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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
第6章 マリンブルー編

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第185話 魚心あれば水侵兵器

 各チームの配置は以下のようになっています。◇は、初期状態では空白地帯となります。


◇藍◇黄◇赤◇

青◇橙◇緑◇紫

 ハルの操る魚型攻撃兵器『TYPE:サンマ』の群れが、南東方向にある緑チームの突出した資源採掘施設に襲い掛かる。

 この試合、前三回のように、最初から国境線がきっちり隙間無く引かれている訳ではない。チームの領土と領土の間には、緩衝地帯かんしょうちたいとなるフリーの空間が広がっている。

 そのフリーの空間にも、当然、資源は眠っており、隙あらばどのチームもそれを狙ってくる。


 そうして、そこに施設を建設する行為こそが、今回の試合における『侵食』に他ならない。

 しかし、だからといって闇雲に施設を作り続ければ良いとは限らず、しっかりとした戦略が必要だ。


「こんなに突出しちゃ良い的だ、補給もままならないし」

「それにしては、攻めあぐねているわね?」

「大丈夫だよ」

「そう? ならば良いけれど?」


 本拠地の操作を秘書のように補佐してくれているルナと語らう。操作は目まぐるしく行われているが、全て思考による入力なので、傍目には優雅に会話しているだけだ。

 ……ルナが居てくれて良かったかもしれない。これで一人なら、傍目にはただハルがボーっとしているだけのようにしか映らない。


 さて、実はその緑チームの採掘施設を破壊するのは簡単だ。

 今は、破壊する一歩手前までは行くけれど、そこでこちらのサンマ達も力尽きる、という事を繰り返している。一見、戦力を分散投入する悪手でしかない。

 こちらが次の戦力を投入する前に、敵も修理と防衛兵器の設置を終え、プレイヤーも多くがそこに集結してきている。それが狙いだ。

 こちらの、黄色チームの行っている事は、ただ攻撃用の魚を逐次投入しているだけ。

 そう聞くと悪いことのように聞こえるが、逆に言えば、それ以外のリソースを使っていない。対する相手はかなりのリソースと手数を使用する、費用対効果の高い作戦になっていた。


「今のところ、緑以外のチームとは接触してない。これを抑えるだけで、僕らは自由に動けてる」

「策士ね?」

「まあね」


 最初の位置バラし、これによって、多くのチームの行動を誘導出来た。

 どの色が隣に居るか見えていない初期状態では、行動の指標があれば、自然とそれに引かれてしまうものだ。『もし黄色が隣だったら、楽して攻め込める!』、と思い、北西に進路を取る部隊が多くなる。

 逆に、そうした流れも勿論のこと計算に入れられる。北西に向かう部隊が多くなるということは、自分のチームが南東から攻められる可能性も上がるということだ。

 よって、南東の防御を固める。そして実際に、北西攻めと衝突している。

 ジグザグに国が配置されている地図の関係上、北西を攻める側と南東を守る側でペアが出来上がり、そのペア同士で戦争が行われる。黄色を袋叩きにする余力は無くなる訳だ。


 最も西に配置された青チームだけは、ペアとなるチームが存在せず自由になるが、これもハルの予定通り。

 青の指揮の多くを取り仕切っているシルフィードは何だかんだハルに甘く、青チームとの総力戦は起こり難い。


 そして、もし制圧しきれずに青チームが残ってしまったとしても、セレステは既にカナリーの陣営。報酬の魔力が分配されても、それもカナリーの利となる。

 その意味では赤チームも同じだが、赤は少し操り難く、位置的に制圧しなければならないかも知れない。


「……もう手っ取り早く全部の神にケンカ売って支配下に置こうかな。そうすれば、対抗戦の度に苦労しなくてもいいかも」

「どの道、あなたは勝負事となれば勝たないと気が済まない人ではなくって? そうなっても、同じ気がするのだけれど」

「仰るとおりで……」

「まあ、そうね……、その場合は、参加しないという手が使えるものね?」

「そうだね。アイリとみんなで、のんびりと観戦するのも悪くない」


 そもそも、全ての神が同じ陣営になれば、勝敗を競う必要も無くなるのではなかろうか。

 そうすれば、対抗戦のような形式にこだわらずとも、もっと平和なイベントにしても良いのかも知れない。

 しかし、今はそんなことを言っていても仕方ない。ハルは目の前の勝利に向けて、一手ずつ確実に駒を進めて行くのだった。





「ハルさん! シャケ出来たよ! シャケ!」


 地下の水族館の管理をしていた女の子の一人、大胆なビキニの子がハルの居る玉座の間へと駆けてくる。

 城の中で水着である事に、その快活さの中にも恥じらいが見え隠れしている彼女だ。

 ……ハルの方も、管理者用の操作オブジェクトである玉座に水着で座っている。恥ずかしいというよりは、これは大概マヌケであった。しかし割り切る。

 このイベントは水着になってプレイすると、生み出されるポイントにボーナスが付く。黄色チーム唯一の管理者であるハルが、この効率を無視する訳にはいかなかった。


「……他のゲームでは、水着の強キャラは戦場から魔界、果ては雪山まで水着なんだ。我慢しなきゃね」

「あーねー、あるあるー。ハルさんもそういうゲームやるんだねー」

「結構なんでもやるわよ? この人は」

「ルナさんも?」

「たまに、付き合ってやる事はあるわ」

「おー、恋人っぽい……」


 彼女に連れられ、シャケを見に行く。当然ながら、魚型兵器の事だ。施設のレベルアップや、魚の生産数によって、徐々にグレードアップして行く。

 シャケはその大きさから鑑みるに、恐らくは後期型。サンマが主力兵器である今、かなりのオーバースペックだろう。


「『大国4』やってるんだあたし! 今は水着キャラ排出してるよ」

「夏だもんね。どこもそうなるよね」

「どこもとは言い切れないわ? 夏の目玉として、極地用防護スーツを出した所もあったわね?」

「『禍禍』じゃん! ルナさんマニアック~」

「夏だから降り注ぐ死の日差しに備えるんだよね。着ないと焼け死ぬ」

「ハルさん、何か今はやってるの?」

「今はこれだけ。他に手を出す余裕とかなくてね」

「そっかー残念。同じのやってたらフレになろうと思ったのにー」


 喋りながら、地下へと到着する。少し見ない間に、水槽の中は色とりどりの魚型魔法生物、『お魚さん』が大量に泳ぎ回っていた。

 その中で一際目を引くのが、『TYPE:シャケ』。青白い体の表面に、黄色い紋章のような光のラインがうっすらと浮かび上がっては消えている。

 HP200、攻撃力40の『TYPE:サンマ』と比較すれば、HP1500、攻撃力200とその差は歴然だった。


「ほら、ハルさん、シャケ!」

「なるほど、これは頼りになりそうだね」

「でもこれ一匹しか作れないんだー」

「たくさんお魚を作った、ボーナスとして生まれたみたい、です」

「みーちゃんナンパ? 奥さんの前で誘うとかやっるー」

「誘ってないし!」

「別ゲーのフレ誘ってた。聞いてたぞ?」

「側室希望の方かしら?」

「うわ! 公認だ!」


 彼女たちはかしましくおしゃべりを楽しみ始めたので、ハルはシャケについて少し考える。

 ボーナス的に生まれた固体であり、正規の手段で作り出せるのは大分後になるだろう。大事に使わなくてはならない。

 大事にする、といってもこの生けの中で大切に飼っておくのは良くない。本拠地の備えにはなるが、機会損失の方が大きい。

 大事に取っておいても、そのうち当たり前にシャケが生み出されるだろう。そうなっては型落ちだ。無双出来る時に働かせて、華々しく散った方が有意義である。


 ハルはシャケを手元に呼び出し、メニューを確認する。サンマの時もあった物だが、マニュアル操作が出来るようだ。

 『お魚さん』の操作にはいくつか種類がある。攻撃地点、防衛地点を指定するだけの、基本のオート操作。複数の魚を群れとして纏めて操作する魚群スタック操作。これは内蔵されたプログラムに従い、オートで攻撃行動をする。

 そして、マニュアル操作。これは魚を自身の体として、キャラクターのように操作出来る。自らが、お魚さんとなるのだ。


「このシャケ、貰っていいかな?」

「はい! どうぞどうぞ。何でも自由にお使いください……」

「…………」


 ルナが『何でも自由に』の部分に反応しそうになったのが見えたが、突っ込まないでおく。その鉄面皮てつめんぴの微妙すぎる変化に気づけたのは、ハルだけだろう。


「僕にマニュアルでの操作権を渡した事を後悔させてやろう」

「おお、なんか知らんがカッコイイ!」

「ハルシャケね?」

「なんか知らんが美味しそう!」


 ハルはシャケに意識の一部を移すと、生け簀から悠々と泳ぎ出て、敵地へと出撃するのだった。





 シャケの口からはビームが出る。何を言っているんだ、といった感じだが、出る物は仕方ない。

 現状、このビームがとにかく優秀だ。威力はもちろん、射程がズルい。例えるなら、射程1、移動力2のユニットを、射程6の魔法で狙い撃ちにしている状態だ。まず傷つかない。

 そんな、適当に配置していても強いシャケを、今はハルが操作しているのだ、その脅威は推して知るべしである。


『緑色の仮面』 ※あなたによる偽装した書き込み

 :シャケだー!! 救援! 救援求む!

『緑色の仮面』

 :強すぎる。口からビーム出てる

『赤色の仮面』

 :なんぞそれ……、緑とやってるって事は、黄色かー

『橙色の仮面』

 :躊躇いなくボーナスユニットを投入するとは、流石ハルさんですね

『紫色の仮面』

 :黄色-緑 赤-紫 藍-橙 左側が北側

『橙色の仮面』

 :余った青が西の端か。世界地図が見えてきたな

『緑色の仮面』

 :提案なのですが、今黄色と戦端が開いている資源ポイント

  一旦放棄しませんか? 黄色もここを占領はしないでしょう

『黄色の仮面』 ※あなたの書き込み

 :するかもよ?

『緑色の仮面』

 :……ハルさんですね? 騙されませんよ

  ハルさんなら、飛び地にせず堅実な手を取るはずです

『黄色の仮面』 ※あなたの書き込み

 :よくお分かりで。そっちはひどぅんだね

『緑色の仮面』 ※あなたによる偽装した書き込み

 :でもさ! せっかく作ったのに!

  それに維持できる時間が長ければ、資源も得なはず!

『緑色の仮面』

 :そうそう。せめて最後まで抵抗したい!

『赤色の仮面』

 :反面教師だにゃー

『青色の仮面』

 :私達は、近くから堅実に埋めて行きましょう

『緑色の仮面』

 :せめてこのシャケだけは、絶対に落としたい!



 ハルの操作するシャケが、緑の突出した資源採掘場にたどり着き、射程外からの無慈悲な砲撃を加えてゆく。

 防衛用の魚、量産が売りの『TYPE:イワシ』が次々と撃沈され、趨勢すうせいは一気に緑が不利となって行った。


 シャケの実装により、ハルはこの機を収穫の時と判断した。もうサンマは一切投入することなく、シャケ一匹で緑チームのリソースを削りきる。

 そのため、やろうと思えば破壊し尽くしてしまえる採掘施設も、すんでの所で持ちこたえさせていた。是非に、修理にエネルギーやポイントを消費して欲しい。

 特にポイントを消費させる為に、エネルギーによる修理では追いつかないレベルの攻撃を継続的に撃ち込んでいる。ポイントを消費しての修理は、即時耐久度の回復が可能だ。


 これにより、採掘場は既に生産するエネルギーよりも、修理に消費する方が上回っている。この状態では維持すればするほど損である。

 収支計算のようなものは表示されないので、何としても守りきろうという感情で戦力が送られて来るが、全てハルの思う壷であった。


 中にはそれに気づき、放棄すべきという冷静な意見も出るが、全体がそれに感化される前に、ハルが緑に成りすまして反抗心の呼び水となった。サクラ、というやつだ。

 熱狂の渦の中、正論は通りにくい。全体を見る意見よりも、目の前の行いを肯定する意見に寄ってしまうものだ。


「それに、今までは僕の攻撃を防ぎきってたって自負もあるしね。……ってこのシャケ喋れるのか!」


 謎過ぎる。なんだこの機能は。まあ、ユキに指示を飛ばすのも楽になるだろう。便利なので使わせてもらう。


《シャケの攻撃を凌ぎさえすれば、後は今まで通りのサンマだと思っているのですね?》


──その状態でも、得はほとんど無いんだけどね。まあ、そろそろ施設がアップグレードされても良い頃だ。そうなると天秤は傾くから、やっぱり叩くなら今だね。


《逆にアプグレを待って、完成した瞬間に破壊すれば一番お得ではないでしょうか?》


──アイリも本当にゲーム慣れしてきたねー。


 当然、叶うならそれが最も有効な手だが、そうすると待っているうちに、今度はこちらが破壊されかねない。

 今回は敵が大量の魚を投入してきたタイミングに合わせ、苦戦の末に施設は破壊する。

 実は、傷一つ負うこと無く圧勝も出来るのだが、それを見せてしまうと流石に兵を引かれてしまう。『もう少しで勝てるかも!』、と思わせるのがキモである。


 そうしてシャケはボロボロになりつつも、決死の勢いで放ったビーム砲が採掘施設を直撃。緑チームの勢力図を後退させる事に成功するのだった。


『緑色の仮面』

 :シャケつえええ……

『緑色の仮面』 ※あなたによる偽装した書き込み

 :くそっ! でもまだこれだけ戦力残ってるんだ!

  ヤシの木まで逆侵攻しよう!

『緑色の仮面』

 :そうだな! シャケはもう居ない!


 なお、残った戦力もしっかり消費させるよう誘導するのも忘れない。

 こちらの採掘場には、まだユキと愉快な仲間たちが控えているのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] まるでエースオブシーフードだぁ... この世界では多くの生物が射撃能力を持つ わかる >わからない
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