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第202話 歴史の断絶

「そんな感じ、で、この戦艦はこの地を外から守るために作った、んだよ」

「そこまでは分かったよ。しかし、なんで神様が直接戦わなかったんだい?」

「色々理由はある、けど。一番はやっぱり、エネルギー不足、かな」

「私たちの体、燃費悪いですからねぇ」

「この戦艦は、こう見えて燃費が、良い」

「なるほど。……最初の頃は、今よりよっぽど魔力が少なかった訳だ」


 そうして戦争に勝利し、拿捕だほ鹵獲ろかくした敵の兵器群をエーテルへと還元し、今の国土を作って行ったのだろう。

 そうして世界をゲーム仕立てに構成し直し、僕らを招き入れた。


「……本当にご苦労様だね。ゲームなんて、状況次第ではどうなるか分からなかったのに」

「今の話を聞くに、百年単位で準備していたのよね? 本当に、頭が下がるわね」

「やだー♪ そんなに畏まらなくてもぉ♪」

「ぼくは、護衛が要らなくなってからは、休んでただけ、だよ?」

「……実のところ、ゲームである必要性は薄かったんですよ。長年かけて準備していたのは、“あなた方が親しめる世界”にする、という部分ですね」

「ゲーム仕立てにしたのは最近ってことかな」


 ゲームでなければ、どうなっていたのだろうか。ヴァーチャルの旅行ソフトだろうか?

 何にせよ、二つの世界が繋がっている事は、動くことの無い事実なのだ。僕らをこの世界に呼び寄せる方法は、様々な検討をしたに違いない。

 ……僕が自分自身にやったように、肉体ごと転移させて強引に呼び寄せる、といった予定が無かった事を願うばかりだが。


「それで、僕らが来て、エーテルの増加は軌道に乗った?」

「ずいぶん増えた、んじゃないの、かな? 最盛期には程遠いけど、ね」

「ふむ……」

「あのー、これってやっぱり、分かっちゃってる系ですかねぇ?」


 どんな系だろうか。だが、モノの今の発言で裏は取れた。ここで今、ようやく分かったとも言える。


「そうだね。ずっと気になってたけど、今の話聞いて確信したよ。この世界の魔力、エーテルを生んでいるのは僕ら、というか、地球の人間だね?」

「そうだ、よ? マリンブルーたちは、言ってなかったんだ、ね」

「ゲームである以上、その辺りの裏事情は徹底的に隠す、と決まっていますからね」

「暴かれちゃった、ね?」

「申し訳ない」

「いえ、理解して下さるのは、有り難い事ですよ。あまり運営に支障の出る広め方をされると、困りますけれど」

「広めるつもりは特に無いよ」


 言ったところで信じてもらえないだろう。あたまのおかしなひと扱いされて終わりだ。

 NPC相手にしても、広く流布するつもりは無い。彼らは説明の仕方によっては信じるだろうが、信じてしまうだけに逆に問題だ。確実に混乱が起きる。


 しかし、そうなると、世界のエーテルが激減した理由は、地球にあることになる。

 何故僕ら地球人がエーテルを生むかは未だに謎のままだが、減った原因は明らかだ。時期も一致する。

 ……確実に当時の世界の混乱が、原因だろう。電気文明の終焉しゅうえん、その引き金を引いた事件があったのが、百年以上前。その時期とこちらの衰退も、リンクしているのだろう。


 強力なEMP、電磁パルスの影響により生活基盤インフラの大部分が麻痺、復旧は間に合わず、人口、文明共に衰退の一途を辿った。

 実際の事件は、そんな単純な原因では済まないのだろうが、その辺りの事件直後の情報は断絶してしまっている。ともかく、電気を使った機械類が一気に使用不能になったのは紛れも無い事実だ。

 奇跡的に完成したあちらのエーテル、ナノマシン技術によりなんとか文明は持ち直したが、それが無ければ、地球もこの世界と運命を共にしていた事だろう。


「……そう考えると、途端に脆い構造に思えてくるね。文化の、いや、生活の根底を地球に依存しすぎている」

「それに関しては、仕方ない、よ。地球のエーテルも、以前の時代の電気でも、同じことが言える、よ?」

「そうだね、確かに。それが一気に無くなったら、同じことだ」

「それに、魔法無しだと、文明の再興は不可能だった、かも?」

「そこも同じか。エーテル無しで立て直せと言われたら、地球も不可能だった」


 まず、材料の確保が問題だ。鉄を中心とした、文明の基盤を成す素材、それを加工するためのエネルギーが発揮できない。

 加工済みの鉄材を再加工するには、昔ながらの方法では火力不足になる。

 それゆえ、“素材の山に囲まれながら、素材不足になる”、と当時の資料には嘆きが残っていた。


 こちらの世界でも同じだろう。魔法を完全に捨ててしまえば、大規模な工事は不可能だ。こちらには大型の建機のような物も存在しない事が分かっている。

 エーテル結晶によって作られた遺産も、当然ながら再加工不能。踏み台程度の役にしか立たないだろう。

 故に、地球への依存度が高すぎると理解していながらも、魔法を捨てる事は不可能だった。


 結果的には、地球の文明が立て直したためか、はたまた神々の施策がうまく回ったためか、この世界もまた安定した生活基盤を築き直すことに成功し、今に至るというわけだ。





「ねーねー、そんでその『外敵』は、結局どーなったん?」


 互いの世界の黄昏たそがれの時期を思い起こし、少ししんみりとしていた空気を払拭するかのように、ユキの質問が響く。

 確かに、戦ったとは聞いたがその後どうなったかは聞いていない。まあ、現状から考えると、察するに余りある状況ではあるが。


「倒した、よ?」

「元々が限界ギリギリの、追い詰められた部隊でしたからね。敵には、成りえなかったと言えます」

「一部は、誓約の内に迎合して、保護下へ入った、んだ」

「散発的にあった襲撃は時が経つにつれその数を減らして、終いには襲ってくる存在は、居なくなりました」

「うーん、諸行無常だなぁ」


 あっさりとした感想だった。非常にユキらしい。

 まあ、普通に考えて、軍を維持出来なかったのだろう。圧倒的なエーテルの供給不足。弾丸が、最初に用意した数から一切増えないようなものだ。鬼畜難易度すぎる。


 その後、この地の外の人間はどうなってしまったのだろう。

 エーテルと共にその痕跡も徐々に薄れさせ、消えてしまったのか。遺産、遺跡に寄り添う形で、ゆるやかに衰退して行っているのか。

 その事を想像すると、少し寂しい気持ちに襲われる。

 もしかすると、この広い星に人の営みは、この地域以外には残っていないのかも知れないのだ。


「まあ、もう戦争は無いみたいでよかったねハル君!」

「……そう、なるね。襲ってくる人は、もう居ないんだからね」


 しんみりしていると、察したユキが慰めてくれた。確かに、言うとおりだ。この地の魔力を求めて、攻めて来る人間を打ち倒す必要は無い。

 神々には悪いが、その作業は僕にはきっと気乗りがしない事だろう。


「でもさでもさ、もう敵は居ないなら、何で今回浮上させたん? あ、モノちゃ出てこれたのは、喜ばしい」

「ぼくも、会えて嬉しい、よ」


 ユキの疑問は更に続いた。その疑問は最もだろう。

 今まで、役目を終えて海底に沈んだのであろうこの戦艦、今になって浮上させたのはどういった理由によるものか。

 よくある流れとしては、脅威が再び現実の物となったので、伝説の戦艦も再び人類を守るために姿を現した、というものだ。だが、脅威となる『外敵』はもう存在しないという。

 ならば、何故。イベントの、対抗戦のシステム構成は、何がどうあっても戦艦は復活させたい、という強い意思を感じた。この事から、早いタイミングでの復活は必須の事項であったことが読み取れる。


 ではその理由は、といえばそこが微妙に見えてこない。今回、様々な事が一気に明らかになっただけに、なんとも歯切れの悪いものを感じる。

 同僚モノがずっと海中に沈んでいるのが忍びない、という理由でも一応の納得はつくが、何となく、神はそれだけでは動かない存在だと僕は感じている。


 答えを期待してマリンブルーに目を向けるが、彼女は、しゃなり、と優雅に肩をすくめて、追求をかわす構えを見せるのだった。


「……今後のイベント展開に関わるから、教えられないってコト?」

「正解だぞっ♪ かしこいハルさんに花丸っ♪」

「花丸、ではないが……、まあ、君たちらしいよね」

「色々教えてくれたと思ったら、肝心な所隠すあたりねー」

「ですが神話の一端に触れられて、わたくし感激なのです!」

「良かった、ね? でも、そんなに大層なものじゃあない、んだよ?」


 答えられない質問に行き当たってしまった為か、何となく質問会は終わりの様相を呈してしまった。

 まあ、構わないだろう。一から十まで話を聞いていては、それこそ本当に日が暮れてしまう。なんとなく、ずっと意識拡張も継続してここまで来てしまったので負担も大きい。

 何より、ずっと気になっていた事情が明らかになった。十分な収穫だろう。


「そうだ、最後にひとつだけ」

「いくつでもいい、よ?」

「そうですね、しばらくの間、此処に来る人など居ないでしょうし、どうぞごゆっくり」

「いや、そんなゆっくりしてられんわ……、数ヶ月レベルじゃない?」


 こちとら生身である。いや、冷静に考えればこの中でずっと生活しても体調に問題は出ない程に、魔法と科学の両面で補助は利いているのだが。

 まあ、お屋敷に帰ってアイリといちゃいちゃしなければ精神的に不健康だ。


「何が聞きたいの、かな?」

「っと、ごめんね? ……君ら神様が、新しく文明をスタートさせた経緯は分かったよ。でも、旧文明のなごりというか、情報が一切残ってないのはどうやったのかな」

「そうね。私もそこは気になっていたわ? どんなに断絶が大きくても、完全に情報が途絶える事はありえないもの」

「そうなのですか?」

「ええ、そうなのよアイリちゃん」

「それこそ口伝くでんだけでも、相当量の情報が語り継がれるはずだね」


 僕らの世界は、エーテル技術により破損した機器類からのデータ復旧サルベージが可能になったので例には相応しくないが、それでも歴史を紐解くかぎり、どうしてもこの世界の不自然さは否めない。

 建物などはエーテル結晶から魔力へ還元され消えてしまった、というのは良いだろう。だが、情報すら一切語り継がれていない、本の一冊も残していないというのは、いささか疑問が残る。まだたったの百年程度なのだ。


「そこは、語り継がないように『誓約』させた、んだね」

「それはまた……」

「あー、セレちんも使ってたよね、行動制限の魔法」

「王子にかけた奴だね。あの時はしてやられた」


 ここの所会っていないが、アベルは元気にしているだろうか。


「エーテルの量が回復すれば、当時の文明を復興させたいという勢力が必ず発生します。それを防ぐためには、必要なプロセスでした」

「それは確かに」

「でもよく受け入れたねー、当時の人々」

「わたくし、分かる気がします。きっと彼らは、自らに失望していたのです。魔力を使い潰す事しかしてこなかった自らに」

「語り継がないことを、自ら選んだ、ということかしら?」


 どうだろうか。だが、もしそうであっても、断腸の思いであったに違いない。歴史というものはそういうものだ。

 どんなに愚かな歴史であろうと、それを捨てるのは自らの身を裂くような思いだろう。


「まあそれだけ、のっぴきならない状況だったんだろうから、安定した今から何か言うのはお門違いか」

「そうそう。それに、それが無きゃハル君、こっちに来れなかったんだぜ?」

「それを言われると、弱いね……」


 それはアイリにも会えなかったという事だ。それは、想像するだに恐ろしい。アイリも隣で、同じ表情をしていた。

 そう、何だかんだと言っても、僕はそうやって自分の都合を優先する生き物だ。あまり偉そうな事など言えないし、必要なら僕だって同じ事をするだろう。


 そんな僕らの様子を知ってか知らずか、相変わらずマイペースを崩さないモノから衝撃の一言が発せられた。


「ハルも出来る、よ? 誓約による行動制限は簡単に、ね?」

「……なんですと?」


 そろそろ帰ろうという所にこの爆弾発言。これは、どう受け止めればいいのであろうか。

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