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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
第6章 マリンブルー編

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第205話 出航の時

「では追いかけます! とうっ!」

「あっ、アイリちゃん無茶しないの!」

「《二段階変身だぁ! アイリちゃん、人魚に華麗に転身♪ 続いてユキさんとルナさんも人魚で飛び込んだ♪ カメラも続いて海中へゴー♪》」


 海へと逃げ込んだ水龍を追うべく、アイリたち女の子三人が人魚装備に換装して水中へと飛び込む。

 生放送中の実況画面も彼女らと同時に、海へと入りその様子を伝えて来てくれる。丁度いいので、僕もそれで現場の様子を観賞することにする。魔力視でも内容は分かるが、光学情報は得られない。


「むむむむ~? ハルさんは一緒に行かないのかなぁ♪」

「女の子にばかり前線を張らせるのが体面悪いのは理解してるけどね」

「指揮官ハルは高みの見物だぁ♪」

「対戦相手なんだから敵チームの戦略に口出ししないのー」


 対戦相手だからこそ、敵を煽るのだろうけれど。

 僕としても、彼女たちと共に行きたい所だが、僕はここでやることがある。地に足を付けていなければ、適わない作業だ。


 開いたウィンドウパネルには、ドラゴンと対峙するアイリ達の様子がくっきりと映っていた。

 深い、光を反射する海底の無い沖合いであるにも関わらず、海中の様子はくっきり綺麗に映し出され、その様子は幻想的ですらあった。


「《龍は傷を癒すためだけに逃げ込んだのではなかったー♪ 海中は、彼のホームグラウンド! 果たして美少女人魚たちは、これに対抗出来るのか♪》」


 むしろ傷が癒える方が初耳である。ただでさえ膨大なHPがあるというのに、回復されては面倒極まりない。

 実際、その回復力は確かなようで、ルナが焦がした表面は既に綺麗に回復し切り、僕の落とした腕もまた、半ばまで生え始めていた。


「《獲物が水中に入れば、そこはもう周り全てが彼の武器! さっきのように汲み上げる手間も要らないぞ♪ どうする! マーメイド部隊!》」


 マリンブルーが軽快なテンポで語るように、周囲の海水は全てドラゴンの魔法の触媒となる。攻撃の激しさは、水面に顔を出していた時の比ではないだろう。

 既に彼女らに魔法が飛んできているようで、見つめる先の画面には断続的にエフェクトが走り、海水を大きく波打たせての衝撃派で攻撃している様子を伝えてきた。


「《絶え間ない波波なみなみが人魚さんを襲うー! ……しかし! どうしたことでしょう、波は届いていないぞ♪ これは一体どういう事なのでしょうか、解説のハルさん♪》」

「《ええぇ……、もうマイク乗ってるし。まあ、あれはね、アイリがこっちからも波をぶつけて打ち消してるんだよ。波を扱う魔法は彼女も得意とするところだ》」

「《確かにね♪ 思い返してみれば! いま私達が立つこの戦艦♪ 墜落した時にその波を打ち消してくれたのは、このご夫婦だったー!》」

「《一方向でいいから、あの時より処理は楽だよね》」

「《町への被害を守ってくれて、漁師の皆さんから、お二人に感謝のお手紙が届きそうだぞぉ♪》」

「《なに、神に感謝する時って手紙で伝えるの? 変な文化もあったもんだね》」

「《ファンレターだぞ♪ 偶像だから、アイドルだよね♪》」

「《信仰を私物化して捻じ曲げるのやめい》」


 僕らがコントを繰り広げている間にも、水面下での攻防は続く。

 文字通りの波状攻撃はアイリが相殺そうさいして防ぎ、ユキはその中を全速で尾ひれをはためかせ前進する。ルナはそのユキの周囲に防壁を張り、その一方で再び<火魔法>による攻撃を敢行する。

 魔法による火は海中でもまるでシケる事無く燃え進み、海上同様にドラゴンを丸焼きにせんと迫ってゆく。


「《でもダメージが足りないね。ダメージレース、って意味では圧勝なんだけど》」

「《制限時間があるからねっ♪ レイドバトルはきっかり一時間だぞ♪》」

「《僕らは生存特化だから、打倒僕ら、という意味では非常に良い手だと言える》」

「《褒められちゃった♪ ……えっ、破壊力特化じゃないの?》」


 どう見ても生存特化だ。考えても見てほしい、どうすれば僕を倒せるというのか。


 プレイヤーのかなめとなるコアは肉体に内蔵され、通常、プレイヤーの体となる幽体は一切表に出ない。

 HPMPにダメージを与える手段は吸収系スキル以外に存在せず、攻撃により僕を倒そうとすれば僕の肉体を貫く、要は殺すレベルの攻撃が必要になる。

 だが僕の体は常時環境固定により擬似的な無限遠の空間に保護され、体内のナノマシン(エーテル)により物理的な強度も大幅に上がっている。

 その上、今はパワードスーツも装備しており、空間防御を抜けても万全の防御力だ。万一届いたとしても、高速再生ですぐに傷は塞がってしまう。


「という訳で、君らが運営としての公平さを発揮するほど、僕は倒せない」

「チートですねぇ……」


 思わずブルーもキャラ変わりするほどのチートぶりだ。なので、あまり“ゲーム”としてこの世界に関わるのはよろしくないだろう。

 そう言いつつ、魔力がかかっているため対抗戦には出てしまうあたり、徹底しきれていないのだが。


「じゃあ、前回の制限試合は楽しんでいただけたかなっ♪」

「そうだね。<神眼>のサーチを防ぐ為に神界で開催なら、もっと苦戦したんじゃない?」

「あれはわざと、あえて見せて、ハルさんを誘導するもくろみだったんだぞ♪」

「なんだかんだ、神様ってみんな策士だよね」


 しかしそれも、今の戦いも、騙し討ちに近いといえばそうだが、ゲームルールの上での戦いだ。

 何でもありなのは僕の方だけで、神はどんなに不利でも、負ければ自身の隷属れいぞくが決まるとしても、そこは曲げようとはしない。


 ……まるで、自身でさえも“倒される為のモンスター”として設定しているかのようだ。


「《さて、美少女たちの奮闘は非常に堅実なダメージを与えているね♪ でも流石に人数が足りな過ぎるかぁ♪ 応援のアテはあるかな♪》」

「《これ人数増やして何とかなる設定なの? 攻撃の射程に入ったら纏めて吹き飛ばされそうだけど》」

「《そこはハルさんが必死に守ろう♪》」


 レイドバトル、内容自体は強襲を表していたり、しなかったりは様々だが、多人数で戦う場合が多いのは共通している。そのため敵の体力は非常に高く設定され、やり応えのある戦いとなる。

 だが多人数であたる関係上、こう全体攻撃を連発するのはある意味レイドとしては反則だ。揃えた甲斐なく、端から吹き飛んでしまう。


「《このゲームは死んでもそこで復活出来るから安心だね♪》」

「《ここが海のド真ん中だって事実に目を瞑ればねー》」

「《こらぁ、視聴者のみんなが怖気づく事言わない♪》」

「《……残念だけど、視聴者参加型はおあずけだ。僕の方も準備が整った》」


 マリンブルーとしては、現地にユーザーを呼び寄せる事で、更に僕の対応を狭めようという腹積もりなのだろうが、時間切れだ。

 おしゃべりの間にも、裏で準備は進めていた。


「《今から、足場が無くなるからね》」





──モノ、行けるかな?


《イエス。エネルギーライン直結、エーテルサーキット暖気完了。供給、いつでも良い、よ?》


──黒曜、供給開始。出力調整任せた。


御意ぎょいに。モノ艦長との同期完了。エーテルキャパシタ、容量安定。魔力供給、開始します。》


 足元の戦艦、その制御AIのモノと精神リンクが形成される。僕が女の子たちの援護を置いて、この“足場”から動かなかった理由がこれだ。

 足元からオンラインで直通回線を繋げるには、海へ入る訳にはいかなかった。


《エネルギー充填25%、30%、すごい、ね? 入力限界ぎりぎり、だよ? これだけのエーテルを扱える人間が出るとは予想してなかった、な》


──艦長のお褒めに預かり、恐悦至極だね。


 モノの言葉が示す通り、僕の体から流れ出る魔力は膨大だ。この世界に来て、最も大量に魔力を消費しているのは間違いないだろう。

 戦艦を起動するためのエーテル、それを惜しむ事無く注入して行く。その量は、先の対抗戦で報酬としてカナリーに与えられた量の、実に四分の一に達する。


──これ、報酬の総量が少ない理由も納得だね。試合中に生産されたビットも、同じだけの魔力を消費してたと……。


《そう、だよ。その決定はマリンには出来ないから、ハルたちプレイヤーに任せた、んだね》


 何故プレイヤーなら自由に使えるのか、という点も気になるが、その仕様が通ったということは神々はそれで承認したのだろう。

 彼らにとっても、この戦艦は意味のある存在だったと思われる。


《ん、溜まった。エネルギー充填100%。『黄色チームのビット』を、作成する、よ?》


 注ぎこまれた膨大な魔力を惜しみなく消費して、甲板上部に四つ目の浮遊ビットが形成される。この巨大な質量を『結晶化』するために、あれだけの量の魔力が必要とされた。

 カナリーの領土は目に見えてその体積を減らし、彼女が頬を膨らます様が目に浮かぶようだ。後でおなかいっぱいお菓子を食べさせてあげよう。


「《きゃー♪ ここでハルさんの企みが明らかになったぁ♪ ここ、甲板に現れたのは新たなビット、この戦艦の砲台だぁ♪ ハルさんはその主砲を、龍へ撃ち込むつもりだったぁ♪》」


 そう、火力が足りないならば、火力のある物を活用すれば良い。放送で奥の手が封じられているならば、誰の目にも明らかな物を利用すればいい。

 ここに艦の動力は再び火が灯され、表面にエネルギーラインの紋章が輝き始める。その色は黄。


《動力炉四基、励起れいき完了。ユーハブコントロール。いつでも行ける、よ》


「アイハブコントロール。……行こうかモノ、『空中戦艦ソチア・アメンタ』、出撃」


《ん。出撃》


 まるでロボットのカメラアイが周囲を走査する(みまわす)ように、球体のビットが、ぎょろり、と周囲を睥睨へいげいする。

 その瞳にあたる部分は魔法の光を放ち、膨大なエネルギーが収束している事を示していた。


 動力の数は四。単純計算で最大出力の半分しか出せないが、そこは僕が直接モノに魔力を受け渡す。内部の魔力は飽和、臨界し、擬似的に最大出力で航行可能だ。

 その艦体が向かう先は、空にあらず、再びの海中。今度は眠りにつくためではない。戦闘艦としての本懐を果たす為にその身を没してゆく。


「《動き出したぁ! ハルさん、戦艦を動かしちゃったぞ♪ 相変わらず、この人には何が見えてるんだろうね♪》」


 これからこの地へ来て、色々と調査しようと思っていたプレイヤーには、少し申し訳ない。抜け駆けされた気分だろう。


《あばれるのは久しぶり。ぼくも楽しい、や。》


 だが、モノのこの静かな中にも興奮が隠せない声を聞いてしまうと、そんな申し訳なさも吹き飛んでしまう。そこが重ねて申し訳ない。存分に暴れる姿を見せつけてしまおう。


 海中では既に人魚と化した女の子達が異変を察知しており、すぐにこの甲板上へと集まってくる。

 隣では着物のマリンブルーがぶくぶくしたり、じたばたしたりと、水没に慌てた様子をアピールしている。……いや、海洋神なのだから何の問題も無いはずだが。


「遅かったわね、ハル。海が沸騰する所だったわ?」

「ルナちーの魔法容赦なさすぎー。温水プールになってるよ」

「戦いが終わったら、冷やしておかないといけませんね!」

「そうだね。でも今は、戦いに集中しよう」


 勝った気になるのはまだ早い。敵は目の前のドラゴンの他に、制限時間もある。時間切れで敗北後に、事後処理で冷やして回るのは気分もどんよりと冷えそうだ。


「はい! 気分良く海水浴をしながら、戦勝冷やしと行きましょう!」


 ……戦勝冷やしって何だろう。まあそれは良いだろう。僕が何かやると信じて疑わず、時間稼ぎに徹してくれた彼女らの為にも、成果を見せなければ。

 四基のビットを艦体から独立浮遊させると、そのまま砲口をドラゴンへと向ける。

 急に潜航してきた巨体に対応を決めあぐね、警戒航行しているその巨大なマトへ、僕はノータイムで発射の指示を出す。


「《撃ち方はじめー♪ どかーん、どかーん♪ ついに日の目を見る戦艦の破壊力が、龍の体に突き刺さるー! この為の戦艦、この為の砲台だったのかー!》」

「《え、そうなの?》」

「《うーん、どうだろう♪》」


 ……非常に白々しい。だが、レイドボスと、それに対抗するステージギミックのお披露目という形では絶好の機会なのだろう。生放送でそれを主張しない手は無い。

 勝てる気がしないこの強大な敵も、対抗手段が色々あるのだと想像すれば楽しくなってくるだろう。


「《このまま押し切れるのか! それともエネルギーが先に尽きてしまうのか! 乞うご期待だ♪ 目が離せないね♪》」


 僕としては、このまま主砲の一斉射で完封したいところだ。あれだけ鉄壁を誇っていた膨大な体力が、ごりごりと削れて行く。

 だが、このまま素直にやられてくれる敵ではないだろう。残りは七割ほど、恐らくは半分を切ったあたりで、何かしらのアクションがあると思われた。

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