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第20話 深夜の大暴露大会

 ユキが中心だと、一転して会話多めになりますね。

 これはこれで難しいものがあります。

 その日の夜、皆が寝静まった寝室に暗殺者が入った。


「ハル君、ったッ」


 暗殺者は音もなくハルの背後へ現れると、その首に向け白刃はくじんきらめかせる。

 手馴れた動きだ。その身に染み付いていると言っていい。隠密に向かぬ背の高い体をしなやかに滑らせる。

 その凶手できっと何百、何千と要人を葬ってきたのだろう。

 やいばがするりと首に吸い込まれる。ハルもまた、次の瞬間にはその数字の一部になろうとしていた。


「はい<防壁魔法>」


 当たり前だが下手人はユキだ。

 体術で対応するとまた長引くので、魔法で刀を止めて終わりの合図とする。


「ぎゃあ」

「ぎゃあ、ではない。転移強襲は人道にもとるため条例で禁止されているはずだ」

「私は転移有りも好きだけどな。時間かかるけど」


 実際の禁止理由は試合が泥沼ぐだぐだになるためだった。

 互いに何百何千と要人を暗殺したら、互いにまともな国家運営が立ち行かなくなるのは当たり前だ。

 戦略シミュレーションが無政府シミュレーションに早代わりだ。


「完全に不意打ちが入ったと思ったのに」

「アイリが寝てるんだ、むしろ普段より警戒してるよ」

「おお、素敵なナイトだね。ところで<防壁魔法>と<練成>で作る防壁はどう違うの」

「賞味期限が違う。こっちは生もの、<練成>は冷凍食品」


 長期間の保存も安心だ。必要な時にすぐ取り出せる。


「防音壁張ったから声抑えなくていいよ」

「さんきゅハル君。あとこれなに? <闇魔法>かな」

「そうだね。ドーム状にしてる。これ試行錯誤したせいで闇だけレベル上がっちゃった」

「暗黒騎士ハル君だ」

「……悪くないけど、アイリには合わないかなー」


 軽口を叩きながらユキがベッドの上にあがってくる。

 不意打ちでキルされかけた事はお互いもう口に出さない。いつものことだった。


「でもこの状況ってさ」

「なにさ」

「こほん。……ハル? 彼女の寝ている隣で、防音の空間に女の子を連れ込むのは感心しないわよ?」

「ルナに染まるの早すぎでしょ……」


 それにルナはそんな話題は選ばないはずだ。と思う。


「アイリちゃん起きたら誤解されちゃうね」

「じゃあアイリが起きたら誤解されないように蹴り落とすね」

「えっ! この状態でアイリちゃんの様子見てるのハル君。きもい」

「護衛も兼ねてるんだから当たり前でしょ……」


 遠慮の無い、いつものやりとりだった。





「でさ、ハル君。これあげるよ。ウィンドウ出して」

「なにくれるの。何かいいアイテムでも拾った?」

「アイテムかー。拾ったけど使い道分からないんだよね。なんか素材っぽいけど」

「それ用のスキル覚えなきゃいけないのかもね」

「<練成>じゃないの?」

「あれはHPMPを使い捨てアイテムに変換するスキルだよ。<錬金>ってのもあるみたいだからそっちかもね」

「へえ。あ、回復薬はあげる。で、これ、ゴールド」


 ユキから、ダンジョンで敵を倒して稼いだと思われる大量のゴールドが送られてくる。

 さすがの額だった。掲示板でやりとりした最高ペースの彼女を更に上回っている。


「600万ってすっご。普通に全ユーザートップのペースじゃないの? ありがとね」

「うん。ハル君から剣も貰ったしね。まあ人前では使ってないけど」


 元々別のプレイヤーのために作ったものだ。それを他人が使っているのを見たら気分が悪いだろう、という気遣いだった。


「律儀だね」

「まあね。欲しがってた人に悪いよ。それに<魔剣>使うと武器の性能あんま関係ないっぽいし」

「……作りがいの無いやつ。防具はいる?」

「今はいいかな。ハル君が作るとスカートにされそうだしねー」

「いや注文には沿うって」


 朝方にユキに渡した刀のお礼、ということだろうか。

 これはありがたかった。同時に貰った回復薬も合わせて、かなりの数の回復薬が揃えられる。


 <神託>のレベルアップをしたいと思っていた所だ。その為には大量のMP回復薬が要る。

 武器防具の販売も少しずつ数が出ているが、まだ軌道には乗っていない。

 いつものメンバーは掲示板にはあまり顔を出さないし、そもそもユキと同じように、今は武器防具にあまり興味を示していないようだ。

 刀の彼女が今ある資金の範囲での依頼を決心すれば、だいぶ纏まった額が入るだろうか。


「自分は家から出ずに女の子に出稼ぎさせるとか、ヒモだねハル君」

「先に剣あげたでしょ。だからノーカンだよ」

「超ヒモ理論」

「紐理論を駄目男の理屈みたいに言わないで」

「超・ヒモの理論」

「言い直すな」


 特に趣旨などない、会話をするための会話。それが楽しい。

 ハルが彼女と話す時は大体こんな感じだ。

 そのうち、最初の目的がなんだったか分からなくなって終わる。だが今回は忘れずに済ませておいた方がいいだろう。

 会話相手も増える。


「まあ、ありがとねユキ。これで回復薬買うよ」

「家から出ないのに回復薬は使うんだねー」

「まだ言うか。<神託>が大量に持っていくからね」

「<MP回復>じゃまかなえないんだ。結構育ってるんでしょ」

「うん、今78。でも減る方が早すぎるからね。<神託>も上げていけばそのうち釣り合うと思うけど」


 平常時には絶えず<飛行>のオンオフによってMPを消費しているため、<MP回復>はかなり育っている。だが、それでも消費スピードに追いついてはいない。

 レベルを一つ上げても誤差程度しか回復力が高まらないのだ。

 それでも今は二秒に1ポイント回復するまでになっている。


「<神託>はまだ一秒に5くらい使うからね。ガンガン回復薬つぎ込んであげないと」

「ハル君……、私がハル君に貢いだお金を……」

「『そのまま別の女の子に貢ぐんだね……』、かな?」

「そうそれ」


 気に入ったのだろう。このネタはしばらく続きそうだ。





「じゃあ呼び出すよ」

「おっけー」


 資金を全てMP回復薬に変え、<神託>を発動する。

 全てつぎ込めば、かなりの時間使用していられるはずだ。スキルのレベルが上がれば更に伸びるだろう。


「カナリーちゃんこんばんは」

「こんばんはー。おー、暗いですねー。アイリちゃん寝てますねー」

「密会だよカナリん」

「密会じゃないよ。まあ目的があって呼んだ訳でもないけどね」

「いいですねー。お話してもらえるのは嬉しいですよー」

「修学旅行の夜みたいだね」

「行ったことないけどね僕」

「私もだ。定番ネタだから言っただけ」

「修学旅行イベントやりますかー?」


──どんなイベントだ……。

 ウィンドウから出てきたカナリーは、また大きくなってちょこんとベッドの上に座った。

 大き目のベッドであるが三人入ると微妙に手狭だ。三人で円陣を組むようにして身を寄せ合う。

 ユキの言うように、修学旅行の夜の雑談もこんなイメージだっただろう。


「修学旅行なら猥談だよね。カナリーちゃん猥談できる?」

「できますよー」

「AIが猥談するのか……」

「しますよー。だめでしょうかー?」

「駄目じゃないけどさ」

「ハル君のAIは猥談しないの?」

「普通しないでしょ」


 そういうゲームのAIならともかく。普通はそういう話をわざわざしない。

 そして会話の流れの中で、カナリーは至極あっさり自らがAIである事を認めた。

──ならば、アイリ達は? 聞けば答えるんだろうか。

 ここでカナリーに聞けば、あっさりと判明するのだろうか。

 するのかも知れない。だがハルは聞くことが出来ずにいる。確定してしまうのが怖かった。


「でもアイリちゃんも猥談するよね。アイリちゃんもAIでしょ」


 そんな中、ユキがあっさりと聞いてしまう。無いはずの心臓が跳ねた気がした。

 あっさりと、答えが出てしまうのだろうか。


「アイリちゃんはNPCですよー」

「……猥談から離れなよユキ。あとアイリはそんな話、……えっ、するの?」

「するかもねぇ~」


 カナリーはハッキリさせなかった。ハルは残念に思う裏で、また安堵する。


 意味深な言い方にカナリーの表情を読むが、また貼り付けたような微笑みを浮かべている。

 そんなハルの視線に気づいたカナリーは、余計な動きの混じらぬ完璧な動作モーションで、ハルに向かって美しくにっこりと笑いかけた。

──教える気はない、って意思表示してきたんだろうな今。これじゃ僕の方が心を読まれてるみたいだ。


「アイリちゃんもお年頃ですからねー」

「だよねー。今は傍にずっと男の子が居るしー」


 核心に迫る話のはずだったが、その一方でそちらの方もどうしても気になってしまうハルであった。





《スキル・<神託>のレベルが上昇しました:Lv.10》


 大量のMPを消費するためか、<神託>のレベルアップは早い。

 ユキと三人で雑談していると、それなりのペースで上昇していき、回復薬にはまだ余裕がある。


 今は他にする事もないので、消費すると同時に補給していることで、回復力も最適に近いところをキープしているのもあるだろう。


「そういえばハルさん、先ほどの話ですがー。ハルさんもご自身でAIを開発されているのですかー?」

「うん? ああ、そうだね。といっても機能補助ってくらいだよ。僕の頭特殊だから」

アタマ特殊系」

「始末するぞこのアタマ物理系が」

「どんな子なんでしょうねー。会ってみたいですねー」


 カナリーはマイペースだ。

 会話に乗らないわけでは無いが、語りたい主題があればそれを貫く。

 常に自分のペースを維持するという意味でマイペース。のんびりしているが割りと我が強いのかも知れない。


「まあ、会わせる事は出来ると思うけど、君みたいに感情豊かじゃないよ」

「問題ないですよー」

「えっ、ハル君どうやって? このゲームって外と繋げないよね」

「僕の脳波に相乗りさせて割り込ませるから大丈夫」

「何言ってるか分からない……。頭特殊系なだけある」

「一応聞くけどやっても怒られないよね。運営きみの提案なんだし」

「出来るなら何してもいいですよー。非常に出来難くなってますけどー」


──僕の脳波を制御する形でキャラクターの声帯に割り込み、出来るか?


「《可能です》」


 ハルの口からハルの声によって、ハル以外が語る言葉が発せられる。

 AIによるものだ。ハルの脳を経由してキャラクターの口に割り込ませた。


「おー、今のハルさんじゃありませんねー」

「分かるの? 末端処理では完全に僕って事になってるはずだけど」

「これでも神様ですのでー」


 答えになっていないが、謎技術が使われているという事だろう。

 ハルは少し警戒する。以前思考にハッキングを仕掛けられた事もあった。


「《用件をどうぞ》」

「お話したかっただけですよー。お名前はなんというのですかー」

「《固有の名称はありません。ハルの一部であると考えてください》」

「えー、ハル君、名前付けてないの? 意外。キャラクター性つけてると思ったのに」

「機能補助って言ったじゃん。制御用プログラムって感じだよ」


 対話型のAIにキャラクター性を付ける人は多い。

 最初から固有のキャラクターが設定されたパックが販売されている他、好みのアニメキャラ、有名人、果ては自分の理想の対応を自作するなど、それは多岐に渡る。


 ハルは脳の構造が特殊なため、それを補助し制御するものが必要だった。

 自分で全てやっていると加減がきかず、つい無茶してしまう事が多い。

 加えてポッドの管理による健康維持も任せている。……これでは怠惰型AIになってしまうのだろうか?


「しかし、これじゃやっぱり変な気分だな。僕の声だし、勝手に口動くし。何かいい方法無いかね」

「それじゃあゲームウィンドウにその子の機能を移しましょうー。<神託>の方に相乗りさせちゃえばいいんですよー」

「カナリーちゃん、システムに直結させるのは流石にだいじょうぶ?」

「システム上は、ハルさんの別人格とお話出来るようにするだけ、なので問題ないですよー。直属の使徒ですのでこのくらいの優遇はー」

「すごい理屈だ」


 そうしてハルのAIがウィンドウに移植される。

──テスト。


「《テストです》」

「オーケーだね」

「ハル君、淡白すぎるよー。声も味気ないし。あとせっかく分離したんだから名前つけよう!」

「注文多いな……。じゃあ、名前は『黒曜』ね。声は君たちのをサンプリングするよ」

「なんで黒曜なの?」

「この前、単分子ブレードの事調べてたら黒曜石のナイフが出てきて気に入った」

「安直すぎる……」

「いいですねー。良いフィーリングです」


 名付けがいつも安直すぎる神様には好評だったようだ。ハルは少し反省した。


 どんどん流されている実感はあるが、今回はカナリーが積極的になっている事もあって、ハルもこの状況に興味を覚えていた。

 言われるままに名前を付ける。

 そして業務用に使われている基本的な音声のままだったものを、アイリたち四人の声をイメージして合成し置き換えた。


「《いかがでしょうか、ハル様》」

「うん、良い感じだね。落ち着いた声になったね」

「身近な女の子の声使うとか、ハル君いやらしいねー」

「じゃあどうしろっていうのさ……」


 普通はガイド用音声を購入するのだろうか。

 しかしそれだと、どうしてもそのキャラクターに引っ張られてしまうだろう。


「私らの声も使ってるんでしょ。そのわりに大人しいね。ルナちゃんが強いのかな」

「《平均化していますので。平均顔が最も美少女だと言われています。声もきっとそのはずです》」

「それは好みによりますねー」


 何だかいきなり変な個性が出ている気がする。

 個の獲得というのはそれほど特別な事なのだろうか。


「《なんの話をすれば良いでしょうか》」

「なんでもいいですよー」

「好きな事語っちゃってね」

「《そう言われましても、話題が絞り込めません》」

「まだ難しかったですかねー」


 ハルが眺めている中で、女性陣によって会話が進行していく。

 二人とも積極的に対話を試みており心強い事だが、この二人に任せておいて大丈夫なのかという不安もまた湧いてくる。

 また猥談などと言い出さないだろうか。


「じゃあやっぱり猥談だよね!」


 言い出した。

 ハルが口を挟む間を与えず、カナリーも便乗してしまう。

 内容は、ハルにとって致命的なものとなった。


「ハルさんの好みの女性はどんなタイプなのですかー?」

「《王女様やお姫様といった、高貴なタイプを好む傾向が強いようです》」

「待っ! って!」


 ハルは焦った。非常に。ものすごく。

 ハルがここまで必死になるのはとても珍しいといえる。最近よく焦っている気もするが、それでも珍しいといえる。

 危機である。喉元に刃を突きつけられるよりも何倍もの危機である。


「アイリちゃんは好みのど真ん中だったんですねー」

「《はい、アイリ様と出会ってからはその中でも小柄なタイプなものの収集物が》」

「YA! ME! TE!」


 声が裏返った。


「収集物? なんだろうハル君」

「大変ですよねー。毎日アイリちゃんが隣で寝ていますもんねー」

「《はい、事実ハル様は思考力の約三割を使って煩悩を押さえ込んで》」

「黒曜、少し黙ろう」

「《はい》」

「人の内面を、安易に喋っては、いけない」

「《申し訳ありません。禁止事項が設定されていなかったもので》」


 せっかく移植してもらったこの機能だが、今すぐ解除してしまおうかハルは割と真剣に考えた。

 そして<神託>も切ってしまおうか真剣に考えた。

※誤字修正を行いました。

 加えて会話の間に地の文を少し追加しました。大筋に変更はありません。

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