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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
第12章 エーテル編

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第404話 魔法の勉強は欠かしていません

「《十二領域統合完了。全並列思考、正常に励起れいきが完了しました》」

「ご苦労。続けて意識拡張の開始」

「《御意ぎょいに。接続率を指定してください》」

「上限まで。……黒曜、今ならもう完全同調いけるか?」

「《危険と言わざるを得ません。95%が限度となるでしょう》」

「無理か」


 常に外部から自分を俯瞰していた意識を含めて、多数に散っていた意識をひとつに統合した“僕は”、続けて意識拡張に、ネットワークとの意識の同調へと移る。

 ネットを疑似的に己の脳として使用し、思考能力を大幅に向上させるこの力だが、効果の高さと比例するように危険も大きい。


 まず、加減なしに押し寄せてくる情報の波に、脳が悲鳴を上げること。

 そして、それ以上に危険なのが、繋いだ意識がそのままネットの大海へと流れ出し、元の体に戻る道標を見失ってしまうことだ。

 そうなればセフィのように意識だけの存在となり、肉体を失うことになりかねなかった。


「……それは、私がわがままを言ったのが原因かしら?」

「いいや、気にすることはないよルナ。これだけ神様の協力を得ても無理なんだ。そういうものさ」

「《はい、ハル様のおっしゃる通りにございます。90から先は、途端に難度が上昇してしまうようで》」

「ゲームの経験値みたいだ!」

「またユキはそんな例えをして……」

「えへへ、わたくしも、そう思いました。“おーばーはんぐ”、でしたっけ」


 特に、一人用ではなく多人数用のゲームではそうなる傾向が強い。初心者と上級者の差を埋める目的があるためだ。

 このゲームも、レベル99から100にするための経験値は、それまでの比ではない。


「でもさでもさ、それなら95あれば、もう十分なんじゃん?」

「いいやユキ。そこはゲームと同じとはいかないよ。『完全である』のとそうでないのでは、大きな差が出てくる」

「あーあれか、弱体成功率が100%かそうじゃないかで、妨害された時の挙動に大きな差が出るやつ」

「……違うんだけど、雰囲気的には満点の例えなんで反応に困る」

「100にするのが前提になりすぎて、選択肢の狭まりそうなゲームね?」


 ユキの言う例はおそらく、妨害を受けても100%になっていれば必ず弱体化が通るが、それ以下だと目に見えて成功率が下がる、というゲームだろう。


 意識拡張でも、似たようなことが言える。

 この95という数字は、95%を自由に使えるというよりも、5%は自由にならない領域がある、と言った方が正確だ。

 そこの対処に取られる労力が発生するため、完全な自由と比べると雲泥うんでいの差となってしまうのだ。


「《そんなマスターには、こっちがあります。カモン、レインボーワールド》」


 マイペースな白銀の導きにより、もう一方のネット、神界ネットをも使って意識拡張を行う。

 こちらは今まさに戦闘中である、エーテルの設計したネットワークなので不安も残るが、それよりも恩恵の方が大きい。

 それに、そのエーテル自身はその神界ネットには一切接続はしていないようである。そこは信憑性がある。


「……む。マスター・ハル、何かしていますね? 警戒に値することを」

「《げ、気付かれた。君はネットには潜ってないんじゃなかったっけ?》」


 僕が『信憑性がある』、などと考えた矢先に、そのエーテルが早くも異変に気付いたようだ。タイミングからして、神界ネットに意識接続したときの動きを察知されたのだろう。

 まさか、僕も、マリーやジェードですら解析不能のバックドアでもあったのか? と、冷や汗が出る気分だ。


「はい、その通りです。そこは、嘘偽りなく。ですが私は、神界ネットの活動を“目視で”察知することが可能です」

「《目視……、だと……》」

「あの空間が七色に輝いているのはその為です。その色調変化を読むことで、中のデータも引き出しが可能です」

「《そんな『クリスタルを光に透かして中身を読む』みたいなジョークを実践するな!》」


 呆れた処理能力だ。意識拡張した今の僕でも、そんな複雑怪奇なことをやろうとは思わない。

 きっと、開発者として用意した逆算用デコード装置があるのだろうが、それでも相当量の計算力を持っていかれるはずだ。


「《君は、この百年ずっとそれを?》」

「はい。こちらからのアクセスは出来ませんので、読み取るだけですが。おかげで退屈はせずに済みました」

「《ROM専だね。そして、退屈を感じるのは生き物だけだよ》」

「そ、そんな薄い理屈では、惑わされません!」


 書き込まず、見て楽しむ。それだけに留める人もネットでは結構多い。

 エーテルも、そうして孤独な時間の無聊ぶりょうを慰めていたのだろう。……少し切なくなってくる。


 その感情はいったん封印し、その事実から発生する問題点に目を向ける。

 僻地の引きこもりだと思っていたエーテルが、実は神々の事情に非常に深く通じているということになる。

 まさに管理者権限。筒抜けだ。


「聡明なマスターならば、これがどういうことかはお分かりですね?」

「《あー、やっぱり?》」


 当然分かる。特に今は、意識拡張し思考力も上がっている。

 次の瞬間には、予想通りの光景が僕らの目の前に展開されるのだった。


「《やっぱり<魔法>スキルか!》」

「その通りにございます」


 視界を埋め尽くすような巨大な炎の塊。その特徴的な燃え方は、これまでずっとゲームで目にしてきた<魔法>そのものだった。

 ウィストが魔法神として、他の神々へと全て共有化してきた<魔法>の技術も、ネットを盗み見ることが可能なエーテルはまた習得していたのである。





「便利ですよね、これ。どうです、ご自分の配下の作った技術が、ご自分に牙を剥くのは?」

「《はっ! 今更<魔法>が僕に効くかっての! ……それに、<魔法>で狙われるのなんて慣れ切ってるし》」

「確かに、失念しておりました。仕えるべき日本の民の皆さまは、ゲームとして異星に来て、敵味方に分かれていたのですね」

「《そう。それで僕にとっては、大半が敵》」

「心中お察しします」

「《いや別に悲しんでる訳じゃないんだけど!?》」


 勝手にお察しされてしまった。可哀そうな子にしないでほしい。


 それはともかく、今は飛んでくる魔法に対処しなければならない。

 周囲の空間そのものから発動される魔法スキルの数々は、多種多様な属性で僕らの乗るルシファーに迫りくる。

 中には、まだプレイヤーが到達していないであろう未知の属性魔法も存在した。


 宣言した通り、いまさら僕に魔法は効かないが、数が数だ。発生も早いし規模も大きい。

 魔法の式を無力化し、停止させるのも一苦労だった。


「ハル君! 衝撃が来てる! 魔法は無効じゃなかったん?」

「無効にはしてる。してるけど、既に物理現象と化した部分は消しきれないからね!」

「なーる!」

「あいつもそれに気付き始めたみたいですねー? どんどん効率の良い魔法ばっかり、選んで使ってきてますよー?」

「まるでプレイヤーね?」

「CPUならCPUらしく、ルーチン通りに無駄足踏んでろっての!」


 僕の無効化スキルが届かない距離も、既に割り出されたようだ。流石は優秀なAI。

 遠距離で発動し、その場で物理挙動となって襲い来る、例えば雷撃を飛ばしてくるような、そんな<魔法>の数々が乱れ撃ちされてきた。


「……むう、これ、私の<鏡面の月>で発動する魔法よりも、威力が高くなくって?」

「お、珍しい。ルナちーがゲーム部分で悔しがってる」

「だって、必殺のユニークスキルだったのよ? 最強の魔女としても、評判だったのに……」

「ルナがかわいい」

「はい! ルナさんは、もっと隙を見せるべきだと思います!」

「ですねー。生かせ、幼馴染属性、ですよー?」

「……もう! 真面目にやりなさい、ハル」


 戦闘中である。たしなめられてしまった。


 さて、これがどういう事なのかといえば、単純な話だ。このエーテルの塔の内包する魔力が、ゲーム運営の保持する魔力よりも膨大なためである。

 運営の貯蔵プールした魔力へとアクセスし、それを疑似的に自身のMPとして扱えるルナのスキル、<鏡面の月>。それと同じことだ。


 エーテルは、このエーテルの塔にアクセスし、それを自分のMPとして定義していると考えればいい。

 僕らがプレイしているこのゲームの仕様では、魔法攻撃はMPの量が多ければ多いほど、その攻撃力が増す。

 その、基本中の基本のシステムが、ここで完全に裏目に出てしまったという訳だ。


「一気にピンチじゃんハル君」

「甘いね。ピンチなもんか。ルシファーは僕とアイリが全力で魔法攻撃しても壊れないように設計した。つまり反物質砲の直撃にだって耐えられる」

「チートじゃん」

「そのチートで塔を強引に制圧する。ユキ、移動任せた!」

「あいさー!」


 見た目はド派手だし、自分たちの力を利用されたという心理的ショックもある。

 しかし、それだけだ。見た目で威力が上がる訳ではない。


 ゲーム用の魔法として、見栄えが良く派手に制作されている魔法神オーキッドの、ウィストの自慢の魔法だが、純粋な威力面ではそこまでではない。

 プレイヤー誰もが安定して使えるように、病的な繊細すぎる式の構築をされた魔法は、それゆえ単純な威力を追及しにくい形となっていた。


 今までそれなりに長くプレイしてきたが、僕のゲーム外魔法、<陽電子砲ガンマレイ>の最大出力を超える威力の魔法は、未だお目に掛かったことはない。


「《つまり、どんな魔法を選ぼうが、正面突破が余裕ってことだ!》」

「何が『つまり』なのか分かりません。解説を要求します」

「《雰囲気で察しなよ、何となくわかるだろ!》」

「……私は、人間ではありません故、そういった感受性は備わっておりません」


 落ち込ませてしまった。戦闘中の煽りとしては正しいのだろうが、なんだかいけない事をしてしまった気分になってしまった。


「ハル君、なかしたー!」

「それに、ハルはアイリちゃんたちの察しの良さに甘え過ぎね? 普段から説明不足よ?」

「ルナさんも、幼馴染特性でいつも以心伝心ですよねー」

「戦闘中! なのです!」


 ついつい緩みがちな気を引き締めて、ルシファーはどんどんと塔の内部を進んでゆく。


 既に、神殿部のエントランスの魔力は浸食が完了した。

 その場を起点として、どっしりと進めても良いのだが、やはり、この機体の、僕自身の体の周囲が最も浸食のスピードが速い。

 そのため、常に未浸食の場所へと飛び回り続けて行くのが最高率となるのだ。


 ユキの操縦により、ルシファーは飛ぶ。

 塔の内部は多くがこの巨体でも通れる空洞となっており、人間の使うことを想定した施設ではない作りなのが一目で分かった。


「ハルさん……、この、壁面に埋め込まれた家々は……」

「うん。かつての、アイリの世界の建物だね」


 空洞内部、その内壁を構築するのは、かつてあのクレーターの地に存在した街のその一部。

 今は誰も住む者が居なくなったそれが、塔の建材となり無秩序に詰め込まれている。


「少し、面影があるわ? 今の、各地の街並みと」

「当時の人が、子孫に引き継いだんだねー。神様の<誓約>を抜けてさ」


 ルナとユキも、何となく哀愁のようなものを、そのもの言わぬ街並みに感じ取っているようだ。自然、口数が少なくなる。


 建築様式は、元から今のファンタジー世界のものに近かったようで、これはカナリーたち神々の指示によるものではないようだ。図らずも合致したのであろう。

 ただ、その構造は今よりもデザイン重視で、建築の効率性といったものを無視したようだと少し思う。

 これはきっと、魔力から無尽蔵に建材が生成できた故の方向性の進化だろう。今の世界では、その部分は効率的に矯正されている。


 そんな景色に、しみじみと浸っている余裕は無い。

 今もそんな家から飛んでくるように、多種多様な魔法攻撃がルシファーを襲う。それを避けながら周囲の魔力を浸食し、次に向かわなければならない。


 そうやって、僕らが名残惜しさを振り払いながらこの場を離れようとすると、エーテルの声も見逃さず僕らを追従してきた。


「やりますね。半端な魔法では、いくら撃っても傷一つ付きませんか」

「《当然だね。そろそろ諦めてくれたかな?》」

「何をおっしゃいます、マスター。それならば、半端ではない攻撃に切り替えれば良いだけのこと」

「《言っても、今使ってるのが最大級でしょ。もう手詰まりじゃないかね》」


 僕がそう挑発するように語ると、エーテルも対抗するように声音を弾ませて、『ふふんっ』、と鼻で笑う。非常に人間らしい。

 まだ、手はあると言いたげであった。


「最近のアップデート、ご存じないのですかマスター。レイドボスに対抗するための、多人数で行う儀式魔法を」

「《……あー、最近、ゲームから離れてるしね。それに僕、今のパーティでしかやらないし》」

「マスターもソロ専だったのですね。親近感をおぼえます」

「《パーティプレイって言ったよね!?》」

「それはさておき」


 さておかれてしまった。会話を重ねるごとに人間味を増して行くエーテルには良い兆候を感じるが、その内容は物騒そうだ。

 何かまだ、攻撃力を上げる方法があるらしい。


「発動する人数が多ければ多いほど、その威力を増す儀式魔法。私は一人ですが、疑似的に複数人を担当することなど造作もありません」

「《まあ、AIの強みだよね》」

「はい。そしてそれを、この塔全体を使って行えば、どうなると思います?」

「《それはまた……》」


 それは、大変なことになりそうだ。

 そんな威力、きっとこの周囲の建物にも被害が出るだろう。エーテルにとってはどうでもいいかも知れないが、アイリのためにも、断固阻止しようと、僕は慎重にエーテルの出方を見るのだった。

※誤字修正を行いました。「使える」→「仕える」。

 魔法を使える、とも読めなくもない場面だったので妙に複雑になっておりました。

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