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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
第10章 ジェード編

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第322話 にゃうにゃう

 このサブタイトルはどうなのでしょうか(笑)。たまには、こういうのもあっても良いのかも?

「にゃんにゃん」「なうー」「くぁーー」「ぺろぺろ」「ぐし、ぐし」「にゃんにゃん」


「かわいいです!」

「おい、舌が濡れてないぞ」


「にゃう」「お目が高い」「あるいは?」「目ざとい?」「仕方がないのです」「舌を湿らせてしまうと」「この体に不調が出る」「機能も増える」「残念無念」「なうなう」


「機械だもんね……」

「……なるほど。猫のロボットなのね? それで、センサーには引っかからなかったと」


 ルナが納得する。続いてアイリも得心がいったという表情になった。この城や倉庫に張り巡らされていた魔法のセンサーは、生物用だ。

 生態情報や、魔力情報を感知するトラップ。故に、ロボットには反応しない。


 当然か。この世界には、機械仕掛けで動く人形、などというものは存在それ自体が頭にないのだ。

 無人観測機であっても、それは魔法を使っているのが当たり前。魔力にさえ警戒していれば、この世界では完全に安心してしまうのだ。


「にゃーん」「この世界」「猫に入れぬ所なし」「我々は体が柔らかい」「監視にスパイ」「お手の物」「猫の視線に」「ご用心」「一家に一匹」「いかがです奥様?」「にゃうん」


「ハルさん! 飼ってもいいですか!?」

「うーん、どうだろうね。まずはカナリーに相談しようか」

「はい!」


 本来、この国には呼び出さないつもりだったカナリーだが、ことが神様に関する事だ。彼女にも来てもらうことになる。

 天空城にも居るハルの分身を通して、こちらへカナリーを<転移>させてきた。


 予想外なことに、そのカナリーはこちらに来てすぐに、相対する黒猫の群れに敵意を向けるのだった。


「ごろにゃーん!」

「カナリー様! お手間をかけます!」

「ご機嫌ナナメねカナリー? おやつの途中だったかしら?」

「……いや、これは『ペットの猫ちゃん』枠を取られそうになって焦ってるんだね。新しい猫を威嚇いかくしてるんだ」

「そうですよー? ……まあ、今はもう、私もハルさんの奥さんに昇格した訳ですし? 余裕をもって対応しないとですね。お久しぶりですよ、メタちゃんー」


「ごろにゃん」「再会を祝そう」「幸運のカナリー」「望みを果たしたカナリー」「我々も喜ばしい」「導きのハル様に感謝を」「新たなマスターの誕生に」「機械神の祝福を」「ごろ、ごろ♪」


「そういう貴方は、人間になることに興味なさそうな体してますねー」


 確かに、ここに来て初めての人間以外の神様だ。神様はどれも人間を模した身体を持ち、その心も、カナリーやセレステのように人に近づいていた。

 なのでハルも、神の最終目的はカナリーのように人になる事なのだろう、と漠然と思っていたのだが、どうやらそれが全てではないようだった。


「僕ら向けの紹介だと、人型ロボットって感じの見た目だったけど」


「にゃうにゃう」「あれはあくまで対人用」「外交向けの我々」「人との対話は人の姿」「生物は別種に不寛容」「しかし人型ロボットも?」「それは人とは言えぬかも?」「万夫不当の鉄の体」「それは畏れを抱かせる」「しかし我々は機械神」「そこを曲げては名にもとる」「にゃうにゃう」


「悩みが多いんだね」

「大変ですー……」

「気にしなくて良いんですよ、ハルさん、アイリちゃん。こいつ、こうやってつまらないコト考えてるのが好きなだけなんですからー」

「自由なんだね」

「ねこさんですー……」


 この場に集まってきた多くの黒猫たちは、それぞれ自由なポーズでくつろいでいた。

 積み上げてある薪の上に陣取ってこちらを睥睨へいげいする者。地面に、べたーっ、と伸びて見上げてくる者。整列された薪の中、一本だけ抜けた穴に入り込み、満足げな顔で挟まっている者。

 ……それぞれ好き放題だ。しかし、喋るときは全体で同調し、交互に発言して一つの内容を組み上げている。


 これは、ある意味ハルの分身に近い存在なのかも知れなかった。


「それでー? 飼っても良いかでしたっけー?」

「はい! どうでしょうか、カナリー様!」

「んー、良いんじゃないですかー?」

「あら? 意外ね?」

「私じゃ、ハルさんの猫ちゃんには大きすぎますしねー」

「……別に、本気で君を猫扱いしたかった訳じゃないんだけど」


 しかし、こうして即断で許可が出るのはハルとしても意外だった。

 何しろ、この無害そうな猫はこう見えて『邪神』。外の世界に居を構え、このゲーム領域を攻めてくる敵対存在だ。


 それを気軽に身内に引き入れても良いと言われるとは、ハルも思っていなかった。

 神々全体では、友好的な立場の神様なのだろうか?


「ただし、この場でハルさんの支配下に入ることが条件ですけどー」

「あ、やっぱりそうなるか」


 ハルが甘い考えを抱いていると、さすがにそこは無条件とはいかなかった。黒猫のメタの方も、無条件にハルの支配下に入ることはすまい。

 どうやらここから、交渉が始まるようだった。





「にゃーにゃー」「実に甘美で」「魅力的なお申し出」「マスター様のお膝元」「きっと三食昼寝つき」「しかし我らは機械神」「外なる邪神、半端者」「敵か味方か、猫の者」「ならばいっそその身の内に」「獅子身中の虫を」「入れてみてはいかがだろう」「にゃーん」


「いや獅子身中の虫じゃ駄目でしょ。敵確定じゃん」

「結局、敵なのでしょうか、味方なのでしょうか……」

「そもそもメタちゃんー、どうやってここまで入ったんですー? 私が現役の頃なら、許可が通るようにはなってなかったと思うんですけどー」


 ここまで、というのはこの地下倉庫の事ではない。バリアに守られた、このゲーム世界へと侵入して来ていることだ。


 機械神の眷属は外から攻めて来ており、今もバリアが薄くなると、大量の飛行機械を送り込んできている。

 それを、ハルやシルフィードが外延部の領地に建設した街、その防衛塔をもって、打ち落としているのが今の情勢だ。

 ここ緑の国の郊外が次の予定地となっており、レイドボスが撃破され次第、そこも迎撃ポイントと化す流れとなるだろう。


「にゃうにゃう」「バリアが開いたその隙間」「我々はこっそり入り込む」「我らは体が柔らかい」「バリアの隙間、なんのその」「にゃうにゃう」


「いやその理屈はおかしいでしょう……」

「攻撃機の群れは一機残らず撃墜してるはずだけど?」

「ハルさんの領地はそうでも、シルフィードさんの方は隙があったのかもしれませんねー」


「にゃう」「にゃう」


 防衛塔が倒した機械はすべて魔力に還元され、そこには破片の一かけらすら残らない。

 襲来する機械の兵は魔法で作られている訳ではないので妙な話ではあるが、『襲撃イベント』としてゲームに組み込まれている為に、そうした仕様になっているのだろう。


 つまりは、この黒猫たちが侵入する隙など存在しないはず。そのはずであったのだが。


「まあ、理由はおおむね想像がつくよ。メタちゃん、君はここの神様と手を組んで、それで入れてもらったんでしょ」

「なんと! 体が柔らかいからでは、なかったのですね!」

「それはそうでしょう、アイリちゃん……」


 最初は、敵であった時のセレステと組んでいた彼(彼女?)だ。

 同じように、力を貸す代わりに、バリアの穴を開ける契約を、この地の神、商業神ジェードと結んだのだろう。


 本当にただの偶然で、この黒猫がここに居るとは思えなかった。


「にゃうん」「然り然りそのとおり」「この地の神は力が足りぬ」「ハル様を倒す力が足りぬ」「故にセレステも」「ジェードも」「我々に力を求める」「しかし我らもうかつだった」「セレステとの契約は門の開放」「開放されたその先で」「本人が門番となっていた」「うっかり」「うっかり」「にゃん」


「その反省を踏まえて、こうして内部に匿うことまで契約の一部にしたのね?」

「それで、メタちゃん様! その契約は、今も続いているのでしょうか!」


「言え」「ない」「にゃーん」


「ですよねー……」


 くつろぐ猫たちに、にやにや、とはぐらかされる。嫌味な雰囲気が出ていないのは、その可愛さの特権か。


 しかし、ジェードが外の神様と手を組んでいたと知れたのはハルにとって大きな収穫だった。

 今までは、『ジェードは直接攻撃では勝てないので、からめ手を使っている』、という前提のもとで推理していた。

 その前提が崩れ、外の神様と合同で攻めてくるとなれば、敵が取れる選択肢も増えてくる。


 ちょうど、対抗戦で本人が不在となっても、こうして警戒をしていられるように。


「という感じなので、ハルさんの支配下に入らないなら、飼っちゃダメですよー?」

「残念ですー……」

「カナリーお母さんは厳しいね」

「うちのお城はペット厳禁ざますよー。ぷんぷん」

「……この猫の様子だと、常に全員が同期しているもの。情報を流され放題だわ。ありえないわね?」


「にゃおん……」「残念無念」「さらば三食昼寝つき」「日当たりの良い天空城」「ここはお日様入らない」「にゃんにゃん」


「かわいそうですー……」

「同情でスパイを入れる訳にはいかないよアイリ」


 まあ、スパイと言っても、あの天空城では普通に生活しているだけなので、漏れて困る情報などは特に無いのだが。ケジメは必要だ。


 彼ら黒猫の体は機械で出来ており、ハルの侵食も通らない。これは、魔力や魔法に対し絶対の優位性を持ったハルへの、絶好の対策カウンターともいえる同盟相手だ。

 カナリーの言うとおり支配してしまえばそこで話は終了なのだが、魔法部分が一切無しではそうもいかない。


 こうして、余裕で腹を見せていても(実際に一匹が転がって腹を晒している)、ハルから打つ手は無い訳だ。

 ……余裕の表情が憎い。


「そういえばねこさん。あ、メタちゃん様!」


「ねこさんでも」「いいにゃん」「我ら邪神」「敵さんにゃん」


「……ねこさん! 三食昼寝つきは、意味あるのですかにゃん!」

「そうね? 身体は機械なのでしょう?」

「食べないし、寝ませんねー。残念ですねー。食事なし、休みなしの警備員ですねー」


「にゃん!?」「ごろにゃん!」「なんということにゃん!」


「取って付けたように、にゃんにゃん言うのは止めろ……」


 実際に機械の尖兵せんぺいは便利だ。ハルの世界では廃れてしまった機械だが、あの災害が無ければ、こうして機械の進化が進んでいただろう。

 ロボットボディにAIを搭載し、休まず眠らぬ体の兵士、その有利を役立てていただろう。メタは、その叶わなかった可能性がこの世界で花開いた完成系だ。


 しかしその彼らが、逆に食べては寝る自由な生活を語るとは、面白いものだった。


「にゃうにゃう」「我々も」「食べられる体」「出せますとも」「眠れる体は?」「まだ難しい」「やはり寝子ネコとしては」「そこが目標」「お食事の後は」「お昼ねしなくては」「にゃうにゃう」


「……じゃあ、これ食べる? ぽてとちゃんが釣って来た魚。釣ってすぐシメて、保存の魔法掛けたから新鮮だってさ」


 ハルは倉庫機能ストレージを通して、お屋敷に保管してある魚を取り出してみる。

 すると黒猫たちの反応は非常に素直であった。全員が、ぴくっ、とだらけた体に力を入れて目を見開く。


「にゃう!?」「お魚」「鮮魚だ」「しかし滅菌魔法は」「いただけぬ」「新鮮すぎでは」「芸が無い」「味に深みを入れるのは」「悪くなる一歩手前」「すなわち腐敗」「いや発酵」「にゃう!」


「……まーた通っぽいこと言ってー、この猫はー」

「じゃあ仕舞おうか」


「だめにゃん!」「食べるにゃん!」


 すぐに、その場に<転移>の反応が現れ、魔力の体を形作って行く。

 周囲の黒猫と同じ見た目。しかしその個体だけは機械ではなく、プレイヤーキャラのような魔法での構成だった。


 その猫はわき目も振らずに魚に飛びついてくると、がつ、がつ、と刺身をんでゆく。

 細かい文句を付けた割には、その様子は美味しそうだ。


「……ハル、ちょろすぎでは? この神様?」

「良いんじゃない、楽しそうで」

「ハルさん今ですよー、支配しちゃうんですよー」

「か、カナリー様! それは少々、かわいそうなのでは!」


 夢中で魚を食べている黒猫を、不意打ちで支配するのはさすがによろしくなさそうだ。

 それに侵食の気配を察すれば、魚を置いてダッシュで逃げてしまうだろう。ハルは伸ばしかけていた魔力の手を引っ込める。


 しかし、何もせずタダとはいかない。餌代がわりに、ハルは<神眼>でその体の構成を観察する。

 その不躾ぶしつけな人間の視線にも気付いてはいるだろうが、今はお食事が優先の黒猫だった。まるで気にも留めない。


 そしてもう一つ、ハルには気付いた事がある。

 この魔力体の黒猫は、<転移>でここへと飛んできた。<転移>には、現地に魔法的な視線が通っていることが発動条件に入っている。

 つまりは、ロボット猫のカメラアイでは、ここへ魔法を飛ばすことは不可能だ。


 ハルは食事の後ろで黙ってこちらを見据える、複数の光る瞳に、じっとその<神眼>を合わせるのだった。

 新たに「メタちゃん」が登場したことで、「メタ的な話ですが」、という語り口が使いにくくなってしまいました。思わぬミステイクです!

 どう言い換えるのが妥当なのでしょうね。「裏設定ですが」でしょうか。「裏話になりますが」、でしょうかね。いっそ開き直って、「メタちゃん的な話ですが」にしましょうか。


※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。(2022/8/29)

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