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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
第8章 セージ編

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第254話 研究の成果は

「えー、特にボクが教える事なんて無いんじゃないのー?」

「やっぱりか」


 カナンの助言通り、マゼンタの元を、神界の幽体研究所を訪れていたハル達だったが、彼の答えは予想通りと言うべきか、教えてくれる気は無さそうだった。

 特に期待はしていなかったハルだが、こうなると最大の情報源を失ってしまったことになる。また、一から地道に出直しか、と心にかつを入れ入れようとするが、意外にもマゼンタの言葉はまだ続くようだった。


「勘違いしないでよーハル。なんだろ、教えようが無いんだよねぇ」

「というと?」

「だってもうスキルとして<神力操作>、持ってるじゃないかキミ。そんな人間にこれ以上なにを教えろってうんだ?」

「その<神力操作>が分からないから教わりたいんだが……」


 神々にとって、スキルは言わば免許皆伝の証。それを習得しているということは、すなわち無意識に使いこなせるという状況を意味している。

 プレイヤーに、『魔法の使い方を理解してる?』、と聞くような状況であろうか。聞いたところで、『念じるだけ』、や、『ウィンドウからコマンドを選ぶだけ』、としか答えられないだろう。

 マゼンタにとっても、それと同じであるような雰囲気が察せられた。


「教える事は不可能じゃないよ? でもさぁ、『歩き方を教えてくれ』って聞く人間に、ロボットに使う歩行用のプログラムを渡したって、しょーがないでしょ?」

「それ、ハル君なら理解して歩けちゃうんじゃないのー?」

「そうね? 登校中に集中してゲーム出来るように、自分の体を自動操作にしてしまう人ですものね?」

「危ないのです!」

「うわぁ……、分かりやすい例えだと思ったのになぁ。出来ちゃうとか、キミさぁ……」


 マゼンタ君もドン引きである。

 ついでに言えば、登校だけでなく、『授業を真面目に受けているフリをするプログラム』も充実している。

 思考の複数あるハルには、学園の授業は少し退屈だ。模範的な生徒を演じつつ、裏では秘密裏にエーテルネットに接続し、ゲームを始めに、やりたい放題やっていた。不良であった。


「ともかく、言葉で教えるのは難しい! さっきも言ったけどスキル有るんだから、そのうち出来るんじゃないの?」

「……あの、ハルさん。確かあのスキルは、わたくしと一緒に“あたまよくなってる”時に覚えた物です。同じようにしないと、使えないのでは?」

「ボクと戦った時だよね。なるほど、一人前に使いこなせて無いってわけだ、文字通り」

「確かに、あの時も詳細な操作はアイリの感覚に任せっぱなしだった」

「日本人のハル君じゃあ、必要な六感が不足してるのかなぁ?」


 その可能性はハルも考えており、それゆえ、ずっとアイリと接触しながら実験をしていた。

 しかし、当時の環境は最大レベルの意識拡張(アイリの言う『あたまいい』状態)に加え、無尽増殖システム、『エンゲージ』並びにルシファーの補助もあった。

 単純に、現状では能力スペック不足という事も考えられる。


「あ! ここであのロボット出すの止めてよね!」


 状況を再現されることを危惧したのか、マゼンタが先行して釘を刺してくる。

 実験としてはやった方が良いのかも知れないが、ハルもここで今すぐやるような真似はさすがにしない。

 あれは、ハルだけでなくアイリにも負担がある。おいそれと、やろうとは思わない。


「……仕方ない、分かるかどうかはともかく、考え方のヒントだけでも伝えよっかな」

「お、マゼマゼ意外と素直じゃん」

「混ぜ混ぜは止めて……、ハルには負けてるからねボク、何だかんだ言ってさ」

「ご主人様には、逆らえないと? 神々は、そういった印象とは無縁なのだけれど」


 ルナの印象にハルも同意する。撃破されて配下に加わった、とはよく語られるが、それでも手下になったようなイメージは皆無だ。

 言うなれば、多少は優遇してくれる状態になった程度か。


「いや、アルベルトは除いてだけど……」

「全くです。どの神も情けない。皆でハル様にお仕えすべきでしょうに」

「ほらね?」

「アルベルトー、ボクのシマで勝手に出てくるなってのー。しっし!」


 いつも通りに、呼べば即座に出てくるアルベルト。この、まさに手下な彼に聞いても良さそうだが、残念ながら神力についてはマゼンタの方が専門であるようだ。アルベルトも上手く伝えられる気がしないとのこと。

 マゼンタは変化を司る神。その彼が専門ということも、何か意味のある事なのだろうか?

 その辺りの事も考えながら、ハルは彼の話を咀嚼そしゃくしてゆく。


「神力なんて言ってもさ、これが神の力の根幹とか、そういう話じゃないんだよ」

「神々は、神力を使って生きておられる、という訳ではないのですね」

「そうだよ、お姫様。<神力操作>のネーミングも、スキル担当者の思いつきってだけー」


 やはり、その辺りの情報面はセフィの担当だろうか。称号の設定と同じように。


「ボクらが、ガソリンのように神力を燃料にして動いてるってコトは無い」

「マゼマゼ、ガソリンって古いねぇ。さすがは前時代のAIさんだ」

「こう見えてお年寄りなのね?」

「やめてってば! ……くっそう。これだから常識の変遷へんせんってのは厄介だよなぁ」


 あえて語られない、記録情報に載りにくい“常識”はAIにとってやっかいだ。このあたりは、ハルもよくカナリーと語り合う事がある。夜にでも、また聞いてみようかとハルはぼんやり考えた。

 しかしながら、ガソリンが最近は燃料の例えとして語られなくなったのは、十分に表層にデータとして出ているはずだ。

 なのでこれは常識の変遷というより、彼のサボり癖が原因だろう。情報更新アップデートを怠りすぎなのである。


「言ってしまえば、これも結局魔法の一種だ。起爆剤として、必ず魔力を使用する。だから念力のように、うんうん唸って『神力でろ~』って念じても無駄だよ?」

「はっ! 何故ご存知なのです!?」

「……やはり侮れないね、キミの諜報力は」

「覗き見趣味とは、呆れたものです。神の風上にも置けない……」

「当てずっぽうだっての! ホントにやってたんかい! ……てか、アルベルトぉー、お前にだけは覗きがどうこう言われたくない」


 良い勢いのツッコミだ。やはりハルの周囲にはツッコミ役が不足している。

 ……ボケ倒してだらだら進む仲間との会話もハルはまた好きなので、別に構わないのだが。だが、たまにはこういった雰囲気も良いものだ。


「……ともかく、またガソリンで例えて悪いけど、魔力こそがガソリンだ。魔力が無ければ始まらない」

「ガソリンのエネルギー効率を、極限まで突き詰めたのが神力、って考えるのかな?」

「それで合っているよ」


 魔力の無駄遣いの極致きょくちとも言える遺産、結晶化の技術に対し、最小のエネルギーで最大の効果を得るのが神力ということか。

 ぼんやりとは分かったが、ハルとしてはまだイマイチ理解できていない部分がある。何なら最初に言ったような、AI用のプログラムにあたる仕様書を見せて欲しいくらいだ。

 とはいえ前進には違いない。もう少し神界で情報を集め、また実地試験に励むとしよう。





「でもさーマゼマゼ。効率良いって言っても、ガソリンは所詮ガソリンでしょ?」

「……出せるエネルギーには上限があるって言いたいの? ダメだなぁーガソリン舐めちゃあ」

「いや舐めないよ。体に悪そうだし」

「熱変換効率の話だけならその通りだけど。よーは使いようってコト、気化爆発させたりね。結局は例えだよ」

「僕が直接エーテルを爆発させるエーテルボムが、効率悪いみたいで少し恥ずかしいね」

「んなこと無いけどねぇー。あれが出来る人間なんてそうそう居ないし」

「はい! ハルさんはとっても凄いんです!」


 妻の賞賛が今日もこそばゆい。しかし、ユキの言う熱変換効率の話では、エーテルボムの威力は、まさにあれで頭打ちだ。効率100%で、これ以上の威力が見込めない。

 周囲の空気を突然に爆発させるに等しい奇襲性は利点だが、最近ではそれを防ぐ防壁をプレイヤー達も当たり前のように準備し始めた。


 それに対し、神力へと変換した砲撃で比較すれば、もう桁違いなどという言葉では語れないだろう。


「核爆発だって反物質砲だって、最初は“制御出来るエネルギー”をキーにして、最終的な反応を引き出すでしょ?」

「文字通り起爆剤だね。……その辺の理屈は、理解してるつもりなんだけどね」

「理解してるなら、わざわざボクに聞きにこないでよねぇー」

「アレに似ているわねハル。手持ちゼロから、億万長者を目指すゲーム」

「あー、私もやったよそれ。地道に稼いでー、機材買ってー運用してー……、で最後には国を買うの」

「何でそうなったのです!?」


 倍々ゲームを楽しむ物だからだ、仕方が無い。最終的にはそうなる。

 むしろ、そこで終わっておいてくれて良かったとも言える。それ以上行くと、もう自分が何を買っているのか分からなくなりそうだ。


 ゲームとしては、真面目に働いた資金を元手に、投資効率の高い機材や土地を買ってお金を増やしていく目的のゲームだ。

 百万円で買った機材が、百十万円の利益を出せば十万円の儲け。

 割合で見れば一割だが、それが千万一億となれば、利益幅もそれだけ上がる。そうして最後には、寝ていても国家予算が転がり込んでくる。


 放置しても資金が増える様子から、真面目に働くのを揶揄やゆしているゲームだと言われるが、ハルはそうは思わない。

 ハイスコアやスピードアタックを狙うと、元手となる資金が増えれば増えるほど、同時にやる事も増え、稼げば稼ぐほど忙しくなる事を教えてくれるゲームだと思う。


 余談であった。つまり、“最初の資金”にあたる魔力を転がして、大きな結果を得るのをルナはそのゲームに例えているのだ。

 なお、ルナによれば現実のマネーゲームは、いかに出力をあげるかでは無く、いかに手持ちを減らさないかが重要になるらしかった。


「神様も、魔力運用のゲームをしてるってことか。今は、どのフェイズなんだろ?」

「…………」


 彼らからの答えは無い。少し意地悪な質問だっただろう。常に気になっている事であるため、つい口をついて出てしまった。

 そんな空気を読んだのか、ユキが少し話題を変えてきた。


「そいやさ、戦艦ショップで露骨な回収手段を出してきた感があるけど、このゲームもユーザーのゴールド溢れが深刻になってきたん?」

「ん? ああ、確かに資金はだぶついて来てるよね」

「ですが、よくあるゲームのように無限にインフレはしないでしょう。戦艦の物が高いのは、単純に、簡単に買われないようにです」


 ユキの疑問に、二人の神様うんえいが答える。

 ユーザーのゴルド溢れ、というのは、ゲーム内通貨の特殊性によりしばしば起こる問題だ。

 戦えば戦うほど、モンスターから資金ゴールドが稼げるゲームの通貨は、いわば無限に発行される紙幣。放っておけば市場に貯まる一方で、取引は無秩序にインフレして行く。もしくは、買い放題になり通貨が意味をなさなくなる。


 そういったデータのみのアイテムを扱うゲームとは、このゲームは様相が異なるとアルベルトが語る。


「このゲームにおけるアイテムは、全て魔力によって作られています。いわばゴールドは、その魔力との引換券」

「素材アイテムなんかは、微妙に違うけどねぇ。でも、高級素材は、それだけ魔力を使う結果を引き出す用途に使うからこそ、高額設定されているんだよ」

「その魔力が有限である以上、無限のインフレにはなりません。……単純に、回復薬への消費が激しいゲームですしね」

「なるほど? 金本位制ならぬ、魔力本位制って感じか」

「面白い言い方ですね、ハル様」


 このゲームは、プレイヤーの体の構築に始まり、魔法などの現象の行使全てに魔力が関わっている。

 ゴールド、ゲーム内資金は、その魔力をどれだけ公式に利用できるかを表す権利と言い換えられるのだろう。


「高級素材であろうと、裏技的に採取可能なハルが一番経済を壊しているわね?」

「ぐっ……、だ、大丈夫、あまり流通させないようには気をつけてるから……」

「大丈夫なのです、ハルさんは<物質化>によって、わたくしたちの経済も簡単に破壊できますから!」

「アイリちゃん、大丈夫になってないよ、悪化してるよー?」


 体を構成するHPMPさえも、回復薬を通さず周囲の魔力から吸収してしまっている。もはや、ゴールドの存在意義が形無しだった。


「……そういえば、HPMPってどうやって体に定着させてるのマゼンタ? これも神力?」

「それこそ言えないってば。企業秘密だよ」

「あは、ついに神様の『言えない』が出ちゃったねハル君」


 まあ、仕方がない。この幽体研究所を預かる者として、プレイヤーの肉体の情報は最重要機密だろう。

 しかし、何となく色々な情報が組み合わさり、突破口が見えた気がする。

 その後もしばらく、とりとめも無い雑談を交わすと、ハルはマゼンタに例を言い、研究所を後にするのだった。

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