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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
第6章 マリンブルー編

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第189話 自らが魚群の一部となるのだ

 ぽてとから渡されたカジキを武器へと加工し、ハルはユキ達が戦う前線拠点へ向かう。

 ほんの少し、そのスピードを移動に役立てようかとも思ったが、そこはロマンの範疇になるだろう。そこまでしてトップスピードを求める必要はない。


 それよりも、武器の威力の方が重要だ。カジキの頭に付いている角のようなトゲ、ふんという部分から作られた刀は、現行の武器全てを引き離す非常に高い攻撃力を誇った。

 武器無しでも、敵の魚を倒せない事もないのだが、やはりどうしても時間が掛かる。ぺしぺしと、小ダメージを重ねながら格上の存在を完封する試合も、玄人くろうと受けはするだろうが、見栄えの面では劣るだろう。

 何より、時間との戦いである。そうそう悠長な事はしていられない。


「じゃあルナ、留守は任せた」

「任せなさい? まあ、何をする訳でも無いのだけれど」

「構わないよ。“その僕”が、猫に食べられちゃわないように見張っててくれれば」

「ふふっ」

「笑わないで?」


 出陣するハルの代わりに玉座へと鎮座するのは、ハルの操作するシャケであった。

 打ち上げられた魚のように、成すすべなく横たわるのみだ。だが、特に何か行動をする必要は無い。コンソールである玉座に、触れているだけで構わなかった。

 ハルのコントロールするシャケは、ハルであるという判定も持っているらしく、本拠地の強化操作をする程度ならこなせるようだった。


「ところで、何故シャケなの? 少し、大きくないかしら?」

「いや、“最初のシャケ”がまだ残ってたものだから、つい……」


 玉座に、シャケ。見た目の威圧感が、凄い事になっている。ルナには、このシャケが破壊されないように見ていてもらう必要がある。

 まあ、このシャケ、喋れるので、自分で説明し対応しても良いのだが。


 そうしてその場をルナに任せ、ハルは作り溜めておいたマグロの群れを城の前の水路へ呼び寄せる。十匹以上集まったそのスタックは、大抵の相手を容易く粉砕するだろう。

 ハルはそのスタックの行き先を前線基地へと操作すると、おもむろにその群れの中へと飛び込むのだった。





 マグロの群れの作り出す渦、その奔流ほんりゅうに乗り、ハルは高速で現地へと到達する。

 まるで群れの一匹になったかのように、マグロの生む水流を上手く利用しながら、まるで魚雷が水面に飛び出したかのような速度で地上の施設へと降り立った。


「なるほど、便利だねこれは」

「うわ、びくった! どっから来てるのさハル君!」

「マグロの流れと同化すれば、イルカ以上の超高速移動が可能」

「相変わらず意味不明なこと言い出すなハルは……」


 最前線にあるこの施設は戦闘用のもので、防波堤のようになったシールドの裏に、砦のような詰め所がある。

 その見張り台に、ユキやカオス、デルタなどの面々が揃っていた。敵襲に備えていたようだ。

 砦の中にはHPが回復するベッドや、回復薬の製造機、ちょっとした砲台の操作盤などがある。地下にはやはり水槽が存在するようで、魚の回復も、本拠地に戻さずにここで出来るようになっていた。


「つまり、ここから出られるね。カタパルトだ」

「戦闘ロボかお前は!」

「すごいなぁ……、私も出来るかな?」

「ソフィーちゃん。ハル君の行動はたまに、人類の限界を超えてるコトがある。バケモンの真似しようとすると泣きを見る、ぜ?」

「酷い言い草だ」


 確かにハルは脳が少し特殊な構造をしているが、肉体的な作りは人類の平均値と特に変わらない。人外の出力を発揮するサイボーグ、という訳でもない。

 ハルがする肉体的な動きは、理論上は大抵の人間に再現可能だ。無論、その動きの最適化にはハルの脳がフル活用されているため、その理論値を並大抵では達成できないのは確かなのだが。


「いやそもそも、ハルの真似をしようなんて考えるユキちゃんも、その時点で大概バケモンじみてると思うぞ?」

「酷い言いぐさだ……」

「とりあえず、マグロ走法は案外簡単だから、これ使って全員で強襲するよ」

「嘘だろハル!?」


 上手く流れの渦に乗れなくても、問題は無い。今の体はゲームのキャラクター。流れに翻弄され、きりもみになるだけだったとしても、溺死の心配は無い。

 マグロの群れはハルの操作なので、万一振り落とされても安心だ。

 そういった事を丁寧に説明すると、皆ひきつった笑顔で快く了承してくれた。


「確かに、俺らが居なくなっても防衛は安泰か。敵が来ても、最近は全部魚がやっちまって出番無いもんな」

「でもよぉ、何処行くんだ? お前が最初、あそこで緑見逃したって事は、本拠地を制圧する気は無いんだろ?」

「鋭いね」

「おうよ、伊達に長年やってないぜぇ」

「ちょっと羨ましいですね!」

「ソフィーちゃんも加わるかーい? あ、止めて、ユキちゃん止めて! ナンパじゃないです!」


 何だか楽しそうにしているが、それを無視スルーしてハルはチャットウィンドウを皆に見えるように拡大する。

 戦略に関わる事は、詳細に口に出せない。少し回りくどいが、リアルタイムで書き込みつつ、これを見せる事で戦略指示とする。


『黄色の仮面◆』 ※偽装看破! ポイント500をゲット!

 :ユキ、赤方面から大規模スタックが来てる

  そっちの援護よろしく

『黄色の仮面』 ※あなたによる書き込みです

 :ハル君はそんなこと言わない

『赤色の仮面』

 :どこで判断してるんですかねぇ……

  愛か? 愛なのか?

『緑色の仮面』

 :気心の知れた個人間にだけ伝わる物

  というのはどの暗号よりもやっかいなセキュリティですね

『橙色の仮面』

 :しかも偽装を見破られるとポイント取られるんだよな

  どういう称号の効果なんだか

『藍色の仮面』

 :それ先に教えてくれよぉ!

『青色の仮面』

 :おかげで指揮はとてもやりやすくなりました

  うちの偽装も、摘発してくださるので

『藍色の仮面』 ※あなたによる偽装書き込み

 :なーなー、そろそろ何でポイント使っちゃいけないか教えてくんない?

  自分は偽装にポイント使ってしかも失敗とか萎えるんだけど

『藍色の仮面』

 :そうそう。対黄色の前線はマグロに押されまくってて

  しかもポイント使えないとか、正直放棄したいんだけど?

『藍色の仮面』

 :対青の方もそうだよ。フラストレーション溜まってる

『藍色の仮面』

 :すみません! もう少しだけ持ちこたえてくだいさい!

  絶対に損はさせませんから!

『藍色の仮面』

 :だから説明をだな……

  控え室ですら教えてくれないとか、幹部以外の不満すごいぞ?

『青色の仮面』

 :藍色チームはどうやら何か見つけたらしいな?

『橙色の仮面』

 :ここは俺らも藍を攻めて、吐かせてみるか?

『黄色の仮面』 ※あなたによる書き込みです

 :ユキ、阻止しに行くよ

『黄色の仮面』 ※あなたによる書き込みです

 :あいさー!

『橙色の仮面』

 :あっ、どうぞどうぞ……

『青色の仮面』

 :お任せしまーす


「……と、いう訳だ」

「おけー、つまりそこに行くんだな?」

「その情報をかっさらいに行くのか?」

「いや、情報についてはもう知ってる」

「なるほどなるほど、てコトはつまり」

「ぶっ壊しに行くってコトですね!」


 ハルのやり方に慣れたもの達ばかりだ、詳細を語らずとも通じてくれて非常に助かる。


 戦艦の建造について発見したであろう藍チームは、どうやら未契約フリーのプレイヤーのポイント利用を禁止に設定して、建造費用を貯めているらしい。

 そのせいで拠点の修繕が追いつかず、士気はダダ下がりになっているようだ。

 背に腹は変えられないのだろう。ハルも、駒となる対象が人間ではなくゲームのユニットなら同じようにする。


「でも生きた人間だと、見捨てられてるって不満は出るよな?」

「この程度の逆境で泣き言とは、情けないですな!」

「ですな! じゃないっての。じゃあカオスがやられたらどうするよ?」

「キレて指揮権を乗っ取る」

「泣き言どころじゃ済んで無い件」


 何か色々と言われているが、まあ、つまりはそういう事だ。プレイヤーはゲームの駒のように単純なパラメータ設定で動いてはいない。

 駒ならば、死ぬまで酷使しても不平ひとつ漏らさないが、人間はそうもいかない。特に、彼らは元々、上下関係なく同じ立場だった人間だ。


「確実に士気の低下は動きに影響が出るから、そこを一気に突くよ」

「撫で斬りだね! 歯ごたえが無さそうだけど、仕方ないよね!」

「戦略ゲームだからねぇソフィーちゃん。仕方ないね」

「戦闘狂の子たちは、士気の影響が無い魚を相手にしてるといいよ……」


 出来るだけ相手のパフォーマンスを落として戦うのが常だ。真っ向勝負はまたの機会と我慢してもらおう。


 そうしてハル達は藍チームへと狙いを定め、マグロの待機する水槽へと入って行くと、そこからカタパルトのように高速で射出されて行くのであった。





「今、海から何か……、出てき……! 敵襲だ!」

「ハルじゃねーか!」


 マグロ潮流の勢いをそのまま利用したハルは、敵陣の防波堤を飛び越え、海中から大ジャンプでの強襲を決めた。

 ユキやソフィーも真似しようとしたようだが、まだ慣れが足りなずに敵の魚が陣を組む海中へと投げ出されてしまっていた。

 だが彼女らなら大丈夫だろう。丁度良かったとも言える。ハルよりも一足早く、海中で魚相手に攻防を開始しているようだ。


 ハルの方も、施設を守るプレイヤー相手に攻勢を開始する。こちらは攻防、と呼ぶ程の事さえ起こらない。

 ハルが刀を振るうと、それだけで彼らは消滅して行く。一振一殺、では済まない。一振りのうちに二人、三人と、わらを飛ばすが如く抵抗無く切り裂くのだった。


「いい刀だ」


 ハルの技量が優れているということも、当然あるだろう。しかし、この一方的殺戮ワンサイドゲームの大半は、カジキの棘から作られた刀、『流閃刀・船通し』の威力によるものだ。

 後期型の魚を相手取る事を想定して作られたそれは、能力値の上がらないプレイヤー相手には過剰すぎた。やいばが触れる端から、輝く粒子となって抵抗が消失する。


 海中の対処はユキたちに任せ、ハルは施設の破壊へと移って行く。

 この試合のルールでは、敵の施設を征圧して乗っ取り、再利用! という事は出来ないので、敵施設は全て破壊するしかない。

 その施設の防御も、カジキ刀の前には紙同然の薄さであった。


「うお。もう終わってるし……、その刀の威力えげつないねー」

「プレイヤーが強化されない代わりに、武器はかなり強くなるみたいだね! 私の『マグロ・リッパー』も凄い切れ味だった!」

「……私のガントレットも強いんだけど、名前もうちょっと何とかならない? 『マグロの叩き』って。……そりゃ、叩くケドさ」


 彼女たちも、ハルが持参した装備に更新し、攻撃力が強化されている。防衛の魚部隊は、ハルが施設を解体している間に壊滅できたようだ。


 ユキは彼女の戦闘スタイルに合わせた拳武器。名前はともかく、現状最強の兵器であるマグロを素材に作られたその威力は折り紙つきだ。

 ソフィーのものは、ハル同様に彼女の好きな刀。いや、何となく、包丁にも見える。マグロを解体する際の巨大包丁。リッパーされるのは、マグロ自身なのか。


「キミら強すぎじゃん? 俺ら、いらんくね?」

「そうだな、出番ほぼ無かった」

「大丈夫大丈夫、肉壁やデコイとして立派に役目が残ってるとも……」

「救いは無いんですか!?」


 カオスを始めとした愉快な仲間たちも、口ではそう言いつつそれなりに活躍している。マグロ運送に慣れてくれば、一端の暴れが期待できるだろう。


「基地建てっか?」

「いや、維持出来ないんじゃないか?」

「ハルさん、どうしよっか!」

「今はどんどん行こう。地盤固めしてる時間が惜しい」

了解りょー


 周囲の安全を確保し、ここに新たな基地を建てても、得られる物は少ない。資源採取の出来る地点でもない。

 やるとしてもそれは本拠地に居るプレイヤーに任せ、ハル達は一路、藍チームの本拠地へと舵を取る。戦艦の建造はそこだろう。


 再びマグロの波に乗り込むと、援軍として新たに寄ってきたフグの群れを強引に吹き飛ばして次へと進む。

 最短経路は、衛星代わりの本体の<神眼>により把握済みだ。途中の採掘施設を片手間に破壊しつつ次の防衛拠点へと向かうと、最初と同じように、制圧、破壊して回る。

 敵プレイヤーの士気の低さは、肌で感じられるようだった。マグロの群れに紛れて強襲をかけて来る連中を見れば無理も無いとも思うが、それ以上に指揮官権限を持つプレイヤーへの不満が大きいようだ。


 だが容赦はしない。必ず全滅させる。

 倒せばポイントが得られる、残すと施設を再建される、ということもあるが、最も大きな理由は称号だ。

 対人戦で勝利した証の称号も存在し、先ほど<決闘者>が手に入った。称号には上位の物が存在し、更に数を重ねてそれも手に入れたい。

 本拠地に、新たな施設が追加可能になるはずだ。既に魚とのバトルが行える『訓練所』が解禁され、シャケハルにより作成されている。


「しかし、参ったね、どうも。間に合わないかも知れない」

「……敵さん、作り始めちゃった?」

「お察しの通り」


 『戦艦』の存在を知るユキが状況を察する。

 ハルの<神眼>が、本拠地付近に浮かぶ球状のエネルギーを捉えていた。どうやらそれが、戦艦らしい。

 完成には時間がかかるようだが、ハル達が藍の本拠地へたどり着くにも、また時間が掛かる。

 これは、完成の目を見てしまうのも覚悟しなければならないようだった。

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[一言] 王座にシャケ.. キングサーモン
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