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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
第10章 ジェード編

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第331話 開発者を緊急招集します

 数日後、ハルの持ち込んだ“ある提案”は緊急のイベントとして、この藤の国の神域にて開催される運びとなった。

 急な話であり、内容が戦闘系ではない事もあって、対抗戦のような大規模イベントに比べて集まりは少ないほうだ。

 しかし開催期間は長めで、戦闘プレイヤーの出番もあると知れれば、少しずつ彼らも集まってくるだろう。


 いわゆる『併設へいせつイベント』として、のんびりと開催できれば上々だ。


「《はいはーい♪ お集まりの皆さまー、開催時間となりましたー♪ これよりイベントのチュートリアルを始めちゃうぞ♪》」


 普段はウィスト、魔法神オーキッドの契約者くらいしか足を踏み入れないこの紫の神域。少なめとはいえ、この地を埋める参加者が詰め掛けている。

 その中の、演舞でもやるような和風の舞台の上、これまた和風のアイドル衣装に身を包んだマリンブルーが、いつものように司会進行を始めていた。


「《実況はおなじみのマリンちゃん♪ そして~? 解説はこの方に来てもらいましたー!》」

「《解説のハルです。……ねえ、実況って必要? この、のんびりしたイベントに》」

「《どんなときでも実況するぞ♪》」

「《そうすか……、まあ、僕も今回は内容が少し難しいものだからね。なるべく分かりやすく解説するよ》」

「《そして、『審査員』はこの方!》」

「《オーキッドだ》」

「《へいへーい! もっと自己アピール♪ 教室デビュー失敗する中学生かぁ♪》」

「《フン。そういうキャラこそ初期から重要ポジションにいるものだ》」

「《でも場合によっては中盤で死ぬよね》」

「《なんの話だぁー♪》」


 そう、今回のイベントには『審査員』が居る。審査の対象は魔道具だ。


 担当施設が魔道具開発局のウィストとその国を中心として、皆で一斉に魔道具を作ろうというイベント。ハルが提案し、意外にもすぐに承諾を得ることが叶った。

 そんな風変わりなイベント、この情勢下で何を作るのかといえば、もちろん。


「《今回、貴様らには暖房器具となる魔道具を作ってもらう。当然、火属性が中心となるだろうが、他の属性コードの使用も制限は無い。創意工夫しろ》」

「《いま世界ではねぇ? 燃料とかいろいろ品不足なんだー。このままじゃNPCがこごえちゃう! それを私たちでお手伝いしよう! って季節イベントなんだよ♪》」


 複数の国に広がりつつある暖房器具の品不足。これを、ハル一人の力で解決してしまっては角が立つ。

 ならば、ユーザー全体へと責任を分散してしまおうというのが、このイベントの主目的だ。


 副次効果として、ウィストが狙っていると考えられる、現地への魔道具技術の普及。そして、ハルの計画していた、『遺産』に依存するヴァーミリオンを『魔道具』の使用へと推移させる、その第一歩として働くことを目論んでいた。


「《魔道具を作ってこの仏頂面ぶっちょうづらに見せるとぉ~? その出来栄えに応じてポイントが貰えるぞ♪》」

「《無論、今回の目的に沿っているほど高ポイントだ。提出は何度でも可。最初から傑作を出そうとは思わないことだ》」

「《最初は、簡単な物を提出してポイントを稼ぐ作業が必要になるかもね》」

「《おっとー? ハルさんから意味深なアドバイス! これはどういう意味なのかなぁ♪》」

「《何でも一人でやろうとするな、ってことだね。ポイントはイベント専用通貨としても使える》」


 今回のイベント、アイテム生産イベントではあるが、『材料無限で作り放題!』、とはいかない。アイテムを作る材料も、自分で収集しなければならなかった。

 それを全て一人でこなせるプレイヤーは、そうは居ないだろう。


 そこで、ポイントを通貨にして、作業を外注し役割分担する方法が考えられる。

 生産無しでもポイントを得られるのが広まれば、生産に興味の無かった戦闘専門の者も集まってくるというわけだ。


「《おやおやー? 今ので何か思いついてソワソワしてる人が居るね♪ 退屈な説明なんかすっとばして、もう採取に出たいかな♪》」

「《開始しちゃっても良いんじゃない? ああ、この後も、イベントの流れの説明は続けるから安心してね》」

「《産むが易しだな。手を動かすのが早いだろう》」


 イベント攻略の組み立てを早くも始めたユーザーが出てきたようだ。マリンブルーは臨機応変に、説明を一時中断してイベント開始の号令を発するのであった。





 ユーザーの一部が各方面に散ってゆく。

 真っ先に動いたのは、生産系を主とするプレイヤー達。一見、意外に見えるが、非常に理にかなった行動だ。


 彼らはこのイベントに気合を入れて参加しており、改めて説明を受けるまでもなくルールを熟知している。

 それゆえ、まずは自分でも出来る簡単な採取を元手に、単純な魔道具を作り、“種火”となるポイントの確保に動いたのだ。


「《各自一斉にスタート♪ 今回のイベント、持ち込みアイテムは使えません。公平になるようにね♪》」

「《だから、生産職の人が真っ先に動いたんだね。最初は、その辺の薬草の採取でも簡単なアイテムは作れるからね》」

「《オレの神域だが、イベント中に限り特別仕様として各所にアイテムが配置されている。モンスターもな。それを採取、討伐することで、魔道具の材料がドロップする》」

「《今回は、直接『コード』がドロップする仕様みたいだね。簡単な、コードの用途の解説も表示されるみたいだよ》」

「《……何に使うコードか分からん、と苦情が多くてな》」

「《そりゃそうだ♪》」


 魔道具開発局における『コード合成』。アイテム同士の合成の失敗作として生まれるコード。それを組み合わせて魔道具は生まれる。

 しかし、そのコードの生成方法と、その組み合わせ方法が非常に分かりにくい。

 初心者向けではない、というのは分かるが、現状では上級者すら尻込みする鬼仕様。


 それを何とか親しみやすく緩和したい。そういった意図も、このイベントには含まれている。


「《なんとなく、イベントの流れが掴めてきたかな♪ 採取してー♪ 魔道具つくってー♪ ポイント貰う♪》」

「《そのポイントを元手に、自分じゃ入手できない上級ドロップ品を買って、更に複雑なアイテムを作れば、使ったポイント以上の収入が得られる。戦闘職は、生産職が欲しがりそうなアイテムを集めておくと吉だね》」

「《工夫して励むが良い》」


 大まかなイベントの流れ、その説明が終わった。

 このゲームに職業システムは無いが、生産職がアイテムを作り、戦闘職が彼らが求める素材を採取してそれを売る。という基本の分担が主となるだろう。


 そのように、各自己の目的がなんとなく定まったあたりで、審査受付のカウンターに元気よく響く声があがった。


「うりーっす! 一番乗りー! 大木戸様、見てみて~」

「やめろ。オレを大木戸と呼ぶな」

「いいじゃんいいじゃん。大木っ戸さま! それより審査しんさ」

「ふん。なるほど、最低限だがよく出来ている。周囲の魔力を吸い、それを熱に変換するだけの機構だな」

「ういっ! 提出RTAはトップ!」

「速度は重要だ。普段からよく用途を理解して組んでいる証だろう」

「いえーい! 褒められた!」


 その後の、『だが雑にはするなよ』、との忠告は耳に入っていないようだ。

 魔道具に関連した話では、必ずその名前が挙がるプレイヤー、まいまい。今回も、彼女が完成第一号のようだ。

 ウィストの語るように、どのコードが何に用いられるか、普段から研究しているからこその、この速度だろう。


「以降、同様の構造のものは講評を省略する」

「よっしゃ、この調子で大木戸様のコメントは全部あたしのものだ!」


 彼女は紫色の契約者でもある。そういった契約者にとっては主神であるウィストから認めてもらえるチャンスの場でもあるのだろう。

 同様に、ステータス表示が紫色になったプレイヤーの割合は多そうだった。


 そんなウィストや、アイドル神であるマリンブルーの周囲には、あまりイベントに全力でないプレイヤーが集まって行く。

 神と確実に触れ合える舞台としても、イベントは貴重なようだ。

 人さえ集まれば魔力は生まれるので、彼らも特に、『真面目に参加しろ』といった注意はしない。


 しばらく解説の役割は無いか、とハルが肩の力を抜くと、ハルの方にもちらほらと人が寄ってきているようだった。

 真っ先にハルの元へと来たのは、顔なじみのカオスだ。


「よぉ、ハル! なーにやってんだ今回は。笑い」

「口で『笑い』言うなよカオス。今回は進行側だよ、魔道具には、そこそこ詳しいしね」

「そこそこじゃない件。ハルが参加すれば、優勝は間違いないんじゃね?」

「だからでしょ。プロの参加、お断り」


 実際は、ハルこそが主催者だからである。参加すれば八百長やおちょうにしかならない。

 当然、真面目にやっても勝利できるという純然たる自信はあるが。


「じゃあ裏ボスか。優勝者とエキシビジョンで戦う役」

「何で戦うというのか……、魔道具の火力とか?」

「いいなそれ! よし、俺は最高火力賞を狙うぜ!」

「……勝手に作るな賞を。評価値には『実用性の高さ』も加味されるよ。あんまり度外視すると、苦労に見合ったポイントは得られないかも」

「いーんだよ、こういうのは、ロマン」

「まあ、分かるけどね」


 いつもおちゃらけた態度の、ハルの遊び仲間のムードメーカー、カオスが冗談交じりにそう語る。

 お馬鹿なフリを演じているが、その能力は高い人だ、自分で作ることを当たり前に語っているあたり、魔道具作成もこなせる。

 ハルとさまざまなゲームをやっていることから分かるように、戦闘能力はもちろん高く、実はこのイベントの最適プレイヤーである可能性もあった。

 ……ロールプレイで、お調子者を演じていなければ、であるが。


「火力は重要だぞハル、火力は! 超超大火力の魔道具さえあれば、どんなに寒い冬が来ても、町ごと全体を暖められる」

「ふむ……、そういう考えもありか……」

「って何で感心しちゃってるのこのヒトー! ツッコんでくれよーそこはー!」


 実際、ありかもしれない、とハルは思ってしまった。

 この世界の町は、都市国家であるように大きな塊として点在している。各地には責任者が配置されており、町は擬似的な小国だ。

 つまりは大寒波が来ても、“町単位”で暖めてガードすれば、効率よくNPCを守れるとも考えられる。

 無論、最終手段になるのだろうけれど。


 そんな彼と久々に、気兼ねない会話に花を咲かせるハル。

 ハルにとっても、最近は日本の友人と語る機会は減っており、そうした機会としてもこのイベントは役立つようであった。





「……しかしよぉハル?」

「なにさ」

「さっき超大火力を否定しなかったってことは、こっちの冬ってそんなに寒いのか?」

「いや、リアルと同程度だってさ。地域にもよるけど」

「じゃあ、今年が特別寒いのか?」

「……僕は知らないなあ。その辺は、神様に聞きなよカオス」

「答えてくれないからなぁ」


 ギャグで言っているのかと思ったカオスの大火力であるが、そこから話を発展させてきた。どうやら、彼もこのイベントに何か感じる部分があったようだ。中々に鋭い。

 やはり、少し強引な開催だったことは否めないだろうか。そうハルが考えていると、続く言葉でそれとは少し違う方向性だと分かる。


「いやなに、緑プレイヤーが買占めやってるだろ。それがキナ臭いってな、一部では話題になってるんだわ」

「へー」

「へーって反応薄いなオイ! どうせハルも何か掴んでるんだろ?」


 掴んでいるが、決定的な部分では何も知らないのは同じだ。そこを、どう説明しようかと思っているところに、ハルとカオスの会話に入ってくる人影があった。


「あ、あの! 今の話、やっぱりそうなのでしょうか!?」

「お、勇者様」

「こんにちは、はじめまして。ハルです」

「は、はじめまして! 光栄です!」


 頭上のAR表示に目を向ければ、燦然さんぜんと輝く<勇者様>の異名。そんな皮肉めいた称号をつけられてしまった、フラッグだった。

 意思の強い眼差しはそれっぽいとも言えるが、服装などは現代風であり、“勇者感”は薄い。真面目な気質と、高い行動力のためだろう。


「その、今の話、やっぱりうちの国のプレイヤーが絡んでるんでしょうか。俺も、あまりNPCの生活に悪影響が出るのは良くないって言ってるんですが、聞き入れてもらえず……」

「いや、偶然じゃないですかね」


 しれっと。


「それか、暖房が品薄になるとこまで神様の仕込みかもですね。このイベントを開催する言い訳として」


 いけしゃあしゃあと。ハルは語る。


 実際はフラッグの語る通りなのだが、緑の契約者に向けて非難の声が集中する流れというのも、ハルの望むところではない。

 このイベント内でも彼らを見かけたが、その話が出たタイミングで、顔を青くしている様子だった。彼らがそこまで企んでのことでは無いのだろう。

 きっと、“言われた通りに買い物をした”だけなのだから。


「そう、なのですね。……分かりました、俺も、現地の人のために、このイベント頑張ります!」

「うん。頑張ってください。応援してます」


 やる気十分に、フラッグはアイテム集めに向かって行く。

 魔道具を組むのは彼にはまだ厳しいだろうが、そこそこ高レベルになった真剣なプレイヤーの収集力は、生産者の役に立つことだろう。


「……で、どうなんだハル。ぶっちゃけこのイベント、アイツらのせい?」

「うん。もちろん」

「だろうなー……、個人の行動の影響が大きすぎるぞこのゲーム。そこが、面白いとこでもあるが」


 プレイヤーの動きによって、世界情勢すら変わってしまう。こうした、その事後処理アフターケアも神様の役目だ。


 なんだか、どんどん自分が運営目線になっていくのを感じつつも、イベントの経過をハルは見守るのだった。

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