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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
第12章 エーテル編

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第381話 飛翔せよ未知なる地へ

 最近、お話に「遊び」が無さすぎでしょうか。物語も真相に近づき、本筋を進めることに意識が行き過ぎている部分があるかも知れません。

 もっと、気軽な話が読みたかったりはしますでしょうか? 少し焦っていたかもですね。

 そうして、しばしの休息ののち準備を整えたハルたちは、ついに皆でバリアに隔てられた外部の探索に移ることとなった。

 外には、当然ながら魔力は存在しない。魔力のお弁当箱たるキューブやモノリスを万全に準備し、皆気合十分だ。


「気を付けて行くのだよハル。私も付いて行きたいところだが、境界の外に出る訳にはいかなくてね」

「護衛なのに? ふがいないねセレステ」

「ははっ、いじめないでくれたまえよ。護衛が必要なら、メタや露草を頼るといい」

「そこは私じゃないの?」

「ゼニス、キミは完全にハルの味方という訳でもないだろう?」

「そうだね。まっ、大丈夫でしょ。“あの”ハルに護衛なんか必要ないよ。そもそも敵と出会わない」


 世界は広い。その広大な土地の中では、神の存在感といえど儚いもの。

 このゲーム内のように、領土を隣り合わせてひしめき合っている訳ではないらしかった。


 互いに離れて縄張りを設定し、その中でおのおの目的のために過ごす。

 何か領土問題が起きれば、不利な方が逃げ去るように場所を移し、選び放題の空地へと新たな拠点を引っ越しする。

 そうした不干渉により生まれる協調性が、外の世界における暗黙のルールとなっているようだった。


 そのため、外に出たからといって、すぐに他の神々の領域を侵犯し、戦闘になることは起こらない。そうゼニスは語ってくれた。


「MP回復薬は沢山持った、かな? ぼくも送ってあげたいけれど、今はゲームを離れる訳にはいかなくて、ね?」

「ありがとうモノちゃん。十分補充したよ。……あの戦艦は、外にも出られるの?」

「うん。その通り、だよ。ぼくはゲームに協力しているけど、明確にここの神様って訳じゃあ、ない、からね」

「白黒はっきりつけねーんですね。名前の通り」

「それだから、明確にハルの味方も、できないんだ。お願いね、白銀」

「任せるです」


 無機物たるキューブやモノリスに魔力を補充する用の、戦艦ショップ製の回復薬を仕入れに行ったら、艦長であるモノも見送りに来てくれた。

 基本的にこの地から出られない彼女たちだ。そのことに、ハルも不安が無いとは言い切れない。なんだかんだ、今までも神々の支援があったからこそやってこれた部分は大きい。それを改めて実感し感謝する。


「ハル? モノリスが必要なのは、キャラクターである私たちが居るからよね? なら、私たちも生身で行けば、補給の心配はひとまずなくなるのではなくて?」

「それは、そうかも知れないけどさルナちー。今度は戦力的にお荷物になっちゃうよ。特に私が」

「それは、私も同じよ。魔法が使えないというのは、やっぱり大きいわ?」

「いやいや、ルナちーなら、ドレス着ればよゆーよ。大暴れよ」

「暴れないわよ……」


 ドレス、ハルたちの開発した、ドレス型のパワードスーツだ。それがあれば、確かに生身であっても、キャラクターの体並みの戦闘力が発揮できる。

 しかし、それでもまだ問題が残っているのだった。


「……たぶん、ルナは外に出たら、魔力が抜けちゃうね。キャラの体と同様にさ」

「ん? どして? ハル君やアイリちゃんは、その辺へーきなんでしょ?」

「これは、わたくしたちの心がくっついているのが原因らしいのです! お互いに、引っ張り合って、拡散を逃れているというか」

「意識拡張の際も、ネットの海に散逸さんいつしそうな意識をアイリが引きとどめてくれてるおかげで、無茶な拡張も出来るようになったしね。それと似てるかも」

「ごめん、それ分かんないやハル君」


 ハルたち以外のNPCでは、魔力圏外では体内の魔力がどんどん抜け出てしまう。これは、国土の方の大きな重力に引かれて、そちらに吸収されてしまうのだ。

 ハルやアイリは、まるでそれに互いに手を繋いで抗うように、体内へ魔力を保持できる。


「いやはや、興味深いよね。マリーゴールドの目的も何となく察せられるというものだ」

「セレちん、どゆこと?」

「彼女の目的叶い、この地の人間全てがハルと融合されたとして。その際は、国土に魔力が必須ではなくなるのだよ」

「おお、繁栄しそう」


 今は、押し込められるようにこの地で暮らしているNPCだが、それが実現すれば、かつてのように地に満ちることも可能かも知れない。

 それが、マリーの目的だったのだろうか?


「まあ、それは置いておいて。つまり私は、生身になっても問題は解決しないということなのね?」

「残念ながらね」

「……足手まといは嫌になるわ、まったく」

「しょげるなルナちー。予定を前倒して、結婚式を挙げちゃえばいいんだ」

「まだ予定立てていないわよ……」


 そういった事情があるので、今はルナとユキにはキャラクターの体で来てもらうのがベストな選択であった。

 何が起こるか分からない以上、とっさの対応で戦力になれる方が安心だ。


「思いつめなくって大丈夫ですよー? 体で行きたいなら、そうすれば良いんですー。ハルさんがフォローしてくれますよー」

「カナリー、キミは何をしに行くんだい……? 留守番していた方がいいのでは?」

「ハルさんが行くから、行くんですよー」

「いやはや、自由すぎるね。完全に足手まといだろうに」


 そんな、いつものハルたちの緊張感の無いノリで、初の外界探索はスタートするのだった。





「はい、約束通り守っておいたよ。……お駄賃にこの魔力、もらっていい?」

「なんでさ。なんでそうなるのさ? まあ、いいけどね……」

「いえい!」

「貪欲だなあ……、手勢の天使を大量消費させちゃった手前、強くは出れないけど」


 揃って、設置しておいた再開ポイントたる魔力へと<転移>してきたハルたち。同時にゼニスもこちらへと戻り、警備料金としてこの魔力を要求してきた。

 まあ、次の再開ポイントは、探索の進んだ地にしたい思いもあるのでそこは別に構わないだろう。


「仮にここに戻りたい時も、メタちゃんに頼めばいけそうだし」

「にゃん♪」

「わ。メタ助もいつの間にか来てる。あ、これ元から外に居る子ちゃんだな?」

「にゃうん!」


 猫の身の気軽さで、あらゆる国にあっという間に浸透したメタ。最近はハルの手によって、見た目のバリエーションも増えて、更に潜伏力が増した。

 以前は、どうしても黒猫ばかりだったので、『あれ、またあの黒猫見たな?』、ということが起きかねないという欠点があったのだが、それも解消されてしまったのである。


 その特性はこの外の世界でも変わりなく、猫は地に満ち海を渡る。世界中にこうして眷属がいるようだった。


「……ねえハル? メタちゃんに頼めばこれ、労せずして世界中渡り放題なのでは?」

「あー、その考えは良くないなールナちー。こういうのは、まず自分の足で探検しないと」

「マップを端から、埋めるのです!」

「お黙りなさいなゲーマーたち。事件性があるというのに、悠長なことを言っているのではなくってよ?」

「す、すみませんルナさん!」

「こわいぜ……」


 確かに、それはハルも考えたが、やはり探索は連続性をもってと結論付けた。外を何も知らないハルたちだ。中との違いを、順序良く調査することもまた必要である。

 ……そこにゲーム的楽しみが、無いとは言わない。


「それでー、どうするんですハルさんー。冒険はいいですけどー、さすがに徒歩では無理ですよー?」

「そうだね。それこそ百年あっても終わらない。高速移動の手段を確保するのは必須だね」


 どうやら見渡してみるかぎり、この周囲は中とさほどの違いは見られない。

 外が、天外魔境の目を見張るようなファンタジー世界だった! というのならば、しばらくは周囲を徒歩で探索してみるのも良いかもしれないが。

 しかし内部と地続きのここは、特に見るべき所は見受けられない。早々に飛ばして、怪しそうな場所を発見しなければならなかった。


「となると、みんなで飛んで空から探索でしょうか? あ、カナリー様は、ハルさんが抱えて!」

「良かったねカナりん。お姫様してもらえるよ」

「わーい……、とばかりも言っていられませんねー? あの、ハルさんの極限機動に付き合わされるんでしょー? バリアがあるとしても、頭ふらふらになっちゃいますよー」

「いや、君を抱えた状態であれはやらんけど……」


 人体の限界を無視した、神剣の光による超高速飛行。あれはハル一人だからこそ可能なものだ。間違っても、ひとに付き合わせるものではない。


「まあ、冗談はともかくー。それなりにスピード出るとはいえ、惑星規模の探索に<飛行>ではこころもとないですー。ハルさん以外は、超スピードは出せませんしー」

「ユキはどうしていたの? 先に、こちらに出て来たのよね?」

「私は<空歩>で駆け抜けたけど、そもそも、そんな遠くまで行かんかった。天使ボコった後は、雪女さん近くにいたし」


 ユキの強化プランは、ゲーム世界近辺に陣取って“冬”を準備していた露草によって、早々に叶うこととなった。

 そのため、ユキはそもそも遠方までは足を延ばしていないのだ。通常の移動能力で叶う範囲で、彼女の探索は終わっている。


 しかし、ハルたちはこれから、最大で惑星一周を行う規模の探索に挑まなくてはならない。それを成すに、<飛行>や<空歩>では分が悪かった。


「モノちゃの戦艦で、送ってもらえれば良かったよねー。ねえハル君、うちらも作れない? 戦艦?」

「……そうね、戦艦である必要はないけれど、飛行する機体で全員を運ぶのが効率が良いでしょうね? ハルも、何か考えがあるのでしょう?」

「自信ありげですからねー。まあハルさんはー、ノープランでも自信満々でしょうけれどー」

「それで、あっさり何とかしちゃうのです!」

「期待が高いなー……」


 あまり、期待されすぎても応えられるか分からないので、ほどほどにして欲しいハルだった。

 しかし、今回については彼女たちの期待どおりに、既にプランが存在する。


「まあ、今回は特に、新しいことをする訳じゃないんだ。将来的には、探索用の飛行機でも作れれば良いとは思うけど」

「すごいの出来そうです! ……でも、今ある物、ですか? なんでしょう? 天空城を、こちらへ持ってくるとか」

「あれ、そんな飛行要塞じみた使い方出来るのかしら……」

「出来なくもないけど、速度が足りないね」

「走る程度の速さしか、出ないんだったよね。拠点侵略にはよさそうだけど」


 既に、その使い方について以前に興味津々だったユキが答えを持っていた。

 天空城を作った際、それを難攻不落の軍事要塞として真っ先に見てしまう、ゲーマーの彼女らしいサガである。


 だが、今回使うのは天空城ではない。それでいて、皆を乗せて飛行可能となると、選択肢は限られた。


「分かりました! ルシファーを使うのです!」

「アイリ、せいかいー」

「あーなるほど。一度みんなで乗ったもんね、あのロボット」

「しかし良いのかしら? あれはエーテルを、ナノマシンを大量に使いつぶして、残骸をあたりにバラ撒くのでしょう?」

「そこは平気。考えてある」


 今までハルがルシファーを切り札として温存し、なかなか使わなかった理由の一つだ。

 魔法によって強引に増殖させたナノマシン群をその体のベースとするハルの巨大兵器、ルシファー。それの運用の際、どうしても使ったナノマシンをこの地に飛散させてしまう。

 地球ならまだしも、エーテルネットの無いこの世界だ、どんな悪影響があるか知れない。簡単に言えば掃除が大変なのだ。


「露草との戦いで披露した『天使化』、今はそれがある。ルシファーの形に変身した僕の分身にエーテルを封じ込めて、外に出さなければいい」


 元々は、ナノマシン(エーテル)が増殖しきって天使の体を形作るまでの繋ぎ、時間稼ぎとしての『天使化』だったが、副産物的な効果として、土台となったその身から、外に漏らさない“殻”としての役目も果たしていた。


 ハルはその場に自分の分身を作り出すと、『天使化』しルシファーの形へと変身させる。

 この状態でも、キャラクターの限界を超えた、それなりの戦闘力を発揮可能だ。


「あとは、前みたいに中のコックピットに搭乗すれば、みんなで移動できるよ」

「ハルさん! “えんげーじ”しますか!? えんげーじ!」

「ああ、頼むねアイリ」

「今回は私も加わりましょうー。これくらいは、役に立たないとですしー」

「……これくらいって、どう見てもカナリーの専門分野じゃないの、おもいきり」


 精神の繋がったアイリと、今回はカナリーの助けを借りて、『無尽増殖エンゲージ』を開始する。

 本来の限界値リミットを外れて、過剰に増殖しだしたエーテルは、すぐに分身の内部へといきわたり、その身をしっかりと満たして支えていった。


 これに皆で乗り込めば、その羽をもって高速で飛翔し、星を巡れる。


「でもさでもさ、ちょっと待って?」


 そんな、新たな世界への期待感にハルが胸を膨らませていると、元から胸の膨らんだユキが待ったをかけてきた。


「どうしたのさユキ、いいところで」

「あ、ごめんね? でもさ、これってハル君の分身がベースなんでしょ?」

「……なるほど。目の付け所が良いわねユキ。感心したわ?」

「素晴らしい発想力なのです!」

「いや微妙に嬉しくないな……、まあ、ともかく、そのね?」

「ハルさんの中に、私たちでみんな揃って入るんですねー? えっちですねー?」


 そんな、開幕から妙な方向に繋げられてしまうのが、なんだかこのメンバーらしいのだった。

※誤字修正を行いました。


 追加の修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。(2025/7/3)

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