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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
第7章 モノ編

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第232話 復旧

「《ちりりり~ん♪ マリンちゃんから使徒の皆さんにお知らせですっ♪》」


 翌日、戦艦の水中エリアをアイリ達と共に散策していたハルや、他ユーザー達の元にマリンブルーからのアナウンスが届く。

 この戦艦に関するイベントが始まってから、運営からのアクションは特に無かった。プレイヤーは皆、そろそろ変化が欲しくなって来た頃である。それが、ついに動き始めた。


 タイミング的に、理由は明白だ。全ての国が、聖印が、この中に揃ったからだ。その情報を聞きつけたプレイヤーは、続々と内部に集結していた。


「《つい先ほど、最後の鍵が開かれて、聖印が全て揃ったぞ♪ これによってイベントは新しい段階に進んじゃいまーす♪ 橙チームは着いたばっかで忙しいと思うけど、それも最下位の宿命だー♪》」


 空を分厚い雲が覆い隠し、しとしとと振りしきる雨の中、最後のチームとなるマリーゴールドの信徒と、彼女の契約者達が到着した。

 信徒らは優秀な魔法使いのようで、大荒れになる前の海なら何とか渡って来れたようである。その様子は、<神眼>を通して皆でハラハラしながら観賞していた。


「飛ぶか泳ぐか、って思ってたら、まさか水面を固めて走ってくるとはねー。ハル君、あの人ら無事なん?」

「ああ、全員中に入ったよ。居住区に辿り着いたかどうかは分からないけど、このアナウンスから察するに腰は落ち着けられたんだろう」


 ユキが心配するのも無理は無い。長旅の疲れの上、雨でずぶ濡れになりながら海面を長距離、走り抜けてきたのだ。その形相もなかなか鬼気きき迫るものがあり、ハルも思わず手助けしようか悩んだほどだ。

 きっと、イベントの新展開は始まれど彼らはすぐには動けまい。ブルーの語るように、実質的な最下位ペナルティなのだろう。


「……まさか、この雨もペナルティで降ってきたって事はないよね」

「……あり得ない話では無いわね? 確か王女様が語るには、今年は雨季の到来が少し遅れているのだったかしら?」

「神々が、天候の操作をしたという事でしょうか?」


 タイミング的に、色々と勘ぐってしまうハルだった。これは、『最下位にはなりたくない』という心理を加速させ、競争ゲームの流れを円滑化する心理的な手法にも思えてくる。

 これから始まるのが競争であれば、その疑惑も深まるというもの。


「《イベント第二段階は~? 『戦艦を復旧させろ!』、ポイントゲット競争だー!》」

「やっぱりか……」


 カナリーの話によれば、季節の天気を日本と同じにすることは断念したという話だったが、一時的に天候操作くらいならする力が神々にはある、という可能性を頭に置いた方が良いかも知れない。


「《ルール説明をするぞ♪ よーく聞きましょう♪ あ、でもでもー、聞き逃しても後でお知らせに乗せるからだいじょーぶ!》」


 ハイテンションなブルーからルールが説明されてゆく。

 まず、大半の者が知っている基本的な事。この戦艦の扉は鍵である聖印に反応して開き、扉によっては複数の鍵が必要になる場合がある。

 ハル達が今居る水中ドーム、待合室を含めた上層は、戦闘禁止エリアとなり使徒の戦闘が禁止される。


使徒プレイヤーの、戦闘ね……」

「暗にわたくし達、現地の者は、戦っても良いという事になりますね……」

「改めて誓約刻むのが面倒なんじゃないのー?」

「ありえる」


 NPC軽視の部分が見られる神様達だ。ユキの言う通り、個別の設定を面倒がってノータッチ、という可能性は十分に考えられた。


「《続いていくぞー♪ 次は下層の説明だぁ♪ 水槽ドームの待合室、あそこのエレベーターが強化されるぞ♪ それに乗って、下に行けるようになっちゃいます♪》」

「下へ行けないのは鍵の問題ではなく、エレベータが未実装だったのね?」

「ハルさんなら、行けちゃいますけどね!」

「そうね、アイリちゃん。自慢の旦那様ね?」

「はい! すごいですー!」


 ルナが、アイリと二人で褒め殺してくる。恥ずかしくなり顔を背けた先にはユキのニヤニヤ顔があり、四面楚歌しめんそかのハルであった。

 その包囲網を潜り抜け、視線を周囲へ巡らすと、ここ待合所へ来る時に使ったエレベータがふた回りほど巨大な物に交換されて行っている。今までより、ずっと大人数を運ぶことが可能だ。

 更に、見えにくいがその隣の黒塗りの非常階段、それも下方向へ向けて伸張されていっているようだ。どうやら徒歩でも、下層へ降りられるようになったらしい。


「……あの階段が黒塗りなのは、隠密行動用か」

「こんなに綺麗な中で誰が使うのかと思いましたが、そういった意味があったのですね……!」


 アイリが、得心が行ったという心持ちで頷いている。非常階段を作るにしても、水槽の中が見えた方が良いに決まっているのにどうした意図かと思っていたが、真っ黒に覆っているのはそうした理由のようだ。

 他チームに気づかれないように、人員を送り込む為だろう。ここは共有スペースのため、透明なエレベータでは情報が筒抜けになる。


「《さてさて、下層に下りたらー? いよいよ作戦開始だぁ♪ この戦艦の復旧目指して、ポイントを稼ごう!》」


 戦艦の再浮上の為に皆でポイントを貯める。それが今回のゲーム要素のようだ。一見、全ての国を集めての協力プレイに見える。

 だがその実これは競争プレイ。他国よりも多くポイントを稼ぐべく、それぞれが先を競ってレースをする。そうしたゲーム設計になっていた。


「わざわざ私達を争わせるのは、また魔力の為かしら?」

「だろうねー。協力でポイント上位に報酬! でも良いんだろうけど。そうすると私ら、自分の好きな時間に好きにやっちゃう」

「……なるほど、あえて他人の居る時間に妨害をさせる事で、同時刻に使徒の皆様を集めるのですね」

正解せーかいアイリちゃん」


 プレイヤーの人数が集まれば集まるほど、魔力が生まれる。その法則が働いているため、競争の方が何かと結果が出やすくなる。


「超大人数で協力させられれば良いんだけどねー。ハル君はどう思う?」

「好む、好まない、があるからね。大型建築だと『趣味じゃない』とか、レイドボスだと『怖くてダメ』とか」

「難しいのね?」

「難しいですー……」


 その点対戦なら参加せざるを得ない部分がある。自分が出なくても、相手はお構いなしに出てくるのだ。

 しかしハルが戦ったレイドボス、あれなら現行のプレイヤーでは相当数集まらないと勝てないだろうから、あれでも良い気もするのだが。


 その辺りも、なにかしら神様の考えがあるのだろう。その後も、終始楽しそうな調子を崩さないマリンブルーによる説明が続いて行くのだった。





「《ポイントは今回も二種類! 『復旧ポイント』と、『支配ポイント』だぞ♪ このうち復旧ポイントの方は集めると、前回同様にアイテムとか交換できるから、頑張ろうね♪》」

「……もうポイントが反映されてる。『復旧ポイント6,694』、『支配ポイント100,000』」

「じゅうまん!? ハル君なにやったん!?」

「あ! わたくし、分かっちゃいました! ハルさんは『びっと』を作りました!」

「……あとは、もしかしたら、NPCをここへ導いた功績もあるかも知れないわ?」


 アイリとルナの語る事はきっと正しい。それを裏付けるように、ブルーの陽気な声が説明を続ける。


「お手元の資料ウィンドウをごらんください♪ もうポイントが付いてる人も居るね♪ それは前の対抗戦でビットを建造したチーム、そして~? ここへNPCを運んできた人、その貢献が反映されています♪」


 周囲、互いに少し距離を取っている、ハルのグループ以外からざわめきが上がる。

 理由は簡単に察せられる。ポイント説明前から、隠蔽マスクされた条件により先行で付与されていた、その不公平感に異議を唱えているのだろう。


「《どうどう、あせらないのー! 先行付与には良いトコと悪いトコがあります、よく聞こう♪ ……メリット! 支配ポイントを所持していると、時間経過で復旧ポイントが手に入る♪ デメリット! 支配ポイントは、他プレイヤーの行動で奪われる♪》」


 つまりは、最初から“火種”を持たされてしまっているのだ。持っているだけで、他人から狙われる争いの種。……準備に余念が無いことだ。

 だがこれには利点もあり、持っていると復旧ポイントが自動で貯まる。そして、イベント中に苦労してビットの建造をしなくても済むという楽さもある。あのビットの作成にハルが使った魔力は膨大だった。イベント中の条件も、同様に厳しい物だろう。


 それを聞き、今度はそそくさと皆ウィンドウを仕舞い込み静まり返る。ポイントが表示された画面を堂々と掲げていては、良いマトだ。

 誘導が上手い。復旧ポイントの方は、完全に先行者有利な所を有耶無耶うやむやにしてしまった。


「《支配ポイントが効果を発揮するのはバトルフィールドに居る時だけだぞー? 安全地帯に篭って楽々大儲けは不可能です♪》」

「残念なのですー……」

「既得権益ならば、楽々大儲けするのは当然ではなくて?」

「ルナちー、発想がブルジョワジー」

「《そしてー? 最も重要なところです》」


 そこでブルーは少しセリフに溜めを作る。重要さを表現したいようだ。


「《復旧イベントの中には、NPCにしか操作出来ない物が多く存在します! NPCとの絆で、イベントを乗り切ろう♪》」

「うげ……」


 何となく、彼らをここへ導いた事で貢献度ポイントになると聞いて嫌な予感がしていたが、やはりそう来たようだ。

 プレイヤーだけのイベント、プレイヤー同士の戦い。そんな淡い希望は打ち砕かれた。彼らを、戦闘の矢面に立たせる事になってしまうらしい。


「これは、軍を送り込んだ隣国ふたつが有利、ということでしょうか?」

「さて、どうだろうねアイリ? 人数は多いけれど、一方で信徒は両国ともヒルデとクロードの一人だけだ」

「巫女さん居ないと扉開かないもんねー」

「最後の橙色は、人数こそ少なく出遅れたけれど、全員が信徒なのは利点にもなるのね?」

「まだ分からないけどね」


 ルナの言う可能性も十分にあるだろう。一度に複数の扉を開けられるのは、この状況ではきっと有利に働く。


「そして最も厳しいのはカナン。ヴァーミリオンね?」

「だろうね」


 扉を開く信徒はカナン一人、そして護衛も最低限。NPCしか動かせないという、イベントの仕掛け、それに対応する手が足りない。

 では現地の国であり、自由に人員を補充可能なここ群青ぐんじょう、藍色チームが有利かといえば、それもどうだろうか?

 外を<神眼>で見れば雨足は勢いを増し、この船を結界のごとく取り囲んでいる。まるで絶海の孤島。この状態で新たな人員や物資をここまで送り込むには、海が荒れすぎている。船を出せる状況ではなかった。


「《NPCの皆はライバルである一方で、強力な仲間だよ♪ 時には他国とも協力して、苦難に立ち向かおう♪》」

「苦難て……」

「苦難を用意してる側がよく言う……」


 その後も細かなルール説明を続け、ブルーからのアナウンスはそろそろ終わりのようだ。一時間ほどの作戦会議の時間を挟み、試合開始となるらしい。


 イベントの流れは基本的に、プレイヤーが戦艦下層を探索し復旧箇所を発見、そこでNPCを作業させることで、『復旧ポイント』が得られる。『支配ポイント』はプレイヤーだけの作業で得られるが、アイテム等が必要とのこと。

 支配ポイントを持つプレイヤーは、下層に滞在する事でポイントが得られるが、撃破されてしまうと支配ポイントの一部を奪われる。また、撃破せずともポイントを奪う方法もあるようだ。……ハル対策だろう。


 そして、まだ自国のビットを作成していない国は、その建造作業をする事も出来る。素材アイテムやHPMPを多く消費してしまうが、これを行うと支配ポイントを大量に手に入れるチャンスらしい。


「《わかったかなぁ♪ まあ、あとは実際にやってみよう♪ マリンちゃんからは以上でしたぁ♪》」


 最後までおどけた調子で、ブルーのアナウンスは終了した。ハルの支配下に入った彼女だが、特別ハル有利のルールは無かったように思う。きっとブルーは単に説明役であり、ルール作成は七色神の共同なのだろう。


「んー。これ、支配ポイントって奴はきっと次の段階に使うよねハル君?」

「だろうねユキ。ビットの作成で大量確保できるのを見るに、“この船の支配権”を表すポイントだろう」

「モノさんがピンチなのです! ……あ、平気なのでした!」

「そうね? 開放されたと言っていたわ? ……つまりは、この船を動かす際の決定権、よね」


 稼ぐのは復旧ポイント。つまりイベントが終われば戦艦は復旧し再び空へと浮上する。その操作権の割合を表すのが支配ポイントなのではないか、ハル達はそう仮定した。

 きっと、ここへと乗り込んだ各国の指導者、そして信徒達はそれに気づき、自らの国がこの戦艦を欲しいままに操る権利を求めるだろう。衝突は避けられない。

 やはり、出来る事なら二国へ掛けた<誓約>を解除したくはなかったところだ。


「……言っても仕方ない。NPC(かれら)に被害が出ないよう、僕が立ち回ればいい」

「またハル君が無双して、全部のポイントを総ナメにしちゃえば良いのでは?」

「いや、特に今回は暴れる必要無いかな。対抗戦じゃないし。NPCを守るのを優先するよ」

「確かに、“チームごとのポイント”、というものは、今回は無いわね?」

「戦艦も、ハルさんならもっと強い船を作れるから要らないのですね!」


 ……さすがにそれはハルにも難しいかも知れない。だが、いずれその域に至ってみせようと、ハルは否定はせず、心の中でアイリに頷く。

 そうして、七国の民が入り乱れる復旧イベントが始まった。

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。(2023/3/24)

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