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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
4部3章 スイレン編

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第1788話 空を跳びまわる巨大な肉体!

「ねこビームが!」


 裏世界に繋がる扉から放たれた全周包囲の回避困難なビーム砲。敵の巨体はそれを一瞬で回避し光線はただ自国の土地を焼き吹き飛ばす。

 完全に裏目の自爆となってしまったハルたちの攻撃だが、本来あの超大型スラグが回避できる攻撃ではなかった。


 地面のある下方以外、全ての方向に扉が開き直線的な回避行動は不可能なはず。かといって地面にも、掘って逃げたような跡などない。そもそもそんな時間もない。


「ハル君あっち! 街の方!」

「分かってる!」


 そんな忽然こつぜんと姿を消した巨体がいま何処に居るのかといえば、ハルたちも大樹も飛び越えて、既に市街地の上空へと出現していた。


「まずっ……!」


 咄嗟とっさに攻撃用、更に防御用の魔法を続けざまにハルは発動する。攻撃も敵の身を狙うためのものではない。敵から放たれた攻撃と相殺そうさいするためだ。


 民家へ向けて無数にばら撒かれた攻撃は全て、例の幾何学きかがくスラグの核融合弾。

 超小規模とはいえ一撃一撃が必殺の威力をもったそれを、ハルは必死に打ち消してゆく。


「この、調子に、」

「乗るなー! だよねっ!」

「おー! そうだそうだー。やるかー!?」


 ハルに続くように、いやほとんどハルと同時に、瞬時の直感によりソフィーもまた動いていた。

 確認なしに放たれた<次元斬撃>超烈断裂エクストリーム余波よはが街全体をビリビリと揺るがすが、今はその思いきりの良さが頼もしい。


 日除傘シェードのように民家上空を覆った斬撃の軌跡は降り注ぐ敵弾をシャットアウト。その被害から街を守っていた。


「ふーんだ! 私たちの国に直接乗り込んで来るとは命知らずの奴だ! ここらはぜんぶ、私とねこの縄張りだもんねーっ!」

「《ぶみゃぶみゃお!》」

「いくぞでかいねこ! いま必殺の、ねこビーム! 超、乱射!」

「《ぶっみゃー!!》」


 裏世界に繋がる扉も、街の上空に次々開く。

 今度は下から上へ、まるでそれぞれの家の屋根からゲートが開くように、数え切れない扉が現れ光線が発射されていった。


 これならば自国の土地を傷つけることはなく、また今度は乱射攻撃なので全てを一度に回避される事もない。


 敵はまた<転移>のような瞬間移動を繰り返し回避を試みるが、乱発されるねこビームを全て避けきれないと分かると、一度街から離れる。

 かつて牛型スラグとの戦場になった荒れ地の上空に退避すると、超大型スラグはそこで様子を見ているようだ。


「ふん! ねこビームの前に怖れをなしたか! ばかめー!」

「厄介な力だけど、知能はそんなに高くないようだ」

「そだね。あの威力なら体で受けきってゴリ押しした方が、こっちに与える損害はデカい。非効率だわね」

「もーっ! ハルお兄さんもユキお姉さんも、ねこと私のねこビームが弱いみたいに言わないの!」


 申し訳ない。だが申し訳ないが正直なところ、ねこビームでは致命的なダメージを与えられはしないようだ。

 特に乱射では空振りの無駄弾むだだまが多く、命中はしても敵の損害は微々たるもの。


「こちらの存在よりノーダメージを優先してるんでしょうかー?」

「そうかも知れないわ? 焦らなくても、増殖しながらじっくり攻めていけばいずれは倒せるもの」

「むむむむ! なんだかボス敵に挑む、プレイヤーのようなのです!」

「実際プレイヤーだしね! このゲームの!」


 さしずめハルは撃破すべき難敵か。既に倒すだけではなく、その倒し方までこだわり始めたのだろうか。

 スコアアタックか画面映えか、それとも実績狙いか。


「舐められたものだ、僕らも。しかし実際、いきなりまあ厄介になられたのも確か」


 街の一区画をまるごとを覆い隠す影を落とすほどの巨体。それが予備動作もなく本当に『瞬間』移動する。しかも何度も。

 その厄介さは今さら語るまでもなく、攻撃するにせよ防御するにせよ、対処に神経をすり減らす。


「あれってウチらの使ってる<転移>?」

「いいや。まるで別物だね」

「ですねー。<転移>は魔法スキルでしてー、そもそも彼らには使えないはずですよー」

「今閃いたとか!」

「それもないですよー、ソフィーさんー。魔力消費の形跡もなければ、周辺の魔力に乱れもありませんー」

「そもそも、このゲームフィールドの魔力は今もアレキが管理してる。彼らの自由には使えないはずだ」


 魔法による<転移>は、その本人の支配する“色”の魔力がターゲットでなければならない。あるいはその所持者に許可されているか。

 なので<転移>といえど何処でも自由に行える訳ではなく、あらかじめその場に訪れ、前もって『ワープゲート』を設置しておく必要があるのだ。


 当然この超大型スラグはそんな準備をしておらず、そもそも<転移>を使えない。使える者が一人でも居たなら、のんびりゆっくり歩いてなど来なかった。


「そう。あれは、<転移>じゃあない。彼らの内に眠る、超能力の発露はつろさ。テレポーテーションって奴かな」

「なに呑気に解説を始めてるんだスイレン……」

「……ハル。気持ちは分かるけれど、ここは黙って聞きましょう」


 完全に臨戦状態のハルたちの斜め上空で、一人だけ余裕の態度と表情でふわふわと宙に浮く神、スイレン。今はその端正たんせいな顔立ちすら腹立たしい。


 ハルたちに白い目で見られる事にも構うことなく、超越者の立場でのんびりと解説を始めてくれた。

 実際有用なので、我慢して聞くハルである。


「キミたちも、アレに憶えがあるだろう。ボクらが彼らを、この地へといざなった際の空間転移。今回のものも、それと同一の力なんだよ」

「んー、なんだっけ!」

「ソフィーちゃん、それはあれだ。あいつらヴァーミリオンの北の果てに集合してさ、そこで『パッ!』と消えちゃったんよ」

「あー! そうだった!」


 集合した彼らに、空から降り注いだ特定のパターンをもった干渉。初撃はバリアで防いだが、二回目のそれは恐らくダークマターを用いたものであり対応が不可能だった。


 どうやらある程度のプレイヤー人数が集まった状態で特定のパターンを持った信号をぶつけることで、強制的に強力なスキルを引き出す技術をここの運営たちは手に入れているらしかった。


「……今回もまた、多くのプレイヤーさんが一か所に集まっています。えっとその、一応、一か所に?」

「一か所というよりは一つになっちゃってるねアイリお姉ちゃん!」

「つまり当時と、状況は同じってことですかー。ヒントはあったんだから、予想しとけとでも言いたいんですかぁー?」

「落ち着きなさいなカナリー。誰も言っていないわよ……」


 確かに、条件は揃っているのだから出来てもおかしくない。特に今は、全員がエリクシルネットに深く接続しその処理能力を借りられている状態だ。


 その特定のパターンを自ら発する事により、巨大なその身を自由に空間転移できる恐るべき化け物が誕生してしまったということだろう。


「なんて厄介な技術生み出してくれちゃってるの!?」

「苦情はセフィくんまで頼むよ」

「あいつかよ! まあ納得ではあるけど! 連絡つかないから代わりにお前を殴るか!」

捕虜虐待ほりょぎゃくたいはよくないよ?」

「落ち着けハル君。後で殴ろう」

「……確かに、今はそんな事をしている暇はない」

「後でも止めて欲しいね」


 煽るようにハルたちの周囲で浮き続けるスイレンを努めて無視し、ハルたちは遠方へと退避した敵に集中する。


 いや、退避していたはずが、気付けばまた一瞬で街を攻撃しに接近して来ている。

 離れた隙に体勢を立て直すという基本の戦術すら意味をなさないこの戦い、まさに息つく暇もない。


「そして当然、その力は空間転移だけではない」


 スイレンの言葉に導かれるようにして、超大型スラグはその新たな能力をハルたちの街に向けて発動したのであった。





「サイコキネシスか!」


 接近して来たスラグに向けて、ハルたちの大樹も枝を伸ばす。しかしその枝は敵の巨体に触れる前に、まるで空間ごとじ曲げられるようにしてあらぬ方向に曲がり、折れる。


 この異常な強度を誇る大樹の枝を、まるでその辺の小枝でも折るように容易たやすくへし折っていく敵スラグ。

 もちろんかつての個々の能力も健在で、市街地へ向けて多種多様な攻撃が追加で降り注いで行っていた。


「……まずい。あの歪曲わいきょく能力が、直接民家に撃ち込まれたら」

「中に避難している人は、ひとたまりもないのです!」

「かといって、今から家を出て逃げるのも不味いわよ……?」

「うんうん! そしたら今度はふつーの攻撃をマトモに受けちゃう!」


 ならばこの異常にハイレベルな<念動>を撃たせないようにしないといけないのだが、それもまた難しい。

 好き勝手にテレポートを繰り返すこの敵の、特定の攻撃を封じ続けるのは至難のわざだった。


「誰だ、こんな広くて守りにくい街を作ったのは!」

「あなたでしょうに……」

「ハルさんが、混乱しているのです!」


 分かり切っているが言いたくもなるハルであった。今はこの街の大きさがうらめしい。


 ハル側もまたアレキの魔力を押しのけ強引に魔力をまき散らし、こちらも<転移>を繰り返す事で神出鬼没しんしゅつきぼつの敵に対抗する。

 幸い、敵の体は大きすぎる。ある程度何処に出現するかといった予測は、立てやすく対応はしやすい方だった。


「とはいえ相手の手数が多すぎる! いつ押し切られてもおかしくないねこれは……!」

「物理的な攻撃なら猫王国に吸いこめるけど、念力はむりだぁー」

「……無理に攻撃を逸らさなくていいよヨイヤミちゃん。猫王国にだって、被害は出るでしょ」


 裏世界に続くゲートを攻撃の射線上に開く事により、街を狙った爆撃を防ぐことも出来るヨイヤミの能力。

 しかしそれは攻撃の吸収でも無効化でもなく、全く同じ位置の猫王国が同じ被害を受ける事を意味していた。


「せっかく、頑張って飾り付けしたんだ。素敵なハロウィンの街が壊れちゃうよ?」

「んーん! いいの、お兄さん! それを怖がって、私だけしまい込んではいられないよ! それに、壊れたらまた作り直せばいいもんねー! だって、次はすぐにクリスマスの時期だもん! 所詮、ハロウィンイベなんてクリスマスと信念の前座だって、ユキお姉さんも言ってた!」

「事実じゃ」

「ここで本気出しても売り上げ出ませんしねー?」

「なにを言っているのよあなたたちは……」

「べ、勉強になるのです……!」


 本来のイベントの意義を重要視している人から怒られそうだ。ただ悲しいかな、これがゲーマーの認識。


 そんな自らの王国の被害を省みぬヨイヤミの尽力もあって、被害は未だに最小限に抑えられてはいる。しかし、それもいつまで続くか分からない。


「……この野放図のほうずな連続転移を封じたいところだね」

「うん! そうだね! 私が空間を斬って、邪魔しようか!」

「フッ。いいや、空間というなら、オレの出番だろう。お前は引っ込んでいろ、むしろ邪魔だ」

「なんだとー!」


 まるでピンチに駆けつけるヒーローのように現れたのは、まるでヒーローらしからぬ邪悪なドラゴンに騎乗した竜騎士。

 個人で空間を操る高等スキルを持った、ソウシの登場であった。

※誤字修正を行いました。「でよ」→「でしょ」。これはこれで可愛い……? 誤字報告、ありがとうございました。

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空を跳び回る巨大な肉塊……SAN値直葬的な何かでしょうかー。火から逃げる肉を焼くためにあらゆる手を使って追い込んでいくゲームですかー? 焼かれては堪らないと反撃やテレポートまでしてくる肉とは、ゲーム背…
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