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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
第2章 セレステ編

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第29話 三人称視点

「じゃあ、普通のハルもにあ」

「ハルモニアから離れて」

「ハル王国!」

「アイリは国から離れて!」


 王女による独立の気運が高まっていた。

 大丈夫かこの国。


「ハルが花なら、ユキと私と合わせて『雪月花せつげっか』に出来るのだけど。ハル、名前をハナに変えないかしら?」

「変えないよ……、春(イコール)花ってことでよくない?」

「ダメよ。説明をひとつ挟まなきゃいけないのは据わりが悪いわ」


 ルナには譲れないこだわりがあるようだ。ルナはなんだかそういった自分ルールが独特なことが多い。


 しかし名前を決めなければならない、というのは意識すると大変なものだ。

 名づけが適当な神様達の気持ちが分かった気がするハルである。そのカナリーにでも聞けば、いい感じの古代語を教わることが出来るだろうか。

 なんにせよ、否定しているばかりでは良くない。定番の『ハルと愉快な仲間たち』が出てくる前になんとか決めておきたいところだった。


「『カナリア』は? 僕とアイリはカナリーちゃんの部下だし。ここカナリーちゃんの土地だし」

「あー、それは駄目ですねー。使えないですー」

「使えないとかあるんだ」


 彼女に関係した話をすると、カナリーが出てくる。

 ずっと出ていればいいのに、とも思うが、そうするとアイリが緊張しっぱなしになるので今くらいが丁度良いのだろうか。


「ありますよー。特にいやらしいのは駄目なの多いです。そうしないと必ず付ける人いますからー」

「言えてる」


 どのゲームにも一定数いるものだ。ハルもよく見てきた。


「じゃあ、カナリーちゃん、古代語の中から良さそうな言葉教えてもらう事は出来る?」

「すみません、それも駄目なんですよねー」


 駄目なようだった。香り付け程度の要素かと思ったら、結構重要そうなもののようだった。

 そうなるとあの聖剣以外にも、やはり色々なものが出てきそうである。


「藍理騎士団」

「恥ずかしいでしゅぅ」

「アイリちゃん反撃されちゃいましたねー。でもそれも駄目なんですよー」

「ナイツオブゼニス」

「だめですー」

「今日のカナリーちゃんは意地悪だねえ」

「イジワルで言ってる訳ではないんですがー。そうですねー、お詫び変わりに、作成後に特典を付けてあげますよ」

「ありがとうカナリーちゃん。じゃあ早く作っちゃわないとね」


 名前の変更は効くようだ。ならば、とハルは先に外側ガワだけ作ってしまうことにした。

 しかし、そこで要求された条件に目を見張る。今までギルドを設立したプレイヤーが誰も居ない理由が明らかになった。


「ゴールド1000万は、まあ分かるとしても。HPMPを10万ずつって、なんでさ……」

「うわー、確かにそれじゃ誰も作らないよね。機能があればとりあえず作る人は必ず居るのに、変だとは思った」

「ギルドは魔力で作るのかしら?」


 HPMPの初期値は1000ポイント。なんとその百倍。

 ユキの言うとおり、やれる事があったらやってみる、というのが基本理念のゲーマー達でもおいそれと手が出せない数字がそこにあった。

 もちろん余裕が出来たら手を出す人は出てくるだろうが、今はHPMPは冒険に使いたい時期だ。大してメリットの無いものに大量につぎ込みはしないだろう。


「カナリーちゃん、こんなに大変ならギルドにもっと利点があっても良いんじゃない?」

「そうなんですねー。考えておきますねー」


 このゲームにはフレーバーを追い求める人が多いが、基本的にゲーマーは効率重視、メリットのあるもの重視で選ぶ傾向がある。

 そうした人にとってのご褒美となる要素がなければ、ギルド機能は流行らないだろう。別に流行る必要はなく、とりあえず用意しておいただけなのかも知れないが。


「でもハル君どうする? お金は私が出せるけど、HPは流石にきついよ」

「MPはハルがなんとか出来るのよね? <HP吸収>も用意しておけば良かったわね、ハル」

「まあ、持ってると使いたくなっちゃうから。脳死防止には良いってことで」


 脳死は何も考えずひたすら同じ行動を繰り返すことの揶揄やゆだ。

 <HP吸収>までも持っていたら、戦闘になっても全て吸収だけで片付けてしまいそうな予感がある。

 せっかくの魔法の世界だ。そんなやり方ではつまらなかろう。


「じゃあハル君これ。今月のお小遣い」

「わたくしも! わたくしもお小遣い用意します!」

「しまったわね。私も何か用意しておくべきだったわ」

「うかつだったね、ルナ」

「ハル君、スルーりょくを高めてるとこ悪いけど、アイリちゃんのは放置すると大変な事になるよ」


 勘弁していただきたい。本当に何か用意する前に止めなくてはならないだろう。


 ユキから設立用の資金が渡され、ギルド画面にチャージされる。

 話している間にも、ハルは少しずつMPをチャージしており、そちらの方はどんどん溜まっていっている。

 このようにMPだけなら育った<MP回復>と、<MP吸収>で神域の魔力を吸収する事で、10万であろうとすぐにまかなえる。だがHPとなると別だ。


「とりあえず私のをめいっぱいチャージするね。回復薬も全部使っちゃおう」

「私のも送るわ。雀の涙ね」

「回復魔法みたいのがあればねー」

「そういうの一切無いよね」


 HPの回復手段は今のところ回復薬しかない。自然回復もかなり遅く、あてに出来なかった。

 そのうえ一人が限界まで入れても1%少々だ。ルナ言うとおり雀の涙だった。


「ユキは大丈夫なのかしら。これからまた狩りなのでしょう?」

「ダメージ受けないからへーきだよ。ありがとルナちゃん」

「後はどうしましょうか。ゆっくり積んでいくのかしら?」

「いや、さっさと終わらせちゃおう。カナリー、神域の魔力って好きに使っていいの?」

「いいですよー」


 ならばやり様はある。少し試したい事もあった。

 ハルは眠っている脳の領域を起動し、意識を集中させる。





 <精霊眼>で天井の先を透視する。

 上空、この屋敷以上に高い建物など何も無い場所だ、もし屋根に登って仰ぎ見たならば、さえぎる物の無い空が広がっているだろう。

 ここの空は広い。リアルで見慣れた建物に切り取られた空とはまるで違うものだ。ハルの通う学園の付近にはあまり建物は無く、比較的広い空を見渡す事が出来るが、遠景にはビル群があり、なにより学園そのものが大きい。

 自然あふれるここの景色は好きだが、空だけはあまりに大きすぎてハルにはまだ慣れなかった。大きすぎるものは、不安を呼び起こすこともあるのだろうか。


 そんな空に流れるエーテルを幻視する。風も無いのにゆったりと流れ、大きなうねりを描いている。

 それを見ていると、空というよりも海の中に居るような錯覚も感じる。また不安感が出てきてしまいそうだ。飲まれないうちにやる事をやってしまおう。


「黒曜、目の構造をコピー」

「《御意ぎょいに。完了しました。送信します》」


 ウィンドウから黒曜の答えと共に解析されたデータが返ってくる。

 ハルのキャラクターの視覚を作り出す目の部分を、<精霊眼>で精査し、その情報をコピーする。非常に複雑だ。すぐに内容を理解する事は出来ないだろう。

 だが理解できなくても複製は出来る。コピーしたデータをそのまま貼り付けて(ペーストして)やればいいだけだ。


 そのデータを<魔力操作>で上空のうねりの中に貼り付けた。


「うわ気持ちわるっ」

「ハル? 何をしてるの?」

「目玉をコピーして空に浮かべてみた。視界がすごい事になってる」

「ハル君、キミの行動の方が気持ち悪いよ。新手のモンスターかそれは」


 空に浮かぶ目玉。確かに気持ち悪かった。確かそんなモンスターが居たはずだ、目玉に羽が生えたような。


 視界を飛ばすだけなら目玉そのものを作る必要はない。見える機能だけに絞ればいいのだが、それは今後の課題だろう。今は単純に目を増やせば視界も増えるのは朗報だった。

 人間の体と違い、視神経が脳に繋がっている訳ではない。目の中で全ての処理は終わっているようだ。

 意識のひとつをその目の方に移し、経路パス遮断カット。視界の混濁こんだくを解消する。


「ハル君、結局それは何してるの? 今回必要なのかな」

一人称(FP)ゲーで三人称(TP)の視点も使えるような感じ。必須じゃないけど、いずれ用意したかったし」

「ハルがよく言っているやつね。使えるようになったのね。アイリちゃん、気をつけなさい? お風呂に目だけ送り込んで覗かれてしまうわよ?」

「そ、その時は事前にお知らせいただければ助かりますです……!」

「やらないから安心して……」

「そうですかー」


 ルナはなんて事を言うのか。そして事前にお知らせすれば覗いてもいいのか。お知らせする事で何を準備するというのだろうか。

 非常に気になってしまうハルだが、思考の半数を動因してそれを押さえ込んだ。

──<透視>だと覗きは制限されるけど、この方法なら素通りなんだろうか?

 押さえ込めていなかった。


「今のままでも<精霊眼>で遠くの魔力も動かせるんだけど、やっぱり直接見たほうがやりやすいから」

「そうですね。見る、という感覚はわたくしでは分かりませんが、自分の近くであるほど干渉力は増していくものです」


 アイリたちの感覚でも同じであるようだ。

 ハルは上空に視点を移し、そこから神域の魔力を広範囲に渡って意識下に収める。

 そこから全力でMPを吸収していった。空気でいえば気圧が変わったような状態なのか、エーテルの気流が乱れ、渦を巻いていく様子が見て取れる。


「このMPをコストにしてHP回復薬を作ってそれでまかなうよ」

「うわ強引。想定してないでしょこれ」

「してませんねー。集まったギルドメンバーが少しずつ出し合う想定ですからねー」

「だよねー。でも目玉を飛ばす必要あった? ここでやっても同じじゃないかな」

「なんか魔力が渦巻いてるから。体に悪そうだし」


 家の中でやったらメイドさんの仕事にも支障が出てしまいそうだ。

 それにこの家にあるという、結界の魔法に不具合でも出たら困る。


 そうしてなんとか、強引にだがギルド作成は進んでいった。





「よし、でーきた。ちょっと疲れたね」

「はいはい! わたくし入れてもらいたいです!」


 ギルドの設立が完了する。

 アイリが真っ先に加入を表明してきた。よほど楽しみにしていたのだろう、これでNPCは加入不可だったら落胆させてしまうと思ったが、すんなりと加入は通って一安心といったところだ。

 ルナ、ユキも続けて加入する。


「ゴールドやアイテムを直接送れるんだ。これでハル君に貢ぐのも楽になるね」

「その攻撃、もう僕宛てじゃなくなってるからノーダメージだよ」

「名前は『銀の都』? ロマンチックねハル」

「素敵な名前です!」


 別にハルはロマンチックに名付けた訳ではない。“色”が駄目そうなので、これも通らないのだろうと思って試したら通ったので、そのままにしただけだ。

 アイリも気に入っているし、不都合が無ければこれで構わないだろう。ギルドの方針のようなものが決まれば、それに合ったものに変えればいい。


「カナリーちゃんは入らない?」

「入れませんよー。入りたいですけどねー、神様ですのでー」

「カナリんは顧問だね。顧問」

「なに部なのかしら?」

「銀都倶楽部」

「いいですねー」

「響きが部活じゃなくて秘密結社っぽい……」


 せめて気分だけでも、とギルドのマークをカナリーの紋章にした。これもNGが出るかと思ったが、これは大丈夫なようだ。基準が分からない。

 ハル達のステータスにマークと共に所属が表示される。


「私は入れないですが、メイドの皆さんを入れましょう。どうしても嫌だという人以外は全員入れちゃってくださいねー」

「カナリーちゃんから提案するのは珍しいね。アイリ、大丈夫かな?」

「もちろんです。すぐに集合させましょう」





 メイドさんが集められ、ギルドに加入していく。

 アイリは強く言った訳ではないが、断る者は居なかった。あるじと所属を同じくすることを喜んでいるようだ。

 主従の関係ではあるが、彼女らを見ているとなんだか家族であるようにも見えてくる。ここでの生活は長いのだろうか。


「さて、さっき言った特典がこれになりますねー。……皆さん見えますかー?」


 カナリーがぱちんと手を叩くと、メイドさん達に動揺が広がる。視線は一様にカナリーへと注がれている。

 彼女の姿が見えているようだ。その羽から、どんな存在であるかを察したか、驚きは収まらぬままにも深く頭を下げる。一糸乱れぬ、という言葉がぴったりだった。

──相変わらずプロ精神がすごい。


「というわけで、ギルドを通じて視点を統一しました。信徒になった訳ではないので例外措置になりますよー。ギルドを解除しないでくださいねー」

「これは助かるね。ありがとうカナリーちゃん。いずれどうにかしないといけないと思ってたんだ」


 最近はメイドさんがウィンドウを見れない事による認識の齟齬そごが増えてきた事にハルは悩みを覚えていた。渡りに船だったと言えよう。

 しかし急にどうしてだろうか。カナリーのハルへの優遇は今に始まった事ではないが、今回は少し毛色が違う気もする。何せ彼女の方から積極的にやってきた事だ。今までは何かしてもらうにしても、こちらから提案した事に乗ることが多かった。


「いえ、実はそこが問題でして、いずれどうにかされては不都合が起こる可能性があったというか」

「君にしては煮え切らない言い方だね。まあ、一応システムに介入する事になっちゃうのかな。確認は取ろうと思ってたよ?」

「いえ、そこは別にいいんですがー」

「いいのか……」


 それが良いなら問題とはなんだろうか。それ以上のものがあるのか。

 まあ、今は疑問の解決よりもメイドさん達への説明が先だろう。カナリーは答えられない事は答えてはくれない。

 ハルはアイリと共に、彼女らへあらましを説明していった。

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― 新着の感想 ―
空飛ぶ目玉モンスターもいましたが目玉を飛ばす◯者マン一平というアニメが昔あったなぁ… それは置いといてハルがトップの組織の王女様が入っちゃった!? これって一体どういう形態の組織になるんだろう…
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