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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
本編終章 夢の満ちる二つの世界

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第432話 計画は既に第二段階

 時代を変化させる引き金となったことに罪の意識を感じるエメ。

 その償いとして、今をより良い時代にしなければならないという、強迫観念にも似た意識において、日本へと干渉を繰り返している。


 確かに、彼女の行動によって迅速にエーテルネットが普及したことは評価に値するだろう。

 しかしだからといって、今後も彼女の暗躍を黙認し続けることは出来ないハルだった。せっかく平和になった時代に、混乱の種を持ち込ませる訳にはいかない。


「それで、ずっとNPCの中に埋没して機を窺っていたの?」


 ここからが重要なところだ。ハルは、彼女がこの先なにをしようとしているのか、なぜ今になって再び動きを見せたのかを、慎重に探っていくことにした。


「そうなんです。神から人の身となったわたしは、カナリーたちが集めた避難民の中へと潜り込むことは容易でした。盲点ですよね? 神による干渉はひっじょーに厳重に警戒しても、まさか人の側から運営に干渉されるとは思わない」

「そこは、僕もしてやられた。どうにかして神の痕跡を見つけ出そうと躍起になってたよ」

「うへへ、ハル様から一本取っちゃったー。と、そんな訳で、しばらくは我慢の時間だったんです。どのみち時間は必要でしたからね。日本にエーテルネットが普及して、定着するまで、どうしても時間がかかります」


 その間はヘタな手出しは出来ないということもあって、じっくりと準備するのに時間を使えたという訳だ。

 なんとも気の長い話。流石は神といったところか、待機であってもスケールが違う。


「暗躍は、ずっと今のとこで?」

「んー、そうなりますねー。どうしても、人である身のデメリットが出ちゃいますからね。あまり長距離は動けない。なんで、大抵は瑠璃るりの国を拠点としてました。あそこ、セレステが放任主義だから都合も良いですし」

「セレステェ、あいつ……、まあ、それはいい。でも、ずっとその姿ってことはなかったんでしょ」

「はいはい、もちろんもちろん。途中からは、ステータス付与による市民登録が始まりましたからね。ずっと同じだとさすがにバレますし、登録を免れてもまたバレます。なので転生しました!」

「さらっと恐ろしいことを言う……」


 ステータスを付与されたNPCが、ステータスを持たない人間と接触するとすぐに神々に察知される。

 それを避けるためには、自らもステータスを受け入れなければならないが、すると今度は別の問題が出てくる。

 同じ姿でずっと活動を続けては、やはり神々に察知される。どんなに上手くやって対面した相手をごまかせても、データは誤魔化せない。


 そこで彼女は大胆にも、赤ん坊から生まれなおし、通常通りに成長するという手を取った。

 それはもはや完全にNPCの一人になりきることであり、いくら探しても見つからない訳である。そもそもの捜索の前提が完全に間違っていたのだ。


「とはいえやっぱ面倒は多くてですねー。幼少期は自由に動けませんし。あ、これ三代目の体になります。成人してからも行動が怪しいのは避けられないんで、流動性の高い部署を作りました。みんな数か月もすれば入れ替わっちまうんで、不審がられることはありません」

「……なんか、病院に居た時の自分を思い出すよ」

「にしっ、そうでしたそうでした。ハル様とわたし、にたものどおし。えへへ」


 ハルも入院患者を装って、ずっと研究所を前身とする病院に潜伏していたころ、顔を合わせる医者たちに不審がられないように、自分の担当を短期間で異動するように裏から仕向けていたのだった。

 そうすればこちらは、データ上の整合性は完全に掌握している立場である。

 人さえ入れ替わってしまえば、歳を取らないハルを不審がる者は存在しない。


「んでもって、転送機をですね、めっさ凄っい遺産だと噂を撒きましてね、必要な魔力を集めてもらうことにしたんですよ。一人だと、どーしても限界がありますからね。あ、わたし、これでも強力な魔法使いなんすよ? どエリートっす。侮らないでくださいねえ」

「侮ってはいないよ。……しかし、アベルもまんまと君に乗せられていた訳だ。少々それが不憫ではある」

「ああ、それならご心配なく。別に嘘は言ってませんわたし。装置の正式稼働のあかつきには、ゲートがここと直結した状態になります。これがどういうことか分かります? 分かります?」

「……なるほど、この地の魔力を向こうに流すことだって出来る訳だ」

「そうですそうです! 噂通りの、『起動は大変だけど、動かせば恩恵が大きい』遺産のお目見えですね。魔力がじゃんじゃか湧き出る泉として、非常に重宝されるでしょう。ま、まだまだ動かす予定ではなかったんですがねー」


 どうやら全くの嘘という訳ではなかったようである。

 今の異世界において、魔力の確保はどの国においても重要課題だ。それが湧き出るアイテムとあれば、まさに伝説といって過言がない。


「今ごろ、わたしの心配なんかまるで忘れて、湧き出る魔力に狂喜乱舞きょうきらんぶしてるんじゃないですかねえ」

「いや、それは無いね」

「おや、皆さまわたしの身を案じてくれていたのですか? いやー、まいったなーモテモテかーわたし。隠れ潜まなきゃいけないから、結婚する気はないんだけどなー」

「そうじゃなくてね。僕が<誓約>で『口外するな』って言っといたから。たぶん狂喜乱舞もキャンセルだよ」

「ひどい! 期待させよってからにー! ハル様ー!」


 まあ、実際は割と心配してくれているだろう。あの所長も真面目なたちであったようだし、アベル王子もハル絡みとあって事の重大さは理解しているはず。

 それに、この場の魔力は今はハルが全て支配している。ハルの許可なしには、勝手に持ち出せないはずだ。


 ただ、彼女の口ぶりから、予定を前倒しで正式稼働させたということが分かる。

 今の時点ではまだ大人しくしているはずだった彼女の計画を、藪蛇やぶへびぎみに動かしてしまったことになる。

 つまりは、ここからエメも大きく動くことになるだろう。それは責任をもって、止めなくてはならないハルだった。





「はてさて、私の来歴はそんな感じでございまして、ついにお話は現代へと至るわけですが。えと、確認なんですが、ご協力いただくことは、やっぱり出来ないんですよね?」

「……内容による。とはいえ、可能性は低いだろうと先に言っておく」

「うう、ハル様の誠実さが胸に痛い。痛いのでちょっと揉みほぐしてくれませんハル様? こう見えて、わりとある方ですよ?」

「雑な色仕掛けは止めてさっさと話す」

「はーい。いけずー。……現在、計画は第二フェイズに入ってます。第一フェイズはエーテルネットの普及と安定。これは目標値を達成。日本の方々が『ゲーム』として異星へ来れた時点で、十分に成熟したと判断しました」


 浮ついた口調が次第に鳴りを潜め、少しずつ淡々とした報告となっていく。

 空気が張り詰めてゆく感覚に、隣でずっと大人しく話の成り行きを見守っていた空木が身をこわばらせるのも伝わってきた。


「第二フェイズは異能の発達。超能力の開花や、スキルの逆流、そしてアイテムの転送。それにより、誰もが夢見た魔法の世界が到来します」

「待て、スキルの逆流? アイテムの転送? いきなり爆弾つっこんでくるね君」

「えへ、ハル様のレア顔げっとー。驚いてくれて何よりです。んー、えとですね、不思議に思ったことはありませんか? スキルの発現方法について」

「不思議だし不満にも思ってたよ。個人の才能に依存する発生とか、ちょっと普通じゃない」

「もうお分かりだとは思いますが、あれは実際の才能とリンクしてます。特にユニークは顕著ですね」


 そのスキルの、『逆流』だという。何をしようとしていうかはもはや明らかだ。 現実世界リアルにいても、ログアウトした後も、スキルを使用可能にしようというのだろう。


 あのゲームにおいて、スキルの習得には個人差がある。いや、個人差が大きすぎる。

 ユキのように、すぐに何でもスキルを発現させてしまう者がいる一方で、多くのプレイヤーはかなりの長時間をかけて鍛えないと習得できない。

 ハルなどは、脳の構造が常人と異なるためか、平常時では一切のスキル習得が出来ないほどだった。


「スキルはゲーム運営の神が作ったシステムではありますけど、その大部分がわたしが手がけたコアの機能によって行われています。つまり、スキル発生が才能依存なのはわたしのせいです」

「なるほど。やっと文句を言う相手が見つかった」

「ひえー、お許しを~。でもハル様はめっちゃつよくなってるんだから良いじゃないですかー」


 じゃれあいつつも、内心では頭を抱えるハルだ。

 つまりは、あのゲームを裏ではスキルの訓練システムとして利用していたということだろう。

 無意識に刻み込まれたゲームでのスキル利用の経験を、現実の脳に還元適用フィードバックする。


 どう考えても、許容できる話ではない。

 ゲームですら才能による格差には不満が出やすいのだ。それを現実に持ち込めばどうなるか、火を見るより明らかというものである。


「それに、なに、アイテムの転送だって?」

「はい、魔道具です。これで、才能の無い人でも楽ちんに使えて安心ですね。アフターケアも、ばっちりです。運よくこれを拾ったひとが、ドラマを繰り広げるんですね。中二ごころをくすぐります」

「ばっちり、ではない。中二でもない」


 どこから持ち込んだのか、ローブの下から小さめなアイテムをずらずらと取り出すエメ。

 今回は、これを日本に送り付ける気であったようだ。迅速に追いかけてよかったと心底思うハルだった。


「だめ、ですかハル様?」


 現段階では計画はそこまでなのか、とどこおりなかった語りをここで止めるとエメは、上目遣いで聞いてくる。


 当然だが、だめに決まっていた。

 確かにそんな世界を望むものも多いだろう。人類の文化を、一段階上げることになることも間違いない。

 だが、性急が過ぎる。エメの計画によりもたらされるメリットよりも、デメリットの方が大量に出ると、容易く想像できてしまう。


 何より、動機が許容できないハルだ。

 自らの罪の償いのため、という後ろ向きな動機で、そんな多くの人々の生活に関わる大事を軽々しく行ってほしくない。

 それこそ、ハルの基準においては罪である。


「だめだよ。特に、今すぐやろうとするのは許可できない」


 それを、どうやって納得してもらおうか、今この瞬間は、仕方ないので強引な手段で拘束しようかとハルが悩んでいると、それを察したのか、エメの方が動くのが早かった。


「では、申し訳ないのですが、ハル様のコアの通信を一時遮断させていただきますね?」

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