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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
第8章 セージ編

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第272話 守るに難儀する飛び地の領土

「それで、強化というのはどういった方式になっているの?」

「“現物を強化”みたいだね。強化は行ったその部分のみ、同種の防衛が全て同時に強化、とはいかないみたい」

「そう。ケチなのね? それは、やはりこの世界のルールゆえかしら?」

「かもね。一律強化で、初めから強化済みの物を建てられたら魔力的に赤字になるのかも」


 しかも、壊されたらまた最初からレベルの上げなおしのようだ。なかなかにシビア。


 レベルアップには、当然ながらゴールドや素材を要求され、施設の数だけそれは必要になる。

 これは、ハルだから良いものの、一般的なプレイヤーだと大量の施設を強化する素材がまず足りず、しかも壊されてしまったら払い損では、なかなか手が伸びないだろう。

 終わったら緩和を提案してみた方がいいかも知れない。


 とりあえずハルの場合は備蓄に任せてゴリ押してしまえるので、現在稼働中の施設から順にレベルアップさせて行く。

 すると、徐々に趨勢すうせいはまたハル達の方へと傾きが戻り、小鬼も翼竜も完全に水際で食い止められるようになった。

 射程も延びたため、むしろ先ほどよりも前線を後退させた形だ。


「このまま、財力に任せて無限に強化してしまいましょう?」

「無限には出来ないんじゃないかなかなあ。強化にも待ち時間(クールタイム)かかるし」


 レベルが上がるごとに、強化に掛かる時間も増えて行く、良くあるシステムだった。

 最初のレベルのうちは一瞬で終わるが、このタイプはレベルが上がるほど倍倍に時間が増して行くのがお約束だ。


 稀にだが、無制限に施設なりキャラクターなりが強化可能なゲームもあったりする。

 過去に、そこをやりすぎなゲームがあった。キャラクターを雇うタイプで、そう難しいゲームでは無かったのだが、やりこみ要素が非常に充実していた。

 なのでハルとしては勿論、十二分にやり込んでしまったのだが、その時は少し強化しすぎた。

 最初期から居る近接攻撃しか出来ない剣士がいるのだが、それを無制限に強化しすぎた結果、その場で剣を振るだけで画面全体に攻撃判定が達してしまうようになったのだ。

 攻撃速度も尋常ではなく、0.1秒(コンマ)以下。仮にこの場にその剣士を置いたとすれば、小鬼も翼竜も数秒のうちに全滅させられるだろう。


 余談であった。このゲームでは、そうは行かないだろう。きっと現実的なレベルで打ち止めだ。

 ゲームバランスもそうだが、物理法則の限界があるためだ。このゲームは魔法で作られている。法則の範囲内でしか、強化できない。


 思考を現状に戻そう。ハルは空を見上げるルナと共に、依然として魔力圏を食い荒らす翼竜を観察する。


「……都市表面の魔力を持って行かれるのは、有利になっても変わらないのね?」

「撃破速度が増えて、回収量は上がったから、総量はじわじわと増えているけどね」

「しかし体積が増えれば、敵の吸収範囲も増えてしまうわ?」

「そうなんだよねえ。いっそ消費してしまおうか……」


 吸収した端から砲撃のコストにしてしまえば、もう奪われることは無い。

 現状、領地の体積を広げる事に明確なメリットは無いのだ。そうしてしまえば、勝利条件である『敵のリソースを削りきれ!』、に近づく。

 いや、勝利条件がそうだとは誰も言っていないが。


 ハルは領地の表裏を反転させるかのように、表面に積み重なるように付着してくる無色フリーの魔力を内部、手元まで<魔力操作>で移動させてくる。

 表面に回った支配済みの魔力は、既にロックされているので敵による吸収が不可能になった。翼竜の動きは徒労に終わる。


「ハル? どうしたのかしら。それを吸ってしまわないの?」

「……いや、少し対処療法すぎるというか、芸が無いかなって」


 単純であり効果的な方法だが、なんと言うのだろう、スマートではないようにハルは感じる。

 嫌がらせに近い方法というか、破れかぶれというか。……嫌がらせが出来ているのであれば、戦法としては上々ではあるのだが。


 ともかく、まだやれる事は残っていた。そちらを試してからでも良いだろう。

 ハルは手元に集めた魔力を侵食し、支配下に置いて行く。


「……この場合、黄色じゃなくて“僕色”に染めるんだよね。何だか勝手が違うな」

「侵食するのね? 私も、最近はハル色に染まっているわ?」

「何を言い出すのさ。ルナはいつだって我が道を行ってない?」

「いいえ、ふとももが少し太くなったわ? これはハルの趣味でしょう? 同様にお尻も、」

「すとっぷ。分かった、その話は後にしよう」


 やはり、ルナは自由だった。我が道を行っている。

 確かに、彼女の許可を得て、体内のエーテルでルナの体をハル好みに弄らせてもらっている。今ルナが言ったことは真実だった。

 これ以上なにか致命的な事を言い出さないうちに、強引に会話を区切らせていただく。


 そうしてハルは照れ隠しのように、侵食の作業に集中していった。





 ハルが無色の魔力を中央に集めて侵食を始めると、また敵の進行はいちステージ進んだようだ。

 ステージが進むといっても、現在の敵はそのまま据え置きで、新たな群れが追加される。

 普通のゲームで考えれば難度が高い。このまま行けば、周囲一面が敵だらけになるだろう。


 追加された敵はついに大型になった。トロール、といった感じか。

 鈍重だが、見るからに攻撃力も耐久力も大きそうだ。撃破に手間取っていると、その城壁を乗り越えるほどの巨体から繰り出される破壊力により、一撃で施設は粉砕されてしまうだろう。


 今までと違い一気に詰み要素が投入されてきたが、施設のレベルアップにより強化されたのはこちらも同じ。

 その腕力を発揮する前に、中距離砲の餌食となっていってしまった。


「やっぱり、序盤以外は微妙なバランスを取るのは神でも難しいのね……」

「こっちに強化が入ると、急に圧勝になりがちだよね」


 どのゲームでも、頻繁に起こり得る現象であった。

 常にギリギリだと、強化された実感を得にくく、単調になりがちだ。苦手なプレイヤーだとすぐに詰んでしまうという問題もある。

 それに、常に綱渡りのようなバランスを要求していると、その時に出来る強化を最大に振る、ただその繰り返しのゲームになってしまう。強化要素は有るように見えて、実際にはほぼ死んでしまうのだ。

 そういったバランスの取り方は、強化の無いパズルゲームの方が向いていた。


 巨人タイプは列を成さず、間を空けて出撃してくるのも有利要素として大きい。何も考えずに撃破するだけで、勝手に魔力がこちらに引き寄せられる。


 そうして第三ステージは特に何も弄ることなく、すぐに通り過ぎてしまうのだった。

 間を置かず、次の敵が投入される。


「地面が賑やかになってきたね」

「ついに遠距離攻撃の登場ね。あれは、魔法使いかしら?」


 新たに現れた敵は城壁の砲台の射程外で停止し、そこから街に向けて逆に砲撃を開始した。

 中距離砲なら届く距離だが、現在それは巨人タイプへの対応で手一杯。主砲を使うにも、バラバラに配置されている魔法使いに撃つのはさすがに勿体無さすぎる。

 故に現状、甘んじて受けるしかないのだが、そうすると外周の施設の耐久度がどんどん削られていってしまう。


 この街づくりシステムでは、減った耐久を回復する要素は無いようで、万能かと思われたNPC回復薬も作用しない。

 あれはどうやら、魔力を保管する入れ物としてNPCの体に作用するようで、同様の物にしか効果が無いようだ。回復薬とは名ばかりで、傷を治す効能は入っていない。


 せっかくレベルを上げた施設も次々と破壊されて行ってしまい、ハルはその都度、建て直しに追われるのだった。


「これは副砲のレベルアップまで、また雌伏しふくの時なのかしら? ……パターン化されてきたわね」

「それよりも早く済むかもね。今度は、敵から砲撃がある訳だし」

「なるほど? 今度はこちらが、魔法の残滓ざんしを取り込むターンになるのね?」

「そういうこと。それに、ほら、次のアンロック来たみたいだよ」


 条件は、一定以上この都市の魔力圏を拡大する事。魔力を消費してしまわずに、全て丁寧に支配権を侵食したのがプラスに働いたようだ。

 その解禁アンロックされた内容は、施設の補修。魔力炉に貯蔵されたエネルギーを消費することで、ダメージを負った施設の回復が出来るようになった。


 これで、建て直しに追われること無くじっくりとレベルアップを待つことが出来る。


「……ねえハル? これは、やっぱりチュートリアルなのでは」

「んー、確かに順番にシステムが開放されて行ってるけど……」


 状況だけ見れば、ルナの言うとおりなのだが、何となくハルは違和感をぬぐえない。引っかかるのは、どこだろうか?


「……ああ、侵食か」

「侵食がどうかして、ハル? 順調そうに見えるけれど」

「うん、こっちは順調。黄色に染めるよりも楽なくらいだね」

「ハル専用だから、相性が良いのかしらね」


 その侵食をしていて、思い出した事がある。彼の、セージの髪の毛の話だ。

 緑色を冠する名前なのに、髪の毛は黄色。“元守護者”という経緯もあり、非常にちぐはぐだと感じたものだ。


「セージは髪の毛の色を、『カナリーに染められた』、と言っていた」

「……なるほど? それはキャラクターデザインの話ではなく、侵食によって支配下に置かれたという意味だと考えているのね?」

「支配してるかは分からないけどね。だから、こうして模擬戦というていで僕を襲っているのも、そういう因縁があるのかもなってね」


 そこが否定しきれない為、素直にチュートリアルだと現状を肯定できない。どうしても疑ってしまうハルだった。


 そうして話している間にもレベルアップは完了し、魔法使いタイプも攻略される。

 すると、やはり次の段階へステージは進むようで、ついには敵はドラゴンが追加されるに至った。

 群れで襲ってくる小型の翼竜、ワイバーンとは違い、正統派のがっしりした西洋竜だ。『冒涜の巨竜』ほど巨大ではないが、戦艦お試し用の『天蓋てんがいの空竜』の一回り下くらいの大きさがある。


「……ずいぶんとタフだ。儀式魔法の直撃を受けても死なない」

「いきなりヤケクソ強化しすぎよ。ブレスで強化済み施設が軒並み吹き飛んだわ? ……ハル、主砲の制御を渡しなさい」


 自慢の街をブレスの一発で雑に吹き飛ばされ、ルナがご立腹だ。防御を捨て連続で主砲を叩き込む。

 魔力炉の補充が間に合わず、領土を削っての砲撃が敢行されるが、ルナの判断は正しい。ここで中央の宝石塔を破壊されると、建て直しが利かなくなる可能性もある。

 ハルも破壊された施設を即座に復元し、ドラゴンブレスへのデコイとした。初期レベル施設だが、どうせ一撃粉砕されるならば同じことだ。安い分逆に優秀。


 そうして街を半壊されつつも、儀式魔法を数度その身に受けるとドラゴンは撃破され、ようやく襲撃は終わりを迎えたようだった。





 残った小型モンスターの群れを掃討していると、そちらも見えている以上の増援は無いようで、平原からは徐々に敵影は消えていった。

 施設のレベルが初期に戻ってしまった為、微妙にてこずる場面もあったが、もうおかわりが無いならば大した苦労ではない。終わりが見えているというのは精神的に楽である。


 全ての敵を倒し終えても、特に戦果報告リザルトが無いのが微妙に寂しいところだ。

 施設の強化は継続して行えるようなので、ハルは休まずにその強化を継続する。また、この後何が起こるか分からない。


 ただ、その警戒は不要だったようで、それ以降の敵襲は無くセージ本人が代わりに姿を現した。

 施設は、彼に反応する事はないようだ。


「そう。ならば手動で……、動かないのね?」

「待ってくださいって、自分は敵じゃあありませんよ」

「…………」

「いや、すみません。ちょっとばかり、熱が入りすぎちゃったかなー? あはは」


 必死でおどけるも、ルナの目は据わったままだった。街をいいように壊されて、腹に据えかねているようだ。


「……まあいいわ? 施設の強化も可能になったし。結局、これを伝える為のチュートリアルだったの?」

「いえ、違います」

「なんなの……」


 本当になんだろう。ハルもツッコミに加わりたい気持ちを必死に抑える。


「セージが、このアンロック項目を準備してたんじゃないの? ゲーム外担当の君の分野しごとでしょ?」

「ええ、そうなんですけどね。砲とバリアはモノの担当なんですよ。ハルさん達って、モノと仲が良かったりします?」

「まあ、それなりにね」


 とするならば、これはモノのサポートだったのか。

 セージに良いように遊ばれているハルたちを見かねて、システムの強化をしてくれたと。

 少し私情が入りすぎな気もするが、後々に必要になる要素だろう。ありがたく受け取っておこうと思うハルだ。後で何かお礼をしなければならない。


「じゃあ、キミは何でこんな事を?」

「やっぱり、魔力をかすめ盗るのが狙いかしら?」

「それもありますね!」

「……良い笑顔で言われると、なにか腹が立ってくるわね?」

「テンポが独特だね……」


 終始さわやかな態度と表情なのだが、それがかえって神経を逆撫でする。

 そんなセージのペースに乗せられないよう、意識して精神を安定させるハル。可能ならば、ここで目的を聞き出してしまいたい。


 さて、どう切り出そうかとハルが考えていると、意外にも彼の方からその理由を語り始めた。


「理由はいくつかあるんだけど。大きいものとしては、君達がこの先の敵と渡り合えるか、そのチェックがしておきたくってね」


 この先の敵、とはいったいどういう事なのだろうか。ハルは注意深く、彼の真意を探ってゆく事にする。

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。(2022/6/22)

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