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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
第7章 モノ編

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第234話 協力すべきか敵対すべきか

 四方へと飛ばしたハルの分身、ゾッくん達によって、下層の大まかな構造マップが把握出来るようになった。

 それにより分かった事は、まず中央部はどこからも進入不可となっている事。これは、上部や下部のブロックへの移動経路がここに開通すると思われる。

 下底部にある入り口や、以前に到達した中央司令室へと通ずる道もここだろう。現段階では関係ないまま終わる可能性が高い。


 次に、この層は構造が綺麗に八分割されているという事だ。チームに合わせ七分割ではないのは、甲板にある砲台ビットの数に合わせてだろう。余白となる余り地区が一つ出来ている。

 ただ今回はいつかの対抗戦と違い、分割されているとは言っても領土分けされている訳ではない。


「つまり中央が塞がっていても移動にさほど難は無い」

「どういうことかしら?」

「隣を無視して、二つ隣まで行けるって事だね!」


 偵察に出ていたルナとユキも交え、情報を共有する。今回は、今までのような魔力の侵食ルールは存在しない。

 では、明確な国境線が無い場合は何が基準になるかと言えば、プレイヤーそれ自体が国境だ。国境同士が動き、出会えばそこで戦いが起こる。

 あえて他と被らないように立ち回るか、積極的に他国を潰しに行くか。戦略次第という訳だ。


「それで、ハルやユキは、場慣れしている者として何処が転送装置だと思うのかしら?」

「やっぱり中央! ……と言いたいけど、多分違うよねぇ」

「そうだね。中央だとゲームするにあたって不都合がある」

「異なる陣営の方々が、出てきてすぐぶつかっちゃいます!」

「スポーンキルだね。そして、復旧がどうしても最後に回される事」


 中央の倒壊具合は甚大だった。そのため『何かある』と思ってもすぐには手を付けられない。そしてどうしても人が集まりやすい関係上、戦闘も起こりやすく手を出し難い。

 エレベータから遠くなること、も一応あるが、中央に万能エレベータがある場合も考えられるのでそれは一先ず除外する。


「なので、転送装置も八個存在するとして考えよう」

「そうなのですね!」

「必要かしら? それなりに広いとはいえわざわざ八個も」

「少なくともイベント中は必要だねルナちー。対応する色から出てきたら、そのチームの参加者扱いに出来るしさ」


 現在、各チームの契約者によって招きいれられた参加者は、そのチームの所属として数えられている。色つきの扉から入って来た者、色つきの契約者をリーダーとして転移してきた者。

 今はそうして、現行の契約者にどうやってアピールするかの営業が物を言う段階だった。

 だが、全てのユーザーがそうやって積極的に交流出来る訳ではない。そういった行動が苦手な者もイベントには参加させなければならない。その為には転移装置も七色必要だとハルたちは考える。


「それぞれのエレベーターの直線上、そして同心円の外周に一致するそれっぽい施設といえば……」

「ここなのですね!」


 ゾッくんの一匹が待機するその場所へと、ハルたち四人は<転移>する。周囲を所狭しと崩れたガレキの山に囲まれ、どう見ても到達に時間の掛かる場所だ。

 それだけ、重要な地点であると察する事も出来る。“辿り着き難い場所ほど重要”というゲームの不文律の一つである。


「よしっ! じゃあまずはガレキを撤去しちゃおう!」

「ユキがギルド倉庫に溜め込んだ大量の回復薬、贅沢に使わせて貰うわよ?」

「研究所の強化で出た副産物アイテムも、一致したらどんどん放り込んじゃって」

「わたくしは、見ているだけなのがもどかしいです……!」


 ガレキの撤去作業はプレイヤーの領分だ。アイリはハルの一部としてハルのウィンドウ操作に介入出来るが、操作項目は一つなので今回は意味が無い。

 HPMPや、アイテムを投入すると撤去は早まり、ハル達は普段から溜め込んでいる膨大なそれを使い次々とガレキを片付けて行く。

 指定のアイテムがもし手持ちに無ければ、採取ポイントをこの場に作り出すという荒業も可能。


「普通はこれ、『誰か持ってる人ー!』っていう協力要素なんだろうね」

「あはは、『持ってるケド出したくない……』っていうギスギス要素にもなりそ……」

「心理戦なのです!」


 特に今回はチームより個人の利が高く設定されている。チームの為に皆で協力しよう、という意識が通り難くなっていた。

 ハルからすると、そこに付け入る隙が生じるのかも知れない。


 そうして、有り余る素材リソースをつぎ込んでガレキが撤去され、巨大なガラス管、カプセルのような部屋が姿を見せる。

 砕けた乳白色の壁に囲まれた床には、ひび割れた魔方陣が描かれているようだ。それは他のゲームでも見るような、『転送部屋』を彷彿ほうふつとさせる構造であった。


「ここからは、わたくしの出番なのですね!」

「頼むねアイリ。……マリンブルーの発言によれば、体を動かす必要は無いみたいだから」

「がんばります!」

「あれ、そのマリりんは? いつの間にか居ない」

「ヒントを与えすぎという事で、強制的に連れ戻されたかも知れないわね?」


 さもありなん。イベント中に一勢力に肩入れするのは許されないだろう。


 アイリが崩壊した部屋の中へと入ると、床の魔方陣が一瞬だけ光を放ち、蛍のように明滅する小さな光球がアイリの下へと浮遊していった。どうやらそれが、復旧用の修復装置オブジェクトらしい。

 アイリが光に触れると施設中央にウィンドウが表示され、進捗率しんちょくりつのカウントが進んで行く様子が確認できた。


「“はんどる”では無かったですね!」

「ふふっ……、魔方陣から突き出たハンドルを回すは、その……、とってもシュールね?」

「なんかルナちーがツボってるぅ」

「多人数でやる必要があるからだろうね。ハンドルみたいな固定装置じゃ、スペースに限界がある」


 アイリが光球を手のひらでそっと包みながらハルの所まで戻って来るが、修復作業は問題なく進行している。部屋に入りきらない人数でも、同時に作業が可能であることを示していた。

 しかしそれは、アイリ一人の貢献では思うように進捗しない、その事実も同時に示している。


「うっわ! ゲージこれミリ単位も減ってないよ! ……助っ人無しじゃ無理じゃないかなぁハル君」

「カナンを呼んで、彼女達に手伝って貰えるかしら?」

「難しいね。あっちはあっちで、プレイヤーに囲まれてイベント進行中だろう」


 その中からカナンを連れ出すのは難しい。第一、カナンもヴァーミリオン帝国の利益の為にイベントを進めなくてはならないのだ。こちらの都合で振り回しては悪い。


「むしろカナンの従者を増やしてやりたいくらいだね……」

「ではこうしましょう? クライス皇帝の所まで<転移>し、兵士をよこせと恐喝する」

「ここの修復にコキ使った後、カナンちゃんに押し付けるんだね!」

「やめんか」

「メイド達を招集しましょう!」


 それが最も無難だろう。アイリの号令により、メイドさん部隊が召喚される。

 マリンブルーを配下に加えた事により、この地とお屋敷を自由に<転移>可能なのは非常に便利だ。

 メイドさんの参加により、何とか見れる範囲で復旧ゲージは少しずつ進んで行くのであった。





「後は、誰か居るかな? あ、ドリルおじさんとその部下とか」

「急な呼び出しにより、おじさんの胃がストレスで収縮するんだが?」

「ハルが声を掛ければ動く人は多いでしょうけれど、政治的な正当性が無いのよね……」

「今日ばかりは、わたくしの立場が邪魔になるのですー……」


 王女とその夫、という立場のハルとアイリではあるが、王宮の政治体系からはほとんど切り離されている。義理の息子として変な話だが、ハルは国王ともまだ会った事が無いのだ。

 そんな隔離されたアイリの立場ゆえ、NPCの動因には王族という立場の割には向いていなかった。

 いや、仮に可能であったとしても、手続き等の問題で今すぐ連れて来るという事は出来ないだろう。


「ハル? いっその事、青チームや紫チーム、軍を率いて来ている彼らから兵を借りれば良いのではなくって?」

「それって平気なんルナちー? ハル君はあの人らの邪魔するんじゃあないの?」

「対立する所は対立したとしても、益のある部分では何食わぬ顔で組むべきよ。厚顔無恥こうがんむちにね?」

「……そうですね。彼らも、互いに戦時中の身でありながら、今回ある意味で協力して軍事行動を行っている訳ですし」

「そうだね……、問題は、何を餌にして釣るかだけれど……」


 先述の通り、ハルは政治的には発言力はそう強くない。一方で、使徒としてはカナリーの寵愛ちょうあいを受ける事で莫大な発言力を有している。

 その為ハルの頼みは、政治的な取引ではなく、神に近い者からの命令の側面が強くなってしまう。

 NPCは皆、ハルの事を頼ってくれている一方で、本能的にハルの力を警戒してもいる。今後のため、その不安をいたずらに煽る行為は慎重に避けて通らねばならない。


「分かりやすく食いつきが良いのは、魔道具の供与ではあるんだけど……」

「ダメなん? みんなきっと喜んでハル君に協力するよ?」

「ダメでは無いですが、例えば『他の国には渡さないように』、との条件を付けられてしまうと、ややこしくなります。ハルさんは、どのような時も自由な力でなくてはなりません!」


 妻のハル論が爆発した。ハルとしては、そこまで考えている訳ではないのだが、あまり国家間のパワーバランスを自分が乱すのは良くないと考えている。

 例に挙げた魔道具を与えるにしても、この世界に平等に、文明レベル自体を引き上げる形でやれれば良い、そう考えている。


「……んー、まぁでも、他の国と仲良くするのも必要かもね。マリりん言ってたし、『皆の絆で勝利を掴め!』、って!」

「言っていたかしら……」

「似たような事は言ってたね。彼女の事だ、また何か意味があるんだろうけど」

「最重要! なのですね!」


 さりげなく、このイベントの攻略法を提示してきた可能性は大きい。何かしら、重要な要素のはずだ。

 そもそもが上層においても、二種類の聖印を使わなければ開かない扉がある。その時点で協力を示唆しているとも言えるだろう。その開錠かいじょうがまだであれば、単純にそれを取引材料にしても良い。

 あまりそこを渋りすぎると、『聖印を他から奪って来よう』、という思考にもなりかねないので、むしろ積極的に協力すべきかも知れない。


「まあ、何だかんだ言って取引にだって時間は掛かる。メイドさんの参加だけでも効率は十倍以上だ。今回の復旧時間は必要経費として……、ん?」

「どしたんハル君? いちゃいちゃ欠乏症?」


 何となしに、アイリの手を包み込み、共に光の玉に触れてみると、微妙に復旧ゲージの進みが上がった。

 何度か手を握ったり、離したり、アイリの手をぺたぺたしながら様子を見る。


「ハ、ハルしゃん!? いかがなしゃれた!? ……ました!?」

「あら……、大丈夫よハル? ここには身内しか居ないわ。ちょうど良く、ガレキが目隠しになってくれているし」

「うん。大丈夫じゃないのはルナだよね?」

「何かの検証かな? なんかあった?」


 唯一ゲーマーとしての視点が鋭いユキだけが状況を察した。他の二人とメイドさん達の視界は少しピンク色に染まり過ぎている。


「この光球、僕にも反応してるね」

「うっわセキュリティザルだ! NPCだけじゃないじゃん!」

「ハルさんは、肉体を持っているからですね!」

「もしくは、カナリーやブルーがあえて開けておいた穴かしら? ハル以外にそんな特異事例は存在しないわ?」

「本来チェックする必要すら無い項目ってことかー」


 プレイヤーは全て魔力で織られた体で活動している。逆説的に、この世界で肉体を持っているとしたら、それは自動的にNPCだ。

 そのような理屈で判定を簡素にし、ハルがチェックをすり抜けられる土壌を作ったのかも知れない。


「じゃあ、ウチらも体持ってくる? 二人分だけど、足しにはなるでしょ」

「大丈夫かしら? 今は人目が無いとはいえ、同じフロアで多くのプレイヤーが活動中よ?」

「……それは、少し忍びないね。ユキは特に、咄嗟の対応が遅れちゃうし」

「うぐっ、ド、ドレス着れば平気だし……」


 増加率と彼女らの安全を天秤にかけると、気乗りがする手段とはハルには言えない。

 それに、この状況におけるもっと有効な手段をハルは思いついていた。


「NPC全員のデータベースがあるというのに、僕を弾いていない。それはつまり、判定はこの場のバイタルサインで行っているって事だから……」

「ハル? 少し嫌な予感がしてきたのだけれど?」


 今度はハルと付き合いが長いルナが目聡めざとく反応する。ハルがこれから奇行に走ると察知したらしい。正解だ。


 ハルは探索の為に生み出していたゾッくんに、人間の手を模したパーツを追加すると、<物質化>にて表面を生体パーツで覆ってゆく。

 肉体が大きく損傷した際に医療用に使用されるナノテクノロジー、最先端のエーテル技術だった。


「うわキモッ!」

「その、ハルさん、これはえーと…………、ゾッくんには、似合わないですね!」

「……うん、ごめん。僕が軽率だったよ」

「……嫌な予感はしていたのよ」


 かわいらしいフワフワの毛玉から、リアルな人間の手が生えている。そのアンバランスさは、何と言うか、精神にるものがある……。


 だがその効果は抜群だ。それぞれ違った生体情報バイタルを偽装されたその腕は、本数分の人数として判定され、復旧作業を劇的に効率化するのであった。

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。

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[一言] 頼むねアイリ。……マリンブルーの発言によれば、体を動かす必要は無いみたい だらか
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