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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
第12章 エーテル編

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第395話 大きいほど良くそして強いほど良い

 モノの提案によって始まった戦闘専用艦の建造は、他の神々にも察知されることとなり、次々と参加者が増えていった。

 まあ、当然である。早々にドックに入りきらなくなった巨体が、一つのドックを取り壊して、その身をこれ見よがしに神界内部に晒していたのだから。


 神々各自の追加提案は留まるところを知らず、悪ノリに悪ノリを重ねた艦のサイズは、それ以降もどんどんと巨大化の一途を辿る一方であった。


 当初、建造ドックの空きが出来たからと始められたお遊びであるはずのこの計画。

 気付けば、まだ稼働中であったはずの他のドックや、資材射出用のカタパルト、資材生産用の<物質化>施設をも食いつぶし、完全に他の計画を圧迫する存在となり果てていた。


 おかげで、今は深次元基地の新規建造は一時お休み中だ。


「……これでどの部署からも文句が出ていないというのが恐ろしい」

「文句を言うべき担当者が、喜んで戦艦計画に参加中だからね♪」

「むしろ、自ら進んで担当施設を解体していってる、ね」

「何やってんだ神さま……」

「ハル様の搭乗する旗艦の生産でございます。他のすべてよりも、優先するのは当然でしょう」

「にゃうにゃう!」


 特にこの二人、計画の基幹を担当するアルベルトとメタが、嬉々としてこちらを優先してしまっているのが大きい。

 結果、メインの進捗しんちょくは遅れに遅れ、自分の担当する仕事が無くなった神様も、せっかくだからと、こちらに参加してくる始末だ。


 そしてハル自身も、久々のアイテム生産の作業ということで、少々本来の目的を忘れてしまったことも、また否めないのだった。

 やはり何かを作るというのは楽しいものである。


「ふみゃ、ふみゃみゃん」

「そうだねーメタにゃん♪ 最近は、行けども行けども終わりが見えなかったもんね♪」

「なにか、違うことに着手してみたくはなる、よね?」

「にゃー! なうん!」


 どれだけ進めど、色鮮やかなゼリービーンズをとろかしたような景色が続くばかり。辟易へきえきしてくる頃合いだった。

 まさか、神界ネットは無限に続くのではないか? そうした、焦りにも似た懸念が出てくる。


 遠大な作業に慣れたハルも、神様であっても、逃避したくなる気持ちも表れるというものだった。


「だが、これはやりすぎだろう。神界の余剰スペースが完全に埋まっているぞ」

「……そういうウィストだって、ノリノリで追加装備の申請出してたじゃん」

「……知らんな」


 そう渋い顔をして(彼はたいてい渋い顔だが)、肥大化に肥大化を重ねた艦を見上げるのはウィスト。

 魔法の神として、機械よりのモノの戦艦には興味の無い顔をしていたが、いざ計画に加わるとなると一転。『魔法と機械の融合も面白そうだな』、と楽しそうに作業に参加していた。

 普段はクールに取り繕ったその仏頂面も、時折楽しそうにほころんで見せることもあったくらいだ。


 それとも、普段は人に見せないだけで、大好きな研究をするときの彼はいつもこんな感じなのだろうか?


「そもそも魔導カタパルトの射出が無くなれば、オレのやることは無い。代わりにこちらに注力するのは、当然の帰結だ」

「えー? やることあるでしょオーキッドさぁ。外の連中から、魔法の更新申請いっぱい来てるよ? そっちは?」

「知らん。もともと趣味で作ったものをアップしているだけのものだ。オレの義務ではない」

「あ、じゃあやっぱりハルさんの戦艦手伝ったのも趣味で、楽しかったから……」

「やめろ」

「……そういうマゼンタ君は、あまり参加しなかったね」


 空中でその小さな体であぐらをかきながら、ウィストの視点まで浮遊して彼をからかうマゼンタ。

 サボれる絶好の言い訳になりそうなものだが、マゼンタはこの生産作業にはあまり参加しなかったようだ。


「だってさー、ボクって機械とはいちばん縁遠い感じだし?」

「ぼくの戦艦の神力砲を作るのは、手伝ってくれたけど、ね?」

「確かにマゼンタ君って生物タイプだしね。中の、医療施設の追加は助かるよ。必須の施設って感じだ」

「……必須なだけに、『趣味感が足りない』とか、『一人だけ真面目か』とか、言われちゃったけど」

「ふん。普段の行いだな」

「お前は普段と逆ではっちゃけすぎなんだよオーキッド! なんだよ『次元断裂砲』って!」

「自信作だ」

「ボケを重ねるなってば!」


 どうしてか、ツッコミ気質になってきている気がする最近のマゼンタだった。





「だが、そろそろ完成させねばな。いつまでも息抜きをしている訳にもいくまい」

「みんなの要求は、もう全部盛り込んだ、よ? あとは外壁を艤装ぎそうすれば、完成、だね」

「ふん。ようやく出航可能になるのだな」

「うん。盛大にやろう、処女航海、を」

「海でも星の海でもないけどね」


 次元の海、だろうか? 少々マーブル模様で緊張感に欠ける。


 そんな最終作業が、モノの指揮の下、各所に散った猫の群れ、メタと、量産型の作業員、まったく一律で同じ顔をしたアルベルトによって<物質化>されてゆく。

 宇宙船としての運用にも耐えるように、超多層構造の緩衝板を挟みこむように、まったく一分の隙間もない、完全な一枚板が外壁、そして内壁として生み出された。


 この巨体ながら、継ぎ目が一切存在しないという異様。その美しさすら感じる仕事に、ハルは一時いっとき、その目を奪われるのだった。


 ルシファーと同様に、白で統一されたその艦体に、青白い光のラインが輝き、全体の印象を青いイメージに染め上げている。


 杭のように尖った先端から、流線型を描きながら中央部へ向かい艦体は太くなっていく。

 艦橋ブリッジのある中央部から後ろになると、更に左右ブロックが追加され、シルエットは横に大きく広がる。

 そして、その後ろ側には巨大な噴射口が接続されて、艦は後ろへゆくほど末広がりの形状を見せているのだった。


「ほう。なかなか趣味の良い形ではないか」

「ウィストってこういうのが好きなの? ああいや、僕も好きだよこういうの」

「ふん……」

「ぼくも、趣味に走ったところはある、かな? でもね、一応は理にかなってる、んだ」

「そういえば、モノちゃんの乗る円盤状の戦艦とは、形がちがうね♪」

「あれは、正体不明の威圧感を演出するための、形状。あと、宇宙用も想定してたり、する」

「宇宙船だったのか、あれ……」

「まー、まんまUFOって感じの形だからねぇ」


 この、今まさに目の前で完成した戦闘専用艦も、SFに出てくる宇宙船といった感じだが、モノの円盤状の戦艦はより現実的な宇宙船だ。

 上下左右のくびきも、大気による摩擦も存在しない宇宙では、流線型のボディにする理由はあまり存在しない。

 だから丸形だったり、円盤状だったり、そうした全周囲タイプであることが効率的となるからだ。


「でも、この次元の狭間には、大気……、のようなものが存在する、からね」

「だから、流線型のボディなんだ?」

「かっこいい、でしょ」

「うん。いいセンスしてるよモノちゃん。神様がデザイン苦手なんて嘘みたい」

「えへへ、へ……」

「しかし、国には持ち帰れんな、これでは」

「いいじゃんオーキッド別にさ。もうモノの戦艦があるんだし、一つや二つ増えたって」

「たわけが。プレイヤーには一発でバレるだろうが、『SFイメージだ』とな」


 ウィストとマゼンタが言い争っているが、確かにこれは持ち帰れなさそうだ。少々それはハルも残念である。

 ただ、恐らくはルシファー以上のスペックを叩き出してしまうであろう“こんなもの”を外に出しても何なので、プレイヤーが居なくとも持ち帰りはしないだろうけれど。


「……まあ、言い争いは止めて、そのスペックを見て行こうか」

「うんうん、お楽しみ、だね?」

「みゃおん!」

「メタちゃんも大興奮の仕上がり、だよ」


 青白く輝く艦体ボディに重ね合わせるように、スペックを表示したARウィンドウが次々と展開される。

 この表示だけでも、ハルのような男の子のロマンを刺激する演出だ。恐らく、ウィストも仏頂面の裏でご満悦である。実はその辺、同類だと最近分かってきた。


「まずは主砲だな。艦の腹にあたる箇所に空いた大穴。そこが主砲である次元断裂砲、一門だ」

「ぼくの神力砲を、はるかに上回る威力、だね」

「くっそう、オーキッドめ、自分の仕事から自慢してー。……まあ、副砲はその神力砲だね。ここは、戦艦同様にボクも手伝った所だ」

「副砲は、戦艦の主砲でもある神力砲が六門。いちおう、出力自体は戦艦よりも落ちる、かな? 連射による牽制けんせい向き、だね?」

「主砲並みの威力で牽制とか、メタちゃんも大興奮が続行だぁ♪」

「ふみゃーご!」


 まずは戦闘艦の花形、主砲の紹介である。

 ブリッジの真下に位置した、艦体の大穴。そこから発射される主砲は、前方のあらゆる敵を粉砕する威力を発揮するだろう。


 しかし、その形状から取り回しはしづらく、尖った艦首の鼻先が向く方向にしか発射できない。

 そこは、全周囲に好きに狙いを定められる、モノの戦艦の主砲の取り回しに劣る部分であった。


 その欠点を補うのが、そのモノの主砲と同様の神力を発射する副砲六門である。

 艦の横に張り出た右舷左舷のブロックに取り付けられた副砲が、それぞれ対応した全方向へと狙いを定める。


 更に、対空火器として、小エネルギーによる魔法攻撃が艦体そのものから発射可能となっていた。

 艦を走る青い紋章、エネルギーラインの軌跡は、そのまま魔法の発射口となりありとあらゆる方向への攻撃が可能。

 これが、外壁を一枚の継ぎ目の無い板状にした理由の一つでもあった。


「……ぶっちゃけ、ボクこれに勝てないよ」

「単体では誰も勝てん。そのように作った」

「さらっと言うな! いや、わざと手抜きして作る理由は無いのは確かだけどさ、ハルさんの船なんだから……」

「……そもそも僕は、単体では神には負けないんだけどね」


 根本的な問題として、この砲撃で誰と戦うのか、という問題点を、趣味人たちはいまさら自覚するのであった。


「……ハル様、それに加えて、言い難いことなのですが」

「アルベルト、どうした?」

「この次元の狭間、いえ、神界ネットの存在する範囲内においては、次元断裂砲の使用はお控えください。その、壊れます、ネットが」

「……本当に、何のための装備なんだ、これ?」


 次元を切り裂き、別空間からエネルギーを取り出し放出する。

 そんな手段を、神界ネットの“サーバー”ともいえる空間内で行えば、そこにあるデータもズタズタになる。

 必要なのは、ネットを傷つけない優しく静かな装備だったのだろうか?


「まーまー♪ 強いに越したことはないって♪ 今度はマリンちゃんもお手伝いした、推進部のご紹介だぞぉ♪」

「うんうん。エンジンも重要、だね。目的は探索、だからね」

「まずはマリンちゃんのお得意の、牽引型の空間逆推進ドライブだぁ♪」

「アルベルト」

「はっ!」

「使用許可は?」

「不許可となります」

「がおーん! そんなぁ♪」


 なるべくネットのある空間に優しく。エンジンに求められるのも、その要件であった。


「あ、でもでもぉ? まだあるんだよぉ♪ 後ろに付いてる噴射口からは、勿論噴射式のバーストが発射されちゃうのだぁ♪ 安心だね♪」

「そりゃそーだね。飾りだったら詐欺だよ、あんなにいっぱい付けて」

「魔力放射を推進剤とした、一般的な機構ですね。問題は無いでしょう。しかし、モノの船と同様の、重力制御は付けなかったのですか?」

「ベルちゃんからのお許しキター♪ これで進めるね♪」

「進めない可能性あったんだ……」


 モノの船は、神力の制御により重力を自在に操り高速飛行する。

 しかしそれは、勝手知ったる通常空間においての話だ。この次元の狭間では、予期せぬ法則の違いにより、誤作動を起こす可能性がある。

 よって、同様の機構の搭載は見送りとなった。


「神力の制御は、ハルさんもまだ不慣れ、だしね? いちおう、後から増設も出来るように、エンジン回りは余裕をもって設計してある、よ」

「今後は、そのデータも取っていくとするか」

「オーキッドお前、すっかりこれがメインになってるのな……」

「にゃんにゃん♪」


 確かに楽しい。説明が難しいが、普通の遊びで言えば、オリジナルの造形を3Dで組み上げ、家庭用のエーテル形成器で立体出力するようなものだろうか。

 そこまで行かなくても、既製品のデータを買って出力して組み立てる感覚、でも良いだろうか。

 男の子の遊びである。いや、ユキもそうした物が好きなので、男子に限らないか。


「そんな訳で僕も、エンジンの作成には噛ませてもらったんだ」

「凄い、よね。ハルさんならでは、だった」

「後ろの噴射口のうち四基は、対消滅エンジンの専用射出用だ。これは完全に物理挙動だから、魔力で出来たネットを傷つける心配なく稼働できる」

「すごいすごーい♪」

「にゃんにゃん♪」

「まあ、開発は黒曜なんだけどね。何に使うつもりだったのやら」

「《お褒めに預かり恐縮です。ハル様の肉体を緊急時にお預かりした際に、その安全を守る手段をと、開発した次第です》」

「……反物質で?」

「《左様にございます》」


 ……AIたちの辞書には『過剰戦力』という言葉は無いのだろうか。常に全力である。


 そんなこんなで、盛り過ぎに盛った過剰戦力の塊として、ハルの戦闘専用艦は完成を迎えたのだ。


「じゃあ、次はバリアの紹介、だね」

「ねーねー、その前にさー?」

「マゼンタ、どうした、のかな?」

「この艦、どうやってこのエリアの外に出るの? その自慢の大出力エンジンふかしたら、神界の施設、ぜんぶ吹っ飛ばない?」

「…………」

「…………」

「……みんなで押して、外まで出そうか」


 ロマンを重視しすぎた結果、なんとも締まらない出航になったのも、何だかハルたちらしかった。

※誤字修正を行いました。「そんざい」→「存在」。

 変換漏れですね。あえて漢字を開いている場合も多いこの作品ですが、さすがに「そんざい」は間の抜けた感が漂ってしまいます。

 少しノリノリで書きすぎたでしょうか。


 追加で、「出向」を「出航」に。一応意味は通るのですが。そしてこのあとがき内の「感じ」を「漢字」に……やはりノリノリすぎたのかも?

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― 新着の感想 ―
[一言] ウィストは話し方で堅そうな印象持つけど実際は最初から最後まで自分の趣味全開で行動してるだけですからねぇ...
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