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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
第8章 セージ編

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第267話 前線拠点に要塞都市を作ろう

 クリスタルの解析をしながら、ハルはルナと共に新しく自分の土地となったヴァーミリオンの郊外、いやゲーム外へと来ていた。

 多くのプレイヤーの関心を今、一手に引き受けるこの新たな土地。そこで出来ることを、試してみようとやって来たわけだ。皆、情報を欲している。

 ハルの肉体、本体は今、必死にクリスタルの解析を行っており、ここへ来ているのは久々の分身だ。


「分身で多重行動をするのも、最近はあまり無くなった気がする」

「それは学園が休みだから、というのは別でかしら?」

「うん。多分、ユキが大人しくなったからだね」


 ユキは最近、ハルを無理に冒険デートに誘うことは無くなった。

 お屋敷でアイリたちと一緒にのんびり過ごしたり、またログアウトして肉体で活動することも多くなった。

 心から本人がそれを望んでいるというよりは、そうした生活に徐々に慣れようとしているように感じられる。


「嫁入り準備ね。健気なことね?」

「……否定は出来ないんだよね。ありがたいことに」

「他人の好意がはっきりと見えてしまうというのも、難儀ね? 鈍感を演じるのも限度があるでしょう?」

「まあ、ときどき」


 頑張ってハルにアプローチをかけようとするユキだが、本人が非常に奥手だ。

 来るのか、ここで来るのか、と意気込みを見せておきながら、結局恥ずかしくなって行動には移さない。そんな状態も多くあり、非常にやきもきさせてもらっている。


 共に過ごした時間の長いルナ。好意が一直線のアイリと比べ、ユキとの関係は、彼女がハルへの好意を自覚してからも進み方がゆっくりだった。


「しかしハル? ユキと関係を持つ前に、あなたの出自は彼女に伝えるのかしら?」

「どうしたのさルナ。何時もは早くヤれってけしかけるのに?」

「言葉は選びなさい? ……私がけしかけなければ、あなた達はいつまで建ってもくっつかないじゃない」

「悪役、ご苦労様」


 実際に、そういう所はある。ユキは、特にログイン時のユキは、ハルとゲームで遊べれば本心から満足してしまい、色恋沙汰に発展しない。

 ハルもそんなユキの心情を尊重してしまうため、どれだけ経っても互いに一歩も進展しないのだ。


 付き合うわけでも、諦めて離れるわけでもない。つかず離れずの位置を常時キープする。ボス戦か。

 ……そんな、いつまで建っても終わらないボス戦を眺め続ける外野のルナさんは、非常にやきもきする事だろう。

 時に口うるさく、時にえっちな挑発で、展開を早めようとしてくれるのにはハルも感謝しなければならない。


「……悪役した甲斐あって、最近はユキも勇気を出そうとしているわ?」

「だから、僕自身のコトを伝えろと」

「クリスタルだ何だで、良い機会じゃない。……というか、あの施設に行った目的は、そもそもユキよね? 有耶無耶うやむやになってしまっていたけれど」

「その為に掃除しに行ったからね」


 元々、あの施設の跡地を久しぶりに訪れた理由はそれだった。

 ハルの実家、墓参りの有無を知りたがったユキ。こちらへ一歩踏み込む気である、その雰囲気を察したハルが自身の出自について語ろうと、その前準備に訪れたのがそもそもの経緯だ。


 そこで、苦手分野であるあのクリスタルなど見つけてしまった為、意識があちらから少し遠ざかってしまった。

 何の因果か、クリスタルはそのユキのアドバイスにより状況に進展を見たのだが。


「というか、もう流れで半分言っちゃったようなもんだし」

「そうね。それにユキのことだもの、『ふーん、すごいね』、で済ましそうね……」


 ログインしたユキならば、確実にそうだろう。彼女は現世のことに本当に興味がない。

 どちらの彼女に、伝えるかもよく考えておいた方が良さそうだ。





 そんな、面倒見の良い彼女と相談しながら、ハルは新しい土地の開発に着手する。

 メニューの内容を見ていると、防衛用の建物が非常に充実しており、かなり防衛を重視したコンテンツだということが察せられる。


「これは、『もしもの時の備えとして、防衛もしておこう!』、って感じじゃあ、ないね」

「そうね? 『確実に敵が来るから、絶対に防衛はしよう』、という感じね?」


 メニューの内容から読み取れるのは、それだけに留まらない。

 防衛施設の内容から、仮想敵となる相手の傾向も想像できる。そしてどうやらその相手は、非常に強力な存在であるようだった。


 狼などの野生動物、または野盗が村を襲ってくる、という内容ではない。

 もしそういった、『ちょっとしたハプニング』がコンテンツ内容であれば、先に作ったやぐら、石造りの塔でも建てておけば十分だ。

 だがしかし、あの石塔は“最低限”の設備。メニューをスライドして見ていくと、上位となる強力な施設が次々と出てきた。


「ねぇハル? これ、確実にまたレイドボス級が襲ってくるわよね?」

「だろうねー……、設備がいちいち過剰すぎる。当たり前のように、儀式用魔方陣があるし。何と戦う想定だ」


 対抗戦で見た儀式用魔法陣。一撃で地形を変えるその威力は、<鏡面の月>を使用したルナの魔法さえも上回る。

 そんな神界以外で撃っていい代物ではない兵器が、『防衛用』としてしれっと存在する恐怖。

 なんだろうか、ここは強大なレイドボスを倒したご褒美として、神様から下賜かしされた領地ではなかったのか。


 これではまるで、前線基地の建設だ。魔法陣が対抗戦と同じ威力を発揮するならば、あの『冒涜の巨竜』でさえ敵ではない。

 そんな威力の魔法が必要となる敵とは一体。

 まるで、強大な敵を撃破した報酬として、更に強大な敵と戦う権利を得たような気分だ。


「これがゲームなら、非常にそれっぽい話なんだけど……」

「ゲームよ、ハル?」

「そうだった。だけど、このゲームのゲーム部分、それは僕らをこの世界に呼び込む為の装飾だ」

「確かにそうね?」


 神々は本質的に節約家であり、イベントで派手な戦いを演出しても、それは必ず魔力的にプラスになるように計算されている。

 その神々が、大量の魔力を消費するレイドボスを何体も生産し、あまつさえそれと戦うため儀式魔法を撃たせて、魔力を大量に消費させる事を許すだろうか?


 そもそもの話、このレイドボスイベントも謎である。

 戦艦に人を集めるため、その相手となりうる強大な敵を用意する、というのはまだ良い。

 しかしそのボスモンスターの所在が、どれもゲームから遠すぎる。大体が、“世界の果て”のほど近くであると推測される。


 ゲーム要素の一環として、プレイヤーに土地を持たせる。それは良い。だが何故、その候補地がこんなにも遠くばかりなのだろうか。

 シルフィードなどは、NPCであるディナ王女との協調として、ギルドでの土地の囲い込みを目指しているようだが、正直、国家が土地を活用するには遠すぎる。

 NPCにわずらわされない自由な土地、として遠くを用意してくれたとも考えられるが、それなら言ってしまえば神界でいいのだ。


「……極め付けにこの防衛施設の数々。僕、何か嫌な予感がしてきたんだけど?」

「ゲームで遊んでいる、という意識のプレイヤーを利用して、何かと戦わせようとしている。ということかしら?」

「ルナの察しが良くて助かるね。……否定して欲しかった所だよ」

「ごめんなさいな? でも、そう考えると自然よね? “外敵”が居たのでしょう、昔は?」


 “外敵”。モノが、この地の魔力を求めて襲い来るかつての古代人を指して語った言葉だ。

 彼らは軍事力を、そして文明さえも維持できなくなり、次第に消えていったはずだ。

 そして今は、最後の理想郷としてこの地に七つの国が栄えるのみ。


 ただ、気にかかる事が一つ。

 ハルがそれ以上先に進まない事を<誓約>させられた“世界の果て”。そこは、ただの境界線ではなく、非常に強力なシールドで遮られていた。

 モノの戦艦の主砲でさえ受け止めるほどの強力さだ。プレイヤーを出さない為にしては、過剰すぎる。


 それゆえに、外敵はまだ存在していて、シールドがそれを遮っている。ハルはそのように考えてしまってならないのだ。


「もし、人間同士の戦いが再発して、それの尖兵として戦わされる事になるなら、それは、ちょっと嫌だな」

「そうね。ハルは人が殺せないものね?」


 当然、アイリに危害が加えられる可能性のある状況となれば、ハルも腹を決めなければならないだろう。そこに迷いが生じる事は無い。

 だが、ハルの性質として、嫌なものは嫌なのは仕方ない。

 願わくば、そのような展開にはならぬよう、ハルはこの世界の神に祈るのであった。





「それはそれとして、防衛は完璧にしておこう」

「切り替えが早いわね……」


 事前準備は大切だ。アイリを守るのに、忌避きひ感からの準備不足は言い訳にならない。


 それに、ハルの懸念が現実の物になると決まった訳ではない。

 もしかしたら、ただ単に『予想外に魔力が余ったので大規模戦闘が出来るようになっただけです』、ということも有り得る。

 その時は報酬を安定して回収できる様に、今から設備を整えておこう。


「まあいいわ? 元々、その為に来たのだものね」

「だね。まずはこの荒れ地を整えようか」


 巨竜が好き放題に踏み荒らした土地を、まずは平らに整えてゆく。

 これには、無尽蔵に魔力が使えるようになったルナの魔法が非常に活躍した。彼女の得意げな顔を見れるのは非常に珍しい。

 普段はすぐに自分で気づき、いつものジトっとした無表情に戻ってしまうのだが、今日はご機嫌なようで、終始そうして楽しそうに作業は続いた。


「ご機嫌だねルナ。それに、めっちゃ早い」

「……迂闊だったわ。浮かれてしまったわね?」


 その強化された魔力は甚大であり、巨竜の荒らした地面はまたたく間に平野へと様変わりして行く。

 当然、これの逆も行えるだろう。戦場で相対あいたいすれば、歩兵はもうその時点で役に立たない。


 その整地された大地に、まずは中央から建築を着手する。この土地の、ハルの領地の方向性を決める大事な一歩だ。


「アイリちゃんの意見を聞かなくても平気かしら?」

「平気。今回は、『ルナさんのお好きなように!』だってさ」

「そうなのね?」

「ギルドホームで満足してるみたいだよアイリは」


 ギルドホームでは、中央に大きなお城を建ててご満悦なアイリだ。

 少しずつ拡張が続けられたホームは今では土地を埋めきるほど立派になり、後日その地で夏祭り、もとい秋祭りの開催も決まっている。


 今回は、別荘地として活用する気も特に無いので、実用性を重視し、建築指揮はルナに一任する事となった。


「では、今回は効率最優先で無敵の要塞にしてしまいましょうか?」

「いいね。このゲーム初めてからは、基本的にデザイン重視だったもんね」

「腕が鳴るわ?」


 このゲームを始める前は、ハルとふたりで街づくりのゲームを良くプレイしていたルナだ。

 そのプレイ方針は場合によって様々で、景観重視の都市にしたり、人口や街の収益を重視して効率都市にしたり。

 面白いのが、効率最優先で計画し都市を作り上げても、多くは機能美とでもいうのか、規則的システマチックな美しさを醸し出したりする。

 ただし市民に飛行許可を与えてはいけない。


「中央には魔力圏の高度ギリギリの尖塔を。ランドマーク代わりに作りましょう」

「わお。そしていきなり最強施設だね」

「この高度から、あらゆる位置を狙い撃ちにするわ?」


 ルナの最初の一手は、先端に超強力な儀式魔法陣を搭載した巨大な宝石、それを煌びやかに掲げる巨大な塔の建設だ。

 その圧倒的な高さから撃ち下ろされる魔法は都市の外周を360°射程に収め、死角なくあらゆる角度からの接敵を許さない。


 その塔から多少低くなる形で、塔自体への攻撃を阻止する為の防御施設、対空砲火などが建設されてゆく。

 そこから更に下がり、副兵装サブウェポンとしての砲台が並び、と徐々に塔は低くなっていく。

 つまりは、中央の塔を頂点とした、ピラミッド型の構造であった。


 外周には堅牢な壁がずらりと並び、敵どころか市民すら一切内部へは通さない。


「……勢いでどんどん配置してしまったけれど、お金は大丈夫なのかしら?」

「大丈夫だよ。どうせ普段から使い道無いし。すぐ貯まるし」

「それもそうね? 近々、大規模な貸し付けの予感もするものね?」

「シルフィーがもうロックオンされてる……」


 青の郊外の土地を囲い込みたいシルフィードだが、ギルド単体でのボス討伐は現実的ではないだろう。

 勝てない、という意味ではない。参加を拒否できないのだ。

 ならばどうするか。参加者から、土地を買い取ってギルドでまとめれば良い。当然、割高になり、彼女のギルドであっても払いきれる額ではなくなる。


 そこでハルのギルド、『銀の都』から資金を貸し出そうとルナは計画しているのだった。ご愁傷様である。

 まあ、他の高利貸しから借りるよりは、シルフィードもいくぶん楽だろう。


 そうして、更に支出に遠慮がなくなったルナによって、何に使うのかイマイチ分からない要塞都市は完成へと向かっていった。

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