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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
第2章 セレステ編

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第26話 新しい流れ

「ハル君掲示板みた?」


 唐突に現れたユキの一言で会話が始まった。

 ユキはいつも唐突だ。ふらりと現れては、会話がひと段落すると、またふらりと消えてしまう。

 それでいて律儀なので、会話の内容は五人に関わるものを選んでくれる。なのでユキ自身がどうしているかは、まだあまり聞けていないのだった。


「試合の後からは見てないな。頭痛くなっちゃったから、優先順位落ちる」

「さよかー」


 思考の数が万全な時は片手間でのチェックも容易だが、数が減ると掲示板等のチェックは優先度が低い。

 本音を語れば、後ろめたさから何となく避けてしまっていた部分が大きいだろう。あの試合の事をどう説明したものか、足りない頭で考えるのは負担が大きそうで、見ない事で無かったことにした。


「その割にはミニゲームはしていたわよね、ハルは」

「……あれは、<幸運>のスキルアップのためには優先順位が高いんだ」

「シューティングゲームに<幸運>は影響しないのではなくて?」

「はい」


 相変わらずルナは逃がしてくれなかった。ルナは優しいが厳しい。


「見たら説明しなきゃいけない気分になるだろうから、逃げてたかな」

「はは、ナイーブだねハル君。ハル君はもっとドヤッとしてなきゃ」

「ドヤいうな」


 ユキはハルの背を追いかける身だ。故にあまり弱い部分は見せて来なかったのだろうか。

 とはいえドヤッと(どうだ? と自信満々な様子)している事もさほど無いはずだが。戦闘中のハルを多く見ていると、そういう感想になるのだろうか。


「生放送の時も、その後も盛り上がってたよ。心配する必要なし。ハル君は疲れてるから、って言っておいたから、まー平気でしょ」

「ありがとユキ。あと朝からは登校してたから、どのみち書き込めないから見てないね」

「ん? ずっと居たじゃん」

「授業受けながら居たの」

「うわぁ、相変わらずバケモノすぎる。ハル君、大変だからゲーム一本に絞ろう」

「……ユキ、ハルを堕落の道へ誘うのはやめてちょうだい?」


 ユキにもカナリーと同じような事を言われるハル。

 ユキは学校には行っていない。こう言うと言い方は悪いが、不登校ではない。既に自活しているのだ。


 その才能をもって、多くのゲーム大会を股に掛け、いや、むしろその手に掛けている。出場した大会は大抵が彼女の優勝で終わるのだ。

 優勝しなければ意味は無いとは彼女の言だ。もちろんプライドとしての面もある。だが実利の面、賞金額の違いが大きい。


 エーテル以前と比べ、見栄えのするゲームの数は増え、大会もまた増えた。

 しかし、全てのプレイヤーが安定して食べていける程の数ではない。ゲーム事業に投資する企業は増えたとはいえ、社会全体のお金が増えたりはしないので仕方の無いことだろうか。

 なのでゲームプレイで稼ごうとする人間はスポンサーを見つけ、収入はそれに頼る。だがユキはそれを嫌った。そうすると少ない賞金のパイを奪い合わなくてはならない。


 そんな事情があった。今は、これは余談になるのだろうか。


「ごめんねルナちー。ハル君と二人の時間を取ったりはしないよ」

「そういう訳では、ないのだけれど」


 そんな努力をおくびにも出すことなく、ユキはあっけらかんと語る。

 最近はこのゲームにかかりきりだが、平気だろうか。

 このゲームも人が増えて、プレイヤーが収益化できる仕組みが作られれば良いのだが。神様はそういう事は考えているのだろうか。


「話ズレちゃったけど、掲示板がどうしたの? 少しは人増えたかな」

「そうそう、結構増えたよ! PV見て来た人が多い」

「へえ、僕、大人気だね」

「いやー、人気なのは残念ながら王子かなー。ハル君も不人気って訳じゃないけど」

「分かってるよ。知ってて言ってる。普通はゲームキャラが人気になる」


 一部ゲームキャラの人気を食ってしまうほどのアイドル性を演出するプレイヤーも存在するが、ハルはそうではない。

 ゲームキャラとして紹介された王子の方に人気が集まり、それ目当てのプレイヤーが増えるのは当然だった。


「ハルはアイドルにはならないの?」

「ルナはいきなり何を言い出すのか……」

「あー、ちょっと見てみたい。楽しそうだね」

「ユキがやりなよ。収入増えるぞ」


 勘弁して欲しい、とハルは辟易へきえきする。

 ハルがやるよりも、方向性の違いはあるが、共にカリスマ性を持つこの二人の少女の方がよほど向いているだろう。

 ハルとしては一人で黙々とゲームをして、ゲーム仲間と何でもない話で盛り上がって、対戦相手を叩き潰せればそれで満足だった。

 アイドル性とはほど遠い。特に最後のものが。


「ハルさん、アイドルとはなんでしょうか?」


 雑務を終えてきたアイリがてこてこと寄ってくる。

 アイリのような存在の事だよ、と言ってしまいたいハルだが、それでは何の説明にもならないだろう。この世界にアイドルが無いとすれば、語るのは難しそうだ。


「アイドルはですねー、神に祈りを捧げるように、好意や熱狂を捧げられる存在ですよー」

「カナリーちゃん。間違ってないんだろうけど、当の神様がそれ言うってどうなのさ」


 ウィンドウからちびカナリーが出てくる。最近は大きい方が多いので少し久しぶりだ。

 アイドルの話だから可愛さアピールだろうか。いや、大きい方が可愛くないという事ではないが。


「ではハルさん達はわたくしのアイドルなのですね!」

「うおお、強すぎるこの子……」

「ええ、真っ直ぐね」


 アイリのストレートな好意は、今日も眩しいばかりだった。ユキもルナも撃沈される。

 ハルは何も言わずアイリの頭に手をのせると、彼女も笑顔でそれを受け入れた。





「つまり、王子にアイドル的人気が出て、それ目的のプレイヤーが流入。王子に会うために北西方面へのワープ経路を開拓していこうって流れになってるんだね」

「そだねー、一言で言うとそんな感じかな」


 アイリを膝の上に乗せて、頭を撫でながらユキが答える。プレイヤー、つまり使徒の話である為あまり話に入れないアイリは、気持ち良さそうにされるがままになっている。

 ルナがそれを羨ましそうに見ているが、ルナが同じことをやると、身長がさほど違わないので埋もれてしまう。ルナが。

 ハルとしても羨ましくない訳ではないのだが、ハルがやると色々まずい事になるので抑えていた。


「PVが成功してセレステも喜んでいるでしょうねー」

「カナリーちゃん、それほんと喜んでる? また恨まれてない?」

「喜んでますよー。貯蓄を根こそぎにされて手駒の一つを使用不能にされましたがお客が増えたので問題ありません」

「…………」


 どうやらカナリーとセレステの因縁はまだ続くようだった。

 パワーバランスがカナリー有利となったので、当面は問題無いのだろうが。


「プレイヤーも喜んでるかな。開始から、ダンジョンアタック以外やる事なくて、ちょっとダレて来たとこに新展開だからね」

「ハルのおかげで、自分の行動がイベントを発生させるのが分かったのもあるでしょうね」

「そうそう。そういう楽しみ方もあるんだー、って戦闘からそっちに切り替えた人も結構いる」


 敵と戦い、力を求めるだけが楽しみ方ではない。

 そう分かってはいても、明確なシステムの無いものにはなかなか手が伸びない。結局、最も分かりやすい戦闘をしてしまう。

 そういったユーザーに対する指標になる事が出来たのだろう。


「ところで僕、ワープに関しては全く知らないんだけど、どういう仕様になってるの?」

「ハルさんは私が直接やっちゃってますからねー」


 ハルはまだ一度も神殿での転移を使った事が無かった。むしろまだこの神域の中から出た事も無い。


「ハル君ひきこもりだもんね」

「わたくしも引き篭もりなので一緒なのです!」

「ありがとうアイリ。ユキの言うことを真に受けちゃだめだよ?」

「ハル君アイリちゃんを味方に付けるのやめて!」


 そのひきこもりが、ゲームに与えた影響が一番大きいというのも妙な話だ。

 運営としては最初はどういう予定だったのか。ハルを除いて考えれば、皆NPCとはあまり関わらずに過ごしているようだ。遠からず退屈させてしまっていただろう。

 その時はまたユーザー間で完結するイベントを開いていたのだろうか。


「んーとね、最初はこの国の面積の半分くらいかな。首都を中心として。そのくらいの範囲飛べたんだけど。あ、ここ以外ね」

「やっぱりここには来れないんだね」

「来れないですよー」

「うん、みんな不思議がってるけど、よくある『最初のマップの隣に裏ダンジョン』、って事になってるね」

「ハルの好きなやつね?」

「うん」


 最終的にゲーム本編をプレイした時間よりも、裏ダンジョンに潜っている時間の方が長くなるやつである。


「それで次の神殿を開放するには対応するダンジョンのゲージ貯めなきゃいけないの。ゲージは依頼の達成で上がるんだ。モンスターを十匹倒せーとか、石を十個採取しろーとか」

「ゲージは全ユーザー共通なの?」

「そうだよ。だから大人数で組んで、一つのとこを一気に進めてる人達が多いね。私は好きにやってるけど」


 個人で受ける依頼、依頼というよりもゲームを進める指針だ、それを達成するとそのダンジョンにポイントが入る。

 難度1の依頼なら1ポイント、難度3の依頼は5ポイントといったように。

 そのポイントがダンジョンごとに定められた指定数に達すると、全ユーザーが同時に受けられる依頼が出現する。

 その大きな依頼をクリアすれば、晴れて次の神殿への道が開ける訳だ。


「道を塞ぐ強敵を倒せーとか、森の奥まで踏破しろー、とかだね」

「ユキもそれをやったのかしら」

「いくつかね。ボスは結構歯ごたえあったなー」

「ユキさん強いです!」

「まあね、うりうり」


 褒められたユキが、まんざらでもないようにアイリをうりうりした。ルナがそわそわしているので、後でアイリに言ってやらせてあげようと思うハルである。

 アイリ自身も喜ぶだろうし、ルナの戸惑う姿も見れそうだ。


「それで、その攻略の流れが北西へと向かってるって訳だ」

「そゆこと」

「セレステに利があるのもそこですねー。彼女の領域もそっちにありますからー」

「そういえばそうだったね」


 神殿が開放され、その領域まで到達者が出れば、晴れてカナリーに続く契約者を得られる事になるのだろうか。

 あの出来事には多少の同情があるので、ハルもそれは応援することにする。


「しかし、王子が目当てなのは新しく来た使徒の方々なのでしょう? 元から居た方とは目的が違うのではないですか?」

「まあ、そうだね。でもねアイリ、僕らはまだこの世界に来たばかりだ、これといった目的を持ってる人は少ない」

「そうね。その中で確たる流れが出来ると、それに乗ってしまうものよ」

「私はそれ、あんま分からないけどねー」


 ユキは常に我が道を行くのだ。





「そんな感じになってるんだけど、ハル君はどうする?」

「どうもこうも無いかなー。僕はここにいるよ」

「えー、皆ハル君に手伝って貰いたがってるのに。まだ負い目があるのかな?」

「目立っちゃったものだね。それもあるけど、僕が王子の手助けする理由も無いしね」

「あはは、そりゃそうか、言われてみれば」


 もう一足先に王子とは接触したハルである。

 王子の物語にはまだ続きがあるようだが、それはファンになったプレイヤーが引き継げばいい。ハルの出る幕ではなかった。


 それにここでもまだやる事はある。


「こっちの強化もしたいしね」


 そう言ってハルは指を立て、<魔力操作>を発動して周囲の魔力に渦を巻かせる。

 といっても見えているのはアイリだけだが。いや、そう思ったがルナにも見えている気配がある。<精霊眼>を習得したのだろうか。


「試合中に覚えたやつだね。<MP回復>の次はそれかー。またハル君が家に居ながらレベルを上げちゃうんだね」

「まあ、僕も少しどうかとは思ってきたよ。王子の件も何とかなったし、少しは外に出てみようか」

「じゃあ後で私とどっかに潜ろう。私ならいいでしょ」

「うん。ありがとうユキ」

「よしっ」


 ユキはそう言うと、話は付いたとばかりにアイリを下ろし、軽く挨拶だけするとまた出かけていった。

 非常にあわただしい。が、彼女なりの目的の合間にわざわざ来てくれているのだろう。非常にありがたい事だった。


「ユキさんはいつもお忙しそうですね」

「魔物を倒しに行ってるんだよ。そういう意味ではユキが一番この世界に貢献してるのかもね」

「違いないわね」


 何はともあれ、ハルもユキに負けないように励まないといけないだろう。負けてはいられないと、去って行った彼女の背中に誓う。

 だがその前に、ユキの膝から下ろされたアイリが所在無さげにしていたので、ハルは先ほどの思い付きを実行することにした。


「アイリ、さっきルナもアイリの事くすぐりたがってたよ。やらせてあげれば?」

「!! はい! どうぞ!」


 そうしてルナの前に駆けていくと腕を大きく上げてそれに備える。

 急に水を向けられたルナはしばらくおろおろしていたが、勢いに負け、遠慮がちにアイリを撫で回した。アイリはきゃーきゃーと楽しそうにしている。

 ハルはそんな二人の少女の様子を眺めて悦にっていると、急にルナの目が怪しく光った。ような錯覚を覚えた。

 良くない流れだ。そう思うも、悦っている最中であるところのハルは初動が遅れる。油断が過ぎた。


「アイリちゃん、次はハルにやってもらいなさい」

「はい!」


 反撃を受けるハルだった。すぐにアイリが飛び込んでくる。

 逃げ場は無かった。

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― 新着の感想 ―
アイリちゃんがPVに出てたらゲームに流入するプレイヤーが何倍にもなりそう… でも接触は甚だ困難な壁が聳え立っているのでちょっと無理かなーw
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