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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
第6章 マリンブルー編

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第178話 第四回の噂

 それからハルとユキは、藍の国のダンジョンを順に回って行った。


 山の中腹に建てられた都市に、全ての川が流れ込み、都市中の通路が川の一部と沈んだダンジョン。

 元は砦か灯台か。海沿いに建てられたそれが土台ごと崩れ去り、塔の先端だけが海面に頭を出す海中ダンジョン。

 湖の中へと沈み、かつて別のゲームでやった苦行を彷彿ほうふつとさせる、水中に輝く神秘的な水没都市。


 そうした、水に埋もれたダンジョンが多数存在し、中には実際の水や海水を利用した所も多かった。

 完全に水中にあらずとも、足元が水浸する程度は当たり前で、水に足を取られて攻撃や回避が上手くいかない、といった展開も多く予想される場所ばかりだった。


「どこも見事に水ばっかりだ。流石は海洋神ってだけはあるのかな」

「そだねー。マリンちゃんと契約すると、水中での動きが良くなるらしいよ。今んとこ、『何処で役立つのー?』、って感じみたいだけど」

「ここで役立つんだね」

「水魔法の強化が良かった、って言ってる人も、これ見れば納得だね!」


 カナリーの<幸運>のように、それぞれの神と契約した時に専用のスキルを授かる事が出来る。海洋神マリンの場合は、水中への適応スキル。

 <水魔法>が好きなプレイヤーからは、それの強化スキルが良かったという声も出ているようだが、水の一属性だけ突出して優遇されるような状況は、魔法神であるウィストが許さなかったのだろう。属性バランスはきっちりと計算して作成されているようで、どれかの一強を許すといった状況にはなっていない。


「さて、それで。北側が終わって戻って来た訳だけど……」

「特になんもヒントなかったよねー。分かってたけど」

「そうだね。そういうゲームじゃなさそうだ」

「じゃああれかなハル君。やっぱ正式なワープでしか行けない場所なんかな?」

「その可能性も無くはない」


 今までは、ダンジョンは全て地上からの入り口も転移とは別に存在したが、だからといって、そういったルールが存在すると確定した訳でもない。

 この地下ダンジョンは、転移でしか行けない例外ダンジョン、といっただけの可能性もある。


「一先ず入れるダンジョン全部入ってから考えようかハル君」

「そうだね。そもそも入らなきゃいけない、って事も無いし。強化に必要なアイテム落とすレアモンが揃えば、僕らの目的はそれで済む」

「そか。なんか、ダンジョンもコンプしなきゃならぬ気がしていた」

「コンプリート出来るなら、まあそれに越した事はないけどね?」


 ハル達がこうして各地を巡っている主目的は、そもそもそれが目的だった。

 幽体研究所や、魔道具開発局で使うためのアイテム。それを落とすモンスターのデータを収集する。

 それに漏れが無ければ、特に無理をして行く必要は無くなるのだった。


「それに、そろそろルナが起きる」

「おぉ、朝チュンだ……、寝起きのルナちー、どんなだろう……」

「しばらくはボーっとしてるね、ルナはいつも。アイリは、起きてすぐ元気になるけど」

「これが、美少女ソムリエによる食べ比べ……」

「こらこら」


 確かに二人とも、違った可愛さがあるのは確かだが。

 そういえば、ユキの場合はどうなるのだろう。ユキはハル同様、眠った姿を見せる事がない。ハルとは違い、完全に睡眠を必要としない訳ではないので、どこかのタイミングで寝てはいるのだろうが。


「さ、さてハル君! んじゃキリが良いし、ここらでお屋敷に戻ろっか!」

「そうだね。それがいいかもね」


 話題がまた自分に帰って来そうなことを察知したか、ユキが慌てて話の流れを変える。

 そんなユキを少しいじめてみたい気も起こるハルだが、別段、追求しなければならない内容でもない。ゆっくりと関係を進めて行けばいいだろう。


 ダンジョンの探索、そして謎の地下施設への考察は切り上げ、ハルとユキはお屋敷へと帰路をとった。





「やあ、おかえりユキ。お邪魔しているよ」

「セレちんいらっしゃーい。夜通しずっとお茶会?」

「流石に途中からは、雰囲気が出てきてしまってね」

「ま、まさかセレちんも……」

「そう、途中からは宴会にシフトだとも」

「……さいですか」

「セレステはお酒の飲み方も優雅だから、雰囲気はお茶会とさほど変わらなかったけどね」


 あまりアイリはお酒をたしなまないが、お屋敷にはお酒もそれなりに常備されている。セレステとふたり、それを空けて過ごしていた。

 ランプの光に揺れる彼女の顔は美しく、本当に雰囲気が出ていたと言えよう。セレステと語って過ごす時間も、ハルにはまた楽しかった。


 ちなみにカナリーは、お酒入りのお菓子を作って欲しいとメイドさんにおねだりしていた。


「もう朝だ、君たちも、お酌はもう良いよ? 休んでくれたまえ」

「はい、セレステ様。お役目、たいへん光栄にございました」


 夜勤のメイドさん達が交代してゆく。ハルとセレステにお酌をする、という役を彼女も楽しんでいたようだ。

 神への酌、という役目が栄誉あるものなのは勿論、このお屋敷ではお酒があまり出ないので、普段は出来ない役目でもあった。

 なお、彼女にも勧めてみたら、遠慮しつつも喜んで飲んでいた。後で他のメイドさんにも飲ませてみよう。


 そんな感じで、今日は日本ともあまり時差は無いこちらの世界。朝となり、真夏の日差しが、早くも庭の緑を色濃く輝かせる。

 庭のお手入れをするメイドさんが非常に暑そうだが、彼女たちの体も、ハルによって温度制御が成されており、今年はとても快適だそうだ。


「とはいえ、やっぱりいつものメイド服だと見た目が暑そうだね」

「全くだね。あれでは可哀そうだ。もっと布地が薄い物を与えてやりたまえよ」

「それってセレちんの趣味?」

「うむっ」


 さすがは女の子しか信徒にしない女神様。女の子の服装にも一家言いっかげんあるようだった。

 ちなみに、夏服版のメイド服はルナが今製作中だ。メイドさんは今のままでも十分だと語るが、きっとルナによって強引に着替えさせられてしまうだろう。


 そのルナも、ようやく寝ぼけまなこから回復し、アイリと共にお屋敷へと戻って来た。


「おはよう。セレステ、来ていたのね?」

「おはようございます! セレステ様、いらっしゃいませ!」

「お邪魔しているよ。お姫様、君の家のお酒を頂戴している。悪いね」

「ふおぉ、アダルティーですー……」

「……君は、更にアダルティーなコトをしてきたのではなかったのかな?」


 アイリにとって、お酒を飲んで夜を明かす、というのは大人な行いのようだ。特に、朝まで持つ、という部分が重要らしい。きっと何かの物語で、そういうシーンがあったのだろう。

 アイリとも以前やってみたことがあるが、何口も飲まないうちに雰囲気が盛り上がりすぎてしまって間が持たず、そのままベッドへ直行と相成ってしまった。


 そうして揃ったメンバーと、ハルとユキは昨夜の情報を共有して行くのだった。





「人魚、良いのではなくって? きっとアイリちゃんにも似合うわ?」

「わたくしでは、なりきれません、胸が……、ユキさんの方が、似合うと思います!」

「いやー、ははは、私じゃ可憐さが足りないって。両方兼ね備えてるルナちーだねここは」

「キミら何の押し付け合いやってるの?」


 予想の通り、ルナも人魚型の魔道具には乗り気であった。

 しかし、どうやらおのおの思い描く人魚像という物があるようで、自分では再現しきれないと謙遜している。ハルからしてみれば、三人ともきっと美しい人魚になれると思うのだが。


「私ではダメよ? 髪の長さが足りないもの」

「何で髪なんさルナちー。確かに人魚ってロングヘア多い気がするけど」

「おっぱいを髪で隠すためよ?」

「違うよね! そこは貝殻のブラとかだよね!? 私、やらないよそんなん!」

「わたくし、余計に着こなせません! わたくしのおっぱいでは……」

「じゃあ人魚で進めるよー」


 ルナのたわ言はさて置き、皆、人魚自体には不満は無さそうだ。このまま開発を進める事に決める。

 ハルは思考の一部を割き、魔道具の設計に取り掛かった。


「今夜は人魚プレイね?」

「悪い旦那様に、捕まってしまうのです……!」

「ハル君、納期は今日中だってさ?」

「なんでなん……」


 まあ、ガワを作るだけならすぐにでも出来るだろう。未だ昨夜の熱が冷めやらぬ二人は半ば放置しつつ、話題は次へ。

 藍の国のダンジョンと、その国内にあった進入不能の施設についてだ。


「地下水脈か何かから、進入するのかしら?」

「でもそれだとねー、『地上に入り口がある』、とは言えない気がするなー。セレちんは知らないんだよね?」

「今カナリーが食べている、洋酒入りのケーキを頂ければ、口が軽くなるかも知れないね?」

「つまり、知らないのですね!」

「ケーキはメイドさんが今、次のを焼いてくれてるからさ」


 やはりセレステも、それについては知らないようだった。離れた席で、幸せそうにメイドさんに餌付けされているカナリーも同様だろう。彼女らから答えが語られる事は無かった。

 しばらく話し合うもやはり結論は得られず、今度は全員で赴き、地下から入り口を探してみよう、という事になる。


「もしかしたらー、今度行われる対抗戦の準備を地下でしてるのかもですねー」


 そうしてハル達が話しているうちに、ケーキを食べ終わったカナリーも会話に加わる。甘い匂いをさせながら、自然にハルの膝の上に収まった。


「対抗戦、って、今企画してるマリンちゃんの水着イベントって対抗戦なん?」

「そうなんですよー。ハルさん討伐も失敗しちゃいましたしねー。今度は趣向を変えて水着でやろうってことらしいですー」

「それ言っちゃっていいのカナリーちゃん?」

「ナイショですよー?」


 どうやら七色神による会議とやらで決まったらしい。今回も、ハルの殿堂入り的な不参加は見送られたようで、ハルもまた継続して参加しなければならないようだった。

 ハルを倒すことを諦めていない、というのも有るようだが、どちらかと言えばハルが居た方が盛り上がると判断されているようだ。

 その上で、黄色チームの一人勝ちを何とか阻止しようと頭を捻っているらしい。それが今回の特別編として形になるようだった。


「今回はね、どうやら普段のキャラクターは使用せず、別のアバターにログインし直す形のようだよ」

「ゲーム内でー、更にログインとか言ってましたねー」


 二人の女神から、その特殊性が語られる。

 どうやら、通常使っているキャラクターを使用せず、全員が全く同じ条件でイベントに臨めるように手配するようだ。ハルの場合は、本体による参加も出来ない事になる。


「まあ、妥当な案じゃないかな? むしろ最初からそうすれば良かったのに」

「鍛えたキャラクターの力を試したい、という欲求もありますからねー」

「最初からこれでは、何の為に本編で鍛えているか分からなくなるからね。……という体で、さりげなくカナリーが潰していた」

「ハルさん無双が出来るに越した事はないですからー」

「策士だねカナリーちゃん」


 ゲーム内で更にログイン、と言うと複雑に聞こえるが、要は別キャラクターを遠隔操作するという事だろう。ハルが普段やっている分身に近い。

 能力が均一にされたその分身アバターで、対等な条件で試合をするという訳だ。

 自然、普段のゲーム進行状況から離れたお祭り騒ぎ的な側面が強くなる。


「そんで、条件が同じならば、数の多い方が当たり前のように勝つよね? ハル君、てか黄色チーム不利すぎない?」

「黄色が不利なのは、今までも変わらないわね?」

「ですが! 今回はハルさんがその強大な力を振るえません! 数の差はより顕著に出てしまうでしょう」

「そこが狙いだろうからね。お姫様の言った部分が」

「ハルさんの一人勝ちを止める為ですからねー」

「まあ、僕は誰もが知るスタートダッシュ組だ。その有利を封殺できるとなれば、多くのユーザーにも受け入れられるだろうね」


 ハルだけではない。開始から数ヶ月が経ち、このゲームでも『新参』と『古参』に分かれた格差が生じてきた。

 特に、対抗戦の参加回数による差は大きく、対抗戦で得られる大量の経験値が有るか無いかで、同時期の開始でもかなりの差が出ている。そこの是正にも一役買うのだろう。


「もう対抗試合ではなくて、経験値アップのお祭り期間にすれば良いのではないかしら……」

「そこは我々の都合があるのだよ。諦めてくれたまえ」

「勝敗による格差はー、つけないとなりませんのでー」


 ルナの最もな疑問に、女神達からノーが突きつけられる。ユーザーにとってお祭りで良くても、神の間では勝敗を決めなくてはならない。

 つまりは、今回も勝負事なのは変わらないのだろう。


「でも水着で何やるんだろ? ……やっぱ水着審査? コンテスト?」

「そしてユキが大活躍ね? 期待しているわ?」

「る、ルナちーだって、マニアックで人気出るよきっと!」

「そこは我々も知らないのだよね。マリンブルーの奴が主催だから」

「トライアスロンでもやるのですかねー? その施設を、地下で準備してるのかもですねー」


 ここで、最初の話に戻る。謎の地下ダンジョンは、いったい何なのか。

 その場所で、秘密裏に今回の対抗戦の会場を準備しているのかも知れない、という予想だ。


「地下のぷーる、わたくし達と同じですね!」

「なるほど、自分の領土なら覗き見されないから。まあ、納得のいく話ではあるね」

「これは、無理にでも入ってみる理由が増えたわね?」

「だね! 会場を事前に知っておけば、当日が有利になるし!」


 ルナとユキが息巻く。かの地へ赴いて、情報収集する気満々のようだ。

 まだそうと決まった訳ではないが、女神達の話し方から察するに、その可能性はそれなりに高そうだ。一度、皆で進入してみるのも一興だろうか。

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