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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
第8章 セージ編

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第269話 いにしえの守護神

20話を越えてやっと章題のAIの登場ですね。今回は登場だけで少し短めです。

「自分はセージ。ゲーム外担当の、セージです」

「ハルだよ、よろしく。……『ゲーム外』を担当する、『ゲーム運営』?」


 何だか妙な響きだ。まあ、『ゲーム外』という呼び方は、ハル達がよく使う名に合わせたのだろうけれど。

 考えてみれば、居て当然の存在だ。レイドボスをこの場に配置したり、遺産を回収して魔力へ還元したり。そうした仕事を行う存在が居なければ、現在のゲームは成り立っていない。


「ゲーム外は重要よ、ハル? 広報だとか、営業だとかで」

「それはちょっと違いますねー」

「奥様、そちらのゲーム外は私の担当にございます」


 ルナのズレた話に、アルベルトが一見ツッコミのようなボケを重ね、ここにある種のネタが完成する。

 やりきった顔のルナは置いておいて、ハルは突如襲来したこの神について観察を続ける。


「セージ、ということは緑色? いや、君の髪の毛は黄色っぽいね」

「これは、カナリーに染められてね。いやいや、自分としては色なんてどうでも良いのですが」


 なんだろうか、ハルが感じる印象ではちぐはぐな感じを受ける神だった。


 見た目は爽やかな青年、いや、まだ少年の範囲か。困ったようにも見える笑い顔が特徴だ。神々の中では、あの謎の部屋のセフィと、多少雰囲気が近いだろうか。

 その髪の毛は薄めの黄色。黄色といえば、ハル自身や、カナリーでお馴染みの色。


 カナリーに連なる存在なのかと思えば、名前がそれを否定する。

 セージ。香辛料やハーブとして使われる葉の名前だ。色の名としては緑の一種。つまり彼は、黄色ではなく緑を司る神である。

 ……しかし髪の毛は金髪のような黄色。とどちらを基準に考えても、しっくりと来ない。


「……緑、商業の国を守護しているのは、確かジェードという名前ではなくって?」

「そうだねルナ。僕らとは関わりは無いけど、もっと大人なタイプの姿だったはずだよ」


 既に多数の契約者を抱える、『商業神ジェード』。ハルとは接点が無いが、契約者が語る話や、未契約の者が神々を比較するときなどによく彼のことは耳にする。

 その姿はもっと大人びており、髪の毛も自陣のイメージカラーに合わせて緑色であった。


「お察しのとおり、自分は各国の担当神とは別物です。仕事はさっき言ったようにゲーム外、あとは、アイテムの一部を担当かな」

「なるほど?」


 半歩後ろに控えている、アルベルトと同じようなサポートの神様だろうか。ハルがそんな意図でアルベルトに視線を向けると、彼もそれを肯定するようにゆっくりと頷いた。


「でも、アルベルトみたいな名前じゃなくて、色の名を冠しているんだね?」

「いやー……、これには色々と事情があって」


 色だけに色々、だろうか? そんなダジャレを思い浮かべるハルをよそに、彼の話は進行して行く。


「自分は最初は緑の国を担当する予定だったんですよ。この名前はその名残りです」


 どうやら、なかなか面白い話が聞けそうだ。ハルはそのまま、セージの話に耳を傾けた。





「ここの国々の始まりは、知っているかな?」


 彼は空中から、ハル達同様に街中へと降りると気軽な態度で話を始める。


「ざっくりとね。魔力の枯渇こかつする危機に際して、魔力への依存度の少ない国家運営を神主導で行うことにした」

「正解です! 優秀なプレイヤーだね!」

「……マゼンタとは別方面で、クソガキ感を感じてしまうのは何故だろう?」

「親しみやすさ重視だったのでしょう? 発揮する機会は、失われてしまったけれど」

「あはは……、でも自分のキャラ付けは気に入っているんです」


 妙な話だ、『自分のキャラ付け』、ときた。

 強引に人間で例えるとすると、ロールプレイ重視のプレイヤーが、今のキャラクターの設定を気に入っている、と言うようなものだろうか?


 ハルはロールプレイが得意ではないので、あまり分からない感覚だが。どうしても、自分は自分にしか成れないと思ってしまうためだ。

 その場その場で大仰に演じて見せても、それらを繋ぎ合わせると矛盾だらけの自分に耐えられないのかも知れない。

 これは、ハルの分割された思考に原因があるのだろうか。


「そんな自分たちは、分担して国を興すことにしたんですけど、でも、無制限に勢力くにを増やせば良いという訳にはいかなくって」

「あぶれる者が居た訳だ」

「ええ、ハル様。それが私やモノ、そして目の前のセージ、という事になります」

「最初は自分が緑の国の守護担当だったんですけどね。後から合流したジェードの方が適任でしたんで、そっちに任せることに」

「後から、合流ね……」


 それはつまり、最初から全ての神々が一丸となって、この運営計画プロジェクトを立ち上げた訳ではないということだ。

 計画のメリットに合意した神々が集まり、互いに妥協点を設定しながら上手くやっている。それがこのゲームの、この世界の発端。


 そしてそれは、“この計画に賛同しなかった神”の存在も示唆している。

 全ての神々が最初から計画に参加していたならば、セージのように担当の交代など起こらない。


 この事にハルはさほど驚きは無い。既に別方面から、この可能性については情報を得ていた為だ。セージの話は、その補強になった。

 別方面とは当然、あのクリスタルの解析だ。あのクリスタルのデータを読み取るにつれ、作られたAIのリストらしき物が抽出サルベージできた。

 そこに記載があるだけでも、この地に居る神々の数よりずっと多い。その数、現時点で三十以上。


 最初は、アルベルトのようにサポートを担当する者が影に存在しているのかとも思った。しかし、考えるほどにそれは理屈に合わない。

 この地に自らの色で染め支配した魔力を配置する権利。対抗戦に使徒を送り込み、発生した魔力を得る権利。間接的に国家運営に介入し、世界の行く先を左右する権利。

 それらを捨てて甘んじている神々が、そこまで多く居るとは思えない。


「ということで、自分はこんな中途半端な存在なんですよ」


 思考に沈んでいたハルを、セージの声が引き戻す。彼が、その『中途半端な存在』だったことで、ハルの仮説はかなりの進展が見られた。

 しかし、気になることがひとつ。それはルナも同じであるようで、その疑問はハルに代わり彼女の口から発せられる。


「その半端な存在である貴方が、突然ここへやって来たのは何故かしら?」


 そう、しかも、今まで一度も姿を見せたことの無い存在が、というおまけ付きだ。これまで、散々と神々に振り回されてきたハル達だ。唐突に現れる神には、どうしても警戒する。


 そして、唐突に見えても彼らはなにかしら、明確な行動基準をもって動いている。

 彼の出現も、何処かで知らぬ間に条件フラグを満たしてしまったのだろう。ハルは脳内で一つずつ心当たりを探ってゆく。


「あれ、最初に言いましたよね? 試し撃ちの相手をお探しですか、って」

「……キミが、その相手になってくれると」

「ええ、やっとプレイヤーが自分の担当地域に出てきてくれたんです。何かお手伝いができれば、って」


 まあ、筋は通っている。

 頑張って配置したレイドボスが倒され、ゲーム外に初めて土地が誕生した。その土地の所有者は街を作り、早くも敵の襲来を待つばかりだ。

 そんな所有者たちは、街の性能をテストしたくて困っている。ならば担当の神として、一肌脱ごう、という状況だと、納得できなくもない。


「まあ、自然な状況か。好戦的な神さまに、少し毒されすぎたか……?」

「……そう自然でもないわね。運営がいちユーザーを優遇する状況が、既に不自然よ?」

「確かにそうだった……」

「ハルはそれが当たり前になりすぎて、そういう意味で毒されているわね?」


 カナリーの独占に端を発し、神々と個人的に関わる事ばかりのハルだ。このくらいは普通か、と無意識に思ってしまうが、単なるユーザーの一人である事には変わりない。

 ルナはゲーム運営として、どんなに有名なプレイヤーであっても、そうしたえこ贔屓ひいきはしないよう注意しているようだ。


「まあまあ。言いたい事は分かるけど、自分たちは普通のゲーム運営とは少し違う。それは十分、知っているんですよね?」

「ゲームそのものは主体にあらず、ってかい?」

「もちろん、プレイヤーを軽視するつもりはありませんよ。でも、それはそれ」


 ゲームとしてではなく、この“世界”を運営するにあたって、ハルのような踏み込んだプレイヤーは優遇するに値する、ということだろう。

 一瞬、納得しそうになるが、すぐに違和感に思い当たる。


 先ほどは、“困っている一般プレイヤーの手助け”として。今度は“特別なプレイヤーであるハルへの接触”として。

 彼の立ち位置がブレていた。どちらかが嘘、とまではいかないだろうが、なんとなく腹に一物抱えているように感じる。


「まあ、テスト相手が欲しかったのは事実だし。お願いしちゃおうかな」


 だからこそ、ハルはセージの誘いに乗ることにする。

 彼がいったい何を考え、何を目的にここへ来たのか。提案を受け入れつつ、それを探ってゆくつもりだった。





「では、街の外からの大群を相手に試したいんですね。雑魚でいいのかな?」

「うん。頼んだ」


 その後は特に要求や駆け引きなど無く、セージは素直にマトの用意を買って出てくれた。

 すぐに都市の外まで飛んで行き、視界外で準備をしてくれているようだ。


「アルベルト、彼が抵抗なく魔力圏外まで飛んで出られるのって、やっぱ特別?」

「ですね。我々では、ああは行きません。基本的に、出られないものだと思っていただいた方が良いでしょう」

「魔力の有無は、貴方がたにとっても死活問題なのね?」

「ええ、その通りでございます奥様。ハル様の世界で言えば、エーテルが、ナノマシンの大気が無ければプログラムを走らせる場所が無いのと同じ」

「君らの時代的に言えば、魔力が無いのはパソコンが無い状態か」

「まさしく」


 では、この地に居ない二十以上のAIはどうなってしまったのだろうか? 世界の運営に関わらず、神界でじっとしているのだろうか。

 それとも、世界から魔力が消えるに任せて、消滅の道を選んだのだろうか。


 出来ることならば、全てのAIを無事に回収したい、いや、無事な姿の彼らと邂逅かいこうしたい。そう願うハルだ。

 モノのような眠っている例もある。何処かで健在でいて欲しい。


 しかしまずは、新たに出会った彼、セージの思惑を知るところから始めよう。このタイミングで出てきた事には、何かしらの意味があるはず。

 ハルは本体の方で共に居るアイリとも情報を共有し、幕を開ける模擬戦へと備えるのだった。

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