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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
第12章 エーテル編

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第394話 戦闘専用艦

 深次元基地の建造は着々と進み、神界の外側も着々と神々の探査範囲の中に組み込まれていった。

 基地と基地の間には物資を満載した次元船が飛び交って、まるで宇宙進出し大気圏外で繁栄した人類の交通網を目の当たりにしているようだった。

 SFの世界である。ファンタジーよさらば。


 七色に輝く銀河をあまたの船がゆく。最適化されたその運行は、見ているだけで飽きることがない。

 ハルは、しばらくその光景を、感慨深げに見守っていた。


「惜しむらくは、船にも基地にも誰一人として乗っていないってことかな」

「ハルは、そういうのが好きなんじゃない、のかな? ほら、街づくりに住人なんて居ない方が良い、だっけ?」

「モノちゃん。……そうだね、贅沢なものだ」

「ままならないんだ、ね?」

「ままならないねえ」


 そんな、万華鏡のように明るすぎる宇宙と宇宙船に見入っていると、その船の設計を一手に引き受けている、モノが話しかけてきた。

 透き通る白い肌に、吸い込まれるような黒い髪と瞳。ぼんやりとした表情の背の低い少女は、外では戦艦の艦長を務める意外さも持っている。


「船の設計は一通り終わった、から。ハルと遊びに来たんだ、よ?」

「いいよ、遊ぼうか。お疲れ様モノちゃん、大仕事だったよね」

「ぼく以外にはあまり、船を作るのに向いた神はいない、からね」

「マリンブルーは?」

「確かに向いてる方ではある、んだけど。マリンブルーは無駄に余計な機能をつけたがる、んだ」

「あー、それっぽい……」


 自身もアイドルであり、派手好きのマリンブルーだ。次元船にも、必要以上の派手な機能をつけたがるようである。

 今は、可能な限り機能を切り詰めて最小限にし、少しでも効率化を図ることを求められる段階フェーズである。そういったロマンは、資源的に許容できない。


「予算を計算したジェードが、渋い顔をしてた、よ。このままじゃゲーム運営にも支障が出るって、シャルトも言って、たね」

「基地どんどん作ってるからねー。最初の方の基地は、いっそ解体するか?」

「いいかも、ね? ここから出発して航続距離限界の基地までは、ある程度不要、かも」

「第三十基地くらいまでかな? いっそ、そこまでの運搬は、フェアリングに包んで魔導砲撃で飛ばして送るとか」

「いい、ね?」


 これが防衛目的の布陣であれば、本拠地の周囲の基地を取り壊すなどもっての他なのだが、目的は探索である。

 何もないと分かった近辺の空間は、もう探査不要なのだから解体して、魔力へと還元してもいいかも知れない。


「勝手に決めちゃダメなんだぞ♪」

「マリンブルー、来た、ね?」

「マリンちゃんもこんにちは。君もモノちゃんと一緒に遊びに来た?」

「ハルさん、こんにちは♪ 三人で週刊誌の表紙を飾ろう♪」

「ごめん、それなんの遊び?」


 あまりよろしくない遊びのようだ。極秘の作業中だ、スキャンダルはNGである。


「それはともかくー、近海の基地の解体は、まだダメだぞ♪」

「近海て。まあ、星の海って言うけどね、宇宙を」

「星、ない、ね?」

「かわりに空間にどろどろした色がいっぱいだぁ♪ それの、解析作業をマリーゴールドちゃんがやってるからね、待っててね♪」

「ああ、確かに」

「確かに、だね。範囲は広ければ広いほどいい、ね」


 この、次元の海を色づけている、万華鏡の光。色とりどりの美味しそうなソースでも溶け合わせたかのような混色は、神界ネットのデータ処理が生み出す化学変化らしかった。

 そのデータ収集は第一基地から全ての基地に搭載されており、解析が完了するまでは、その稼働を停止することは推奨されないようだ。


 逆に、その解析が終了してさえしまえば、神界ネットの全貌が明らかとなる。

 それは、今後進むべき道を照らし出す灯台としての役割をもち、基地建設の進展を大幅に効率化するはずだった。

 要は、不確実な未来への投資である。


「進捗率はどんなもん?」

「六割くらいだってー。マリンちゃんも手伝ってるんだけど、専門外だからね、わかんないや♪」

「マリンちゃんは何が専門なの?」

「海とアイドルだぞ♪」


 それも、ちょっと何を指しているのかよく分からないハルだった。





「それで、どうしよっかモノちゃん。ひとまずお茶でも飲んで休憩する?」

「お屋敷に行くん、だね。それもいい、けれど」

「わぁあ……、ハルさんが幼気いたいけな女の子を自宅に連れ込もうとしてるぞぉ。マリンちゃんも、一緒に連れ込まれてご休憩しちゃおうかな♪」

「週刊誌の表紙は引っ張らんくていいから……」


 ただ、モノの『遊ぼう』というのはどうやらお茶会の事ではないようだった。

 彼女の進む先に、マリンブルーと共に付いて行くと、そこは神界内の空きスペースに作られた次元船の建造港ドックであった。


 それなりに広々と空いていた神界の舞台裏。その空きスペースをこれでもかと占有したこの一大ドック群は、資源の運搬船、そして探査船をこれでもかと吐き出して、フル稼働にフル稼働を重ねた末に、ようやく空きが出来てきたようである。

 今も、全てがお役御免とはいかずに、追加の次元船が隣のドックでは作成中だ。


「ハルさんのお舟を作る、よ?」

「わぁお仕事だぁ♪」

「違うよマリン、半分は、遊び」

「……つまり、効率化作業があらかた片付いたから、趣味に走ってみようって訳か」

「うん。そうだ、ね」

「よーし、そういうことならマリンちゃんに任せろー♪ いっぱいロマン機能つけるぞー♪」


 どうやらマリンほどでは無いものの、モノも効率ばかりの造船作業に飽きが出ていたようだ。

 手の空いたここらで、効率無視のロマン兵器を作ってみたくなったようだ。


 なにせ、モノが船を造るのは百年以上ぶりのこと。その上こんなにも大量に数をこなしたら、燃え上がろうとも言うものだ。


「それで、モノちゃんはどんな船を作ろうと思ってるの?」

「戦闘専用艦を作る、よ」

「えっ?」

「戦闘専用艦、だよ」

「戦闘用はルシファーがあるんだけど……」

「ルシファーを収められるような艦を、作るんだ」

「母艦ってやつだ、おっきそうだね♪」


 どうやら、思った以上に抑圧感情フラストレーションが溜まっていたようである。戦闘専用艦などと言い出した。

 誰と戦うというのか?


「趣味だけじゃ、ないん、だよ? 今後の探索にも、必要そうだと思った、んだ」

「それはモノちゃん! 外には、敵が居そうってことなのかー!」

「んーん、そうは言ってないよマリン。でもね、もしそうでも、対応しつつ探索ができるように、戦闘機能は必須、なんだ」

「……なるほど、他の神を、納得させるためか」

「うん。その、とおり」


 名前を呼ぶとやって来てしまうので口には出さないが、アルベルト他、ハルの身を案じる神々の説得用ということだろう。


 行けども行けども、果てが見えぬ神界ネットの空間。その探査に、基地建造用のリソースを不安視する声が出てきた。

 司令塔であるこの場所から、全てを遠隔操作でこなさないとならない為、どうしても余計に資源が必要となる。


 基地の守備範囲を少しずつ遠方へと進出させ、その最前線から、行ける所まで探査船を射出する。

 その繰り返しによって、探査範囲は飛躍的に広がってきた。

 だが、まだ全てではない。これが、もうすぐ終わりになるのか、それとも、まだまだ二倍も三倍も続きがあるのか。それが分からぬ以上、無尽蔵にリソースを排出するのには慎重になってくる。

 一時撤退を進言する派閥も生まれてきており、まとめ役のハルもこの辺りで何かしら号令を出さねばならないだろう。


 それらの事情を、一挙に解決可能な方法が、『ハルが単身、外部へ探索へと向かう』、ことだった。


「ハルさんがお舟に乗って探査に出れば、燃料の心配は要らないからね♪ 積載量を気にすることなく、旅ができる♪」

「いや、旅と呼べるほど長くなるのは、さすがに僕も遠慮したいんだけど?」

「ハル艦長、次元宇宙の旅」

「艦長じゃないから。……あれ、艦長は僕なの?」

「うん。ぼくは、現地の戦艦から手が離せない、からね」


 その旅路には、神々を連れて行くことは出来ない。そこで、戦闘力なのだそうだ。


 モノが、ゲーム世界で搭乗している戦艦は非常に強力だ。

 神力を用いた推進機構は、あの巨体にも関わらずルシファーに負けぬ機動性を有し、ジェネレータを兼ねる八基の浮遊する砲台ビットは、巨大ボスモンスターに対抗できる火力と防御力を兼任する。


 それでいて、あの戦艦は省エネ重視で作ったというから驚きだ。

 あの艦の作成当時は、魔力枯渇時代。戦闘力を維持しながらも、自陣の魔力をなるべく消費しない構成が求められた。

 警戒中においては、停滞飛行ホバリングしていてもほとんど魔力を消費せず、戦闘でも、迫りくる敵を、撃破した先から魔力に戻して取り込み利用する。


 主にこの地の守護のため、完全に守勢に限定した構成だった。

 その戦艦を作り上げたモノが、今度は自らが打って出るための船を作るという。いったい、どうなってしまうというのか。

 ハルはそこにワクワクした期待を感じつつも、一方では気になることがあった。そこまでの力は、必要なのか?


「んー……、ルシファーじゃ駄目なのかな? 自分で言うのもなんだけど、かなり強いよルシファー」

「そうだよね♪ きっと、ゲームで出てくるレイドボス相手じゃ、もうまるで相手にならないぞ!」

「ぼくも、強いと思う、よ? でもあの小型機は、居住性に難がある、よね?」

「そりゃまあ、コックピットの狭い空間しか内部には無いからね」

「だめ、だよ? 旅には広さが、必要だ」


 先ほども言ったようにハルは旅をする気は無いのだが、モノの主張はブレなかった。

 まあ、これは半分お遊びである。モノの息抜きだ。非常に物騒な息抜きではあるが。ここは、彼女の好きにやらせてやった方がいいのかも知れない。


「う~ん、確かに、モノちゃんの言うことも一理あるよね♪ ずっと狭いコックピットに押し込められてたら」

「まあ、そうだね。僕はともかく、アイリ達、女の子はまいっちゃうかも」

「そんな長時間、密室に若い男女が押し込められてたら……、きゃー!」

「……それは、好きにすればいいと思う、けどね?」


 どうやらマリンブルーの懸念事項は、ピンク色のようだった。ハルたちは、一応そういう関係ではあるが、みな良識をもったメンバーである。戦闘機内でそうはならない、はずだ。

 それは大丈夫、だと思う。が、皆を閉鎖空間での終わりの見えぬ作業に従事させるのは、実際よろしくないだろう。

 誰しもハルのように、じっとしていることに多大な耐性がある訳ではない。特にユキなどは。


「カナリーちゃんは、大丈夫そうだね♪ 元は神様だし♪」

「いやー、むしろ肉体を得てからは、一番ダメかもねえ」

「あらら♪」

「分かった、かな? つまりとても大きくて、とても強い艦が、必要なんだよ」

「うん。まあ、モノちゃんの自由に設計したら良いと思うよ」

「やっ、た!」


 やはり、理由をつけて好き放題に造船してみたいのだろう。普段は表情の薄い顔がほころぶ様子に、ハルも釣られて笑顔になる。

 そうして、元々にこにこ顔を絶やさないマリンブルーも交え、新たな戦艦の設計作業が始まった。

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