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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
第12章 エーテル編

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第398話 最果てにそびえる塔

 いいね機能というのが実装されたので、設定しておきました。すでにいいねを頂き、感謝にたえません。

 どんどん「いいね」してもらえれば嬉しいです。

「よし、終わりが見えた!」

「ハル、出口の方向は?」

「後ろ以外、全方位! これ、本来ならもう外に出てる位置だ!」

「この神界ネット自体がー、うにょーんって伸びて逃がさないようにしてますねー?」

「動いてるのは空間じゃなくて『サーバー』そのものってこと!?」

「こわいですー!」


 まるでスライム型のモンスターが触手を伸ばすかのように、その“体内”から逃れ出ようとするハルたちの船を何とか逃がさんとするように、このネットを形成する魔力そのものが変形し、なんとか押しとどめていた。

 その魔力も、無限ではない。いよいよ加速を続ける星の船に追いつかなくなり、今まさにその体内からの脱出を許そうとしていた。


「……私にも見えたわ。色の変化の無い景色が、この先に広がっている!」

「よっしゃ! いっけーハル君、かっとばせー!」

「全速前進なのです!」

「まだ隠し兵器があるんですかー?」

「ないよ! ただ、そうだね。最後に、相手のこの悪あがきを、終わらせてやる!」


 ハルは『天之星あめのほし』に搭載された、攻撃魔法の発射機構に意識を飛ばす。

 艦体の表面に描かれた紋章のようなエネルギーライン。そこから、外部へ向けて光り輝く魔法の煌めきが一斉に発射された。


「おおー、進行を邪魔する圧力が消えましたねー」

「中和した!」

「この短期間で解析したのね……」

「流石はハルさんなのです!」

「つまりチャンスだ!? いっけー!」


 それぞれタイプの違う皆の反応、その激励に後押しされるように、艦は一気に最後の関門を突破する。

 どんどんこちらへの対処が追いつかなくなってゆき、薄くなっていく七色の世界。

 ついには艦はその触手の先端から抜け出ると、この次元の狭間、その本来の空間へと、その身を躍らせるのだった。


「いよっしゃあ!」

「やりましたね、ユキさん!」

「やったねアイリちゃん! いえーい」


 突破の喜びにハイタッチを、そのままでは背丈が違い過ぎるので、思い切りユキがかがみこんでハイタッチする微笑ましい様子を横目に眺めつつ、ハルは油断なくモニターに目を走らせる。


「……追ってくる様子は、無さそうね?」

「よっし! ……うん。最後までこの艦を包んでいた触手部分も、撤退して行くようだ」

「無理なことは、無理だからしないー。この対応はAIのそれですねー」

「そうだね。まあ、『最後まであきらめない!』、って、感情入ってたようにも見えたけど」

「それはそれですー、神は、感情を引きずりませんー」


 そこは、ハルも似た部分があった。思考が分かれている関係で、激情に駆られている間でも頭の一部が常に冷静だ。現状のように。


 その、撤退を始めた空間の様子を後部モニターでハルたちは観察する。


「……ねえハル君?」

「なにかな?」


 その映像を見て、今までアイリとはしゃいでいたユキも、さすがに一気に絶句して静かになってしまった。

 それだけの内容が、そこには表示されている。


「でっか」

「そうだね……」

「でかすぎね? あれ、全部魔力なのでしょう? あれだけの魔力量が、神界ネットには使われていたの?」

「私も初耳ですー。これ、ゲーム内の魔力全てかき集めても、これだけの量にはなりませんよー?」

「横領か!」

「いえー、正直に申告する義務とか無いんですが。ですが、疑問が残りますねー?」


 神界ネットが制定されたのは、ごく初期の頃。その時は惑星中で魔力が枯渇しており、これだけのリソースを捻出する余裕があったとは到底思えない。

 画面一杯に、収まりきらずに広がる、今まで通ってきた七色の空間に、さしものカナリーも首をかしげるばかりだった。


 その空間は、ハルたちをのがさんと伸ばしていた触手を、しゅるしゅる、といった様子で収納し、元の安定した球体状に戻って行っている。

 そのサイズは莫大で、基地を作れど作れど、果てに届かない訳だ。

 超高速で遠ざかっているはずの今でも、変化の感じられないそのサイズには距離感が狂うようだった。


「まあ、それはそれだよ」

「……切り替えが早いねユキは。うん、その通りだね」

「今は新世界への到達を、喜びましょう!」


 七色の宇宙を抜け出た先は、薄暗闇の宇宙。

 実際の宇宙のような暗黒と、それを照らす星の灯りは無く、ぼんやりとした明るさがこの世界の果てまで広がっている。

 見渡せど見渡せど何も存在しないのは、実際の宇宙と同じ。

 しかし、星の光の灯台も無いこの次元の狭間は、宇宙以上に先行きが見通せず不安になる世界であった。


 気を抜けば、先ほどの色鮮やかな世界が懐かしく感じてきてしまう。

 そんな、拠りどころのない気味の悪さを、このぼんやりとした世界は訴えかけてきているようだった。


「シールド外の大気は、先ほどまでと同じく謎エネルギーみたいですー。ただー、もう襲っては来ませんねー」

「先ほどは、“神界ねっと”の魔力を利用して、この力を操っていたのですね!」

「ですよー?」


 ネットの海を物理的に抜けて、無くなったのは魔力のみ。大気の代わりを果たしてこの世界に満ちるエネルギーは、健在であるようだ。

 しかしそれは静かなもの。もはやハルたちの航路の邪魔をすることなく、その場に揺蕩たゆたうのみである。


「ひとまず、十二分に神界ネットからは距離を稼いだ。ここらで、野戦キャンプといこうかね」

「おやつ休憩ですねー」

「別におやつもいいけれど……、あ、待ちなさいカナリー、もう……」

「いいよ、ルナも一緒に行っておいで。どうせ、この仕事出来るの僕だけだし」

「分かったわ。あの子のことは任せなさい?」

「頼んだ、ルナお母さん」

「お母さんじゃないわ、もう……」


 とてとてー、っと食堂へ走って行ってしまったカナリーを追い、ルナとユキもそちらへ移動した。ハルは、艦橋ブリッジに残り今後の準備だ。

 別に食堂でも作業は出来るのだが、この先の展開を考えると、やはりここである事が重要だろう。

 こちらへ初めて“出た先”が食堂では、締まらないというもの。


「他の神々をお迎えする、準備ですね! わたくし、お手伝いしちゃいますよ!」

「じゃあ、頼もうかなアイリ。魔力を放出して行くから、アイリからも後押ししてね」

「はい! ぐいーって、押し込むのです!」


 ぐいー、と両手で押し出すかわいらしいポーズと共に、ハルの体内から魔力が湧き出す感覚がある。

 そのアイリの手伝いのもと、ハルは<転移>の起点となる魔力をこの場に配置してゆくのであった。





「来たよーハルさん。一番乗り……、って、げげっ、もう居るし……」

「遅いねマゼンタ。そこのオーキッドを見習いたまえよ。開通したと知るや、真っ先に駆けつけていたぞ?」

「ふん。真っ先に居たのは貴様であろうにセレステ。オレが転移してきた時には、もう貴様の姿が見えていたぞ?」

「はいはい。二人とも更新ボタン連打して待ってたのね……」


 大人びたお姉さんのように振る舞いつつも、ついに最前線に立てることに興奮を隠しきれないセレステ。

 クールな研究者を装いつつも、新たな土地での戦闘艦の調整を待ちきれないウィスト。

 この二名は、<転移>用の経路パスが繋がったと察知するや、ハルが公式に連絡を入れる前に真っ先に飛んできた二人だった。微笑ましさがある。


 その二人に、呆れ顔を飛ばすマゼンタも、普段の怠けた態度の割には勤勉といえる。連絡のすぐ後にはこうしてやって来ている。


「マリーとジェード、裏方の解析担当は遅れそうだよハルさん。データを纏めてから来るってさ」

「ああ、ありがとうマゼンタ君。そっちの支援にも助けられたし、ちゃんとお礼言っとくよ」

「マリンブルーの奴はなんか準備する機材がーとか……」

「準備してきたぞ! きゃー♪ みんなはやーい♪ マリンちゃんも準備が無ければ、一番乗り目指したのにー!」

「……マリンちゃんもそういうタイプだったよね。準備って追加武装? ご苦労様」

「どーいたしまして♪」


 そして、艦内に組み込む新たな装置と共にやってきたのがいつものハイテンションに輪をかけてごきげんなマリンブルー。

 該当する施設に、ハルの魔力が満ちるのまでの間、タイムラグが出てしまったようだ。装備はそちらへ転送されている。

 この艦は非常に大きい。ハルと言えど、魔力を隅々まで満たすのは一苦労であった。


「もう、ネットへの影響を心配する必要もないからね! 私たち神様の全力を見るのは、これからだぁ♪」

「そうとも。もはや機械だけに限定して作る必要などない。魔法も、神力も、全開で利用して改造を施してくれよう」

「オーキッド、ノリノリすぎ~~」

「にゃうにゃう」

「そして、やっぱりいつの間にか居るメタちゃん……」


 さりげなく、既に艦内を我が物顔で闊歩かっぽする黒猫。いや、黒猫だけではない。バージョン違いの毛並みの違う猫たちも、視線を泳がせると続々と(そしてさりげなく)到着しているようだった。

 増え方ではアルベルトも負けてはいない。揃いの制服に身を包んだ、乗組員クルータイプの量産型アルベルト。彼らもまた寡黙に増殖し、仕事へと取り掛かっているようだった。


「あとはシャルトくんだね♪」

「あいつ、今回ほとんど見てないよね。どこで油売ってるんだか。ボクよりさぼってない?」

「……彼はね、今回の魔力の大量消費に、常時頭を抱えながら、なんとか節約できないか『節制』の神の本領発揮してるんだよマゼンタ君」

「あ、うん。ボク顔合わせないようにしよーっと。お小言が飛んできそうだ」


 お小言、というよりは愚痴になるだろう。

 ハルも、今回の騒動の裏ではひっきりなしに泣きついてくるシャルトからの愚痴の通信に、苦笑しつつ対処していた。

 神々は今回、皆自由過ぎる浪費ぶりであり、“家計”を預かる彼の苦労も今まで以上だ。


 この莫大な神界ネットの魔力が利用できるのならば、彼も少しは楽になるのだろうけれど。果たしてどうだろうか?


 そんな風に騒がしく、天を飾る星々である神々が、ついに神界外部への進出を果たしたのである。





「ハル、あれを見たまえよ」

「どれ? モノちゃん。この適当さんの通訳よろしく」

「うん。任せて、ね? 二時の方向、距離五万、人工物と思われる構造体を発見せり、だよ」

「うむっ! 私の視力にもっと頼ってくれていいんだよ、ハル!」

「まあ、実際セレステは頼りにしてるけど」


 彼女の鋭敏な感覚は、艦のセンサーとしても変わらず優秀だった。

 この何もしるべの無い世界で、すぐさま征くべき道を見つけ出す。


 彼女の視界を借りてその構造物を見据えると、それは縦に長い、塔のような形をしているようであった。


「……確かに、人工物っぽいな。セレステ、この地に神界以外の領域は?」

「無いさ、そんなもの。いや、正確には、この地の存在を知らなかった以上、またそのような領域も我らは知らないのだよ」

「そりゃそうだね」


 ハルたちは神界を経由することで、この次元の狭間の存在を正確に知覚した。

 朧気おぼろげに察しのついていた神様も中には居たが、正確にこの地の存在を把握していた者は居ない。

 唯一、神界ネットの製作者であるエーテル神以外は。


「よし、あの物体を、仮称『エーテルの塔』と呼称する。みんな今後の目的地は、エーテルの塔で構わないか?」


 乗艦した神々に、艦長として伺いをたてる。各部署から帰って来る返事は、おおむね了解を示すもの。

 一部は条件付きであり、装備の更新が済み次第、と注釈があった。何が起こるか分からない、準備は万全にしておくべきだろう。


「では、微速前進。半分まで距離を詰めたあたりで、艦体のアップデートが完成予定だ。その後は全速力で、エーテルの塔を目指す」

「復唱します! 微速前進なのです!」


 ハル艦長の隣に立つ、アイリ副官が元気に号令を飛ばす。神様たちもノリよく、了解の返事を返していた。

 モノから貰ったらしい、軍帽のような帽子をかぶってご機嫌だ。


「ごっこ気分で良いのかしら? 紛れもなく軍艦で、軍事行動よ?」

「ルナちー、まーじめさん! 逆に、どうよ? うちらが、きっちり堅苦しくやる姿ってのは」

「……想像が、できないわね」

「だよねー。へーきだって、身内しか居ないんだから」

「そういうと、荒くれもの揃いの海賊船に感じてきてしまうわ……」

「ははっ、じゃあ僕が、海賊の頭領だ」

「キャプテン・ハルなのです!」


 そうして和気あいあいと、戦闘専用艦は進む。

 装備の更新は神の力の本領発揮により驚くべき速度で進み、ただでさえ強力だった天之星は更なる力を授かった。


 そうして、仮称『エーテルの塔』までの距離は半分以上詰められ、その姿が正確に捉えられる距離になってきた。

 細部の様子が確認できるようになると、想像とは違った異様に、ハルは息を飲むことになった。


「セレステ、どうだ?」

「知らない意匠だ。いや正確には、今の世界ではもう見ることの無いデザインだ。……類似したものは、記憶に存在する」

「持って回った言い回しですねー? その言い方だと、大戦争以前の、過去の文化ですねー?」

「すると、わたくしの祖先の……」

「その通りだお姫様」


 優れた視覚を有するセレステに、詳細な解析を頼む。すると、塔の外壁を飾る“それら”のデザインは、アイリの星における過去の文明のものである事が判明した。


 それは、別に良い。あの塔の設計者が、そのデザインを気に入ったか、デザインが苦手なのでそれを参考にしたという話で終わる。

 しかし、塔の異様はどうにも、ただそれだけの話で済む様子には感じられなかった。


「あれは、パッチワーク、かしら?」

「むしろコラージュって感じー。ギリギリ芸術性を感じないことも、なくもない。あーいうダンジョン、あったよね」

「ユキの言うこと分かる気もするけど、ダンジョンだとすればあれは完全に悪役の住処だよ……」

「建物を、そのまま素材にして貼り付けているのでしょうか! なんだかおどろおどろしいですー……」


 そう、その塔の外壁は、元は街を構成していたであろう建物が、つぎはぎのように貼り付けられ、組み合わされて出来ていた。

 ある種、冒涜ぼうとく的なそれは、アイリの言うようにおどろおどろしい印象を受ける。


「そしてハル、悪い知らせだ。武装している」

「まあ、そうなるね」

「更にハル、悪い知らせだ。接近は察知されている」

「まあ、そうなるね」

「つまりー? 組み合わせるとどうなるのかな♪」

「問うまでも無いことだな。もうオレでも観測が出来る。迎撃機が塔内から次々と射出されている。……生体反応は無いな、無人機か」

「むしろあったら怖いっての! 誰さ乗ってるの!」


 恐らくはハルたちが追い求めた目的地。そこへの到達は、一筋縄ではいかないようだった。

 ハルたちが戦闘準備を固めたように、相手側も当然それをしてくる。自明の理だ。


「ちょうどいい。敵が居なくて困ってたところだ。これより交渉に移る」

「殴る気まんまんじゃんハル君……」

「いいことユキ? まずは交渉テーブルに相手を乗せないと、話が始まらないのよ?」

「力で引っ張り出して、強引に席に着かせるのです」

「このお嬢様たちこっわ!」


 そうして、推定エーテル神との初邂逅は、武力衝突からスタートしてしまうこととなった。

※誤字修正を行いました。

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