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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
第8章 セージ編

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第268話 消費する資源と生み出す資源

「試し撃ちは出来ないのかしら? 片手落ちだわ?」

「試すにも相当の魔力を使うからねえ……」


 街が完成したら、想定どおりに動作するかテストしたいのが人情だ。特にルナはその傾向が強い。

 景観が出来上がってもそこで終了にはせず、収支が黒字になるか数年間(ゲーム内時間である)テストし、初めて満足するのが彼女の常だ。

 そのため、動作テストが出来ないこの街には、多少の据わりの悪さが残るようだった。


 ただ、テストするとは言っても、この街にあるのは全て防衛施設。試し撃ちには敵が必要だった。


「この先、何が襲ってくるか知らないけど、現状ではここはゲームの外だからね。魔力で作られた通常のモンスターは出現できないし」

「そういった、細かな詰めの甘さが目立つわよね? このゲームは」

「確かにね。カナリー達は良くやってると思うけど、この世界や魔力をベースとして作ってある以上、限界はある」

「擁護してばかりもいられないわ? そうした細かな違和感が、積み重なって秘密を暴かれる基となるの」


 おっしゃるとおりである。もうひとつの現実であるこの異世界を下地ベースにしている以上、どうしても“ゲームらしさ”を演出しきれない部分は出てくる。

 しかし、ユーザーはそんな事は知ったことではない。『何でここは他のゲームのようになってないの?』、という疑問を容赦なくぶつけてくるだろう。


 まあ、その一方でユーザーは非常に柔軟でもあるのだが。『そこがこのゲームのこだわりポイントなんだろ?』、と勝手に納得してくれもする。

 身も蓋もない話だが、全体的に十分楽しければ、ある程度の粗は見逃されるのだ。


「アップデート早いしねこのゲーム。何か文句出るとすぐに塞いでくれる」

「見習いたいところね? でも、いささかやり過ぎかも知れないわ?」

「意見の聞きすぎ?」

「ええ。ユーザーの要求は際限ないもの」


 ……微妙に、実感の篭ったご意見であった。ルナも普段から自分のゲーム運営に苦労しているのが窺える。


「さて、まあ試し撃ちとは言うけど、難しいよね」


 何といっても、ゲーム外である。ハルの力でモンスターを発生させるにも、魔力が足りない。

 かといってレイドボス達のような構造を作り出すには、結晶化の技術がハルには不足していた。


「まあとりあえず、街の中に出現させてみようか」

「いきなり最終防衛ラインを抜かれているわね?」


 きっと斥候せっこうが、引き際をわきまえずに街中まで踏み入ってしまったのだろう。敵軍に防衛線を破られたのでないのだからセーフ、のはず


 ハルはこの土地の魔力を使って、市街地のただ中、通りの中心にモンスターを<魔力操作>で作り出してみた。

 市街地とはいっても、最低限そう見えなくもないだけであって、全ての建物は防衛兵器なのだが。


「……出た瞬間に、消し炭ね?」

「これはすごい。優先順位の設定なんか全くしてないのに、最適な火力で消し炭だ」

「ネズミ一匹に最大火力で砲撃する可能性も、少しだけ懸念していたわ?」

「獅子は兎を狩るのには、余計なエネルギーを使わないんだねえ……」


 生み出された雑魚モンスター。最弱のオオカミタイプの出現に動いたのは街中の設備のひとつのみ。

 しかも至近の物ではなく、多少遠い位置にある対空攻撃用の連射装置だ。一発一発の威力は低く、それを小出しにする程度でオオカミの撃破には十分と判定したのだろう。


 ただ施設を並べただけだというのに、非常に優秀な判断力だ。流石は進化したAIである神々の設定。

 これが融通の利かないゲームだと、射程に入った敵は全て“火力の大きい順に”攻撃する困った判定のゲームもある。

 この街で例えると、今のオオカミに向けて、中央の塔から極大魔法が街中に向けて撃ち下ろされるのだ。

 雑魚を倒すために街が全壊である。本末転倒である。


 そのため自分で細かく優先順位の設定をせねばならず、いや、ひどい物だと設定そのものが出来ない場合もある。

 そのため最大火力の兵器はどうしても孤立して配置せねばならず、飽和攻撃に対応出来ないという欠陥を抱えざるを得なくなっていた。

 それが戦略性を生み出している部分も無くはないのだが、どうしても『もう少しどうにかして欲しい』、と思ってしまうのだ。


 余談であった。これは街づくりゲームというよりは、ハルの好きな戦略シミュレーションの部類の話になる。


「ハル。楽しくなってきたわ? どんどん出しましょう」

「そうだね、今度はたくさん出してみよう」


 興が乗ったハル達は複数のモンスターを生み出すと、その機能的システマチックな防衛都市の生み出す機能美を一時、堪能するのだった。





 文字通り、飛ぶ鳥を落とす勢い。飛行するモンスターの群れを含めて、街に備わった機構は次々と生み出されたモンスターを撃破してゆく。

 その正確無比な射撃は的確にターゲットを捉え、無駄矢を生み出さず一射一殺を決めていく。

 群れが固まったと見るや、小型の対空砲は斉射せいしゃを止め、高威力の魔法を撃ち出す塔からの範囲攻撃が群れを飲み込む。

 まるでハル自身が操作しているかのような判断の正確さ。ルナと二人で、その手際に舌を巻く。


「これは本当に凄い。遊びが一切無いね。CPUレベルが最初からマックスだ」

「軍用と言われても納得するわ? ……逆に、ゲームとしては面白みに欠けるかしら?」


 要は、殺意が高すぎるのである。防衛ゲームの面白さの一つに、試行錯誤の楽しさがある。

 なかなか思うように動かない設備の配置を考え、足りない火力を補うために頑張って資源を貯め、設備を追加する。

 最適な判断で、最適な火力を最初から叩き込めば、それは当然勝てはするが、配置を考える楽しさは無くなってしまう。


「まあ、僕らは潤沢な資金とルナのセンスで、最初から完璧に街を作りすぎたしね」

「そうね? ありがとう、ハル。……普通なら、もっと小さな施設群からスタートするのかも知れないわね?」

「それとも、もっと想像を絶する量のモンスター津波が押し寄せるのかも」

「……だとしても、負ける気はしないわ? 制圧力が段違いだもの」


 なにせ、施設の射撃にクールタイム、一度発射した後の待ち時間が存在しないのだ。理想の兵器である。

 どれだけの大量の群れを作ろうが、先頭から順次撃破で終わりである。群れの数だけ砲撃を繰り返すだけでいい。


「その上、中に入られた状態でこれだからね。外から近づいて来たら、もっと単純だ」

「外からの侵略に対するテストもやりたいわね。……ハル、アルベルトを呼んでちょうだい」

「……嫌な予感がするけど。まあいいや、アルベルト、居る?」

「はっ、おそばに」


 名を呼ぶと、すぐにスーツ姿のSP、基本の男性体のアルベルトが現れる。

 この後ルナから下される命令を考えると、呼んでおいて何だが多少の同情を覚えるハルだ。


「よく来たわね? アルベルト、貴方、たくさんに増えて、この街を攻める模擬戦は出来て?」

「……奥様、心苦しいのですが、それは」


 やはり、マトになれとの命令は、いかなアルベルトとて承諾しかねるか。

 当然といえば当然だ。少し無茶振りが過ぎるというものだろう。


「私では、敵として判定を受ける事が適いません。この街の主である、ハル様のしもべであるゆえ……」

「あ、そっちなのね……」


 マトになること自体に、特に文句は無いようだった。忠犬ここに極まれり。


「しかしそうなると、外からの侵攻テストは難しいわね? 魔力圏ギリギリまで、街を作ってしまったから」

「それに少々、陣地を消費しておられますね。これでは尖塔の主砲は、一度撃てば消費により圏外に出てしまうでしょう」

「……迂闊だったわ。そうよね。砲撃には魔力を消費するのよね」


 普段は、もっと広大な領地の中で戦うので気が付かなかったルナだ。

 魔力のボール内部に、ぎゅうぎゅうに詰め込むように建てられた都市。しかし、兵器群の稼動にはボールの体積そのものを消費する。

 外周付近の建造物は、それにより水面から顔を出すように圏外になってしまう。


「ハル、どうしましょう?」

「別に、その時は僕が神域の魔力で補充するよ。ゲームとしてはチートだけどね。今更だ」

「ゲームのシステム内で解決する事も可能ですよ。この、生産施設をアンロックしましょう」

「アンロックって、いつの間に……」


 メニュー内に、いつの間にか項目が増えていた。

 要素の解禁(アンロック)、とは言うが、先ほどまではロックされたメニューすら無かったようにハルは思う。現在進行形でアップデート中なのだろうか。


 機能の改善自体は良いことだ、とハルは気にしない事にして、ルナと共にその内容を見ていった。

 どうやら防衛兵器のエネルギーとなる、魔力を補充することが出来る設備のようだ。この地の魔力を一定以上消費すると、解禁可能となるらしかった。


 設備を作ると少しずつ魔力を生み出し、内部へとチャージしていく。そこに貯蔵があれば、空気中の魔力を使うことなく砲撃が可能になるのだろう。

 最上位の物になると、溢れた魔力をこの土地自体の魔力圏を拡張に充てることが可能になるようだ。


「ハルは良いけれど、土地の境界が多数接しているところで使えば、ご近所トラブル待ったなしね?」

「『起きたら自分の家が隣の領地になっていた』、とか? まあ、そんなに早く拡大は出来ないんだろうけど」


 自分の領地を拡大するにあたって、他人の領地を押し広げてしまう場合の処理は確かに気がかりだ。

 しかし、それ以上にハルには気になる部分があった。


「魔力が増える、なんて簡単に言うけれど、これはどこから持って来てるんだろう。無から魔力が生み出せる装置なんてあるなら、もう僕らがゲームする必要なんか無いよね?」

「……そうね。私たちやミレイユが接続する、魔力プールかしら?」

「放置で増える魔力は、微々たるものになります。速度上昇には、生産設備の傍にプレイヤーが滞在する必要がございますね」

「やっぱりそこは従来どおり、僕ら依存の産出か……」


 普段、プレイヤーが活動していても周囲に魔力は発生しない。

 そういったイベント以外でプレイヤーから生み出される魔力は、運営資金のように神界の何処かに貯蓄プールされている。

 その魔力の行き場を、ここへと変える装置がこの生産施設なのかも知れない。


「僕らは不利だよね。人数居ないから」

「ハルの唯一の弱点ね?」

「ご謙遜なさいますなハル様。貴方様は膨大な魔力を自由に利用可能でございましょう」

「そうは言うけどねアルベルト」


 やはり、資源の生産が他人任せの状態というのは、どうも落ち着かない。現状、ハルは他人の生産した資源を好き勝手に使っているだけとも言える。

 これが、世界征服等のゴールがあるならばそれも良いが、ハルの目的はこの世界で安定して生活することだ。

 消費が上回る状態が続けば、いずれは力を発揮できなくなってしまう。


 極端な例だが、このゲームがサービス終了してしまえば、もうハルたち三人以外に魔力を生み出す者は居なくなってしまうのだ。


「だからこの他人の資産で粋がってる現状もいずれは何とかしなきゃいけないけど、さすがに糸口が何も無いね」

「ならば今は使えるだけ使って、先を目指しましょう?」


 非常に思い切りの良いルナだ。資産は寝かせておくだけでは意味が無いという、資産家である彼女の哲学かもしれない。

 ゲームにおいてもそれは同じだ。強力なアイテムだからと死蔵していては出力を落とすのみ。資産リソースは使えるときに使ってこそである。


「という訳でガンガン建ててガンガン溜めよう」

「当然ね?」


 その理念のもと、ハルとルナは防衛設備の下、設備を建てても攻撃不可となっている死角デッドスペースに、最高級の生産施設をどんどん建造して行く。

 これは、『大きすぎて取り回しが利かない』、ということが無いようで、上位の物は下位の設備の機能を全て備えているようだ。分かり易くて良い。


 人数が足りないのならば、施設の数でカバーとばかりに、街の内部を生産施設で埋め尽くす。

 これで、生産力は建てた数で等分される、といった仕様だったら泣くに泣けない。もう一切溜まらないのではなかろうか、それは。


 当然、建てた直後は魔力はカラなので、NPC用の回復薬をこれまた大量に使い、強引に満タンに持っていった。


「これで、次の砲撃からは領土を削らなくて済む訳だ」

「流石の手際でございます、ハル様」

「……アルベルトはお世辞言う為に来たんだっけ?」


 呼んだのはハル自身なのだが、こうも無条件に褒められるとくすぐったく、つい皮肉で返してしまう。

 だが当の本人はどこ吹く風といった様子で、にっこりと微笑みを向けるのみだった。


「アルベルトは模擬戦の為に来たのよ? 魔力問題が解決したならば、次は本題に戻りましょう?」


 主従の良い感じのやり取りで終わりそうだった所を、ルナの無慈悲な言葉が現実に引き戻した。アルベルトの笑顔が固まる。

 ……何だかんだ言って、やはりマトになるのは嫌だったようである。


「とは言ってもね。彼には反応しないみたいだし」

「ならば、アルベルトにモンスターのコアを植え付けるとか、どうかしら?」

「マッドサイエンティストな発想だねルナ」


 発想が鬼畜であった。

 そもそも、アルベルトもゲーム外には出られないだろう。それを伝えると、ルナも渋々と諦めたようだ。


「ならば、神域から魔力を持ってきて領地を拡張するのは?」

「現実的な話、そうなるだろうね。でも、この街それなりに大きいから、この外周に更にってなると」

「消費が大きすぎるの?」

「うん。カナリーちゃんに相談してからにしようかな」


 そうして、今のところは一先ず切り上げようかと、そういった空気になったところで、ハル達に掛かる声があった。


「射撃の的をお探しかな?」


 その声の主は、突如として空中に現れ、街中のハル達を睥睨へいげいする。

 聞き覚えの無い声だ。しかし、この地へと、しかも転移して現れる事の出来る存在など限られる。

 それはアルベルト同様、この世界の神々であると察せられるのだった。

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。(2025/4/22)

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