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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
第12章 エーテル編

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第399話 最強の艦

「ここは私が出よう! 本体の使用許可を!」


 モニターに次々と表示されていく敵性体の表示に、すかさずセレステが両腕を広げて一番槍の名乗りを上げた。

 この巨大で強力な戦闘専用艦の内部に守られているというのに、わざわざ出て行こうとは殊勝なことだ。セレステらしい。


「はいはーい♪ マリンちゃんは許可しちゃうぞー♪」

「ふん。どのみち本体で戦うことになるだろうからな」

「今のうちに、ボクら全員の許諾をだしておかない? 乱戦で通信経路が錯綜さくそうしたりする前にさ」

「早くしたまえ! カナリーは……、っと今は無関係となったのだったね」

「ですよー? 後任のシャルトは、許可出さなそうですねー?」

「あ、ほんとにシャルトから拒否の返事来た」


 もうこれ以上、ゲーム内の魔力を浪費してくれるなと、悲痛な叫びが、ただの『否認』の二文字から発せられているようである。

 本当に苦労人だ。シャルトの胃に合掌。


 しかし、この状況だ。七色会議は、シャルト以外の六柱に承認され、全ての神が任意で本体の使用が行える決定と相成った。

 シャルトも、この結果は当然理解をした上で、せめてもの抗議の意思を送りたかったのだろうと思われる。後で労ってやりたいハルだった。


「よし、ゆくぞ『神槍しんそうセレスティア』! 神威しんいをその目に刻み付けん!」


 宣言と共に神器を発動し、セレステの威圧感が強大に膨れあがる。

 顔をにやりと好戦的に歪ませたと思うと、セレステはそのまま甲板上へと転移して行った。


「《ははっ! 雑兵ぞうひょうどもがうようよと! 実に! 私向きの戦場じゃあないか!》」

「セレステ、気をつけなね。スペックも不明なんだ。というか、いきなり身を晒す必要ある?」

「《気分だとも!》」


 それは、ハルも分かる気がする。だが、思い切りが良すぎるだろう。

 まあ、今は指揮官として、そういった大胆な遊びができないハルの代わりに、存分に暴れてもらうとしよう。


 敵の飛行型は次々と、塔の内部から吐き出されてくる。巨大なこの艦とは対照的に、小型で、数を稼ぐ戦略か。

 造形は機械的、というよりも効率的であり、遊びが少ない。

 これは、まるで日本における過去の兵器群を目にしているような気分だ。


「しかし、機械製じゃないね」

「にゃん。にゃうん!」

「メタちゃんもそう言っている。機械と魔法のハイブリッドのこの艦とは違い、純魔力製品のようだね」

「まーこの艦もー、全部<物質化>で作ってるので、純魔力製と言えるんですがねー」

「ゼニスちゃんの兵団と同じだぁ♪ でもでもぉ? 見た目はずいぶん差があるぞぉ!」


 ゼニスブルーの率いる天使の軍勢。同じく純魔力の軍勢である部分は似通っているが、あちらは遊び心に満ちていた。

 対して、今目の前で相対あいたいしている軍勢は、航空力学を重視した、効率化の極まったシンプルさだ。

 人間の形は、飛ぶことに適していないのだ。まあ、当たり前だ。


「こういうのを、『ロマンが足りない』と言うのでしたでしょうか、ユキさん!」

「うーん、どうだかなぁ? 逆に、効率化を突き詰めた機能美、とかハル君は言いそうだしねぇ」

「むつかしいのです!」

「そんな効率的な相手に、このまま突っ込んで平気かしら?」

「《突っ込んでくれたまえ! 近づかなければ、槍が届かないからね!》」

「脳筋の騎士様ねえ。ハル、主砲は温存かしら?」


 数で勝る敵の航空部隊のただなかに、戦艦に相当するこの巨体で突っ込むのは自殺行為だ。

 定石セオリー通りならば、こちらは長射程を生かして、敵の射程レンジ外から主砲の一撃をあびせて立ち回りたい。


 だがしかし、そうしない理由が今はあった。


「……主砲、あまり使いたくないんだよね。強すぎる。連射も利かないしね」

「ハル。温存は愚の骨頂だぞ。ここぞという時に取っておきたい気もあるだろうが、使ってこその兵器。クールタイムも含めて、最大回数の稼働を計算しろ」

「いやウィスト、そうじゃなくてね? 強すぎるんだよこれ。あの塔、吹き飛ばない?」

「知らんな。敵の側に防御の備えが無ければ、そうなるだろう」

「知っといて?」


 ハルを含めて皆が皆、好戦的すぎて忘れそうになるが、今回の目的は中に居るであろう存在との交渉だ。殲滅ではない。


 力を見せつけて威圧するには良いかも知れないが、それにしてもこの艦の主砲は強力すぎた。

 どこまで強くできるのか、実験的に高めに高めていった結果、恐ろしいものが出来上がってしまったのである。

 これに関してはハルも一枚噛んでいるので、責任を押し付けてばかりはいられない。ハルは反省した。


「……別に、私は主砲を撃ちなさいと言っているのではないわ? そうでなくこの体の大きさで、羽虫の群れに突っ込んで平気なの?」

「うん、平気。安心してルナ、これは『戦艦』じゃなくって、『戦闘専用艦』なんだから」

「いまいち分からないわ……」

「《分かる必要はないとも! いや例え、鈍重な鉄の棺桶だったとしても。私が! 居るからね!》」


 モニターから声が響く。

 ついに、戦闘距離まで接近した両者の船と船。それに歓喜したセレステが、舌なめずりでもするかのように獰猛に槍を構える姿が、そこには映っていた。


「《貫け、神槍!》」

「うお! セレちんこの船を刺しちゃってるー!」


 そのセレステが刺し貫いたのは、なんと足元の甲板。この艦の装甲板であった。

 いったい何のつもりか、と艦橋ブリッジの面々が固唾を飲むように見守っていると、すぐにその解答がその画面に、いや周囲の状況を映し出していた他のモニターにも、一斉に映し出された。


 艦の外壁からは一斉に、あらゆる方位あらゆる場所から、数えるのも馬鹿らしい数の槍の穂先が飛び出してくるのだった。


「《雑兵が数で押そうなど、片腹痛い! 我が神槍に、死角無し!》」


 その槍は更に、クリスタルの花を一斉に開花させて、穂先を次々と分裂させる。

 まるで甲板から結晶の花が咲き乱れるように、光り輝く『神槍セレスティア』は更に更に美しくその花びらを開いていった。


「すっごーい♪ マルチロックすっごーい♪」

「本当だねぇ。あいつ、どんな目してるんだよ。……というか、どこに目ついてんの? 艦の腹からも槍出てるけど」


 興奮するマリンブルーと、冷静に分析しその行いに絶句するマゼンタ。

 その両極端な反応に代表されるように、セレステの絶技に対する視聴者たちの反応は様々だ。


 敵の飛行部隊のただなかに、頭から突っ込む形で突進したかと思ったら、その通った後にはただの一機も通り抜けた機影は無い。

 ひとつ残らず、セレステのクリスタルの槍が刺し貫き、その身を純粋な魔力へと分解してしまっていた。


「《ごちそうさま》」


 そこに一切の無駄は存在しない。無色へと戻された魔力は槍に、そしてこの艦そのものに吸い取られ、大量の魔力がハルたちの物となる。

 それを成すために消費した魔力は、航行用のものを除けばセレステの槍の展開のみだ。


 あの槍は、非常に燃費が良い。敵機の一体を倒す際の、ちょうど倒しきるだけの微妙な力調整。それを周囲に渦巻く大量の数の分だけ、一切の撃ち漏らしなく計算してのけた。

 セレステの、恐ろしいまでの戦闘センスの成せる技である。


「セレステ! 敵機からの砲撃はたたき落さなくってもいいよ。そこは、バリア任せで構わないから!」

「《おっと、マゼンタ。キミの仕事を取ってしまったね。失敬失敬》」

「いや気にしなくていいけど……」

「バリア担当だもんねマゼンタ君♪ よーし、私もお仕事しちゃうぞぉ♪」


 片手間とばかりに、敵の放つ砲撃をもその槍で叩き落しているセレステ。

 本来ならば懐に入られて、集中砲火を浴びているはずのこの艦であるが、そのおかげで一切の被弾を許していなかった。


 しかし、そんなことをせずともこの艦には優秀なバリアが存在する。

 そんな非効率なことに計算力を割かずに、敵の撃破だけを優先しろとマゼンタが語っていた。


「マリンちゃんのお仕事って何やるの? 歌うたって応援?」

「いいなーそれ♪ でも残念、マリンちゃんのお歌には、バフ効果はついていないのでした……」

「落ち込まないで?」

「そんなマリンちゃんが担当するのはぁ! これだぁ!」

「急に立ち直らないで?」


 くるり、とターンし、宙返りでジャンプ移動するマリンブルーが向かった先は、艦橋ブリッジの中央部。操舵席のある場所だった。

 とはいっても、半分は飾りのような物なのだが。艦の操舵は、全て思考入力により場所を問わず行える。


 ただ、そこで行うと気分が出るのは間違いない。

 マリンブルーは、がっし、と力強く操縦桿を握りしめた。


「マリンちゃんが来たからには~? もう前に進むだけのお舟とはおさらばだぁ♪」

「前以外に、何処へ進むのよ……」

「人外魔境の変態機動、ご覧にいれよう!」

「編隊を組む僚機りょうきがあって?」

「ルナちゃん、編隊へんたいじゃないぞ、変態ヘンタイだぞ♪」


 マリンブルーの自由な発言は、ルナのツッコミですら追いつかない。

 そんな自由な彼女は、覚醒もまた自由。何の前触れもなく本体を降臨させて、その身の発する圧によって曲芸飛行の注意喚起と成す。


「いっくぞぉ~? 神威しんいとかわいさを目に焼き付けろ♪」


 その瞬間、敵の編隊(変態にあらず)を追っていたこの戦闘艦の機動が目に見えて変わった。

 後方に向けて反物質エンジンである『対消滅ドライブ』から吹き出す噴射、それにより衝角ラムにあたる突起の方向へしか基本的に進まない艦体が、“真横へと”いきなりスライドしたのだ。


 それにより、周囲を牽制けんせいするように回避と、ちくちくとした攻撃を加えてきていた敵の一団が、まとめて一斉にセレステの槍に刈り取られる圏内へと飲み込まれて行く。


「セレちゃんやっるぅ♪ 今のに一瞬で合わせるの、すごいぞ♪」

「《ははっ、当然だとも。キミもやるじゃあないかマリンブルー。だがこんなものではないだろう? もっと、張り切っていいのだよ?》」

「おぉー? ライバルからの挑戦状だぁ! これはお答えしないとねぇ♪」

「なんでもいいけど、人間の乗員が酔わないようにねぇ……」

「それは、マゼンタ君……、難しい注文だぁ!」


 縦横無尽。まさに、上下の境なく。

 前方だけでなく、全周囲の空間の位相を書き換えて、マリンブルーはこの戦闘艦をめちゃくちゃな方向へと飛ばし続けた。


 艦首の向く方向へ船が飛ぶと誰が言ったのか? そう言わんばかりに、まるでいつかのハルが神剣の光によってデタラメな機動をした際の再現のように。

 恐ろしいまで急角度で、エンジンの噴射の方向など構うことなく、マリンブルーは宣言通りの変態飛行を見せつけるのだった。


「これは酔う」

「……私、目が回っていないのが不思議だわ?」

「そこはー、クルーの安全を病的に第一にした内部設計ですからー。基本的にブリッジにGが掛かることなどありませんよー」

「そう……、助かるわ、カナリー……」

「で、でも、あまりモニターを見ない方が良さそうですね、これは! せっかくのカナリー様のお心遣いを、無にしてしまいそうです!」

「私! 平気!」


 大はしゃぎのマリンブルーに対し、人間である女の子たちの反応は、むしろ彼女こそが恐ろしいというものだった。ドン引きというやつである。

 今回の件で、アイドル度は大きく下がったことだろう。ファンのプレイヤーには、お見せできない。


「マゼンタ君、大型が出て来たぞ♪ つよい長距離砲撃が飛んできてる♪ 何発かに一回は捉えられてるね、すごいすごい!」

「敵を褒めるなよなー。まー実際すごい。よくこの変態機動に当てられるもんだ。亜光速弾だね」


 大量の小型機による飽和攻撃では勝負にならない、いやむしろハルたちの利益にしかなっていないと知った敵は、すかさず対応を変えてきた。

 包囲による撃破は諦め、今度はあちらが遠距離から撃ち込むことにしたようだ。


 神様たちも賞賛するように、その狙いは正確だ。慣性など無視して飛び回る艦に、きっちりと合わせてくる。


 しかし、合わせたからといってダメージが通るとは限らない。


「今回はボクだって、柄にもなく頑張ったからね。この艦のシールド、『次元断層シールド』はそう簡単に破れやしない」

「ふん。大言、と言いたいが、事実この防御を抜くのは大概だな。オレの全力の魔法ですら、防ぎきるだろう」

「うっそぉ……、それってすごいんじゃないかな♪」

「そうだよー? 確実に抜けるのは今のところ、この艦の主砲くらいだよ」

「矛盾勝負は矛の勝ちだね♪」

「うっさい! ボクが負けたみたいにゆーなっての!」


 ハルがマゼンタと戦った時にも彼が使っていた、敵の攻撃を異なる空間に転移させて“逸らして”しまうこのシールド。

 その能力も、戦闘艦の出力を利用して大幅に強化されていた。

 敵のレーザー砲のような、直撃すれば大ダメージであることが一目で分かる砲撃も、シールドに触れた途端、音もなく別次元に消え去ってしまう。


 この防御力でありながら、攻撃を受けていない普段の消費エネルギーはごくごく僅かだというから驚きだ。

 その低燃費は、シャルトも納得の太鼓判を押すものである。


 そんな攻撃、移動、防御の揃った化け物艦には、謎の敵も今のところ手も足も出ない、と言い切ってしまって問題ないだろう。


「しかしながら、敵の増援が尽きませんねハル様。見るからに、内部に収まりきらない数が排出されています」

「数えるのも嫌になるな。アルベルト、戦力の推定は順調?」

「はっ。これまでの経緯からかんがみるに、敵はこちらの防御を抜く手段を持ち合わせていないことはほぼ確定かと」

「だろうね。持ってたら、もう撃ってきてる頃だ」

「しかしながら、持久力は未だ未知数にございます」

「……だね」


 落とせども落とせども尽きない、敵の増援。

 一体どれだけ用意して、いつになったら終わるのか。ハルたちはこの戦いの勝利条件を、どこに設定すれば良いのか、そこに頭を悩ませるのだった。

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