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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
第6章 マリンブルー編

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第191話 浮上開始

 サメを片付け、ハルが仲間と合流すると、そこは戦場になっていた。

 いや、元から戦場ではあるのだが、ここで言うのは近代的な戦場だ。つまりは、銃が使われている。

 片手で撃てる小型の物、ないし筒は長くとも個人で携行出来るもの。つまり時代的にかなり技術の進んだタイプだ。その制圧射撃に、仲間たちとマグロは水中深くへの退避を余儀なくされていた。


「ハル君はっやーい。……私らが遅いのかな?」

「流石は本拠地前だね! バリケードが硬くって!」

「ハル、銃なんてあったか? まあ、コイやシャケが口から魔法吐くんだから、銃くらいあっても不思議じゃねーけどよ」

「いいや? 少なくともウチには無いよ。だとすれば、建造中の物から出た副産物だろうね」


 このゲームで銃という物を見るのは初めてだ。この試合で、ということではない。この世界には、銃武器は実装されていなかった。ヴァーミリオンの遺産に、似た物があったくらいか。

 まあ、当然だ。剣と魔法の世界である。ファンタジー世界でも銃が登場するゲームは多いが、このゲームでは近接武器が主流、遠距離戦はもっぱら魔法で解決していた。弓ですら、錬金術で作る伝説武器以外には見かけない。


 大砲のような物はともかく、見るからに片手で扱っている現代的な銃。そのゲームにそぐわない物が何処から出たかと考えると、このチームが建設中の『戦艦』によってもたらされた、と考えるのが自然である。


「つまり、例のモノもそういう近代的、ないし未来的なオーパーツ、って考えるのが自然かな?」

「ハル、考察もいいが、早くそのモンとやらにたどり着いた方が良いんじゃないか?」

「おっと、そうだね」


 チームメイトの言葉で思考を振り払う。確かに戦艦とやらがそういう物だったとすれば、完成しては手がつけられなくなるだろう。

 <神眼>で見える建設現場は、進行方向に見えている藍色のチーム本拠地の、ちょうど向こう側。最も防備の厚いこの本拠地付近の突破か、ぐるりと時間を掛けての迂回が求められた。


 ここを目指していた以上、元々は突破を計画していたハルだが、敵が銃器で武装しているとなれば少し話は変わってくる。

 マグロの突進と、プレイヤーによる地上に上がっての大暴れ。それによって強引に突破しようと考えていたが、どうしても破壊に時間は掛かる。そうして足が止まっている所に、銃で狙い撃ちにされてしまうだろう。


「仕方ない。ここは僕が食い止める」

「またかよ!」

「僕が最も銃慣れしてるからね。囮になりつつ、ガンガン武器を破壊して回るから、進路を開く事に専念して」

「らじゃ。ハル君がんば」

「ハルさんは銃もいけるんだ!」

「ああ、すげーぞこいつ。シューターゲーじゃエグイ活躍する」

「でも本人はあまり好きじゃないってか、ファンタジーばっかりやってるけどねぇ」


 当然だ。銃に高い適正を持つハルだが、わざわざゲームの中で撃とうとはあまり思わない。やはり時代は魔法である。点攻撃しか出来ない武器など時代遅れ。

 だが、そんな魔法攻撃も今の体では使えない。シャケを連れて来るにも、あれは対地攻撃は得意ではない。

 つまりこちらは、剣だけで相手をしなければならなかった。


「気をつけろよ。敵はレーザーも使う」

「そりゃまた……、ずいぶんと時代が進んだことで」


 どうやら火薬式にすら留まらないらしい。まあ、火薬も電気も実際には使っておらず、全て魔法による二度手間での再現なのだが。

 だがそれにより、見えてくる事も多い。ハルは本拠地の方でその対策をとりつつ、自分はその銃器と対面するために水上へ上がる。

 マグロの一匹を群れから切り離し、その背にしがみつく。人の速度でノロノロ上がっていたら良い的だ。地上をターゲットに、攻撃速度で急加速したマグロはハルを乗せ空へと飛び上がった。

 敵の地上部隊がその異様に目を奪われているその意識の間隙かんげきに、ハルは逆光の中、敵本拠地の正面、城門から伸びる通路の上へと降り立つのだった。





 驚愕に目が見開かれる中、それでも反応したプレイヤーは何名か居た。空中のマグロへ銃弾が撃ち込まれる。

 その音を聞いて我に返った他の面々も、マグロへの射撃を開始する。

 マグロは流石の耐久力により多少は耐えていたのだが、一斉射撃にさらされては持ちこたえられず、その身が地に着く前に輝きと消えてしまうのだった。


 だが、それだけの時間が稼げれば十分だ。ハルは視線が宙のマグロへ向かっている間に、最も手近なプレイヤーの元へとたどり着くと、マグロに向け空へと掲げられた拳銃を刀で輪切りにする。


「なっ、うわぁあぁ! やめろ……、えっ?」


 そして、銃を失ったその相手には目もくれず次に向かう。敵は人にあらず、銃のみだ。銃を持たない相手などは問題にならない。

 それに、ここで倒してしまっては、城内に復活されてしまう。それも面倒だ。再び銃器を装備して出て着てしまうだろう。


 悲鳴でハルの存在を認識した彼らが、銃撃を開始するが、そのようなものはまず当たらない。

 銃は敵に向けて引き金を引くだけで簡単に当たる、というのは幻想だ。数メートルも離れるだけで、不慣れだと狙った的への着弾は難しく、その対象が高速で動くとなれば尚更だ。

 実体弾も、ビームだろうと、所詮は指先程度の範囲にしか影響を与えられない。辺り一面をなぎ払う魔法とは、比べるべくもない。


 ただ、それでも、持つだけで即席の兵士を作り、揃えるだけで即席の軍隊となる銃器の脅威性はいかんなく発揮されている。

 魔法が使えないこの試合、銃を握っているという安心感は強い。城の門が開くと、次々とプレイヤーがなだれ出て来た。

 これが、もし近接武器しか無い状態だったら、ハルの前に立ちはだかろうという気は起きなかっただろう。


「相手は剣で、この人数だ!」

「やれる! やれるぞ!」

「今日こそハルを倒せるんだ!」


 甘い。その程度で倒されるハルではないし、彼らの仕事はハルを倒す事ではない。

 ハルがいくら高速移動するとはいえ限界がある。力の平均化されたこのキャラクターでは、どれだけ動作を効率化しても普通にプレイヤーが走る二、三倍が限度だ。

 ならばやることは門前に整列してハルを狙う事ではない。仲間が切られている隙にバリケードへたどり着き、破壊活動を始めたユキ達を狙う事だ。

 まあ、それをさせないために、ハルは派手な登場をしたのだが。


 ハルは目を閉じると、頼りない視覚情報を閉ざす。制限の多いこの体の、特に不満な部分だ。

 上空の<神眼>を新たな目として意識を同調し、あまねく周囲の状況を把握する。一斉射撃でハルを蜂の巣にしようとする門前、今まで展開していた側面、ハルの背後に回り込もうとする者、油断無く城壁の上から狙い撃ちにしようとする者。

 それら一切の狙いを線に表示し、指の動きから予兆をランク付けし脅威を色分けする。

 当たるラインへは踏み込まず、入っても撃たれる瞬間にはそこを離れていればいい。


 そうして銃弾の雨をかいくぐり、数歩でハルは城門に並ぶ彼らの列に踏み込んだ。


「当たらない! 何でだッ!」

「目を閉じてるのに!」

「そもそも何で閉じてんの!?」


 隊列の中へ踏み込まれると、もはや彼らは何も出来なかった。同士討ちを恐れ、乱戦に対応できない。

 ノーリスクで復活できるのだから、そこは構わず撃てば良いのだ。まあ、当たってやるハルではないのだが。


 そうして次々と敵の銃を切り刻み、それを無効化していった。銃の生産は容易ではないらしく、後詰めはすぐに品切れとなる。

 後ろではバリケードも突破され、戦艦の建造現場へと続く道が出来ていた。ユキ達は一足先にそちらへ向かっており、じきに到着だ。


 ハルもそれに続こうと、そう考えた矢先に、会場全体に鳴り響くアナウンスがあった。


「《ちりりり~ん♪ マリンちゃんより試合中の皆様にお知らせでーす♪》」


 このタイミングでの主催者じきじきのお知らせとなると、一つしかあるまい。





「《ただいまこの瞬間、とあるチームにより『空中戦艦ソチア』の建造が完了しました♪ チーム名は言えませんがー……、あれ、みんな知ってるかんじ? バレバレ? そっかー》」


 チャットを見ると、藍チームだろうと何処も察しがついていた。まあ、そうなる。

 どうやら、ハル達は間に合わず、完成を許してしまったようだ。とはいえ、これもそれなりに織り込み済みであるとも言える。

 実のところ、完成前にたどり着いたとしても、破壊する目処は立っていなかったのだ。


「《映像映しますねー、どんっ♪ どうですか、強そうだよねっ♪ えっ、戦艦に見えないと……、まあ、浮いてるしね♪》」


 そう、その戦艦は建造中から宙に浮かんでいた。ハル達では、空中への有効な攻撃手段を用意できない。ハルやユキが飛び乗って、地道に武器を振るうのが関の山だ。


「《実はですねぇ、これはもっと巨大な戦艦の一部、支援ユニットなのです♪ ビットってヤツだぞ♪ でもたかがビットと侮るなかれ、攻撃力は絶大だあ♪ ……あ、自国内で撃たない方が良いとおもう、ぞ?》」

「誰だ今撃とうとしたの! 正気か!?」

「だって、確実にハルを倒せると……」

「そいつから権限を剥奪するんだ! 今すぐに!」


 なかなか思い切りの良い事を考える。ハルも少し感心した。……位置の関係から射線上に本拠地があり、まずそれに戦艦の攻撃が当たるであろう事を除けばだが。


「《その本体の戦艦がっ、こちらっ♪》」


 映像は別の場所に切り替わり、円盤状の、戦艦本体とやらが映し出される。

 それは円錐を平たく潰したような、皿型とでも例えるべきだろうか、こちらも、戦艦と聞いてぱっと想像する形では無かった。

 SFゲームに出てくる宇宙戦艦には、このような形の物もあるだろう。そういった種類の戦艦、という事のようだった。


 それが浮かぶ場所は真っ暗で、戦艦外壁のライトや発行するエネルギーライン、窓から漏れ出る内部の明かりが、ぼんやりとその姿を映し出している。

 だが、これは形がそう見えても、宇宙に浮かぶ宇宙戦艦ではあるまい。


「《この映像は、実は会場内じゃないのです♪ 本編の、私の国の海の中、その映像をリアルタイムで映し出しています♪》」

「おお、本当に本編に影響した」

「俺たち、シナリオを動かしたんだ!」

「《付属のビット、さっきの球体ですね♪ あれが再生されたことによりエネルギーが供給されて、現在浮上中だー♪ 他のチームも、浮上の後押しに戦艦作りをがんばろー♪》」

「よし、ぶっ壊す」

「ええぇっ!?」


 シナリオの進行に携われた、と湧く彼らの前で、無慈悲に破壊を宣言する。

 本編に影響する、というのは知っていたが、どう影響するか知れたのは僥倖ぎょうこうだった。

 あの球体はどうやら、円盤の支援攻撃ユニットであると同時に、エネルギー供給装置でもあるらしい。それが生み出された事で、海中に没していた本体が目を覚ましたらしい。


 正直、あまり良い予感はしない。外への影響が、もっと即効性のある異変ではなく一安心な部分もあるが、それでも『空中戦艦』である。まるで平和的ではない。

 故に、完全に起動が完了して何かしらの被害が出る前に、エネルギー供給を寸断させてもらう。


「でもさ、無理じゃないハルさん? いくら貴方でも、あの戦艦をどうにか出来るとは思えないし」

「そうそう。飛んでるしさ」

「まあ、何とか頑張ってみるよ」


 余裕を取り戻した彼らがフレンドリーに話しかけてくる。もう、戦闘の空気ではなくなっている。戦艦が完成し、安心したのだろう。もう何をしても無駄だと。

 詰めが甘いと言いたいが、邪魔されないのはありがたい。


「どうにか出来るか出来ないか、そこで見ていると良い」

「えっ、何? ……イルカ?」

「何だその数ぅ! 波になってるし……」


 ハルは増援として呼び寄せていたイルカの大群、その一頭へと乗り、浮遊ビットの元へと向かう。

 マグロに先導されるように青い波となって押し寄せた『TYPE:イルカ』、その群れは、恐ろしいスピードで進んで行く。

 魚群というのは、小さな魚がその身を巨大に見せるだけの物ではない。自らが水流を生み出す事で、群れ全体のエネルギー消費を抑え、また、スピードを上げるのだ。

 ……これは、少々上げすぎだが。ほぼマグロ並みだ。内部には哺乳類型の第二世代、『TYPE:シャチ』も引き連れている。


 その背に乗り進むと、すぐに『戦艦』、黒い球体の姿が見えてくる。

 それも既に移動を開始しており、浮遊しながらゆっくりと移動中だ。いや、巨体ゆえにゆっくりと見えるが、スピードはかなりのものだろう。


「あ、ハル君! なにそれなにそれ!」

「イルカだ! 乗っていいのかな?」


 建設現場跡地で待機していたユキ達と合流する。彼女らはすぐにイルカに飛び乗ると、その背を器用にぴょんぴょんと渡り、ハルの隣のイルカへと飛んできた。


「ハル君、外のあれ、知ってた?」

「知るわけ無いね。とりあえず、今現地に本体アイリが向かってるよ」

「王女さん!? だ、大丈夫かな……!」

「大丈夫だよソフィーさん。しっかり護衛が付いてるからね。何かあったら、僕もここを出る」

「うん! こっちは任せて!」


 まあ、その護衛というのはハル本人、その本体なのだが、それを語る訳にもいかない。

 リアルタイム中継の映像を黒曜に解析させ、位置を割り出しながらハルとアイリが現地へ<飛行>している。何かあれば、すぐに対処できるだろう。


 だが理想は、何も無いうちにこの浮遊ビットを潰してしまう事だ。エネルギー供給が断たれれば、再び海の底へと沈むだろう。もし何か用があれば潜ればいい。


「追いついてきたけど、ハル君どうする!? イルカジャンプして飛び乗るのかな!」

「ちょっと高度が高すぎるね……、だから、落としてから考えよう!」


 イルカ波はそのスピードで浮遊ビットへと追いつくと、彼らの持つ支援機能、『妨害電波エコーロケーション』を一斉に照射し始める。

 敵の装備が、近代的な銃器になっていたのを見て、ハルが戦艦用に用意していた対策がこれだ。戦艦が機械的な兵器ならば、妨害電波ジャミングに弱いと考えられた。


「あっ! 効いてるみたいだよハルさん!」

「おっ、マジじゃーん。高度落ちてきた」

「カオスお前イルカにあわねー!」

「お前も言うほど似合ってねー!」


 相変わらずやかましいが、巨大兵器を前にしても何時もの調子の彼らが頼もしい。まあ、様々なゲームをしていれば、この程度の巨大兵器、見慣れてしまうのだ。


「着水します! このまま一番槍、切り込みますっ!」


 イルカの大群からジャミングを受け、浮力を失ってきたその巨体を目掛けてソフィーが『マグロ・リッパー』で切りつける。

 だが、最高峰の装備であるその刀も装甲を抜く事は適わずに、微量のダメージ表示だけを出して弾かれてしまった。


「か、硬いですー!」


 やはり、近接攻撃だけで解体するのは無理があるようだ。これが復帰する前に、何とか破壊し尽くしてしまわねばならなかった。

※誤字修正を行いました。「関心」→「感心」、「平気」→「兵器」。

 同音のものは結構やらかしてしまいます。見つけても笑って許してくださいね。


 追加の修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。(2025/4/19)

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