止。

 持久戦に持ち込みでもしたら、エメはあの要塞の奥にて、悠々とその作業を完了してしまうだろう。

 それをさせない為にも、ここはすぐにでも攻めなければならなかった。


「悠長にしている時間は無い。ただ……」

「どうされましたか、マスター?」

「そこまで焦る必要もない。向こうも、見た目の状況ほど盤石で余裕がある訳じゃないからね」

「とてもそうは見えません。……あ、分かりました。エメの体が、ただの人間であるためですね」

「そうだね空木。かしこい」


 派手な変形を繰り返し、大規模に形を変えていくエーテルの塔だが、これは別にエメが今内部で手動操作をしている訳ではない。

 彼女の前世とでもいうべき、エーテル神であった時代にあらかじめ設定しておいた仕込みだ。

 つまりは自動操作。それを、これから状況に合わせて動かしてゆくには、彼女自身が設定をしなければならない。


「エメは今、その体は単なるNPCだ。もちろん、蓄積された経験や知識はかなりのものだろう。しかし、どうしても限界がある」

「人の身ゆえの計算力の低さ、人体の物理的な稼働限界。そして何より、あの人は一人です」

「ああ、個人の出来ることなどたかが知れてる。とはいえ、魔法のある世界だ。楽観視ばかりもしていられないが」


 だが、必要以上に焦る必要もない。冷静に、慎重に対処することをハルは心がける。


「ただでさえ、コアの稼働を潰されてるんだ。焦って良いことはないね」


 ハルが今もゲームへのログインを常時継続させている、体内に存在するコア。

 そのコアの設計に携わり、今も神々の間でも解析不能ブラックボックスな部分の詳細なデータを知るエメにより、利用に妨害をかけられてしまった。


「登校してなくて良かったよ。もし分身が教室に居たら、突然停止して一大事になってるとこだった」

「言ってる場合ですかマスター。その、外は大丈夫なのですか? 通信も、出来なくなっているのでしょう」

「アイリたちには少し心配を掛けちゃってるけど、平気。僕らは精神が繋がってるから、通信封鎖の環境下でも通じ合える」

「驚嘆に値します」


 とはいえ、不便なことには変わりない。通じ合えるとはいえ、論理的で詳細なやりとりをするには微妙に向いていない。

 普通なら文章データで短く簡潔に伝えれば済むことであっても、思考の雑念であったり、生の感情であったり、そうした連絡事項においては雑音ノイズとなりかねないものまで同時に伝わってしまうのだった。


 とはいえ、すぐさま無事が伝わるのはやはり安心感がある。

 この場合、動揺の大きいのはむしろ神様たちの方だろう。何しろ、何の前触れもなく一瞬で通信が途切れたのだ。

 性質上、パニックを起こす者は居ないだろうが、それでも混乱は必至。


「まあ、通信が途切れたことで状況を察した神様たちが、ここに来てくれるだろう。それまでは、コアの様子を探りつつのんびりと、」

「マスター、マスター」


 ハルが、空木を落ち着かせようと余裕の構えを見せていると、彼女は慌てたように大きくそでを、くいくいっ、と引っ張って来る。

 見れば要塞ではなく後方を指さしているようで、そちらから何かが近づいているようだった。

 さすがにこの状況で挟み撃ちは少々まずい。ハルが警戒しつつそちらを凝視すると、その存在はどうにも見覚えのある形のようだった。


 見る間に近づくそれはどんどんと距離を詰め、ハルたちの目前にて停止する。

 それは神界、ここからは微妙に距離のある七色に輝くネットワーク内部で運用されている、小型の次元探査船の姿であった。





「貴様ら二人だけか? 無事なようだが、どんな状況だ、これは?」

「ウィスト、えらく早い到着だね。予想外だったよ、これは」

「ふん……、図らずも、貴様に一泡吹かせられたという訳だな」

「いや吹かせなくていいから。その調子で敵にも吹かせちゃってね。で、どうしたのさこのスピードは。いくら快速の小型艇とはいえ、この時間で来れる距離じゃないでしょ」

「たまたま外に調査に出ていただけだ」


 そんな訳がない。きっと、何かあった時のために既に近くまで来ていたのだろう。ツンデレだろうか?

 ハルは苦笑いをかみ殺しつつ、つまらなそうにいつもの仏頂面を浮かべるウィストへと礼を言ってゆく。


「ありがとう。助かるよウィスト。コアの通信封じられたんだ。代わりに他の人たちに状況伝えて?」

「だからこれはどんな状況だと……、それに、貴様が転移許可を出していればこんな苦労せずに済んだのだ」


 独り言のように続く、『何でも一人でやろうとしおって』、といった内容の文句をハルは噛みしめるように反省する。

 エメを刺激することを避けるため、この場の魔力への転送許可を神々に出していなかった。そのせいで、こうして初動が遅れることとなったのはハルの落ち度といえよう。

 物理的に接近してくれていたウィストのおかげで、大幅な短縮となった。


 そんな彼を通して、要塞の近辺に避難させた大量の魔力内へと、待機していた神々が続々と集結してくるのであった。


「やあハル、ピンチじゃないか! ここはキミの剣たる私に任せたまえよ!」

「その剣がピンチの時に傍に居なかったんじゃ、片手落ちじゃないのぉ? あ、ごめん、わかってる分かってる。どうしようもなかったよね」

「セレステ、マゼンタ君もありがとう、来てくれて。マゼンタ君は、警報の感知も助かったよ」

「……思えばあの時、ボクが行くべきだったよ。ハルさんに許可取ってさ。セレステのこと言えないよね」

「仕方があるまい。我らはハルの意思を第一に優先するんだ。自ら出陣すると決めれば、それに従うのみだね」

「いや、ボクはハルの剣を自称してないからね? そうじゃなくて、ボクらなら、あいつに自由にはさせなかった」


 眼前に異様をさらけ出してる、塔の変形した巨大な要塞を睨みつけならが、マゼンタが苦々しげに語る。

 ハルとの会話の最中に、一方的にそれを断ち切って戦闘状態に入ったエメに、思う所があるようだ。

 ハルとしてはそれは嬉しいことなのだが、この状況は己の甘さが招いた結果だと言われているようでもあって、少々居心地の悪い思いもまた存在した。


「まあ、確かにそうだね。我々神であれば、交渉に入る前に確実に誓約によって敵対を禁止していただろうさ」

「確かに、AIであったころの名残ではありませんが、その合理性は捨てきれませんね」

「ジェードじゃあないか。珍しいね、前線に出張ってくるなんてさ」

「ほんとほんと、黒幕ムーブはどうしたの?」

「いやはや、別に黒幕を自称してなどいませんよ? それに、時流を読むのは経営の基本」

「今この時こそ、私たちの力が必要ってね♪」


 セレステとマゼンタに続き、ジェードとマリンブルーも。続々とこの場に神々が転移してくる。

 コアの力を封じられた今、彼らの存在は非常に心強い。ジェードの言うように、機を読むのであれば、まさに今が『その時』となるのは間違いないだろう。


「本当なら、戦闘艦も持ってきたかったのですけど。あれはハルさんしか、自由に転移できないからね。かといって、今からハルさんに乗ってきてもらうには時間が足りない」

「シャルト君の口から戦闘艦の使用を推奨するとか珍しいね。節制はやめたの?」

「止めてませんよ……、ハルさんの身の安全の方が優先なだけです」

「そうそう。あとは皆に任せて、後方に下がりましょうハル様? 私が、コアの調子を見てあげるの!」


 続いてシャルトとマリーゴールドも。次々と揃てゆく神の姿に、まさに総力戦といった様相を呈してきた。


 確かにシャルトの言うように、あの巨大な要塞に相対するのであれば再び戦闘専用艦を出すのが妥当となる場面だろう。

 しかし、安全面における懸念から、あの強力すぎる艦もハルの承認が無ければ動かせないようになっている。

 そして今のハル、コアのシステム補助の無いハルでは、あの巨体を転移させてくる計算力を出すのは少々骨だ。


 それに、そうでなくとも出来れば使いたくはない。前回と違い塔そのものと戦うことになった今、あの艦は強力すぎる。

 出来ることなら、要塞内部に居るエメに傷を付けたくないと思ってしまうハルなのだ。


「平気さ! これだけのちからが揃ったのだ、あのような木偶の坊、いかほどのものか!」


 セレステの豪快な啖呵たんかに、皆が頷く。

 そう、彼らは一柱一柱が、ハルを苦戦させた強力な存在。それが一同に会した今、どのような敵であっても相手にならない、そんな気分にもなってくるハルであった。

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