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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
本編終章 夢の満ちる二つの世界

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第427話 因縁の地へ再び

 装置の核をなす球体が光を放ち、外周のリングが高速回転を始める。

 七色の輝きが星に光を灯し、リングの回転に合わせて公転する。置き物のライトアップにしてはいささか派手すぎるその輝きに、研究室の一同は圧倒され言葉を失っていた。


「あわわあああぁぁ!」

「っ! まずいぞ、飲み込まれる!」


 そんな溢れ出す光に、装置のすぐ傍にて作業をしていたエメが飲み込まれて行く。

 所長が駆け寄ろうとするが、光はそれを待つことなどなく、一瞬でエメの体を飲み込んでしまった。


「おいハル! まずくねぇか?」

「今はハルじゃなくてゼファー……、なんて言ってる場合じゃなさそうだね」


 突然の出来事、あわや実験失敗で犠牲者か、といった緊張。

 尚も拡大を続ける光の渦が、次は自分たちを飲み込むのではないかという恐怖。

 そんな感情が渦巻き、パニック一歩手前となった地下室にて、もはや身の上を取り繕っている場合ではなくなった。

 ハルは偽装の魔法を解き、その身のオーラもあえて隠さず神の威光を全開にする。


「はい注目! ……うん、よし。そのまま冷静に聞いてね皆」


 ハルは手のひらを、ぱちん、と強く打ちならすと、強制的にその場の視線を自身に集中させる。

 突然姿の変わったゲストの貴族。そして、その者の発する圧倒的な威圧。その二重の驚愕に、全員が一時恐怖を忘れて、ハルに見入っていた。


「安心していい。彼女は必ず僕が助け出そう。だから君たちは、決してコレに手を出さないように」

「あ、貴方は……? いえ、それよりも、職員の救出ならば私も参加します! こう見えて腕は立つ。足手まといにはなりません!」

「ありがとう、所長。でも悪い、これは“僕ら”の管轄だ。出来れば関わってほしくない」


 やる気の無いと評判だった所長が、緊急事態においてかつての武人としての意識に舞い戻るのを感慨深く思うハル。だが申し訳ないけれど、この先の展開に彼らを関わらせる訳にはいかなかった。


「どーすんだハル? てか、どーなったんだアレ?」

「あれは転送機だね。別の場所に繋がっている。僕が追いかけよう」

「オレは?」

「彼らに説明、よろしく」

面倒くさい(めんどくせー)役押し付けてくれるなぁ。最悪、オレでも制御しきれんぞ? 暴走しないよう釘刺して行ってくれないか(くんねぇか)?」

「そうだね……」


 確かに、責任を感じるあまり、公式に事故として調査隊でも組まれたらやっかいだ。

 そういった事態にならないように、開いたゲートへとエメを追って飛び込む前に、アベルの言うように“釘を刺して”行く必要はあるだろう。


「よし、それじゃあ。『神の名の下に命ず、汝らこの場における一切を公言せず、またこの現象に近寄るなかれ』。これでよし」

良く無い(よかねぇ)よ! 話ややこしくして行くんじゃ無い(ねぇ)っての!」

「ツッコむ余裕があるなら大丈夫だね。じゃあ、任せたアベル」


 少々雑にこの場の全員に<誓約>をかけて行動を縛ると、なおも抗議の言葉を続けるアベル王子を置いて、ハルは七色に輝く光の扉へと踏み入って行くのだった。





《ハルさん。行き先が分かったよ。『エーテルの塔』だ。侵入警報があった。……ってもう踏み込んじゃってるね》


「エメ、研究員の彼女が先に飛んだ時だね。彼女を関係者と断定。警戒度を引き上げて」


《何かボロでもだしたの?》


「ああ、ここに来てね。悲鳴がわざとらしかった。あれはとっさに出たものじゃなくて演技だ。彼女、ゲートを通るの初めてじゃないね」


《ふーん。ボクには彼女は全てが演技臭く見えて、よくわかんないや》


「それは、そういう人も居るから」


 社会に出て、演技をしていない者など居ない。自らを偽ることなく、常に素の自分を出して生きられる者など居ないだろう。

 ……いや、中にはそういう大物もたまにいるのだろうが。


 そういった理由で、ハルは彼女の大げさなキャラ付けをさして気にしてはいなかった。


「ロールプレイみたいなものさ。僕だって、学園では半自動的に優等生として行動してる」


《そんなんハルさんだけだから……》


 そこまで言って、そしてマゼンタのぼやきを聞いて、ハルも無意識に除外していた選択肢に気付く。

 本当に、ハルだけなのだろうか? 他にも自分の行動を自動で制御できる存在が居ないと言い切れるだろうか。


「いや、仮にそうだとしても、彼女は確実に人間だって部分は残る。神じゃない」


 関係者と断定したからといって、短絡的に決めつけすぎだ。ハルは己の内部の疑念をひとまず置いて、周囲の状況の把握に移る。


 この場の慣れ親しんだ気配は、確実にハル自身の魔力だ。

 空木うつぎ、かつてのエーテルとの戦いの際、浸食し染め上げたエーテルの塔。そこへと再び転送されてきた。


 この時点で、あの装置がエーテル神の手によるものだという説が大きく補強されたが、今まず調べるべきは、エメが転送された位置だろう。


「マゼンタ。警報の鳴ったポイントは? ここの近く?」


《いーや。もうぜんっぜん遠く。そこ中層でしょ。相手は最下層の付近だね。位置送るよ》


「オーケー。<転移>」


 マゼンタにより送られてきた、警報システムの作動した位置。そこへすぐに<転移>で向かう。

 この塔を制圧して以降、ハルと神々によって再びの干渉を警戒して仕掛けられた感知器が役に立った形だ。


 ハルが<転移>で辿り着いたその場所は、かつての地上では博物館のようであった施設のようだった。

 異世界の文化を伝える貴重な施設だ。地球のそれとは様相が違うこの場をゆっくりと見て回りたい気分にもなるが、今はそれどころではない。

 ハルが展示品の間を注意深く見まわしてみるも、エメの姿は見当たらなかった。


「居ない……、マゼンタ君、警報は?」


《最初の一回だけだねー。基本的にその場の魔力は全てハルさんの所有だ。だからこれ以上は、ハルさんに探してもらうしかなさそうだよ》


「そうだね。あ、そういえば『住民票』の反応は?」


《そっちもダメ。座標的には今も彼女は、あの地下室から動いてないことになってる》


「ここが次元の狭間だから、その弊害か……」


 NPCの座標を常に特定トレースできるステータス監視システムも、あの光の扉は想定外だったようで、対応していないようだった。


「となると、過去のデータも信憑性が薄くなってくるか……」


 過去、彼女が地下室に一人で入り、そこで作業をしていたと思われていたデータ。

 しかし、この想定外の仕様を考えると、その時もこの地へと来ていたとしてもおかしくない。


 次第につのっていく疑念。それに後押しされるように、ハルは慎重にこの場の違和感を探ってゆく。


「ここに、実際に足を踏み入れるのは初めてだけど、データは当然取ってある。それとの差異を検証すれば……」


 この場の魔力を浸食する際に、スキャンするように得られた周囲の地形情報、そして、この地を誰よりも知るかつての支配者、空木からもデータを取り寄せる。

 それにより、この場所の過去の姿が立体映像として、ハルの目の中に現実の風景と重なるように二重に表示された。


《あまり詳細ではなく申し訳ございませんマスター。なにぶん、施設そのものには興味はあらず……》

《それでも、じゅーぶんです。わたしがAR情報に処理して、マスターの目の中に投射すれば問題はでないです。わたしと空木ちゃんを褒めるです》


「ああ、よくやった二人とも。はっきり違いが分かるよ」


 現実の風景と、ARでその上に重なる過去の風景。そこから変化のあるポイントを絞り込む。

 彼女がここへと飛んでから、そう多くの時間は経っていない。魔力を使えばすぐに分かるので、恐らくは物理的な移動手段のみと推測。

 そうなると、そう遠くには行っていない。痕跡を辿って追跡すれば、すぐに追いつけるはず。


 ハルがそう考えて、間違い探しのように過去と現在の重ね合わせの映像を処理していくと、思いがけず大きな差異がそこには存在した。

 展示の像の位置が、一つだけ大きくズレているのだ。


「かつての戦闘の影響で、って訳じゃないね」


《それなら、全部がぜんぶズレるはずですもんねマスター》

《わたしとマスターの戦闘の影響は、全て反映済みです。その差異は、それ以降に出来たものとみて相違ないかと》


 人や神が行動を起こさなければ、風も吹かず、凪そのものであるこの次元の狭間だ。

 何か物体の移動があるのは、それは介入した者がいる証。ハルは注意深く、その像を押しのけてみた。


「動いたね……」


 その像をスイッチとして、非常になめらかに床が開閉してゆく。その様はまるで機械仕掛けのシャッターであり、結晶化によって魔力で作られた、この施設の機能のようであった。

 床の中には地下に続く階段があり、ゲーマーとしてのハルの心をくすぐってくる。


「こんな、“ゲームでよくある仕掛け”、実際に作る奴なんて居ないと思ってたけど」


《地球人の発想ですかね。塔を作った、天色の趣味でしょーか》

《こちらのデータにもありません。意図的に、削除されたものと思われます》


 ずいぶんと大がかりな仕掛けのようだ。このシャッターの展開前には、確かにこの足元には空洞など存在しなかった。

 つまりこの階段ごと、仕掛けの起動と同時につくられたのだ。


 そんな大がかりで隠蔽いんぺい性の高い通路を、ハルは慎重に降りて行く。

 恐らくエメも、ここを通って行ったのだろう。


《何者でしょうか。私は、彼女のことを知りません……》


「だが彼女はこの地の隠し通路を知っている。かつての君が支配していた時代、そうだな、これとこれ、この時間に、塔への侵入者があった記録は」


《皆無です。塔への来訪は、マスターたちが初めてですから……》


 かつて王子が杖を渡し、装置が秘密裏に起動されたと想定される時間の記録を、空木に参照してもらう。

 結果は、該当なし。それ以外にも、塔へ転移してきた者など、まるで感知していないそうだ。


「あの魔女っ子、エメが空木の製作者なら、話は早いんだけど」


 だが、空木は彼女を知らないという。そこだけが、唯一引っかかる。そこが解決してしまえば、全てが一本の線で結べるのだが。


 ハルは先に階段を降りて行ったであろうエメを、<神眼>を使って透視する。

 この地は既にハルの庭。大気に満ちる魔力は全てハルの支配下だ。移動方向が分かれば、そちらに<神眼>を飛ばして観測が可能。


 しばらく階段を降りた先、別の建物を使って作られた空洞に、果たして彼女は存在した。

 本来は、更にその先の空間へと移動していたようだが、背後で再び起動した隠し通路の音を聞いてか、引き返してあちらも様子を見ているようである。


 その彼女の様子は、おどおどと柱の陰に隠れるようで、特に豹変ひょうへんした感じは見受けられない。

 ハルが何でもない会話を重ねた、あの気さくな彼女の態度そのままだった。


「……これを見ると、本当にあの子は事故として巻き込まれただけ、って思っちゃいそうになるね」


《それで偶然に隠し通路を見つけて、すたすたとその先に進んだですか? ありえねーです》


「そうだね白銀」


 そう、いかに態度がそれらしくとも、行動が全て、論理的な結果が全て、エメが犯人だと示している。

 このズレはどこから来るのか。彼女に向き合い、直接問いただすしかなさそうだった。

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