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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
第12章 エーテル編

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第389話 次元の狭間

 下方に見える神界、その最も大きな、ギルドホームなどがある交流広場の入れ物へと機体を接近させる。

 あの空間は、透明なガラス状の外枠で覆われていた。今、こちらからもその枠は確認できており、それを通して内部の様子が透視できた。


「“ぷれいやー”の皆さまが歩いているのが見えますね!」

「おお、丸見えだ! 監視しちゃってる」

「もともとメンテナンス用に内部の様子が確認可能になってますからねー」

「中からって、何が見えてたっけカナちゃん。今私たちは見えてないんだよね?」

「ですねー。群青ぐんじょうの国から少し離れた海上にある、全方位カメラの収めた景色を投射してますー」

「……その位置はルシファーを飛ばさないようにしないとね」

「かもですねー。まあ、リアルタイムじゃないから平気だと思いますけどー」


 こちらからは、中の様子は完全にガラス一枚を隔てただけでくっきりと観察できる。

 中央広場を歩き、目的の店やギルドホームに入って行くプレイヤー。噴水広場からカジノや各種施設へ向かうプレイヤー。大神殿の周辺で、今後の予定でも話し合っているのか、座って動かないプレイヤー。

 色々なタイプの者たちが、それぞれゲームを楽しんでいる様子が見て取れた。


 ときたま天を見上げるプレイヤーが見受けられるが、焦点はこちらに合ってはおらず、きっと時刻の変化にふと天を仰いだだけなのだろう。

 内部は、現実よりずっと短い間隔で昼夜の変化が訪れる。


「裏側からは透過して見える……、なんだっけ? 昔のゲームで、そんなバグあったよねハル君?」

「バグじゃなくてポリゴン時代の仕様だね。片面ポリゴンは、裏からは透明にしか見えない」

「そうなんだ? なんで? ついでにこのガラスもなんで?」

「何でって言われてもね? どちらも仕様だとしか。強引に例えるなら、完全に一方向にしか光が出てない、って感じかな」


 プログラムにせよ魔法にせよ、『そう決まっているから』、としか言いようがない。強引に物理に例えてしまうと、そこでまた矛盾が出る場合がある。

 この空間自体についてもそうだ。そういう空間だ、としか今のところ言えない。


「わたくし、知ってます! 顔の内側にカメラが入ると、造形の制作過程が見えるのです!」

「今のゲームは、そんなことは起こらないわ? アイリちゃんも、最近のゲームが出来るようになると良いわね?」

「やってみたいです!」


 そうしてハルたちは、その神界の各種施設を収めた空間を一通り見て回る。

 広場から転移する、ギルドホームを収めた球体。最も大きい球は、ハルたちの一等地ギルドだろう。

 こちらも内部の透過が可能であり、今もハルたちのお店を利用したり、お城を見学するプレイヤーの姿が確認できた。


 ずらりと整列した四角い箱はユーザーごとの個室、マイルーム。個人に必ず一つずつ用意しなければならないので、場所の確保には気を使いそうだ。

 AIの本領発揮とでもいうように、大きさごとに整然と隙間なく整列している。プレイヤーが部屋のサイズを弄った際は、またパズルのように並べなおすのだろう。


 そして、大き目なサイズの箱庭たちは、各神が管理する神界施設だ。


「あっちがマリンブルーのプールでー、そっちが公園ですねー。私のカジノなんか、小さい方ですよー」

「プールでっか!」

「海を再現してるくらいだしね」

「そのぶん人気なのでしょうけれど、維持費との兼ね合いなんかも難しそうね?」


 そして最後に、大神殿から繋がる各色の神殿施設だ。中からでは分からなかったが、この神殿施設には各色の施設からエネルギーラインのようなものが直結されており、魔力を共有、回収しているようだ。


「神殿は外と繋がるゲートの役目もしてましてー。施設の魔力が足りなくなれば、逆に供給したりもしますー」

「なるほどね。舞台裏は神秘的とは程遠いシステマチックだ。さっきアイリが言ってた、『顔の中』を見てる気分だよ」


 どのゲーム、どんな時代でも同じことだが、多かれ少なかれ、プレイヤーの目に映らない部分は雑で効率的なものだ。

 のんびりと美しい自然でスローライフをうたったゲームであてっても、裏側は非常に雑で忙しいなどよくある話。


 そんな舞台裏事情を覗き見られたことに気持ちを昂らせながら、ハルは仲間たちに今後どうするべきかを確認するのだった。


「これから、どうしよっか。一応、ゴールに付いた感はあるけれど」

「そうですねー。ハルさんは、ここがゴールで良いんですかー?」

「現状は。この謎の空間内に、君たちの神界があるって確認が取れたのは大きいから。後のことは、また次の話だね」

「……だったら、少し休まないこと? 色々まわって、すこし疲れたわ?」

「さんせーです!」

「良いと思うー。情報の整理もした方がいいだろうしさ!」

「じゃあ、お茶でも飲んで休憩しようか。お屋敷に<転移>で、」

「待ってくださいー」


 天空城まで<転移>して戻ろうかと、ハルが行動を開始しようとしたところ、カナリーの声がそれを遮った。

 まだ、この場になにか用事があるのだろうか? 舞台裏が新鮮とはいえ、この地は慣れ親しんだ神界だ。来たければ、正規の入口から何時でも来れる。


「せっかく神界に居るんですからー、手下の神どもにお菓子をねだりましょー」


 そう言うとカナリーは半ば強引にルシファーの制御権を確保すると、神殿から伸びる部屋の一つに横づけし、勝手知ったる裏口からずんずんと侵入を果たすのだった。





「……何しに来たんですカナリー。ってか、何処から来たんですか! まったく、ここはもう自分の神殿だよ? カナリーのじゃない」

「うっかりしてましたー。慣れって恐ろしいですねー?」

「ぜったいわざとでしょ……」


 カナリーが上がりこんだのは黄色の神殿、その一室。かつては自分の管轄だったその部屋も、今は代替わりしてシャルトの支配地だ。

 当然ながら、勝手に押し入って良い場所ではなくなっている。


「いいじゃないですかー、先輩ですよー? 偉いんですよー?」

「偉くない! はぁ……、お茶くらい出しますけどね。貴女が用意してたんであろうお菓子も、残ってるし」

「えっ? 残ってるんですかー? なんでですー?」

「あんなに食べないからですよ! 菓子を出す来客も無いし!」

「相変わらず倹約してますねー」


 節制の神、シャルト。どうやらお菓子の接種も節制しているようだ。いや、関係ないか。


「ごめんねシャルト、急に」

「いえ別に。出来れば止めてほしかったですけど。……いや、無理だよね」

「ハルはカナリーには甘いものね?」

「いや、厳しくても無理じゃんルナちー? カナちゃんだよ?」

「そうね……」

「ですよー?」


 ふてぶてしくもかわいらしく、自分でも宣言する。嫌味なところが感じられないのは人徳か。それとも言われたように、ハルが特別カナリーに甘いだけか。


 まあ、シャルトも形式上の抗議はしているが、別段そこまで、顔や態度ほどは面倒がってはいないようだ。

 ただティーセットを引っ張り出して、話をするだけ。

 いや、それも勝手にやらせればいいだけなのに、わざわざこうして姿を見せてくれるのは、やはり律儀な性格なのだろう。


「……で、どうでしたハルさん。予定には目を通しました。ここに現れたということは検証は成功、ってことなんだよね?」

「だね」

「おめでとうございますハル様。目的に向け、一歩前進でございますね」

「アルベルト。ああ、ありがとう。相変わらず察知が早いな」

「ハル様の機体が外からギルドホームを覗き見た際、目が合いましたでしょう?」

「あれはこっち認識してたのか……」


 何となく、アルベルトの仕事ぶりを見ていたら、不意に天井の、ルシファーの方を見上げる様子を見せたとは思ったのだ。


「で、まあ、シャルトの言う通りにこの神界の“位置”が特定できた。特定というのは変かな、場所自体の定義がまだだから」

「薄々分かってましたけど、通常空間じゃないことが証明されたんですね。次元の狭間、とでも呼ぼうかな」

「いいねシャルトそれ。ぴったりだ。というか、仮説は立ててたんだね」

「何年使ってると思ってるんですか。変なのは気になるよさすがに」


 この謎の空間、改め『次元の狭間』。何かと特殊な仕様であり、現実、あの惑星上とは少々異なる部分があった。

 それも、この特異性を考えれば納得だ。


「神様にとっては問題ないのかも知れないけど、僕はこの神界に来ると、止まるんだよね外の他の体が」

「そうでございましたね。日本にお帰りになられても問題なく活動可能なハル様が、活動不能に追い込まれる。それは非常に特異な例であります」

「自分らにとっても、多少引っ掛かりがありますね。止まるってことは、さすがに起きないけど」


 当時は、同じゲーム内であるのに、何故神界に来た時だけそうなるのか、と不思議だったが、タネを知ってみると納得だ。

 この神界のある次元の狭間自体が、別の法則に支配されていたのだ。


 ハルは、シャルトが出してくれたお茶を飲みながら考える。次にすべきことは、何であるか。


 この、次元の狭間がどんな世界であるかを検証することだろうか?

 ただそれは、この地をずっと利用してきた神々も未だ成しえていないことだ。証明方法が無かった、というのも大きいが、一朝一夕いっちょういっせきでその年月に追いつけるとは思えない。

 一応、ハルだけに出来て神々に出来ないことに、この神界の境界、パーティションラインの外に出て観測を行える、という事がある。

 出発も今度はここ神界からすぐに発進できるので、非常に容易に調べられるだろう。


 それとも、空間そのものではなく、その出入口、あのメタと共に開いた扉を主に調査するべきだろうか?

 こちらは、神々にとってもまったく未知の現象であり、新しく何かが掴める可能性は非常に高い。

 連鎖的に、この次元の狭間についても明らかになるかも知れない、という期待感もある。


 それらの方針を、仲間たちや、席に居合わせているシャルトやアルベルトへとハルは語ってゆく。


「……自分としては、後者の作業に票を投じたいですね。そっちなら、自分らもお手伝いできそうだし」

「ですね。魔力ソフト面でも、空間ハード面でも、内部からでは我々には掛かった制限が多すぎて手出しができませんから」

「シャルトやアルベルトは、扉の調査を優先か」


 やはり、新たな視点を得られるというメリットは大きい。現状でこれ以上の進展が見られないということを知っている神様たちは、扉の調査に非常に乗り気だった。


「私はー、中からもまた調べてみる価値も出て来たと思いますねー。裏口の目途も、立ったことですしー?」

「カナリー、裏口とは?」

「メタちゃんですよー。あのにゃんこの、完全に魔法を排除したあの方法でならー、次元の狭間へも観測機が飛ばせるって分かりましたものー」

「なるほど? 今回は……、ああ、燃料問題で頓挫とんざしたのですね。しかし、今は都合の良い補給基地がありますね」

「アルベルトー? 神界を補給基地って呼ぶのはやめないー?」

「シャルトも基地はそう嫌いではないのでは? 巨大メカなど使っていましたし」

「まーロマンはあるね」


 今度は、入口の扉を介すことなく、ここ神界から飛び立って、エネルギーもここから補給すればいい。

 いっそ、次元の狭間に浮かぶステーション施設、巨大な機械の基地を皆で作り上げるのも楽しそうだ。

 メタ、アルベルト、そしてシャルトも。そういった知識も豊富なようである。


 こちらは、新たな発見があるかは微妙なところだが、なんとも非常に楽しそうな提案だった。ハルも心躍る自分を感じている。


 さて、どちらにせよ、調査機器や新装備の開発は必須となるだろう。

 他の神々の意見も聞いて、最適な道を、そして可能ならば皆で楽しめる道を模索していきたい。

 思いがけずにわかに活気だってきた議論に、ハルは自身もまた気合を入れなおすのだった。

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