表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
4部3章 スイレン編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1771/1780

第1771話 一体ずつ戦う決まりはない

 ソウシのる大型のドラゴン、その前へと飛び出るようにして、ハルは<飛行>しつつ戦線に参加して行く。

 敵側はといえば退いて行く幾何学きかがく模様のスラグの代わりに、複数の巨大生物型スラグが前進して来ていた。


「フンッ! 奇襲に失敗し、ここからが本番という訳かっ!」

「だろうね。あの幾何学スラグの攻撃は、前に味方が居ると使いづらいだろうから」

「ざまぁないな! これでさっそく一匹、脱落というわけだ!」

「油断しないでよソウシ君? 全力で攻撃できなくなったというだけで、あいつの力自体は健在だ。乱戦中に不意を突いて、また爆撃してこないとも限らない」

「分かっているっ! 細かいぞいちいち!」


 本当に分かっているのならいいのだが。油断しがちなのがこのソウシであった。


 手傷を負い後退したとはいえ、『狙った場所に核融合を起こりやすくするフィールドを形成する』という能力が脅威な事には変わりない。

 むしろソウシが攻勢に出て防御が薄くなった時にこそ、後方からその力が刺さりそうだ。


「この先、乱戦となっていくだろう。そんな戦場の中をって、こちらまでトリガーとなる粒子を飛ばすのは至難! そんな余裕などもはや無いだろうよ」

「そうだといいけど」

「ふんっ。いいや違うな? 無いのではない。オレが与えん! 攻め続ける事で、自動的に隙はなくなるのだ!」


 そう言い切るとハルの反応を待たずに、ソウシは再び騎乗するドラゴンにブレスの砲撃を命じる。

 確かに前方全てを埋め尽くすほどの火炎の渦は、狙撃のための隙間など一切残してはいなかった。


 しかし、常時こうしてブレスを吐き続ける訳にもいかないだろう。確実にどこかのタイミングで、射線が通る瞬間が来る。


「まあ、とはいえ言ってることは正しいか。敵からの攻撃もあるだろうしね」

「そんな暇など与えるものか! お前もさっさと、攻撃を始めろハル!」

「そうだね」


 ソウシのブレス攻撃が途切れたその瞬間に重ねるように、ハルも魔法による攻撃を叩き込む。

 空中に渦を巻くように複雑な軌跡きせきを描き敵に迫る水の魔法。まずは小手調べに、それを放ち攻撃する。


 小手調べとはいえ、決して威力が低い訳ではない。破壊力そのものは、ティティーの波にも匹敵する。


 いいや逆か、ティティーのあの波が、ハルの魔法にも匹敵するほどの異常な破壊力を常時まき散らしていたのがおかしいのだ。


「どうやら届いていないようだな? どいていろ、オレがやる!」

「……ソウシくんのドラゴンも、ブレスが届かないみたいだね?」

「馬鹿なっ!」


 毎回良い反応を返してくれるソウシに顔がにやけそうになるが、それを押し殺しハルは敵の群れを観察する。


 ハルの水流も、ソウシの火炎も、敵スラグの群れに届く前にその威力を消失させていた。

 これは、別に二人が射程を見誤った訳ではない。明らかに、敵のスラグが生み出す防御型のフィールドによる効果であった。


「ふむ? 言うなればソラたちの防災フィールドのような、攻撃封じのフィールドを形成するスラグが居る。そういう事かな?」

「ずいぶんと冷静なことだ」

「経験済みだしね」

「??」


 怪訝けげんな顔をするソウシには答えず、ハルはただ敵を見据える。


 翡翠ひすいの花畑により、全てのプレイヤーのフィールドをハルは事前に経験済みだ。その事を説明するのは、少々面倒だった。

 そして、あれを相手に戦った事に比べれば、この連合軍なども悪いが見劣りしてしまう。


「ふん。アレか」

「だろうね、見るからに」


 見れば、前進してくるスラグのうち、植物タイプのスラグがこの地に根を張り増殖して、細い木を次々に生やすようにしながら進んで来る。

 そうしたスラグの林は恐らくフィールドを拡張し、防御陣地を形成しているのだ。


 そんな木々に紛れるように行軍を続ける、スラグのうちの一体。巨岩そのものに命を宿したような、通常の生物の域を出たモンスター。いわゆるロックゴーレムのようなスラグがひときわ前に出る。

 それが地面を大きく踏みしめたかと思うと、足元の大地が大きく隆起りゅうきし続けて放ったハルの魔法を遮ってみせた。


「チッ! 防ぎ方もよりどりみどりか!」

「個体ごとに得意分野が違うからね。集まればそれだけ、多彩な攻撃を無効化できる」


 それこそ、全てを複合した翡翠が使えばハルのどんな攻撃すら通じない結界を生み出せる程に。


「おい、経験済みだと言ったな? 攻略法は」

「あるよ。フィールドスキルはそれぞれ、他者のそれと混じり合う事を許さない。そこが弱点というか、付け入る隙だ。同時に二個使えない」

「つまり、攻撃中は防御が出来ないという訳だな。なんとも簡単じゃあないか」

「あとは、対処不能の組み合わせで同時に攻撃するとかね」


 それすらも、翡翠の処理速度であれば防ぎきられてしまったが、今回の相手はまだまだ慣れないプレイヤーだ。

 しかも寄せ集めの連合軍。連携も未熟なことだろう。その隙は大きいとみた。


「ならば、することは単純。とにかく攻めるのみ! ハル、オレに合わせてお前も攻撃を、って、ぬおおっ! バカなっ!?」

「だから油断するなって言ったのに……、ある意味期待を裏切らないとも言える……」

「ソウ氏だねぇ」

「もしやわざとやっているのかしら……」


 だとしたらなんとも気合の入った芸人ぶりだ。尊敬に値する。などと勝手な評価を下すハルだった。


 何が起こったのかといえば、敵の防御網を力ずくで破ってやろうとそちらだけに意識を奪われたソウシは、例の幾何学スラグからの爆撃による奇襲を受けたのだ。

 植物型スラグのツタのような体が増殖し樹立するスラグの林に隠れ、木々の間からソウシの付近の空間を狙撃された。


 爆風をまともに浴び、ダメージを負うソウシと彼の乗るドラゴンの頭。

 幸い、といっていいのかどうかは分からないが、ドラゴンの方の傷は一瞬で再生を終えたようだ。大したダメージではない。


「おのれっ! つくづく姑息こそくで、卑怯ひきょうな連中っ!」

「いや油断したソウ氏が悪い」

「もっと防御を固めなさいな」

「分かっている!」


 忌々しそうにしながら、さすがに今度は油断なく空間遮断くうかんしゃだんの力を準備するソウシ。

 敵の防御も厄介だが、彼のこの力もたいがい無法だ。なにせ苦手分野がない。


「……とはいえ、僕も余裕ぶってばかりはいられないね」

「そうですねー。今までは、ハルさんの魔法を無効化してくるレベルの相手なんていませんでしたからねー」

「これが、“ぼすらっしゅ”! なのですね!」


 そうかも知れない。見るからにボス級の存在が、しかも並んで攻めて来る。ボスラッシュどころかボスパーティだ。


「『巨大ボスが徒党を組めば無敵では?』って誰もが思うけど普通やんない事を平気でやってくる。うーむ、この恥知らずさこそパワー」

「馬鹿を言っていないで、私たちも加わるわよユキ?」

「ほーい」

「わたくしも、がんばるのです!」

「どちらかというと、こっちがボスラッシュで、相手はそれに必死に対抗してる感ありませんー?」


 そうかも知れない。なにせ、ハルたちは他のゲームから魔法を持ち込んでいるチーターのようなものである。

 それを討伐するために、各地の総力を結集したとでもいうのだろうか。


 だが、大人しく討伐されてやる訳にはいかない。ハルたちも、そんな無法な実力をこの際存分に発揮させてもらうことにするのであった。





「敵の地面への干渉は、私がなんとか相殺そうさいしてみせるわ?」

「よっしゃ! やったれルナちー! スキルを使う時は、大きな声でスキル名を叫ぶよーに!」

「嫌よ、恥ずかしい」

「だいじょーぶ大丈夫。読みだけならフツー普通。バレないって」

「そうじゃなくて、叫ぶこと自体が恥ずかしいわ?」


 ルナのスキル<近く変動>は、このゲーム内で得た適法スキル。その力は岩石の敵スラグと酷似こくじしていた。

 地形に干渉し、土地の形を自在に変える。その力はこれまで街作りにおいて非常に重宝されてきた力だ。


 名前から分かるように攻撃用のスキルではないのだが、その威力は決して攻撃スキルに劣らない。

 ルナは敵が巨大な壁のように持ち上げた地盤を、地面へと引き戻すように操作しその効力を相殺していった。


「……だめね? さすがに、敵の方が力が上よ? ぜんぶはどうしても、戻しきれないわ?」

「いえ! 十分にすごいのですルナさん! あんなおっきなスラグさんの力に、真正面から対抗できているんですから!」

「ムキムキのパワーだねルナちー。ゴリラルナちー」

「……そう。ユキはどうやら、そんなゴリラさんと関節技の特訓がしたいようね? 付き合うわ?」

「いやー、私、打撃専門なんでパース……」

「なら馬鹿な事を言っていないで、あなたも行きなさいな……」

「ほいほーい」


 確かに、敵の持ち上げた壁を全て地に戻す事は出来ていないが、スラグの力にこうして対抗できているだけで実に強力なスキルといえる。

 アプローチの仕方が違うだけで、よもやスラグと似たようなブースト効果を得ているのだろうか? あとでアメジストに詳細を聞いてみようと思うハルだ。


「ルナさんは、ティティーさんの海もそのスキルで防いでいましたからねー。本当に強力ですねー」

「そうね? でもあまり過信しないでちょうだいな? 今も、この土地はハルが埋め立てた柔らかい地面だから、操作しやすいだけかも知れないわ?」

「関係ないんじゃないかな? 謙遜しないでよルナ」

「そうですねー。というより、この地面を有効活用できるのは、私の方ですかねー? それこそハルさんの仕込みが入ってますもんねー。それー」


 そんな地面が、ルナの<近く変動>や敵スラグの力以外でうごめきはじめる。その犯人はカナリー。


 ハルがかつての『海』を埋め戻した際に、その土に多少の仕掛けを施しておいた。

 それはハルたちが自国の家々を建設した時のように、土をエーテルにより自在な形に操る為の仕込みだ。


 そんなスライムのように形を変える土が、フィールドスキルも無視して直接スラグ達に襲い掛かった。

※誤字修正を行いました。「焼失」→「消失」。炎属性の攻撃なのでワンチャン自身で自身を焼き尽くしたという事でいけるかと思いましたが、普通に誤字です。誤字報告、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
格ゲーなんてお上品なものではありませんからねー。機を見て結託し、隙を見て対抗し、最終的に生き残っていれば勝ちの大乱闘ですよー。求められるのは如何にして生き残るかという立ち回りですねー。そこで攻撃こそ最…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ