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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
第9章 カナリア編

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第283話 日の目を見る発掘物

「おー、それで、これが埋まってた物なんですねー」

「うん。本当に埋まってるとか、びっくりだよね」


 ゲームで言えば、念の為にと、マップ上をしらみつぶしに『調べる』ボタンを連打していたら、本当にアイテムが見つかったり、イベントが発生してしまった気分だ。

 目的は達成したはずなのだが、どう反応すれば良いのか微妙に困る。


「カナリーちゃん、これ見たことある?」

「ありませんよー? そもそも当時の私、“見る”機能は付いていませんでしたからー」


 あの地下室の、みっしりと詰まった壁の中。わずかな気泡の存在を感知したハルは、魔法で密室の壁を砕き、そこまで掘り進んで行った。

 出てきたのは、しっかりと梱包された一抱えほどの物体。気泡は、梱包材の内部にわずかに存在する空気だった。

 ハル達は、発掘したその物体を持って、お屋敷へと戻って来ていた。ルナ達は今は休憩中、ハルの隣にはカナリーひとりだ。


 反エーテル塗料のべったりと張り付いて固まった包みをほどいてみると、中からはひとかたまりの大きな石が姿を現す。

 別に、神秘的な宝石だったり、巨大なメモリークリスタルだったり、角が直角に整えられた直方体モノリスだったりはしない。

 ただの、どこにでもありそうな石だった。


「多少、形が整ってる程度かな?」

「逆にハルさんは、見たこと無いんですかー?」

「無いね。当時はエーテルネット存在しなかったし。あれが無きゃ当時の僕は、ただの人形」

「なぞですねー」


 ひとまず、巨石を床に置いて二人で眺める。決してエーテルに触れないように隔離されていたものだ。念のため、そのままネットの無いこちらへ持ってきた。

 ナノマシン(エーテル)に触れ、エーテルネットに接続してしまっては、何が起こるか分からない。


 が、出てきたこの石をじっくりと見るほど、どうしてあれほどまでに厳重に固めてあったのか、謎に思うばかりである。


「実は岩なのは見た目だけでー、その実態はナノマシンの集合体だったりー」

「まあ、ナノ技術の研究所だったしね。ありえないとは言わないよ」

「きっとそれが現代のエーテルに触れると、一気に増殖して凶暴化するんですよー? こわいですねー?」

「鉱物生命かっ!」


 ツッコミつつも、少しときめくハルだった。

 人間の細胞のように、大量のナノマシンが集合して群体ぐんたいとなり、生物としての形を構築する存在。

 ナノマシン生命体。それは、エーテル技術が全盛の現代でも、実現不可能な夢物語だった。

 ハル自身が、最もそれに近い存在であるとも言えるが、ハルも人間としての体をベースにせねば存在できない。


 そんな、未知の生命体にはロマンを感じてしまうハルだ。ただカナリーの言うように、急に暴れ出されては困ってしまうが。


「……まあ、その可能性は、こうして簡単に否定されちゃった訳だ」

「コピーできちゃいましたねー」

「分かってて言ったでしょ、カナリーちゃん」

「まあー、どう見てもただの岩ですからねー」


 持ち出してきたその石を、<物質化>によってコピーを試みるハル。すると石はなんの抵抗もなく、二つに分裂した。

 生命に分類されるものはコピー出来ない、という制限がある<物質化>だ。逆説的に、これが鉱物生命体などではなかった、と証明される。


「説明書でも付けておいて欲しかったね」

「よっぽどおっかなかったんでしょうねー」

「危険な物なら、なおさらだよ……」

「ただの石ですからねー。うっかり、危険な手順を踏んでしまうかも知れませんー」


 あの地下室、この石の存在を含めて考えれば、どう見てもこれを埋める為の場所だったのだろう。

 だがこれ自体は何の変哲も無いただの石。そのアンバランスさに、疑問がつのるばかり。いったいこれのどこが、厳重に隔離しなければならないほど危険な存在なのだろう。


「カナリーちゃん。詳しい組成とか分かる?」

「そういうのはハルさんの方が得意じゃないですかー?」

「僕はエーテル使わないと、どうもね」

「何かに繋がっちゃったら危ないかもですもんねー、ではー、ほいっと」


 カナリーが、むむむ、と眉根を寄せて難しい顔を作る。ただいま解析中だ。

 真面目な顔を作っているつもりなのだろうが、カナリーがやると可愛い印象が優先され、難しさの印象を出すことには失敗している。

 しばらくそのかわいい顔を、手を伸ばしそうになる衝動を抑えながらハルが楽しんでいると、やがてカナリーは目を大きく見開いて完了を告げた。


「わかりましたー」

「何かわかったのかな?」

「普通の岩だと、わかりましたー」

「まあ、そうだと思ったよ」

「ただ、磁気が平均を逸脱して高い鉱石ですね。これは形成の核となった小石程度の粒が原因と思われますー」

「ふむ?」


 カナリーの解析によれば、石の成長過程において最初の一歩、核となった鉱物が周囲に見えている普通の石とは違うらしい。

 それによって、高い磁気が検出されているとか。


 ハルは試しに、あの廃病院への道中、山の中で取ってきた比較用の石も解析して比べてもらうと、高い確率で同じ産地の石であるようだ。


「つまり、封印されてた石は、一応ちょっと変わった石だけど、」

「でも、研究所の付近で採れた物には変わりない、と考えられますねー」


 二人でここまでの推測を仮結論して、そしてふたりして首をかしげる。

 本当にただの、普通とどこも変わらない石ではなくて良かったとも言えるが、その変わった部分が平凡すぎる。

 ちょっと他より磁性の高いだけの石を、あんなに仰々しく封印する意味とは、一体なにか?


 二つに増えた石をじっと見つめ、しばしふたり、その場で呆けるのだった。





「まあ、ひとまずおやつにしましょうかねー?」

「カナリーちゃんはマイペースだね。まあ、分からないこと考えてても仕方ないよね」

「はいー。脳に糖分補給して、思考力アップですよー!」

「脳、ないじゃんキミ……」


 ただおやつが食べたいだけの彼女である。

 この先、どうやら人間になることを企んでいるらしいのだが、人間になってもこの食べ方では、少し問題ではないだろうか。

 その際は、この愛らしい少女がぷくぷくと太らないように、少し注意してやらねばと思うハルであった。


 おやつを運んできてくれるメイドさんの邪魔にならないように、ハルは無駄に増やした石を消去し、オリジナルも倉庫空間ストレージへと入れようとする。

 だが、少し考えてそれは思いとどまり、邪魔にならない場所へ<念動>で運ぶだけとした。


「しまわないんですかー?」

「ああ。ストレージには今、例のAI入りクリスタルが居るから、変に接触しても困る」

「何も起きないとは思いますけどねー。一応ですねー」

「そう、一応」


 科学的な視点では、何か特別な反応など起きようも無い組み合わせだが、もうこの世界には魔法が存在していると知るハルだ。

 ハルの知らない何らかの魔法オカルト的な要素が、この石に介在していないとは言い切れない。

 まあそれは、カナリーが『ただの石だ』と言っている時点でほぼ無い話だが。


「……いや、岩石の構造が、“偶然”魔法の式を描き出しているって可能性もある」

「メモリークリスタルのようにですかー? ないですってー」

「ないかー」

「しかし、そうして見るとクリスタルの方がよっぽど魔法じみてますねー。まさに結晶構造が式を描いてるじゃないですかー?」

「まあ、古い時代の解析だったら、あのクリスタルだって『科学的にはただの石』、だよね」


 トワイライト・メモリー・クリスタル。結晶構造がデータの羅列を表す、まさに人類の科学の結晶だが、読み取る技術が無ければ、構造的にはただの綺麗なクリスタル。

 だがその実、そこに膨大なデータが保管されている様はまさに魔法だろう。


「……いや、構造で言うなら磁気ディスクだって似たようなものか。クリスタルだって別に特別じゃない」

「そですねー。前時代でも、凄いというより、『無用の長物』扱いされてましたもんねー」


 運ばれてきたお菓子を、美味しそうにぱくぱくしながらカナリーは言う。

 ハードディスク等の記録媒体に慣れきった当時の人間には、残念ながらクリスタルも魔法のような存在には映らなかったようだ。『記録する物が変わっただけじゃん?』、といったように。

 再現不可能ロストテクノロジーとなった現代だから感じる、再評価である。


「磁気ディフクふぉいえばー」

「カナリーちゃん、飲み込んでからしゃべろうね」

「《磁気ディスクといえばー》」

「こいつ……、食べながらウィンドウを使って発声を……!」


 そうまでして食べることは止めたくないらしい。恐るべしカナリー。

 ……これは、お行儀が悪いと指摘するべきか否か。迷ってしまうハルだ。マナーというものは、基本的に後づけ。不都合があり、それを是正するためのもの。

 今回であれば、口の中の物が見えたり、飛び出たりするのを防止するところが大きいだろう。

 その点で言えば、カナリーの対応はそれを完全に克服していると言えるのだ。


「《ハードディスクって災害当時も現役でしたよねー》」

「そうだね。まだそれなりの数が使われてたらしいよ」


 ハルがそんな、とりとめも無いことを延々と考えているのも気にすることなく、カナリーは話を続ける。

 磁気の話ということは、先ほどの発掘した石の方の話題だろう。


「《実はあの石がー、世界中にちょー強力な磁気をばら撒いて、災害に原因になったとかー》」

「いや無いでしょ……、どんな磁力だっての……」


 磁気ディスク、などとは言っても、構造上かなり磁気に対して強い。

 そのハードディスクに一斉に損傷を与えるほどの磁力が地球全土に発生したとすれば、ハードディスクどころか人体や、地球そのものへだって影響が出そうだ。

 まあ、それだけの磁気を発すれば、磁気ディスクどころか機械全般がおかしくなりそうだし、大災害には間違いないだろう。


「一応、原因自体は電磁パルスだって結論は出てるからね。それは無さそうだよ」

「良い仮説だと思ったんですけどねー」


 良くは無いが、なかなか面白い発想だった。ほぼ冗談なのだろうが、そんな荒唐無稽こうとうむけいな説がカナリーの口から飛び出したことが愉快なハルだ。


 そして、与太話なだけではなく、重要な視点をハルに気づかせてくれた。


「……まあ、磁気はともかく。あれだけの封を施すって事は、それだけの“何か”があったんだよね」

「はいー。そして真っ先に思いつくのは、時代の転換点となった災害ですー」


 災害の要因は、当時の機器をナノマシンで調査した結果明らかになったが、その原因は未だ謎のままだ。

 テロだとか太陽フレアだとか、果ては超新星爆発のガンマ線バーストがかすめただとか、色々言われているが証拠は無い。その瞬間には証拠を取るべき機器が、軒並み破損していたからだ。


 その中でも、エーテルを普及させるための研究機関の陰謀、という陰謀論はよく耳にする。動機の上でもしっくり来る話だ。

 しかしながら、当事者であるハルはそれが事実無根だと知っている。

 少なくとも、あの石が災害を引き起こした恐るべき元凶、という線は無さそうだ。


「そんな超兵器だったら、埋めてる場合じゃ無さそうだしね」

「キッチリこなごなに砕かないとですねー」


 カナリーも、もうその説には拘っていないようだ。ただの茶飲み話か、それとも、ハルを誘導しようと気づきを与えているのだろうか。

 なんとなく、懐かしいような感覚だ。最初のころは、禁則事項として口に出せない事象に、ハル自らが気づく事によって到達させてくれていた。


 最近はハルのアクセス出来る情報も増え、世話を焼かずとも良くなる事が増えたが、当然ハルも全てをつまびらかに出来ている訳ではない。

 ここは、ヒントを与えられていると仮定して考えてみよう。


「……整理してみよう。地中に、そして反エーテル素材の内部に埋めた。そこに意味があるとすれば?」

「ハルさんが最初に言っていた通りじゃないですかー? ネットに繋ぐと、何かが起こるー」

「ネットに、なのかな? ナノマシンに、じゃなくて?」

「わかりませんー。その時は私、居ませんでしたしー」


 そう、そしてハルも当時は自我が未熟だった為、封印時の記憶は無い。


「……いや、重要なのはカナリーちゃんが居なくなった後なのは確実、って部分か」


 あの部屋に保管されていたクリスタルの内部は、ほぼ空っぽの状態で扉は閉じられた。つまりは、カナリー達がこの世界に来た後の事だと言える。

 解析した情報の一部からも、それは明らかだ。

 つまり、AIの謎の消失、という重要事件も、封印に関わっている可能性が考えられる。


 災害とは比べるべくも無いが、重大な事故だ。異世界へと飛んだ事が確認できていたかは定かではないが、それでも危険な内容。

 なにせ、ネットに繋いだデータが丸ごと損失。ヒトの意識を直接繋ぐエーテルネットだ。同じ現象がヒトで起これば、それは意識不明や死亡となる。


「じゃあ、カナリーちゃんがこっちに来た原因が、あの石にある……?」

「分からないですー。ですが私が居た時代で思いつく重要事項は、そのくらいですねー」


 これもまた、荒唐無稽。一体どうして、ただの石がそのような転移現象を引き起こすというのか。

 しかし、もしカナリー達がこちらへ転移してくる原因の手がかりになるのであれば、そこは何としてでも調べておきたいハルであった。

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。「ナナマシン」→「ナノマシン」。

 ななましん。間抜けなミスですが、なんだか可愛い響きだとおもってしまいました。

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