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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
第7章 モノ編

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第225話 進む世界は会議を待たない

「そういえば、けいはどうやってここまで来たの? 国内とはいえ、馬車やらじゃ一日で来れる距離じゃあないでしょ」

「けい? む、私ですかな? はは、当然、馬車では不可能ですな。なので身一つですっ飛んで来ましたとも! 文字通りですな」

「それはまた。苦労かけたね。いや、本当……」


 本当に、とんだ無茶振りだ。その境遇で嫌な顔ひとつ見せないで飄々(ひょうひょう)としているのだから、人は見かけによらない。

 部下の人達(その飛行に付いて来れるのだから精鋭だ)も、何時もの事なのか苦笑いが隠せない。自然、護衛は少数になるため危険も増えるだろうに、このドリルおじさんは真っ先に志願したという。『我々の苦労も考えて欲しいですよ』、と皮肉交じりの冗談を語れるあたり長い付き合いなのだろう。

 傑物ではないだろうか? このおじさん。


「しばらく休憩を入れるから、美味しい物食べて休んで。自慢なんだ。メイドさんの料理」

「おお! 楽しみですな! 見ての通り、食べることには目がありませんでな」


 その大きなおなかをさすりながら語る。……実際は、そこまで好きではなさそうだ。笑顔の裏にそれが読み取れる。残念だが仕方ない。食べたくない時に、食べたくない物まで、無理してでも食べなければならなかったのだろう。

 表面上は期待に揺れるその大きな体にハルは背を向け、自分達用の個室へと戻る。

 胸襟きょうきんを緩める代わりにスーツを解除し、アイリのドレスの首周りも広げてやった。これ以上無いほど快適に作られた装備なので、息苦しいわけではない。単に気分だった。


「ぷはー! ですね!」

「だね、アイリ」

「ハル君アイリちゃんおつかれー。息が詰まったん?」

「いえ。流石どの方も人格者でした。敵国同士という事を考えれば、非常に穏やかであったと言えるでしょう」

「えーあれでか。ギスギスして見えた」

「本当の険悪な会議なんて、非ではないわよユキ。あなたは知らないままで良いわ?」

「うー、こっわ……」


 ハルの視界を投影したモニターで会議の様子を覗き見ていた二人が、それぞれの感想を漏らす。

 悪意を突き合わせる事に関しては、ルナの方が先輩だ。ユキもゲームでの対人経験は豊富だが、今の時代、電脳世界においては直接的な悪意とわざわざ相対あいたいする必要は無い。

 まあ、あんなもの、触れずに過ごせるならばそれに越したことは無い。ハルとしてもユキには平和に過ごしてもらいたかった。


「それで、ハル? 誓約の魔法を使うという話だけれど」

「そうだね。セレステは平気だろうけど、課題はウィストの方か」

「あのお方は、読めないのです。気軽に了承くださる気もしますし、一方でがんとして断られる気もするのです……」

「結婚パーティーに沸いて出たり、行動原理がイマイチ分からんよねぇー」

「そうだね。……まあ、本当の意味で行動原理の分かってる神様って、実は一人も居ないんだけど」


 彼らは人間と変わらない人格を持っているように見えても、AIだ。その判断基準の根本が異なる。ハルであっても、神々の“思考”を理解できているとは言いがたかった。


「セレステも、巫女さんに何を吹き込んだんだか……」

「えっ、あれって、『彼が私の男になる予定』、って吹き込んだんじゃないの?」

「わたくし、知ってます! 外堀埋めなのです! 既成事実なのです!」

「そうね、アイリちゃん」

「そうね、ではない。……これが人間なら、そうなんだけどね。相手は神様セレステだ。単純に恋愛対象として指定している、とは考えられない」

「難しく考えすぎじゃないのー?」


 巫女ヒルデのハルに対する好感。最初はセレステの気を放つハルへの親近感かと思ったが、少し違うように見て取れる。確実にセレステから何か言われている。

 単純に、『ハルは同盟関係だから仲良くしなさい』、程度であれば良いのだが……。


 ひとまず、それについては良いだろう。今すぐ問題になる事ではない。考えるべきはウィストがこの依頼を受けるか、否か。


「あ、ミレゆんから頼めばいいんじゃない!? どうかなハル君」

「僕で駄目だったら提案してみよう。今は駄目だね」

「なして?」

「ミレイユは、会議からハブられてしまっているからよ、ユキ?」

「ミレゆんかわいそう……」


 確かに、お膳立てだけ整えさせて肝心の会議には参加お断り、というのは可哀そうではある。

 だが国としては、決して失敗出来ない内容を決める会議だ。遊び気分の使徒プレイヤーを参加させられない事情も分かる。


「……さて、休憩終わる前に可否くらいは聞いておきたいんだけど、っと、アルベルト!」

「お傍に」

「少し留守にするから、ゲストの人達への周知と、機械施設の使い方の説明任せたよ」

「お任せください、ハル様。ここを出る頃には、機械文明のただ中に放り込まれても余裕で順応できるまでに教育してみせましょう!」

「せんでよろしい」


 神界ギャグに適当に釘を刺しながら、ハルはアイリと共に、ウィストに会いにその神界へと移動するのだった。





「出てきてくれませんでしたー……」

「開発局の中で呼べば良いと思ったのは浅はかだったかあ……」


 まず二人が訪れたのは魔道具開発局。ウィストの管理する神界施設だ。ここでハルが借りている専用部屋の中で、彼のことを呼べば出てきてくれるのではないかと思ったが、そう都合の良い神になってはくれないようだ。

 呼び出しをかけても、彼が現れることは無かった。


「出てきてくれたマゼンタは、あれで面倒見が良かったんだね」


 ただし悪口を言うまで出てこない事もあるが。


「あとは、この施設をコピーしようとすれば、確実に反応するんだけど……」

「やめましょう! 以前に禁止されています!」

「だね」


 要は『出てこないとコピーするぞー』と脅すようなものだ。友好的な対応を期待する者がやることではない。


 彼の管理施設で会えないとなると、残る選択肢は大きく分けて二つ。

 まず一つは彼の神域、ゲーム世界の紫の国内にあるであろう領域で探すこと。ハルは彼を撃退した際に、神域への通行許可を得ている。

 しかし、セレステを見ても分かるように、神域に行ってもすぐに出てくるとは限らない。時間に余裕があるなら、そちらに行って色々な話をしたい所なのだが。

 よって実質的に取れる選択は一つになる。この神界内にある大神殿、そこで祈りを捧げる事。つまりは、普通のプレイヤーが一般的に行う方法だ。裏道的に神々との邂逅を果たしてばかりのハルだが、多くの者はそうして手順を踏んで神々と仲良くなってゆくのだ。


 ハルとアイリは研究室を後にして、丘の上の大神殿へと転移して行く。神界における各種施設は、一度行った事があれば何時でも転移が可能だ。

 だがそうして気軽に訪れた大神殿の内部は、結構な人で賑わっていて二人は少し面食らってしまうのだった。


「あ、ハルさんだ!」

「こんにちは! 王女様、ごきげんよう!」

「ええ、ごきげんよう皆様。よろしくお願いいたしますね?」

「こんにちは。賑わっているんだね?」


 何かのイベント、という訳ではないようだ。単純に、神に会いに来た人が多いらしい。

 以前に対抗戦で会っただろうか。あまり接点が無い女の子達だが、ハルが疑問を投げると丁寧に説明してくれた。


「そろそろ神様と契約しよー! って人が多いんだよ!」

「私達もそのつもりです! 迷っちゃいますけど……」

「ああ、なるほど。戦艦イベントの為かな?」

「そうなんですよ。巫女様たちと交流したり、戦艦の調査メンバーになるには、やっぱり契約者が優先らしくって」

「そっか。どの神様を選ぶか迷うね?」

「そうなんです! マリンちゃんが一番近くだけど、競争倍率も上がっちゃいそうだし!」

「マリーゴールド様とか、マゼンタ君は遠くだけど、でも逆にそれがチャンスかも、って感じです……」


 ここに来て契約の流れが加速しているようだ。各国の調査隊に合流し、あわよくば戦艦に乗り込みたい、という思惑だった。

 神々としても自分で占有できる魔力が増えるのは歓迎すべき事であり、イベントとしては成功を収めているのだろう。


「ハルさんは、今日はどうされたんです? 珍しいです。ここで見るのは」

「うん、魔法神に会おうと思ってね」

「大木戸様だ!」

「オーキッド様、ということは、魔道具関係ですね?」

「おお! ……みんなー! ハルさんが大木戸様と会うってさー! 新展開かもー!」

「お、まじか?」

「魔道具の新商品来ちゃう?」

「神様に相談するって事は、大事おおごとだな」

「ハルさんって誰?」

「ゲーム進めてけば嫌でも目にするよー」

「じきに分かるさ、じきにな……」


 そうして、何だかあれよあれよと噂は広がってゆき、集まっていた面々が、ずらり、と道を開けてしまった。

 その目はどれも期待に満ちており、ハルが新たな魔道具を作り出す事を期待されてしまっている。


「……まいったね。でも、順番優遇してもらったんだし、何か頑張って作ろうか」

「ファイトなのです!」


 また予定が増えてしまった。なんとも高い優先切符ファストパスだ。

 だが通して貰えるのは時間の無い今とても有り難い。二人は彼らに感謝しながら、その割れた人の海を通り、紫色の扉をくぐるのだった。





 扉を潜った先は、透明な廊下が放射状に伸びる神秘的な大広間。

 夜を演出した高い天井へと向かい、各種の神それぞれの色を放つ光の柱が立ち上っている。その神と、そして契約者の活躍度合いを表していたはずだ。


「へぇ……、以前来た時と比べると、僕ら黄色の一強では無くなってるね」

「ピンチなのです!」

「大丈夫だよアイリ。負けはしないさ」

「すごいですー!」

「……まあ、外の調子でどんどん人が増えたら、この先どうなっちゃうか分からないけどね」

「……カナリー様は、契約者を増やしませんからね」


 以前は黄色の柱が他を圧倒していたこの広間ドームも、今はどの色も勢いを増し、黄色へ追いすがっている状況だ。各神々が契約者を増やし、彼らがそれぞれの土地で活躍している様子を如実にょじつに光は語る。

 おおよそ、光の強さは契約者の多さを表す傾向があるのだろう。愛の神(マリーゴールド)の橙色が、少し他より少ないようだ。


 その透明な通路をハル達が向かう先は紫。これは青と並んでかなり勢力が強いようだ。ミレイユの参加により<降臨>を使える者が誕生したためか。それとも魔道具作成に魅せられた者が増えたのか。

 この勢力図の推移を記録するのも楽しいだろう。そういう個人ページを作成しているユーザーも中には居そうだ。

 そんな紫の小神殿へと二人は足を踏み入れた。


「さて、来たは良いが、どうするんだろ」

「わたくし、カナリー様以外に祈りを捧げるのは少し……」

「大丈夫だよアイリ。祈るってのは比喩で、実際必要なのは多分ゲーム的なコマンドだ」

「……わかりました! 『いのる』、コマンドなのです!」


 MPが回復しそうな響きだ。それとも死者蘇生などだろうか。

 だがこの神殿における祈りとは、神へと供物を捧げる行いのようだった。祭壇のような物に触れると、『神へ祈りを捧げますか?』、のメッセージと共にアイテムやゴールドの提供を入力する画面が表示される。


「何と即物的な……、嘆かわしいぞ神め……」

「つまりは、神々が活動するための魔力を提供する、といった事、なのですか?」

「そうだろうね。アイテムって、元は魔力で出来てるし」


 アイリもどんどんゲーム的な例えに詳しくなって行く。頼もしい限りだった。だが、自分の世界とゲームをそうやって密接に関連付けられて、嫌な気はしないのだろうか。

 時折、すこし心配になる事があるハルである。


「まあ、僕としても『忠義を示せ』とか言われても困るから即物的な方が助かるんだけどね。ロールプレイ苦手だし、っと」

唯我独尊ゆいがどくそんでなければ、ハルさんではないのです!」


 必要なのが魔力と分かれば、やる事は簡単だ。面倒な手順を踏む必要は無い、直接魔力を注入してやればいい。

 ハルは祭壇へと手を付くと、自身の身を通して神域の魔力を一気に放出してゆく。本来はアイテムのレアリティや神との相性などによって、提供される魔力値が変化したりするのだろうが、今はそれを探る必要は特に無い。


「相性、とはどういう事なのですか?」

「例えば、『ウィストはりんごが好き』、とかだね。りんごを捧げるとポイントアップするんだ」

「ならば、りんごをどんどん集めるのです!」

「そうだね。すると、りんごの産地のダンジョンが賑わう。そうやって各地の需要を産出出来るんだ。まあ、僕はりんごの木をコピーしちゃうんだけどさ」

「やめろ」

「おっと、コピーは嫌いだったね。すまない」

「それは別に構わん。その黄色の魔力をここで注ぐのは、やめろ」


 ハルがその無尽蔵ともいえる魔力を惜しみなく注いでいると、予想通りにウィストが何処からともなく姿を現した。

 どうやら、他の神の色が付いた魔力はお気に召さなかったようだ。


「これはすまない。魔力なら、何でもいいかなと」

「ウィスト様、ご無沙汰しております……!」

「ああ。……ハル、貴様、確信犯だろう。神殿を黄色で侵食しようとするな」

「バレたか。大義名分があるから大丈夫かなって」

「まったく……」


 やれやれと呆れたようにウィストは首を振る。どさくさに紛れてこの神殿から繋がっているであろう中枢部へハッキングを仕掛けるのは、あっけなく看破されてしまった。


「次はアイテムでやれ。……それで、何用だ? 用があれば神域に来れば……、いや、あそこは今騒がしいな。こちらで正解か」

「ユーザー増えてるんだ」

「ああ」


 これまで通り、多くは語らない彼だ。恐らくはそちらは契約者で賑わっているのだろう。

 ここで契約が成った者はそちらへ移り、今度は戦艦の調査隊へと参加するためにまたしのぎを削る。様々な思惑がどの場所でも動いているようだった。

 NPCも、プレイヤーも。どうやらハルが思った以上にこのイベントは大規模な変化を見せている。知らず、自身もその波へ飲まれて行くのを感じるハルだった。


「それで、今日は何の用だ。神域でなく此処へ来たのは、オレに急用なのだろう?」

「ああ、そうだね。君の国のNPCに、誓約の魔法をかけて貰えないかと思って来たんだけど」

「ふむ……、少し待て」


 ウィストはハル達を手で制すと、なにやら裏で状況を確認しているようだ。

 信徒を通して情報収集でもしているのだろうか? それともミレイユと<神託>で会話し確認を取っているのか。

 その作業はすぐに終わったようで、彼はその白い髪を揺らすと相変わらずの不機嫌顔でハルへと向き直った。


「状況は把握した。構わん。オレが許可する。お前が誓約で縛って良い」

「……なんですと?」

「オレがそのたびやるのは面倒だ」

「ここの神様はまた何でも面倒がって……」


 何だか、思わぬ展開に転がってきてしまった。お前がやれと言われてもハルには誓約は使えないのだが、さて、どうしたものであろうか。

 誤字報告、本当に助かります。イージーミスが目立ちますね、お恥ずかしい限りです。

 90話の報告については、作者も少し考えますので少々お待ちください。

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