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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
間章 メタ編 ~あるいは炬燵で丸くなる正月の話~

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第366話 はつもうで

「明けまして、おめでとうございます」

 朝の、横から差すような眩しい冬の日差し、その中をハルたちが並んで歩いてゆく。

 マリーゴールドの起こした騒動から数日、結局、あの彼女の企みはハルたち以外の誰の目にも触れることなく、世は慌ただしく年末年始の期間に入って行った。


 あの、“神界の物理的な所在地”についてはハルも大いに気にかかったが、この時期は日本での仕事も多くなる。

 また未帰還になっては今度はシャレにならないので、ひとまず調査は落ち着いてから、とすることにした。


 そうして、今日は一月一日、元旦の朝である。

 それぞれのやることに区切りのついたハルたちは、皆で日本の神社へと新年のおまいりに来ていた。初詣、というやつだ。


「とっても静かですね。事前に見せていただいた映像では、人が、ぶわぁっ! っていっぱいいたから、身構えちゃいました!」

「この神社、とくに有名な場所って訳じゃないからね。ただの地元の神社なら、こんなもんだよ」


 今来ているのは、ハルの住む地域、学園のある場所からほど近い、ごくありふれた神社である。

 アイリが、その全身をめいっぱに使って、ぶわぁっ、と表現する人出は、大きく有名な神社のもの。一極集中するからそうなる訳で、当然、無名の神社は目の前のような状況になる。


 まさに神域の静謐せいひつさ、という静けさの中、澄んだ空気が背の高い木をかすかに揺らしている。

 すれ違う人はほとんどおらず、落ち着いた年配の女性と一人すれ違い、新年の挨拶を交わしたのみだ。

 華やかなこのハルたちの集団に、微笑ましそうに目を細めていたのが、少し気恥ずかしかった。


「わたくし、このお着物とっても気に入りました!」

「そう。良かったわ? 喜んでもらえて。特別にあつらえた甲斐があるというものよ」


 そう、新年らしく、ハルたちは華やかな和服に身を包んでいる。女の子たちのそれは、皆どれも個性が出ていて目に嬉しい。


 気慣れぬ着物に緊張感が消しきれないアイリ。既に堂々たる着こなしで、着崩し始めているカナリー。ぴっしりと、一分の隙なく礼節を装備完了しいているルナ。

 そして、おろおろと今も変なところが無いかしきりに気にしているユキだった。お正月は、いつもの自信満々なユキもお休みだ。


「ユキさん、大丈夫です! とってもかわいいですよ!」

「ふええ、ありがとアイリちゃん。でも、アイリちゃんみたいにかわいく着れなくって……」

「ユキさんは、お胸が大きいですから。こういうときは、わたくしのように小さいのが有利なんだそうです!」

「ルナ……、最近おとなしくなったと思ったら、またアイリに変なこと吹き込んで……」

「事実だもの。大きなおっぱいは、向いていないわ?」

「アイリちゃんは七五三みたいですねー、ちっちゃくてかわいいですよー」


 そう言うカナリーは、髪の色も相まってファッション着物感が強い。

 今日も当然、お気に入りの黄色に身を包み、随所に派手なアクセントを入れている。

 厳粛なお詣りにそれはどうかと思ったが、ルナ曰く特に構わないそうだ。確かに彼女らしいことだし、それならそれで良いだろう、とハルも自由にさせている。

 どうも、自分も元は神として崇められていた存在。信心深くこのお詣りに臨む、という気分にはなれないようだった。


「そういえば、ここにはどのような神様が祀られているのでしょうか? その、わたくし異教徒? となるのに、お詣りしてもいいのでしょうか?」

「さて? どんな神様を祀ってるんだろ?」

「知らないのですか!?」

「うん。僕は知らない。信心深い人なら、さっきのご婦人なんかは知ってるのかもしれないけどね」

「ハルは知っておきなさいな……、とはいえ、日本ではそういった人が大半でしょうね。特に、知らないまま初詣に来ても、咎められることなんて無いわ?」


 仮に、ここに初詣に来る人とまたすれ違ったとして、その人に質問を投げかけて、答えが返ってくる可能性は薄いように思う。


「私たちを崇めてたように、一種の支配形態とはまた異なりますからねー。共同体としてのあり方、そこが重要視されるというかー」

「こっち、目に見える神さまって居ないもんね。私も、信じてないや。ハル君いなければ、今日も家から出なかった」

「ユキはもう少し外に出ましょう?」


 こうして、共に儀式に臨むことによって、共同体としての一体感を増し、共通意識を高めるのだ。とカナリーがアイリに説明していた。

 論理的な元AIの神様と、王族、政治家としてのアイリはそうして納得したようだ。


「以前、ハルさんにも教わりました! 日本の方々は、どんなところにも神様を見出すのだと!」

「ですねー。そうして、皆で揃って露骨に『これは凄い!』、って言うことで、社会性が増すんですよー。あのでかい木も、凄さが表れてるでしょー?」

「いや、神社で信仰についてそんな風に語らないの……」


 台無しである。いや、アイリはその精神性について非常に感心しているので、むしろ適切で良い説明なのだろうか?

 ただ、そうして他人の大切に思うものを大切にする。その気持ちも、また尊いものには変わりないだろう。この地の信仰もそうした背景によるところは大きい。


 何を信仰しているのか分からないが、それでも信心深さが成立するのは、そうした他人との縁を信仰していると言えるだろう。


「……じゃあつまりは、その縁を全ての人と結ぶこのエーテルネットは、現代における神様で、信仰の対象と言えるって訳だ」

「そうですねー。生活に根付いた信仰という意味では、この国らしいかもしれないですねー?」

「またこのヒトたちは変な事を言うわね……、なら、その管理者のあなた達も神様かしら?」

「おー、ハル君なんまんだぶー」

「ユキ、それはまた、ややこしくなるから少し大人しくしていなさい? ほら、帯を直してあげるから」


 なんまんだぶ、になると、神道の話をしているこの話から少しズレてしまう。

 ユキはルナに着物の乱れを大人しく直してもらっていた。スタイルの良い彼女は、やはりところどころキツそうだ。


「まあ、僕はネットそのものじゃなくて、それを整備するただの小間使いだし。神様の眷属だった、ってとこかな」

「使徒なのです! ハルさんは、こちらでも使徒だったのですね、すごいですー!」


 国民をあまねく、静かに見守る、そしてその御霊みたまを優しく受け入れるエーテルネット。

 おてんとう様が見ている、の代わりに今はエーテルネット様があらゆる善行と悪行をご覧になっている。


 エーテル様、エーテル様、お願いします。……実際、大抵の願いは叶ってしまう。


 そんなことをつらつらと妄想しながら、ハルはこの神社でのお詣りを済ます。少々、罰当たりだった。





 初詣はつつがなく終わり、これからどうしようか、という話になる。

 せっかくの機会だ、この日本でしか出来ないことで、少し遊んでいこうかとハルが提案するも、アイリとユキが少し尻込みしていた。

 まあ、仕方ないだろう。この集団は、少々目立つ。


 有名な神社がある地域ならばともかく、この寂れた神社の周囲で、こうして着物に着飾っている集団は稀だ。

 いずれも目を引く美少女とあって、非常に目立ってしまうのは間違いないだろう。


 結局、誰も来ないからということで、もう少々この神社の境内で語らわせてもらうことになった。


「そういえば、エーテル様というのは、どんな神様なのですか?」

「唐突にどうしましたかー? ああ、ハルさんの心を読んだんですねー」

「恥ずかしいので面と向かって言わないでカナリーちゃん」


 先ほどの、エーテル様どうこうという妄想が伝わってしまったようだ。

 慣れたものだし、アイリならば問題は無いのだが、改めて言われると恥ずかしいものは恥ずかしいハルだ。しかも中身が適当な妄想である。


 何となくハルは考えただけのことだが、確かに『エーテル様』という神は向こうに実在する。

 最近、事あるごとに名前を聞く気がする神様だ。いや、神様、という分類はカナリーたちのゲーム世界でのものであるので、実際にはそのAIは神を名乗ってはいないかも知れないが。


「あの子はですねー、私たちの中でも人間味は薄い方というかー、AIらしさ、みたいのが残った子でしたねー」

「というと、黒曜みたいな?」

「あー、近いかもですねー。とはいえ、しばらく会ってないので、今はどんななのか分かりませんがー」

「ふむ。確か、行方不明なんだっけ。セフィからも探してって言われてる」

「行方不明というよりは、音信不通ですねー。絶対に元気ですよー」

「なんだか、凄そうな方ですね!」


 たしかに、その者の功績は大きいようだ。何しろ神界ネットを作り上げて、カナリーたちに提供したのがエーテルだということ。

 もちろん、内部の調整は自分たちでやった、と彼女らは自負しているが、エーテル神の恩恵が大きいことは認めざるを得ないようだ。


 他には、コアの作成においても大きな貢献があると、確かメタに聞いたのだったか。


「あ、ねこさんです!」


 そんな、黒猫のメタのことを考えていたら、ハルたちの滞在する神社の境内にも猫がやってきた。タイミングの良いことだ。


「……って、こいつ実際メタちゃんじゃん。どうしたの? なんかあった?」

「にゃうにゃう。なうん」

「わからないよ?」

「えっ、メタちゃんなの、ハル君? でも、毛の色が違うよ?」

「そもそも、向こうの神が何でこっちに居るのかしら?」

「あれだよ。アルベルトの小林さんと同じで、遠隔操作のロボット。コアは入ってないよ」

「なうー」


 ちなみに作成者はハルだ。メタの量産型は、全て毛色が同じ黒猫というのもつまらないと思って、三毛猫型に改造してみた。

 するとメタはそれを気に入り、『他にも種類を』、とせがんできた。

 そこで興が乗ってしまった二人は、日本でも活動可能な、純科学部品の猫型ロボットを組んでみることになったのだ。

 当然、アルベルトも一枚噛んでいる。


「またあなた達は変なことをして……」

「それで、どしたのかな。おなかへった? 今ね、何も持ってないんだ、ごめんね?」

「ユキ、そもそもこのメタちゃんは全部機械だから、食べられないよ」

「あ、そかそか」


 その三毛猫となったメタに苦労して話を聞いてみると、どうやら目立たずに移動できる裏道を教えてくれるそうだ。

 こちらに来て間もないというのに、もう一端の地元猫である。


 そんなメタに先導され、ハルたちは元旦の、猫との小冒険へと出かけてゆくのだった。

「今年もよろしく、お願いします」

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