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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
第8章 セージ編

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第263話 戦果の褒賞として汝に領地を与える

 コアを破壊すると、ボスモンスターの体は輝きながら魔力へと還元されて行った。

 外殻は『結晶化』の技術を使って作られている為、その量は膨大だ。街を一つ覆うほど、いやそれ以上に大きく拡大して行く。

 ゲーム世界側の引力に引かれて吸収されるかと思ったが、この地に固定されたようで、魔力はこの場から動く気配は無い様だった。


「固定されたのかしら?」

「そうみたい! もう背中の荷物下ろしても平気だし。……あー、肩こったー」

「凝る筋肉が搭載されてないでしょユキ」


 周りに魔力が満ちた様子を察して、彼女たちが集まってくる。

 敵も居なくなり、足場や荷物ももう必要ない。キューブから降り、背中のモノリスを下ろして伸びをする。

 しかし、何故わざわざ流動する普通の魔力ではなく、固定されて残ったのだろうか?

 その答えは、ボス戦に勝利した戦果リザルトウィンドウと共に、特別報酬が記載されたウィンドウパネルが表示され、そこに記載されていた。


「えーと、『竜のむくろは新たな土地を生み出し、この地は貴方の所有地となった』、です!」

「うお凄いじゃんハル君。領主様だよ領主様!」

「ユキだってそうだよ。参加者は貢献度によって土地の権利が得られるみたい」

「えー、いらない……」

「私も、かなり多いわね」

「ルナさんは大活躍でしたものね!」


 それを聞いて、放送のコメントがざわめき出す。

 経験値と、良くてレアアイテムが貰えるくらいだろうと思っていたレイドボス戦が、まさかの土地ゲットのチャンスだったのだ。

 前回の戦いでは戦闘に興味なく参加しなかった者も、この情報を聞いて動き出すかも知れない。参加者は減ると思われていたが、別の勢力が大量参加する可能性も出てくるのだった。


「盛り上がるのは良い事だね。新情報を提供出来て良かったよ」

「……呑気に言ってられるのは、既に土地持ちになったハルだけよ? 今後は土地の為の駆け引きも入って来て、面倒になる部分もありそうね?」

「どうせ活躍できないっしょ、にわか参加者は」

「もう少し表現を飾りなさいな……、ユキのドレスをフリフリに可愛くするわよ?」

「土地に興味ない強者から、買えばいいのです!」


 そのアイリの発言で機能に気づいたユキが、僕の方へと全ての土地の権利を移譲してくる。本当に土地に興味が無い様子が如実にょじつに表れていた。


「そうね? リザルト間で、やり取りが可能ね。値段も付けられるみたいよ?」

「逆に言えば、リザルト出なければ参加できないみたいだねー。……なんかランダムパック開封会みたいだ」

「現地トレードだね。割と盛り上がるよね」

「ぱっく、ですか?」


 トレーディングカードを初めとする、ランダム封入のパックの事だ。

 数量限定で売り出され、買った物は即座にそのマップで開封する。当たり、外れに一喜一憂いっきいちゆうし、そして目当てのアイテムを当てた物に呼びかけて交換トレードを申し出るのだ。

 逆に、欲しいものが無いようなプレイヤーでも、運よく当たりが出れば、必要とする者に売りつけて一攫千金を狙う事が出来る。

 そうやって、喜びと怨嗟えんさの声で会場は沸き立つのだった。


 交換会といえば、こうしたレイドモンスターとの戦闘では、モンスターの身体の構成部位がドロップし、それが参加者にランダムでドロップする事がある。

 部位によってそれぞれ用途があり、参加者ごとに欲しい部位が異なったりする。それを戦闘後にトレード、そして売却する事も、ゲームによってはあったりする。


 このゲームにはそういった物は無いようなので余談であった。土地の分割が、その代わりなのだろう。


「コメントでは早くも、ハルさんに来ないで欲しいとの大合唱なのです!」

「みんな素直で良いね」

「全ての土地をハル君の物にしちゃおうか。ほら、今までは『ハル君手伝って~』って言ってたし」

「いいわね? 震えて待ちなさい」

「二人とも脅かさないの。行かないから大丈夫だよ」


 土地を増やした所で管理が面倒だ。参加者に売却するにしても、ゴールドをそれ程欲している訳でもない。

 要らぬ不興を買いに行くよりも、ここで満足してのんびりと過ごす方が良いだろう。

 それでなくとも、最近はやりたい事も、やるべき事も溜まっている。


「ハル、MVPは私みたいよ? ダメージ量なのでしょうね。『竜核の宝珠』なる物が貰えたから、あげるわ?」

「限定アイテム、だと……?」


 ……参加したくなってきた。明らかに重要アイテムだ。

 レイドボスの数は限られており、土地になった事からも復活は無さそうだ。数量限定品である。


「参加しようかな……、いや、冗談だよ。そんな露骨に慌てないで」


 コメント欄が、一瞬で阿鼻叫喚あびきょうかんの地獄絵図になった。


 現状では何に使うか知れない物だが、今後のキーアイテムになる事は間違いない。

 それを独占してしまったら、土地同様にゲームが盛り下がる事は間違いないだろう。多少、後ろ髪を引かれる気もするが、ここは予定通り不参加を貫こう。


「皆で頑張ってくれ。僕は、この土地で何が出来るか調べておくから」

「……皆さん、ほっとしてるのです!」

「どうかねー、勝てなくて、またすぐハル君に抱きつくんじゃないのー?」

「……泣きつく、よユキ? 願望が出てるわ?」

「がが願望してないもん!」


 もん、ではないが。それはともかく、土地を得て、どうなるのだろう?

 魔力のある所が領地であるならば、僕はもう世界中に自分の領地を持っている事になる。梔子くちなしとヴァーミリオンなど、首都も全て手の内だ。

 そして、この踏み荒らされた荒野、元は平野のこの僻地を渡されて、一体どうしろというのか。

 ここに限らず、当然どのレイドボスの所在地もゲームの、各国の町からかなり遠くだ。そうした地だからこそ、一から開拓する楽しみも確かにあるが、ノーサポートではやりたがるユーザーは少ないだろう。


 土地の所有権を確定してしまい、僕らはその先の説明を見て行く事にした。





「……はいみんな注目、あ、アイリ達じゃなくて視聴者ね。あんまり覗き込むと、かわいい顔がカメラにどアップになるよ」

「し、失礼しました……!」

「視聴者サービスになるのではなくて? 相変わらず独占欲が強いわね」

「なんか書いてあったん?」


 ルナとユキから権利を委譲され、土地の所有権を確定するとその土地の活用法のチュートリアルが次に出てきた。

 どうやら、気になっていた土地の活用法を教えてくれるようだ。その画面をカメラに映し、視聴者と共に確認する。


「まとめると、神界と同じようにして建物を建築出来るんだね。家とか。それを集めて、町になっていくのかな」

「楽しそうなのです!」

「でもアイリちゃん? 土地の所有者は仲間とは限らないわ? 血で血を洗う、ご近所トラブルの毎日かも知れなくってよ?」

「こわいですー……」

「使徒は血が出ないから大丈夫だよ」


 何の意味も無いなぐさめで不安を煽るルナを流し、更に説明を見て行く。

 これだけでは、ギルドホームと大差ない。もちろん、僕らの『銀の都』のような広大なギルドホームを所有しているギルドは存在しないので、ここで初めて大規模建築に着手できるプレイヤーは多いのだろうが。


「ギルドホームと違う所は、防衛用の建物も作れるみたいだね。これでご近所トラブルも安心だ」

「なんでさ。何に使うのさ防衛兵器?」

「いや知らん。でも作れる物はしょうがない」

「神々もオススメしているのです! 『たくさん防衛塔を建てて、敵襲に備えよう!』、です!」

「つまり、敵が来るという事よね?」

「ストラテジーとか、タワーディフェンスだね。建てない訳にはいかなそうだ」


 やはり、ただ単に家を建てる為の土地をくれる訳ではなく、これも新たなゲーム要素の一環であるようだ。


 攻めてくるとなると、やはりレイドボスのようなモンスターだろうか? 戦艦が無くても町を守れるように、防衛塔を建設すると。

 その場合は、魔力が土地にあるので今度は装置無しでも戦えるだろう。


 それとも、まさか土地を求めるプレイヤー同士で戦争でもさせる気だろうか? 無いとは言い切れない。

 もうご近所トラブルなどという呼び名では片付けられないが、そうして他プレイヤーと領土を争い、盟主を目指すゲームだっていくらでも有る。それを真似しないとも限らないだろう。


「何が来る、とは書いてないね。まあ、何か来るんだろう、そのうち」

「すぐには来ないだろうねー」

「ボス戦その物に時間が掛かるものね? すぐに来られても、疲れてしまうわ?」

「そういえば、放送も長くなったね。そろそろ……、え? 建築見せろって?」

「わたくしも、やってみたいです!」


 情報に貪欲な視聴者達だった。今後、自分たちが目指す事になる物を知りたいのだ。


「そうだね……、簡単に、家でも作ってみるか。時間が押してるのは変わりないし」

「防衛塔も作ろう!」


 僕とアイリで、四人が暮らせる一軒家を作って行く。別荘だ。少々、周囲が荒れてはいるが、誰も居ない土地で気楽だろう。

 切り出したままの木で作られた、なんとなく安心感のある素朴な家。この地は寒いので、煙突付きの暖炉も付けておこう。

 広いお風呂場と寝室を作っていたら、案外大きな家になってしまった。輝く鳥のぬいぐるみも、おまけしておこう。


「作るのが早い? まあ、慣れてるからね」

「“ほーむ”と、同じように出来ますね!」

「だね。……あっちも、仕上げておかないとね。夏祭りが秋祭りになっちゃう」

「別に、良いのでは?」


 確かに問題は無いか。必ず夏にやらねばならない決まりなどない。毎年秋に開催する所だってあるだろう。


 そうして内装も整え終わり、僕らが外へと戻ってくると、家の隣には巨大なやぐらが建造されていた。

 十メートル以上ある石造りの塔で、家と並ぶ違和感が半端ではない。


「あ、ハル君出てきた。どう? これで愛の巣の守りは完璧だね」

「過剰防衛すぎる……、個人宅守るのに家よりでかい塔立ててどうするよ……」

「よくこの時間で作れましたね!」


 確かに、建築慣れしたルナが居るとはいえ、僕とアイリの速度を超えこの大きさを建造するなど、恐るべき速さだった。

 ユキが度肝を抜きたい一心で本気を出したのだろうか?


「これ、ボタン一つで作れるのよ」

「もいっこ出そっか。ほれ」

「ほれ、ではないが」

「逆側の守りも、完璧なのです……!」


 ユキがウィンドウを操作すると、ワンボタンで建築済プリセットの石塔が姿を現した。

 なんというかもう、家を守る設備ではなく、要塞のただ中にある場違いな家、になっている。


「……防衛施設も、色々とあるね。豪華な物とか強そうな物は、それだけアイテム消費も激しくなるね」

「プリセットだけではなく、自分で一からも作れるのよ?」

「防衛の玉ー、みたいのがあってさー、それを核にして建築すると、防衛設備になるんだね」

「一見普通のおうちのような、防衛塔も作れるのですね」


 これは、凝るとなかなか楽しいやつだ。ルナが結構この手の物は好んでいた。

 もう敵になる勢力が居なくなっても、延々と壁や設備を強化し続ける。ユーザーズメイドで見た目を変えられる物は、特に好きだった。

 まあこちらは逆に、まだ敵となる勢力が居ないのだが。


「とりあえず、何が襲ってくるか分かったらまた放送でもするかね。今日はこの辺で」

「皆様、ありがとうございました!」


 そうして延長戦も終わった放送を閉じると、僕らは作ったばかりの家に入ってやっと力を抜くのだった。





「お疲れ様ハル。……早速だけど、どうなっているのかしら」


 家に入ると、放送の終了を待っていたルナから疑問が飛んでくる。聞きたくてずっと待っていたようだ。


「この場所に、魔力が固定されてる理由だね」

「ええ。ゲームの方へ、引き寄せられるのではなくて?」

「あれ、でもハル君が体から出したら、その魔力も固定されるよね。おんなじじゃん?」

「ちょっと違うね。あれは色付きだから」


 そこは僕自身も気になって調べていた。以前、遺跡の調査の為に放出した魔力が、ゲームの引力に吸い寄せられずその場に留まった理由は何か。

 結論から言えば、あれは『カナリーの黄色』が支配する魔力であるからだった。


 仮説を立てると、色を付けて侵食し、支配した魔力は重力を持ち、無色の魔力も周囲に固定する核となるのではないか。

 そうして七つのくさびがこの地に打ち込まれ、ゲーム空間を構成し、またこの地に生きる人々に加護を与えている。


「でもこの魔力は無色。仮説の前提が崩れてしまう訳だけど」

「そうなん? ハル君色なんじゃない?」

「すてきですー……」

「まあ、そうだね。つまりはそういう事だろう。神じゃなく、ユーザー個人が支配する魔力として与えられる。……理由は不明だけどね」

「なるほど。そうね、色で分けては、未契約のユーザーが参加出来ないですものね?」


 現状、“信仰しない自由”がある。どの神を選べばメリットが大きいのか、まだまだ未検証な今、一度きりの判断を選び切れないでいる者は多かった。


「……問題はここに来る方法だけど。ああ、行けそう。<神眼>の視点は、問題なく通るみたい」

「ハルの魔力なのですもの、当然ではなくって?」

「変な話、そうとも言い切れない。<神眼>って元々、カナリーちゃんの目だからね。あの子の魔力にしか対応してないスキルってコトも有り得た」


 <神眼>が通れば<転移>も可能だ。ここへ戻って来るのも容易たやすい。

 どうせくつろぐならばお屋敷が良い。僕らは別荘を後にしてお屋敷へと<転移>する。


 メイドさんに『ただいま』を告げ、お茶を飲んでソファーでくつろぐと、ようやく本当に羽を伸ばすことが出来た実感が湧いてくるのだった。


「……そろそろ、これも切って本当に休むか」

「お? 頭悪くなんのハル君?」

「言い方考えて? まあそう。意識拡張を切ろうかと。目的も遂げられたし」

「ミレイユのスキルの習得ね?」

「あれは凄かったのです! ルナさんが、ぶわーっって!」

「ルナが一瞬で覚えたスキルに一昼夜かかった僕……」

「腐らないの」


 魔法と、この世界の仕様と、自分はよほど相性が悪いのではないかと少し落ち込んで来る。

 まあ、ルナは魔力の感じ方について全プレイヤーの中でも特別に才能があるらしい。セレステが特別にスカウトする程だ。

 負け惜しみだが、それで納得しておこう。


「その前にさー、頭良いうちにクリスタルの解析もしちゃえばいいんじゃない?」

「……まあ、そうなんだけどね」

「無理はしないのよハル? ただでさえ長く変わっているのだから」

「いや、負荷はまだ平気そう。でも、いくら解析力が上がってるとはいえ、失敗できないから。慎重にもなる」


 物質であるため、<神眼>での魔法解析のようにはいかない。ではエーテル技術はと言えば、繊細すぎる対象を破損してしまう危険があった。


「それなんだけどさー。何で<物質化>でコピーしないの? コピーなら壊し放題じゃん」

「……あ」


 これは間抜けが過ぎた。本当にその通りだ。何故、今まで気がつかなかったのか?

 コピーしてしまえば、多少の無茶はなんとも無い。何個も雑に解析して、差分情報を刷り合わせて完全な状態にする力業だって可能だ。


 ユキの素晴らしい助言に感謝しつつ、クリスタルを持ってきて早速実行に移す。

 気づかなかった自分のせいなのだが、ようやく状況が進展しそうな事に、内心すごくわくわくしてしまっていた。


 ……しかし、その結果は思うように出なかった。


「…………コピー、出来ない?」

「<転移>してしまったのです!」


 クリスタルを右手に持ち、左手にそのコピーを生み出そうとした結果。何故か手の中のクリスタルは、左手へと移動してしまうのだった。

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