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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
第9章 カナリア編

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第290話 凪の中の戦艦

「というわけで、モノちゃんはこの石について知ってる?」

「んーん。知らない、よ? カナリーが知らないんだし、当然だよ、ね?」

「そっか。モノちゃんは最近までずっとお休みだったから」

「うん。ぼくは今の世情には疎い、んだ。でもこの船を造るときに、この世界の物質についてはたくさん調査したから、ぼくを頼ったのは大正解、だよ」

「頼りにしてるよ」


 日本での石の発見からいく日か。ハルは今、モノの戦艦へとやって来ている。

 これは、モノに会いに来たというのもあるが、主な目的はかねてより計画していたふじの国とヴァーミリオン帝国、その会談のためにある。


 距離的に非常に離れた位置にある両国。通常なら、会談にかかるエネルギー、時間なり資金なりは莫大なものになるだろう。

 ハルが<転移>で手伝うとしても、それは完全には解消されない。まさか直接、城なり何なりに<転移>で乗り付ける訳にもいかず、どこかしらの国境付近に一度飛ばす必要がある。

 それに、<転移>についてはあまり公にしたくはないハルだ。


 だが、今この世界にはこの船がある。船内の専用ショップで販売している転移石を使うことで、NPCであってもこの戦艦にならば自由に飛んでこられる。

 高額なアイテムだが、ハルにとっては問題にならない。それを両国に提供する事で、『ちょっと会議室まで行ってくる』、程度の気軽さで国を跨いだ会談が可能になったのだ。


 両国の代表、クライス皇帝とラズル王子は今その会議の真っ最中。

 立役者のハルではあるが、コトが国の機密に関する内容に及ぶために今は別室でモノと語らいながら待機中だった。


「その、モノ様。そういった話をオレ……、私に聞かせても問題ないのでしょうか?」

「ん? 問題ない、よ。もちろん、ハルが秘密にしたいことだったら問題だけど、そうじゃないみたいだし、ね」

「アベル、ガッチガチに緊張してんじゃん」

うるさい(うるせぇ)、いきなり部屋に神様が現れれば、そりゃこうもなるっての」


 そして、その部屋で共に談笑に興じているのがもう一人。いや、彼としてはまったく笑えない状況なのであろうが。


 今、この戦艦は瑠璃るりの国に停泊、いや着陸している。当然、現地のNPCであれば艦内に乗り込むことも可能であり、この国の王子、アベルもそうして視察中の一人だった。

 クライスとラズルを案内する際に鉢合わせ、彼らが会談中に情報交換でもしないか、とアベルに持ちかけられ別室に入ったところで、ハルの存在を感知したモノもここに現れたという経緯である。


「気にしないでいい、よ。ぼくは別に君の神様ってわけじゃあないから、ね」

「そういう訳には、まいりません……」


 普段はぶっきらぼうに、粗野な雰囲気を振りまいているアベル王子だが、緊張からか、王族として培った育ちの良さの下地が出てきてしまっている。


「<王>に連なる称号を持つ者は、ぼくらの神気の威圧を緩和できる、でしょ? そこまで固まる道理は無いはず、だよ」

「立場というものがございます」

「ああ、やっぱり王族ってオーラを軽減できるんだ。そうじゃないかと思った。クライスが人一倍ポーカーフェイスって線も捨て切れなかったけど」

お前(おめぇ)も、他国の<王>に対して気安すぎだろ……」


 つまり、無意識に人を威圧してしまうハルの神気も、このアベル相手にはさほど通じていないようだ。

 正直、助かる設定だ。気安く話せる間柄となった彼が、オーラに気圧されてまともに会話に応じられなくなってしまう、というのは少し寂しい。


「つまり、僕が友人になれるのは王族の人間に限られる、って訳だ」

「何様だっての! いや、今はハルも半ば王族様か」

「アイリの夫、ってだけで、実権からはほど遠いけどね」

「ぬかせ。その気になりゃ実権も握れんだろお前(おめぇ)

「ハル、ハル。ぼくも、友達、だよ。王族と神様を友達にできる、よ?」

「そうだね、ありがとうモノちゃん」


 モノの心温まる発言に、アベルが頭を抱える。本当に、何様なのだろうか。当方、友人関係は、王族と神族に限り募集しております。


「そういえば、アベルは何でここに? 見たとこ、何日か滞在してるって感じだけど」

「おう。国境クニの外に、強力な魔物が居るって話だからな。そいつの討伐に参加して、ほまれに預かろうってな。せっかくモノ様がこの国に来てくださってるんだ」

「モノちゃん。レイドボスってNPCも参加できるの?」

「うん。でも危険だし、NPC(きみら)には報酬は設定してない、よ。それでも良いの、かな?」

「構いません。これは私の国の問題。お心遣い、痛み入ります」


 国を脅かす強大な敵の討伐、それに参加することで、王族間の権力闘争を有利に進める。その目論見があるのだろう。

 NPCの場合は命に関るが、それも覚悟の上とあればモノも特に止める気は無いようだ。


「本当は姉上が出たがったんだがな。オレの装備の方が向いてるってんで、今回は譲って貰った」

「ああ、ディナ王女は、どっちかってと対人戦向きだもんね」

「おうよ。えげつねぇぜ、姉上は。あの高速飛行について来れる奴なんざそうは居ない(いねぇ)。ただ、デカくて硬いのはな」

「アベルの聖剣の方が向いてるね」


 ビーム砲のような威力の光の剣と、堅固な防御力を誇るバリア。それを両立するアベルの持つ遺産兵器。

 巨大ボスモンスターに対抗するには、確かにこちらの方が有効だろう。


「今は、NPC(きみら)用の回復薬もあるしね」

「ああ、あれが十分に用意できてりゃ、魔力の残量を気にすることなく戦えるってもんだ。今ならお前にも……、いや、無理か」

「無理、だね? ハルは武装ひとつでどうこうできるほど、甘くはない、よ?」

「はっ、肝に銘じておきます……」

「あれから、僕も強くなったしね」


 仮に、アベルの魔力が無制限になったとしても、今のハルなら剣光の直撃もガードできる上に、恐らくバリアも力押しで突破できる。

 ルシファーを出す、のはさすがにジャンル違いになりそうだが、高威力の魔法を連打すれば、恐らくは攻略可能だ。


そんな訳(んなわけ)で、今はオレの領地には姉上が行って、代わりに指揮をとってる」

「……おいおい。ウチの国に戦争しかけて来ないよねお姉さん? <誓約>に縛られてるアベルが居てくれないと困るんだけど」

「姉上もハルには恩がある。平気だろ?」

「個人の恩と国の利益は別なんだけどなあ……」


 瑠璃の国では、そのあたりの感情は切り離せぬものなのだろうか。武人の国なので、そういうこともあるのかも知れない。


「とりあえず安心しとけ。そんでヤバくなったらお前(オメー)が出ろ」

「戦争は嫌だって言っただろうに……」

「ハルが出てきたのが見えたら姉上も軍を引くさ。それに、オレの領地に行った理由の大半は、シルフィード達とナンかやる為らしいからな」

「へえ……、確かにシルフィーは最近はディナ王女と何かやってるみたいだけど」

「あの子はここにもよく来る、ね。常連さん、だよ」


 聞けば、アベルもシルフィードが購入したアイテムで、この戦艦内まで転送されてきたようだ。

 確かに、なかなか派手に動いている。いくら古参ギルドのマスターとはいえ、資金が足りるようには思えない。

 恐らく、ディナ王女が国としてシルフィードに強力なバックアップをしているのだろう。


「お姉さんの協力があったとはいえ、それを僕らの資金に変換するのは骨が折れただろうに、やり手のお嬢様だったか」

「モノ様、今日まさに二国も惜しみなく転移させてきた奴が、何か言ってますよ?」

「ナチュラルに上から目線、だね。ハルにとってはできて当然なん、だ」

「別にそういう意図は無いって。彼女が凄いことは事実でしょ」


 仮に、同じ条件で交渉ごとを始めたら、ハルを上回る成果をシルフィードは叩き出すかもしれない。

 ただまあ、無意識に持てる者の視点で語ってしまったのは、アベル達の言うとおりだろうか。反省する必要がある。


 そのような感じで、王族と神様、そしてハルといった微妙にいびつな集会が、会談の裏で続いてゆくのだった。





「ほお、それで二国に、その石の調査を依頼したと」

「アベル、聞いちゃった、ね。国家機密、だよ」

「お二人で喋っておいて、そりゃないですよモノ様……」

「アベル、めっ! だよ? 喋ったら、国際問題、だ」

「口外しやしませんって……」


 ハルの近況を、神の視点で日ごろのように色々と聞いてくるモノだが、その場に居合わせているアベルにはたまったものではないだろう。

 ある意味で、知らない方が良い情報を色々と得てしまっている、そんな気分なのかもしれない。


「せっかくだからアベルにも頼もうかな。これで共犯だ」

「犯じゃねぇっての! ……期待はするなよ? オレの国は、他と権力構造が少々異なる。オレの権力が届くのは、オレの命令系統の中だけだ」


 群雄割拠ぐんゆうかっきょ。<王>がトップなのは変わらないが、その下になると一気に命令系統が分散し、隣の系列にはもう威光が及ばなくなる。

 例外は、アベルとディナ王女のような協力関係の内のみだ。


 これは、この世界のように都市国家じみた街の分散スタイルにおいては、ある意味自然な構造とも言える。

 現代に通じる集権的な政治スタイルを敷けている他国の方が、特殊であり異常なのだ。そこは、現代の日本人に分かり易いようにとの神々の介入による影響なのだろう。


「それに、加工技術だ何だってのは、どうしても他所の国に一歩劣るしな。ラズルんトコに任しておけば(ときゃあ)良いんじゃないのか?」

「いや、この世界に存在するかどうかも分からないんだ。手は多いほうが良いよ」

「ハルの世界の石、だったか?」

「ちょっと違う。あ、口外無用ね」

「はいよ。しかし、お前の世界っての変なところだよな。魔力が無いんだろ? 神の国だってのに」

「うん。いや別に神の国じゃないけど」


 正確には、神の出身地だというだけだ。徹頭徹尾てっとうてつび、あそこは人の為の国である。


 だがしかし、変な所だというのはハルもまた同感だった。その理由としては、魔力の生まれる原因にある。

 魔力は、日本人がこの世界にゲームをしにログイン、精神を接続してくる事で発生している。つまり、日本人には確実に魔力を生み出す力が備わっているのだ。

 それなのに、日本にはハルのような例外を除き一切の魔力が存在しない。日本人は、魔力を生み出すのではなかったのか? そこが気にかかる。


 何故、生み出した魔力は全てこちらへ流れてくるのか、そこは未だに謎のままなのであった。

 作者体調不良につき、半端で終わってしまい申し訳ありません。

 明日がんばりますー。

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