表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
第6章 マリンブルー編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

197/1770

第197話 遺跡に眠るお宝は

 スライド式に開いた床の扉をくぐると、しばらく細い階段が続いている。すれ違うのも苦労しそうな幅の狭いそれを、ハル達は一列になって下りていった。

 光源となる入り口の陽光はすぐに内部の薄暗さへと屈してゆき、階段が終わる頃には、通路をぼんやりと照らす非常灯の明かりに取って代わられていた。

 ハル達が通路へと出たあたりで、日の光を取り込んでいたその扉も閉まったようで、最後尾を歩いていたユキがそれに反応する。


「あ、閉まった。ずいぶん長く開いてるんだね扉」

「雨の日などは、水が吹き込んできて大変そうですね!」

「言えてる。階段びしょびしょになっちゃうね」


 確かに大変そうだ。だが見る限り、特に対策もされてはいないようで、恐らくこの上部の出入り口は頻繁には使用される事の無いものだと推測できる。

 確かに上部構造には何も無い。特に用事も無いだろう。砲台兼、エネルギータンクのあの球体をメンテナンスするくらいのものだろうか。

 ならばメインの出入り口や、それに直結したメインの設備もここには無いのだろう。

 上部から出入りをしないのならば、お皿の底、下部構造にそれは存在する可能性は高い。地上に着陸し、底部から進入するのだろう。


「薄暗いですー……」

「まあ、仕方ないよね。非常用電源しかない今は無駄遣い出来ないだろうし。暗かったら魔法で明かり点けてもいいよアイリ」

「大丈夫です!」


 陽光が遮られた今、光源となる物は壁と床に埋め込まれた発光パネルのみだ。

 非常灯のようにうっすらとした光だけに照らされる通路は、真昼だというのに雰囲気は深夜のそれだった。生身のアイリには、外との光量差が更に堪えるだろう。


「非常用電源って久々に聞いた。ハル君、これって電気で動いてるん?」

「いや、魔法だと思うよ。……たぶん、そのはず」

「ずいぶんと、曖昧な言い回しねハル?」


 ルナがいぶかしむ。上部の扉を開くのに成功してから、どうもその辺りの事情が気になって仕方ないハルだ。その機微を、敏感に察知されてしまった。

 魔力エーテル結晶をメインで使ったこの構造物だ、電源ケーブルの類も見られない。ならば動作も動力も魔力に決まっているが、どうにも気に掛かる事情があった。


「さっき開けた扉、その内容が少し気に掛かってね」

「あなたにしては、随分と時間が掛かっていたものね?」

「未知の魔法言語でプログラムされていたとか?」

「いや、むしろ既知だったんだ」

「すごいですー……、やっぱりハルさんは博識ですね!」

「ありがとう、アイリ」


 例え未知の言語であろうと、それにより最終的に出力される結果は一定だ。文字の読み書きが出来なくとも、言葉を扱うのに不自由は無いのと似ている。いずれ解析できる。

 だが、この施設に使われている信号のやりとり。それを探っているうちに、そのパターンに完全に一致する出力結果を出すプログラム、その知識を自身の内に持っている事にハルは気づいてしまったのだった。


「あなたが既知、というと、それはつまり」

「うん。地球あっちのもの。かなり古いものだけどね」

「なるほど。前時代のものね? それで、電源と言い出したと」

「うっそ! それって、この戦艦、神様が作ったって事?」

「ユキは賢いね」


 この場合、勘が良いと言うのか。ハルが遠まわしにして、言い出すのを躊躇ためらっていた結論に先回りされる。

 そう、向こうの世界の知識、それを使用して作ったとなれば、それは神が一枚噛んでいる事に他ならない。

 だが、神々が関わりを始めたのは、今の時代、アイリ達の国のはじまりが最初かと思っていた。しかしこの戦艦にもその痕跡が見られる事から、それより以前から、古代人の時代から干渉はあったという事を示唆している。


「まあ、考えて見れば当然か。歴史をスタートさせるにも、準備が要るし」

「終末の世界に突然現れて、突然従えと言っても無理があるものね?」

「キミたちは急に何を言ってるの?」

「ユキは賢くないね」


 結論に一足飛びする能力はあっても、その過程を一歩ずつ埋めて行くのは苦手のようだ。

 反論の代わりに頬をぷくーっと膨らませる様子がかわいい。ついカナリーにするように、その頬を突っついてしまうと、肌と肌の接触に急激に赤くなってしまった。かわいい。


「つまりこのお船は、カナリー様達が作った、という事なのですか?」

「どうだろう。そうとは限らないかな。神様って、七色神の他にもまだ居るようだし」

「アルベルトね?」

「確かにねー。サポートの神様が、ベルベル一人とは言ってないもんね」

「いったいどんな方が……」


 どんな者が作ったか、それも確かに気になるが、ハルとしては“どんな目的で作ったか”の方が気に掛かる。

 何せ戦艦。戦うための物だ。誰と戦うためか、何と戦うためか、それによっては今の神の立ち居地も変わってくる。

 例えば、この戦艦を使って古代人の支配階層を根絶やしにして、今の地位を手に入れたとなれば、信仰の屋台骨が揺らぐ事態になるだろう。いや、ハルがそう疑っているという話ではない。事実の証明が出来なくなった今、そういう陰謀論も出てきてしまうという話だ。


「大丈夫です! わたくし達は、神への感謝を忘れる事はありません!」


 ハルの不安を読み取ったのか、アイリがそう力強く宣言する。

 確かにこの世界の人々は、神への信仰、その度合いが現代日本の人々に比べて非常に強い。王自らが神を否定する政策を取ったヴァーミリオンでさえ、根強く信仰が息づいている。

 だがそのヴァーミリオンでも実際あったように、神が祖先を滅ぼしたという懸念が生まれる土壌は存在してしまっている。歴史が断絶する、とはそういうことだ。


「まあ何にせよ、想像にすぎないか」

「そうそう。想像するよか実際に調べよう! せっかく来てるんだし!」

「そうですね! 探検です!」


 元気娘二人が前に出て、薄暗い通路を歩き始める。

 確かに、実際の所は調べてみなければ分からないだろう。いや、調べたとて、分かる保障は存在しない。

 しかしハルには、どうしても気の進まない、言うなれば状況を前に進めたくないとでもいうような不安感が、胸の奥にどうしても残ってしまう。

 物事は、詳しく知れば知るほど必ずしも幸福とは限らない。ハルは性質上、その事をよく知っている存在なのだった。





「あ、ハル君、ドアだ。これも開けられるん?」

「開けられるよ。まあ、開けても何も無いんだけどここは」

「うお、開ける前から透視しちゃってる。トラップの掛けがいが無いね」

「かけないで?」


 ユキに請われるままに、通路の壁に現れた扉を開くが、ハルの予言した通り中には何も存在しなかった。

 四角く殺風景なその部屋は、何のための場所だったのか予想が難しい。個人のための部屋、といえば狭いながらもそう思えてくる。


「マイルーム、みたいですね! あ、あそこはもっと広がりますけれど!」

「確かにそうだね。警備室、とかかな?」

「出入り口が近いですものね? 当直が寝泊りする、のかしら?」

「それよりさ、ハル君のマイルームって最初の狭いままなの?」

「それより、ではないが。なぜ今そっちを優先した……」

「狭いほうが、くっつけていいのです!」

「あはは、愛の巣だった」


 構造上、船の個室というのは狭くなりがちだ。個人の心の有りようをおもんばかった広さは確保しにくい。

 ここは、甲板ともいえる最上部が近いため特にそうだろう。そもそも個人の部屋ではなく、一時的な待機場所でしかなかったのかも知れない。家具なども何一つ存在せず、当時の様子を推し量る事は難しい。


「家具とか風化しちゃった?」

「百年そこそこで風化は……、ああそうか、あの街と同じだね」

「家具も魔力で作られていた、のですね!」

「それだと、本当に調査は難しいわね?」


 残る物と残らない物の違いは何なのだろう。消えた物を調査、解析する事は不可能なので、それも証明が難しい。

 消えれば大気に満ちるエーテルに溶けて、すぐさまそれと同一化する。例えばこの部屋にベッドがあったとして、大気中からベッドを構成していたエーテルをより分けて分析する、ということは不可能だ。


「混ざっちゃった物は仕方ない。次に行こう」

「そいやさ、この船は、もともと魔力のある場所に眠ってたんだよね?」

「……そうだね。そこが、ヴァーミリオンのアレとは違うところだ」

「そこには、どんな違いが? ハル君わかる?」

「分からん。分からんが、神様公認って事、なのかな?」


 ごく一部を除き、エーテルの満ちるこの地上、いわば“ゲーム内”からは、旧時代の遺産は徹底的に排除されている。

 そのためヴァーミリオンの人々は、神々の庇護、魔力圏の外へと足を伸ばして、遺産を発掘する必要があった訳だ。


 しかし、ハル達が今足を踏み入れているここは、まだゲームの内側だ。

 海の底へと沈んでいたとはいえ、そこは神の領土には違いない。消そうと思えば、マリンブルーはいつでも消せた。

 それをわざわざ取っておいて、あまつさえイベントに絡めてくる理由は何なのだろうか。


 そんな事を話しながらハル達は狭い通路を先へと進み、再び現れた扉を開ける。

 その部屋のロックは最初の部屋と比べると厳重で、甲板の出入り口と同等のセキュリティであるようにハルには感じられた。


「開いたよ。足元注意ね」

「お、今度は何かあるんだね! ……銃、かなこれは?」

「銃ね? どう見ても」

「まあ。これが銃。……つまり武器庫、なのでしょうか? それで施錠が厳重だったと?」

「アイリ、僕が開錠に手間取ってたことバラしちゃ駄目だよ?」


 まあ、ルナもユキも長年の付き合いで、既にその様子は察しているのだろうけれど。


 ともかく、足元に散乱し無造作に散らばるそれは、地球の銃器、それに良く似た遺産であった。

 これもまた、前時代の造型だ。銃器の形は、大枠においてはそうそう変化する事は無いだろうが、それでも時代によって明確に差異が表れる。

 その特徴が一致するのが、扉のセキュリティに使われていたプログラムと同世代、古い時代の物であった。


「でも無造作すぎだね、置き方」

「……入れ物ないし、固定具が風化してしまったのでなくて?」

「なるほどねー」

「ハル? 元々の置き方がどうだったか分かるかしら? 散らばり方から逆算などで」

「いや流石にきついって。落ちただけならともかく、浮上時の振動とかあるし」

「落ちただけなら逆算出来るんだハル君……」

「すごいですー……」


 まあ、数からして壁掛けで安置していたと推測できる。壁の固定具が経年劣化(と言って良いのだろうか?)で消失し、銃だけが床へと落ちた。

 そして、ここに武器がある事で、先ほどの部屋の役割も変わって見えてくる。この部屋で武器を受け取り、甲板手前の部屋で待機し、上部へ取り付いた敵へ備える、のだろうか?

 やはり、何者かと戦う事を想定して作られたのだ。その考えが強くなってくる。


「……とりあえず、今はこの船の時代背景なんかより、考えなきゃいけないことがあるよね」

「なんだろ? あ、この銃の威力かな」

「惜しいねユキ。この銃を回収するか否か、だね」

「惜しくないじゃん……、あ、危険そうだったらハル先生が没収しちゃうってことか」

「先生、ではない」


 まあ、つまりはそういう事なのだが。扉を開けるのが何時になるかはともかく、この地には遠からず人がやってくる。プレイヤーも。NPCも。

 そうして彼らもここで、この銃器を見つけるだろう。お宝だ。遺跡に眠るお宝、当然のように持ち帰る。

 それがこの世界に与える影響について、軽視して楽観するハルではない。どうしても、争いの火種として考えてしまう。


「出来ればわたくしの世界には、これを流通させたくないと、びしばし気持ちが伝わって来るのです……!」

「まあねえ。本音を言えば、今ここで全部エーテルに還しちゃいたいかな」

「やらないんだ?」

「新ダンジョンに先行して、お宝独り占めってのも、どうかとね?」

「あはは、大ブーイング間違いなし」


 どんな方法かは知らないが、苦労して鍵を見つけ、入ってみれば中は空っぽの部屋が続くだけ。

 ゲームとしてプレイしていたなら、『なんだこのクソゲーは』、と言いたくなるだろう。

 それでなくともこの船は、マリンブルーがわざわざ大々的に出現させたもの。この銃を始めとした、内部の残留物を現地に流通させることに何らかの意味があると考えられる。

 それを邪魔していいものか、現状では判断がつかなかった。


「マリンブルーに直接聞ければ良いんだけど」

「会ったこと無いんだったね。ハル君はマリンちゃんと」

「レア度は低いみたいだけどね。プール行けば会えるから」

「ハル君はレア度高い神様とばっか仲良いよね」


 果たして、あの陽気な神様の目的は何なのか。いや、彼女に限らず、今のところ神々の目指すところは解明された試しが無いのだが。

 考えても無駄なのかも知れないが、それを話し合いつつ、ハル達は通路を抜け、更に下へと続く階段を進んで行くのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ