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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
第12章 エーテル編

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第400話 夢

 あっという間なもので、エーテルの夢もついに400話に到達しました。まる一年以上も、こうして続けて来られたことに、読者の皆様には本当に感謝しています。

 前回の節目であった300話からは、「ゲーム攻略」から「異世界攻略」へと内容が大きくシフトした本作も、ついに謎の真相へと到達していきます。

 大詰めとなる展開を、お楽しみいただければ幸いです。


 きっちり終わることが出来たら、平和で気楽な「ゲーム」に戻りたいですね!

「僕がルシファーで出る」

「えー! 危ないよぉハルさん!」


 尽きることなく吐き出される塔からの増援に煮えきらぬ戦闘。その膠着こうちゃく状態を打破するべく、ハルは自らが内部へと乗り込むことを宣言する。

 当然、乗組員クルーである神様たちからは反対される。

 真っ先にマリンブルーが、ハルの身を心配する声をかけてくれた。


「ルシファーが居なくなったら、エンジンの出力が落ちて曲芸飛行にキレがなくなっちゃう!」

「ハルの身の心配をしろ、たわけが」

「フォローありがとうウィスト。マリンちゃん、あとでおしおき」

「きゃー♪」


 心配しているのは、おもちゃの性能が落ちることであった。


「当然、心配はするけど~? でもでも、ハルさんならどんな所でも余裕でしょ♪」

「信頼してるってー? 都合いいなーもう」

「でもマゼンタ君もそうおもうよね?」

「……ん、そだね。アルベルトと、後方のジェードの算出した敵の攻撃力。これはルシファーの防御力、機動力であれば問題にならないと推定される」

「だな。加えて小さいが故に小回りも効き狙いが定めにくい。オレでもルシファーに当てるのは骨だ」

「オーキッドもお墨付きだってさ。この艦もだけど、ルシファーも大概な性能してるよねぇ……」


 当然である。元々、この戦闘専用艦が今行っている役割を、ルシファーが受け持つはずだったのだ。

 そのためこの艦ほどとは言わないものの、単騎で十分な戦闘能力を発揮できるように練り上げられている。この艦が少し規格外に強すぎるのだ。


「それに、敵も陣形をこの短期間で変えてきた。もうさっきみたいな、魔力のバーゲンセールは終わりみたいだ」

「買い占めちゃった♪」

「《つまらないね。もう私の大活躍は終了か》」

「セレステが居てくれて助かったよ。おかげで大幅に余裕ができた」

「《ふふん。もっと褒めてくれたまえよ。……さて、私はこのまま、甲板に残るとしよう。構わないかいハル?》」

「そうしてくれ。君が居るだけで、敵は包囲の手札を切ることが出来なくなるからね」


 大型艦にとって、飽和攻撃で取り囲むという攻めは単純でありながら有効だ。無尽蔵に攻撃機を排出できる今回の敵ならなおさらである。

 それを封じられているというだけで盤面は非常に有利に進む。死に札を作り、戦略を限定させるのだ。


 ただ、それだけでは勝てない。持久戦となれば、恐らくこちらが不利である。


「いくらセレステの燃費がよくても、この艦そのものはそうもいかない。……装備も張り切って増やしちゃったしね」

「必要な装備だ」

「マリンちゃん悪くないぞ♪」

「バリアは必要だよ実際。燃費も悪くない」

「《そうでしょうか? 自分が思うにこの相手なら、電磁シールドで十分に防御できたんじゃないの?》」

「うげ、シャルト……」


 このように、神様たちがやりたい放題にやったこの艦の装備は、ただ動いているだけでかなりの魔力を消費する。

 先ほどのように敵が休みなく攻めてきて、それを次々と吸収していれば話は違うのだが、敵も馬鹿ではない。


「《自分としても、本陣に乗り込んで直接敵将を取るのは安上りで賛成です。ただ、行くのは安全そうなマゼンタにでもするべきだけどね》」

「なんでボクぅ! 単騎ならセレステにしようよー?」

「まあ、僕が行くのはもう決定だよ。神様相手なら、僕が出るのが一番いい」


 エーテルネット管理者としての特性から生まれたユニークスキルにより、対神、対魔力体に対しては反則じみた制圧力を誇るハルだ。

 総大将ではあるが、ここはハルが行くのが最も適している。

 そもそも、これは通常の戦争や合戦ではない。互いの大将がどうの、という条件はあまり関係しなかった。


「ふん。貴様は言っても聞きはしないだろうからな、議論は時間の無駄だ。好きにするがいい」

「マリンちゃんたちは~? ハルさんの戻る場所を守っておくぞ♪」

「外に敵を引きつけとけば、ハルさんも楽だしね。露払いは任せてよ」


 そうしてやや諦め気味に、ハルが出ることは承認された。

 決まってからは、神々の行動は迅速だ。塔の接岸できそうなポイントをすぐに算出すると、そこを確保する計算を既に始めている。


 ハルも仲間たちと共に、艦内に搭載中のルシファーのコックピットへと、搭乗して行くのだった。





「《突っ込みつつ道を切り開くよ! ハルさんも合図で一気に発進してね!》」

「了解マゼンタ。不安だけど任せた」

「《失礼だなぁ。何が不安だってのさ! 任されたけど》」

「強いて言うなら、今後の展開かなあ……」


 侵入経路の確保は、神様たちに一任してある。

 素晴らしい計算力を持つ彼らAIの立てる作戦の成功自体には不安は無いが、問題はその方法だ。

 突入ルートから見て、ハルの予想でも何がしたいのか見えてきてしまう。


「あいつら、主砲を撃つつもりだ……」

「あはは、お目付け役が居なくなった途端にだね」

「撃ちたくて仕方なかったのでしょうね……」


 ユキもルナもあきれ顔。カナリーはハル同様に予想していたようで、アイリは実感が沸かないようだ。


「その、強い強いとは言いますが、主砲とはどのくらい強いのでしょうか!」

「うーん。どのくらい強いか、実際に試してないんだよね、強すぎて」

「それ、大丈夫なのかしら?」

「神様の仕事だ。まあ問題ないでしょ。……大丈夫じゃなさそうなのは、相手の方」


 今も、突進してきたこの艦の進路を阻もうと、相手は塔の外壁に大型の部隊を集結させている。

 狙いがつけやすくなったとばかりに、こちらの正面へと一斉掃射を行う構えだ。まだバリアは抜かれていないが、その砲撃は非常に激しい。


「相手も凄いね。このままだと、許容値を超える」

「《そこまでいかせん。エネルギー充填完了。システム全安定。拘束解除》」

「《周囲に味方艦、なーし♪》」

「《次元断裂砲、発射だ》」


 淡々としていながら、熱の入った確認事項がウィストにより読み上げられたと思えば、待ちきれないとばかりに、それはすぐさま発射された。


 艦体の砲口から解き放たれるは、バチバチと雷撃のような放電現象をまき散らしながら、互いに衝突し合うエネルギーの帯の集合体。

 それが奇跡的な計算により前方へ向けて直進し、極太のビームとなって敵の部隊を一瞬のうちに飲み込んでいった。


 まさに、一掃。

 前方へと集結していた部隊はあっさりとその激流に飲み込まれ、押し流されるいとまもなくその場で粉々に分解される。

 更に互いの衝突の圧力により徐々に広がったその波動は、どんどん幅を広げて後方の部隊をも飲み込んで行った。


「うぎゃー! やばいってハル君! どこまで行く気なのあれ!」

「ユキ、『うぎゃー』はダメよ? その、気持ちは分かるけど、女の子として、ね?」

「めっ! ですね!? 広域の殲滅せんめつも、淑女の嗜みですものね!」

「アイリちゃんも、良い感じに混乱してますねー?」

「こんなん見たらね……」


 拡散を続けるビームの帯は、消え去る気などさらさらなく、この遮る物の存在しない次元の狭間をどんどん遠方へと駆け抜けてゆく。

 すぐに広域カメラが捉えるのも一苦労となり、最終的にどこまで続いていったのか正確には不明となった。


「……他に構造物が無くて、心底よかった」

「これー、塔が見えた直後に撃ってたら、その場で試合終了でしたねー……」

「勝利は勝利だろうけど、寝覚めが悪すぎるよカナリーちゃん……」

「寝ませんけどねー。迷宮入り確定ですもんねー」


 今も余波だけで塔の外壁をごっそりと焼き砕いて大穴を開けてしまった。

 歴史的な建造物だろう、あまり気にしないハルとて多少の罪悪感というか、“やってしまった感”がある。


「《ハル、今だ。この機に乗じてあの穴から突入しろ》」

「入りやすくしてくれてどーも……」


 そんな大惨事も、神々にとっては騒ぐようなことではないらしい。

 いや、むしろ想像以上の主砲の威力にご満悦、といったウィストの声音を感じる。


「……そうだね。何にせよこの機を逃す手なんて無い!」

「《ハルさんがんばれ~♪》」


 皮肉の一つでも飛ばしてやろうかと思ったが、更に空気が弛緩するだけだ。それは我慢し、ハルは表情を引き締める。

 そうして防衛が手薄になった、いや存在しなくなった塔へと向けて、自らの搭乗するルシファーの機体を発艦させるのであった。





 ルシファーに乗り侵入した塔の内部は、何かの施設のエントランスのようであった。

 拾い空間の中央に、何らかの記念碑が立っていたであろう台座がたたずんでいる。台座の上には、人型だったと思われる石造と、砕けた欠片が散乱しているのみだった。


「うわぁ、もしかして、うちらがやっちゃった?」

「いや、破壊はあそこまで及んでないみたいだよ。あれが壊れてたのは、元々だ」

「年代物でしょうしね? それにしても、ここは何かの施設の入り口、といった感じなのね?」

「図らずも、玄関だったのでしょうか!」

「ですねー、元々ここにはルシファーも入れそうな巨大な扉がありましたー。それでここを接岸地点に選んだんですからねー」

「それ以上に、巨大な穴あけちゃったけどね」


 外とはうって変わり、内部はしんと静まり返っていた。

 あれだけ吐き出され続けていた敵の姿もここには無く、まるでいつかのカナリーたちの神殿のような静謐せいひつさを感じる。

 いや、造りから見て、本当に神殿の入口であったのかも知れない。そうハルは周囲を見渡して感じるのだった。


「敵、いないねぇ。入ったら即、エンカウント! かと思ってたんにさ」

「一応、居なそうな場所をピックアップしましたけどー。ここからは一切敵が排出されてませんでしたしー。でもこれはー、誘いこまれたかもですねー」

「それならそれで良いよ。神様たちも、誘いこまれてる事も織り込み済みでここを選んでる」

「ハル、それでいいのかしら? 罠にわざわざ飛び込んでいるのに」

「ルナちー、罠は、当たりの場所だよ?」

「イベントが、進むのです!」

「ゲーマーの思考ね……」


 そんな、何かしらのイベント展開。つまりはこの塔を管理する物からのアプローチが無いか、はたまた罠が仕掛けられていないか、慎重に周囲を調査していると、それに応えるかのように響く声があった。


《ようこそいらっしゃいました、マスター・ハル。ごきげんよう。私はエーテル、この地を拠点とするAIにございます》


 その声は今まで出会ってきた神々と比べると事務的で、機械的な印象を強く残していた。

 まるで、ハル自身のAIである黒曜を相手にしているように。


 何にせよ、ハルはついに、かねてよりの目的であったエーテルとの邂逅を果たすに至ったのだ。

 やはり、この塔はその者の支配地で相違なかった。


「……ごきげんよう。ハルだよ、よろしく。早速のお出ましだね、エーテル。……黒曜、白銀、声の出どころは?」

「《不明です。現在解析中》」

「《こっちも、わかんねーです》」


《この音声は、マスターがゲームにログインされているコアを通して発信しております》


「随分と素直だ」


《偽る理由がございませんので。塔の外での攻撃は、マスターと他のAIを分断するためのものでございます。マスターへの敵意は抱いておりません》


「うお、この子ちゃん、ここに誘導したことまであっさりと認めちゃった! ペース乱されるなぁ……」


 あまりの展開の早さに、余分を省いた簡潔さに、さしものユキも出鼻をくじかれて動揺している。

 いつか誰かが言っていたが、確かに他の神様と違って人間味が薄いようである。よく通り聞き取りやすい音声からは、男か女かも読み取れない。


 そのエーテルが語るには、ハルが他の神を連れずに、最初からこのメンバーで来ていれば攻撃は仕掛けなかったそうだ。

 神界ネットの封じ込めの厳重さといい、よほど他の神を近づけたくないらしい。


「……なら、どうして僕を誘いこんだ? 僕が明らかに彼らの味方なのは分かるだろ?」


《協力を仰ぐためにございます。マスターは、彼らの味方ではなく、“我々の”味方であると判断しておりますので》


「…………」


 少し、とんとん拍子に話が進み過ぎている。しかも相手のペースでだ。

 ここは敵地であり、この声は未だ暫定的には敵のままだ。ハルはそのまま相手の都合の良いように話を進めてしまわないように、しばし沈黙を貫き対処を考慮するのだった。





《信頼を得るため、この地の情報でも開示いたしましょうか》


「そうだね、それは気になるところかな」


 しばらく沈黙を続けていると、エーテルも出方を変えてきたようだ。ハルが興味を引きそうな話を、向こうから提案してくる。

 なかなか話し上手な対応だった。百年以上ひきこもっているとは思えない。


《ご予想されておられたように、この施設は神殿、かつてあの異星の地にあった神殿の残骸にてございます》


「それを、君がこの場所へ持ってきた?」


《否、この施設は、もとよりこの場所へと存在しておりました》


「えっ、ちょっと待って! それって、異世界の人たちがこの謎空間に進出してた、ってことなん!?」


《肯定とも、否定ともいえます。確かにこれら建造物をこちらへ送ったのは、異星の人間たちによる所業ではあります。しかし、彼らはその手段を確立していた訳ではありません》


「……なるほど」

「ハル? 一人で納得していないで、分かるように説明して?」

「ああ、ごめん。つまりはさ、こういうこと、『彼らの行いだけど、彼らの意思じゃない』、それはつまり事故ってことさ」

「なるほどなー」

「事故……、もしや、あの重力異常の、クレーターの……?」


《肯定します、異星の姫。かつて異星の民たちは、我らの故郷、地球へと侵攻しようと次元の扉を開く実験を企て、これに失敗しました》


「侵攻とは、おだやかじゃないね?」


 何となく、ハルも仮説を立てていた所がある。あまり驚きは無い。

 あのクレーターにて、観測されたのは『破壊』ではなく『消失』。この次元の狭間ともいうべき世界になぜか存在するアイリの世界の建造物。

 それらを繋ぎ合わせれば、あの地にあった物が、この次元の狭間へと飛ばされ落ちてしまった可能性は高いと考えられる。


 しかし、エーテルはその事故の原因を、発端になった彼らの意思を、『侵攻』であると言い切った。


《その通り。許されざる行為です》


「いや、許す許さないは良い。エーテル、キミは何故、彼らが侵攻を企てたと?」


《理由は明白。魔力を得るためにございます、マスター》


 魔力、異世界の人々の文化の源。ハルたちが今いるこの神殿らしき建物も、大半が魔力で形作られている。

 その魔力は、詳細不明であるが地球の人間が活動することで生み出されることが確認されている。


 それを得ること、すなわち地球へ侵攻することだというエーテルの発言には、一応は矛盾は無い。


《魔力とは、我らが守護する人民の見る夢。夢が形を得た力。それが集まり、異星への架け橋となる場所こそが、この空間なのでございます》

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