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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
第8章 セージ編

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第277話 彼の色

 この周囲、地下を含む半径一キロの何処かへ潜んでいるセージ、それを炙り出すには大まかに二通りの方法がある。攻撃か、探査か。

 そのうち、攻撃には色々と問題が多い。

 範囲全域を巻きこむ威力を用意するのが難しいこと。僕らがその威力を防御するのが難しいこと。そして環境被害が甚大すぎることだ。


「なので当然、僕らの取る選択は探査になるんだけど」

「ぜんぜん見つからんよねー。<千里眼>にも、何も映らぬ」

「私もね。おかしくないかしら? 体が魔力で出来ているのなら、浮き出たシミのようにハッキリ見えるのでは?」

「そこは、神の力によるものと思うしかないのではありませんか? わたくしも、何も感じられずお役に立てません……」


 <神眼>をはじめ、魔力視のスキルを持つ三人と、魔力を感じられるアイリ。四人で周囲を探すも、それらしい反応はまるで見られない。

 周囲に魔力が存在しないこの土地。魔力があればルナの言うように余計に目立って見えるはずだが。


「やっぱり地下じゃない? ハル君も物質で遮られると弱いんでしょ?」

「まあね。でも視界が通らないだけで、魔力の有る無しはちゃんと分かるよ」


 ただ、やはり密閉された所は弱い。それを補うための最も有効な方法は、自陣の魔力で周囲を満たしてしまう事なのだが、セージ相手だとこれも問題だった。

 彼は、何故か僕と同様に黄色の魔力を使用することが出来る。

 そのため、この地に魔力を満たしての探査サーチは、相手への魔力の供給になりかねないのだ。


「……一応、黄色の魔力を全域に放出すれば、位置の特定自体は出来るんだよね」

「使われてしまうの覚悟で、それでも位置を探るのね? ……相手の、狙い通りにならないかしら、それ」

「たぶんそう。僕らの取れる現実的な方法と言ったらそれだからね。セージが隠れて何を待っているかといえば、魔力を出してのサーチだろう」

「吸い取って、自分の力にしてしまうのね?」


 まるで、さっきの模擬戦の初期でやっていた事と同じ。セージは攻め続けているにも関わらず、僕らばかりが魔力を消耗する。

 これが、彼の得意とするパターンなのだろうか。ずいぶんと、先を見据えた戦略的な手を使う。いったい誰と戦争しているのか、と思うほど資源にこだわりがある。


 恐らく、それでも彼に勝利することは出来る。いかに黄色の魔力を利用したり吸い取ったりできるとはいえ、それは最大の優位性アドバンテージである“居場所が分からない”という状況を捨てての行動だ。

 時間と魔力は掛かるだろうが、最終的には僕が勝つはず。


 ……いや、なんとなく、それすら織り込んでの行動のようにも思える。

 自分が敗北してまで、僕に、いやカナリーに魔力を消費させることがそこまで重要なことなのだろうか。


「髪の毛がらみの確執だとは思うけどね」

「髪の毛って……、女の子じゃあないんだから」

「甘いぜルナちー。男の子だって、髪を弄られれば怒る。知らんけど」

「人によるね」


 彼は、『強引に髪を染められ』、また『カナリーが参戦したら敗北する』関係だ。

 関係性で言えば支配されているのに近いのだろうが、納得がいっている訳ではない様子。なのでこうして、カナリー本人と関わらない所で、彼女の力をぎにきている。


 彼の行動の端々から、動機が何となく掴めたが、それでも厄介さに変わりはない。

 僕らはカナリーに頼らない方法で、セージを発見し、そして打倒しなければならなかった。





「まあ、実は攻略法はハッキリしてるんだけど」

「うおう……、今までの絶望感はなんだったのさハル君……」


 ユキが操縦桿そうじゅうかんを握ったままがっくりとうなだれる。セージの行動から彼の目的を推察していただけで、僕は広域破壊も黄色の魔力放出も、どちらの選択も取る気はない。

 有効な対策となる行動は、先の模擬戦で既に実行済みだ。


「黄色が吸われてしまうなら、僕色の魔力で埋めてやればいい」

「ハル君色って何色?」

「《黒でしょう。全てを飲み込む漆黒。ハル様にふさわしい》」

「アルベルト、君それヴァーミリオンの兵士にも言ったでしょ。ややこしいし恥ずかしかったんだけど?」

「《これは失礼》」


 何色かはともかく、この都市を包む魔力は『ハルの所有物』として定義されている。無色でも、黄色でもない。

 そのハル色で埋めてしまえば、探査は可能になり、しかもセージには使えないという、一方的に有利な状態が出来上がる。


「ただ問題があってさ」

「どんな?」

「死ぬほど消費がかさむ上に時間もかかる」

「うわぁ……」


 黄色の魔力であれば、神域に居るカナリーを通して、ただ体から放出すればそれで良い。

 しかし、僕の物として定義付けられた魔力を作るには、まず無色フリーな魔力を発生させて、それを侵食し我が物とする工程が必要になる。


 フリーの魔力は黄色と違って発生させられないし、侵食には非常に時間が掛かるという二重苦だ。

 一応、朗報として、先ほどの防衛戦の時に侵食してみたところ、黄色く染めるよりも非常に楽にハル色に支配できた、という事がある。

 一応他人であるカナリーよりも、自分の色を定義するから楽なのだろうか。


「フリーな魔力は持ってこれないのかしら」

「僕が外に分身を作れれば、何色でもない場所から取って来れるんだけど……」

「そう、“戦闘エリアから出る”判定になるのね?」

「《私が神域の外まで飛んで行きましょうかー?》」


 相談をしていると、カナリーが割り込んできた。確かに、彼女に黄色の魔力の外に出てもらえば、それが手っ取り早く済むのだが。


「いや、やっぱりいいや。カナリーちゃんは渦中の人物だし、じっとしてて。僕らでなんとかするよ」

「《おー、親離れですねー。成長しましたねー?》」

「……今この瞬間もメイドさんにお菓子作って貰ってる人が親を語らないのー」


 とはいえ、彼女の言うことも一理ある。これまでは、ずっとカナリーの存在に頼った戦闘が多かった。

 いざカナリーが頼れないとなると、心細いのは確かだ。

 ……だからといって、カナリーを親だとは思えないのだが。


 まあ、それはともかく、行動に移そう。僕はルナの作った都市へとルシファーを下ろすと、魔力炉に対してNPC用の回復薬を次々と使用し飽和させる。

 生成された魔力は街を包む魔力の外周へと流れてゆき、それを僕が侵食することで所有権を定義する。


 やはり、侵食が早い。練習不足もあったとはいえ、梔子くちなしの国、その首都を黄色の魔力で飲み込むには一月ひとつき近く掛かったものだ。

 それを今は、かつてのカナリーがセレステにやったように、目に見える速度での侵食が進んでいる。

 意識拡張により思考力、計算力が上がっている影響もあるだろう。


「これじゃあ、材料になる魔力が不足するかな」

「《魔力は一度何かに使えば、色落ちしますよー?》」

「お洗濯なのです!」

「私が魔法をどんどん使って、その残滓ざんしを搾り取りましょうか?」

「さすがに効率悪すぎだね」

「はいはい! 私に<拡張>スキル使いまくって、腕を切り落とす!」

「さすがにスプラッタすぎ! 僕が嫌だよ!」


 ユキはなんという発想をするのか……。

 確かに、一度魔法なりプレイヤーの体なりを通した魔力は、それが崩れた際には無色になる。いわば、“魔力洗浄(ロンダリング)”といえる手口だ。

 しかし、ユキの腕を次々と切り落とすなど、いかに効率のためとはいえ僕には出来そうもない。


「《発想は良いんですけどねー》」

「……やるなら僕がやるよ。僕の分身を、」

「それはわたくしが嫌です!」

「そうだぞーハル君。人の気持ちを考えるんだ!」

「……ユキはどの口で言ってるのか」


 彼女の口をぐいぐい引っ張ってやりたい衝動にかられるが、戦闘中なので我慢する。

 敵がまるで襲ってくる気配を見せないので、戦闘中であるということを忘れそうになっているようだ。油断は禁物。


「ああ、ユキで思い出した。アイテム集めしようか」

「あーあれね。ハル君が採取スポットを魔力で生み出して、私が叩く」

「面白そうね? その叩く役を、私が魔法でやれば一石二鳥よ」

「わたくしは、引き続き炉にを投げ入れるのです!」


 結局、僕らが取った方法は、黄色の魔力をアイテム採掘用のポイントに変化させ、それを砕いてアイテムを集めながら無色の魔力を増やすという、およそ戦闘中だと思えない方法であった。





「《ハルさんー。苦情が来てますー。プールしてる魔力を使いすぎだとー》」

「む、もう来たのか。まだまだ使い切れないほどあるように見えるのに」


 そうして戦時にそぐわぬ和やかな雰囲気で作業を進めていると、カナリーから他の神々からの苦情を伝えられる。

 僕やルナが<降魔の鍵>などで接続しているのは、神々が活動用に貯蔵プールしている魔力。それを使い放題に使っては、それは苦情は来るだろう。


 魔力炉に使用するNPC回復薬は高額だ。いかに僕とて、手持ちのゴールドで半径一キロを埋める魔力は発生させられない。

 それゆえ、<降魔の鍵>を各種生産スキルに接続して、作った普通の回復薬などをショップへ売却し、購入資金を得ていたのだが、いささかやりすぎだったようだ。


「私の<鏡面の月>かも知れないわ? 私の魔法の方が、消費は激しそうですもの」

「その前にさー、苦情は敵の自作自演では? このままじゃ追い詰められちゃうからーって。どうなのカナちゃん?」

「《いえー、苦情はオーキッドですねー》」

「あんの偏屈……」

「確かに、消費に厳しいイメージがあります……!」


 研究者であるウィスト、魔力の無駄遣いには一言物申さねば気が済まないようだ。

 精神が昂ぶっている今、このまま再び奴にも宣戦布告してしまおうかと物騒な考えがよぎるが、衝動的すぎる行動は慎もう。

 僕とルナはプールへの接続を切り、手持ちのNPC回復薬で済ませる事にする。


「別に、戦艦ショップを通して元通りになるんだし、良くないかな?」

「《あれはモノちゃんの方へ流れちゃいますからー、口座が別口ですねー》」

「なるほど。僕は皆の資金をモノちゃんに貢いでた状態なのね」

「《どのみち、戦艦まわりはこれから消費がかさんでくるから良いと思いますけどねー》」


 それでも、正式に承認された資金の流れでなければ落ち着かないのだろう。気持ちは分かる。


 しかし困った。経路の一つを絶たれてしまっては、ただでさえ長い時間が余計に掛かってしまう。

 このまま、和気藹々(わきあいあい)と、アイテム集めをしながらフィールドが埋まるのを待っては挑発以外の何ものでもないだろう。

 ……いや、挑発に乗って出てきてくれれば、それはそれで構わないのだが。


「カナリー様の魔力ですが、そのままハルさんが侵食できないのですか?」

「《できますよー。私も、セレステの魔力を侵食してたようにー》」

「そうなんだけど、今の僕には少し難度が高いかな」

「《だめですよー? 面倒がっちゃー。何事も挑戦ですよー》」


 面倒がっているのではなく、実戦でいきなり挑戦するリスクを避けているだけなのだが。まあ、彼女の言うとおりだ。何事も挑戦。

 僕は放出したカナリーの魔力をロンダリングせずに、そのまま侵食を試みる。

 やはり、支配権の確立された他人の魔力はなかなか侵食が進まない。カナリーがやるようにはいかなかった。


 あの、セレステの神域の魔力を強引に侵食しきって見せたのは、今思い出しても圧巻だ。

 セレステとの戦いの時は、ひび割れに水がしみ込むように、接触面積を増やすことでどんどん速度が上がっていったのだったか。


「……なるほど、僕もカナリーちゃんの真似してみようか」

「《そのいきですよー?》」


 僕は一時、彼女らとの会話を中断し<魔力操作>に意識を集中する。

 都市の魔力圏の表面を、マンデルブロ構造のように作り変え、フラクタル図形に似た形状を描画してゆく。

 意識拡張によって得られた、膨大な計算力の賜物たまものだ。


 それにより恐ろしいまでに表面積の増した外周部に、カナリーの黄色の魔力を這わせてゆく。


「うあぁ……、確かに速度上がるけど、広すぎても無理だね。頭痛い。僕の侵食力の限界を超えてる……」

「うわぁ、はこっちのセリフだよハル君。なにあの形。キモいんだけど?」

「誰も無限に表面積を広げなさいと言っていないわ……」

「なんだか、うねうねしてます!」


 アイリにはよく分かっていないようだが、構造が視認できるスキルを持ったユキ達には大不評だった。

 まあ、確かにフラクタル図形は見ていると不安になってくるのも分かる。


「ただ、着想は得られた。僕の限界値も分かったし」

「限界値ギリギリで侵食を続ける、ということかしら?」

「いや、ここの魔力圏の表面を、触手のように伸ばしてそれで探査する」

「うわぁ……」


 早速、実行に移そう。僕は魔力を針のように、表面から全周囲に向けて鋭く射出する。

 そして、その間を縫うように、ジオデシクドームの層を形成し、次々と隙間を埋めて行く。格子こうし状にスカスカになった魔力圏は、結界のように戦闘エリアの全域を確保した。

 まるで糸に触れれば警報の鈴がなる鳴子なるこだ。


 その鳴子に、反応する物があった。


「ミぃツケタ……」

「やりました! ぶっとばしちゃいます!」

「二人とも、顔が怖いわ?」


 少々、興奮して顔がホラーじみてしまったようだ。アイリも、カナリーの魔力を勝手に使う者に怒りを感じている様子。

 その反応があった地点に、僕らはルシファーを走らせる。

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