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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
4部3章 スイレン編

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第1769話 奇襲暗殺特化型

 宙に浮かぶ幾何学きかがく形状をした巨大物体が、浮遊し真っ先に攻め込んで来た。

 奥に控える何体かのスラグ生物も、その行動を見て各々バラバラにだが幾何学物体に続く。


 すぐに連なる者、遅れて渋々続く者、自分はその場を動かぬ者。スラグごとの別々の動きは、それぞれその創造主たるプレイヤーの意思を反映した動きだろう。

 完全に連携をとって攻めてこないだけマシともいえるが、バラバラすぎるとそれはそれで読みにくい。


「きたきた、来ましたよハルさん……! 私たちは、どうすれば……」

「落ち着くソラ。どうしたらも何もない。そもそもあたしらに出来る事なんて、大してないんだから」

「そ、そんな事もないでしょう……?」

「あたしらは黙ってフィールド張っとけばいいの。それしか期待されてない」

「いや、期待してない訳じゃないんだけど。でもそうだね。防災フィールドはまた展開してくれたら有難い」


 黒いドラゴンを従えた攻撃的なソウシとは対称に、ソラとミレは防御型だ。

 彼らはスラグが一般化する前から、自国をあらゆる災害から防ぐ陣地防御の特殊結界を生み出す施設を作り出せていた。


 しかし、その発動コストは極めて甚大じんだい。各種貴金属やレアアース、宝石類といった希少品を捧げなければ、すぐにその効果は切れてしまうのだ。


「ハルさん、大変に申し訳ないのですが、今回もまた……」

「ああ、僕らの敵を押し付けているんだ、喜んで協力させてもらうよ。……アルベルト!」

「はっ!」

悪魔の玉手箱(デビリッシュアーク)に火を入れろ。ソラたちの必要コストを錬成れんせいする」

「お任せください!」

「なうなう! にゃおぅん!」

「メタちゃんもお願いね?」

「にゃーうっ!」


 すっかりハルたちの国のシンボルの一つとなってしまった、街のただなかに異様にそびえる二又ふたまたの塔が雷光を放ち始めた。

 その内部は、ハルの魔法『陽電子砲ガンマレイ』を燃料としたやりすぎの超高温超高圧に満たされてゆく。


 そうしてまるで小型の太陽でも作り出すように、内部では核融合や核分裂反応を用いて、強引に望みの物質を作り出しているのだ。


「……<物質化>では拒否されるレアメタル生産が、この方法なら通る。これは、ダークマター関連のデータは原子の形を変えても保持されるって事だよね? ソラたちの防災施設は、貴金属そのものというよりは、内部の観測できないそのデータを燃料にして力を発動している。のか?」

「ぶつくさと独り言を言っている暇はないぞ、ハル! 既に決戦は目の前! 気合を入れろっ!」

「そうだね。すまないソウシ君」


 ゆっくりとその非生物的な線形により構成された肉体を組み換えつつ、しかし飛行するスピードは高速に、幾何学スラグは目の前にまで迫っていた。

 ソウシのドラゴンが道を塞ぐように、その前方へと立ちはだかる。


「……フッ、さあ、そのままもっと近づいて来い。こいつの射程に入ったが最後、貴様の命運もそこまでだっ!」

「おや、ずいぶんと自信があるようで。けど注意してよソウシ君。相手の攻撃もまた、何をしてくるか分からない」

「それこそ問題などない。このオレの力の前には、どんな攻撃だろうと無力、ぅうううっ!?」


 ソウシが余裕を気取ったその瞬間、一切の予兆よちょうも無しに付近の空間が光を放ち、強力な爆発を起こした。

 幸い、直接の被害はなかったが、先手を、しかも不意打ちを許したという事実がソウシを苛立たせる。


「……おのれっ! どこから攻撃してきた! ええい貴様! 攻撃するならせめて、体を光らせるとかそういう分かりやすい反応を見せろ!」

「無茶を言うわね……」

「いいや、ルナちー。予兆を見せて知らせるのは大事だ。ノーモーションによる無予告攻撃など、むべきクソボスの象徴」

「もっと攻略しやすいように、作って欲しいのです! 光をチャージして、レーザーを出すとか!」

「まあー、これ対人戦ですからねー。ほらー、また来ましたよー」

「貴様ぁ! せめて射線を見せないかっ!」

「ソウシ君も徐々にゲーム慣れしてきたねえ……」


 射線が見えれば、それを遮るようにソウシは絶対の防御壁を展開出来る。

 空間そのものを分断し全ての力をカットアウト出来る彼の能力は、敵の攻撃が何であろうと構いはしない。


 しかし、こうして無予告で直接周囲の空間を爆発されては、いかにソウシの力といえど対処は間に合わないのだった。


「これはもしや、相手も空間能力なの?」

「確かに! こちらの陣地に、直接爆弾を“てれぽーと”させて来ているのでしょうか!?」

「んー。でもさそんなら、直接ソウ氏の体の中に爆弾放り込めばいいんちゃうん?」

「何故オレなのだ!」


 そう、対処不能のクソボスというならば、そのくらいはしても構わないだろう。

 しかし、今のところそうした攻撃の気配はなく、あくまで敵の物体は牽制けんせいを繰り返すように、ハルたちから少し離れた場所だけを爆発させている。


 問答無用の戦争とはいえ、さすがにそこまでの無法はゲーム側が制限したのか。それとも、何か出来ない理由が他にあるのか。


「ふんっ。目くらましか何か知らんが、正面だけはあくまで避けるか。めているのか、あるいはこれは誘いか?」

「……いや、ソウシ君。恐らくは敵は、正面にも攻撃はして来てるんだろう。だが、既に君の防御に阻まれている」

「ほう? だが、何か起こっているようには見えんな?」

「うん。不発に終わっている。敵もまた、ソウシ君の空間防御が見えていないからね」

「あー。そーいやソウ氏も、十分にチートじゃん。人のこと言えないぞー」

「やかましいぞ! いや、フッ……、これは王者にのみ許された、特権というものっ……!」

「今更とりつくろっても意味ないてー」


 ともかく、つまりどういう事なのか。ハルは今も予兆なしに発光し破裂を続ける周囲の空間、それを解析したデータを皆にも分かりやすく、周囲に映像として投射していった。


「……これはっ! 敵の前衛的オブジェさんから、ぴゅんぴゅんと細いビームが出てるのです!」

「そのビームがこちらに到達すると、そこで爆発しているのね?」

「よーするに、ワープじゃなくてただ目に見えないくらい細いビームだった訳だ」

「まあ、そんな感じだね」

「フンッ! 姑息こそくなことだ! しかしこの光線、正面にもかなりの数が照射されているが?」

「ああ、そこはソウシ君の空間防御があるから、“誘爆位置”まで届かず不発になっているんだ。もっとちゃんと、種明かしをしよう」


 ハルは重ねて、多数のデータを空中に映し出すと説明を始める。


 まずはこの非常に細いビームのようなものは、正確には光線ではない。高速で射出された粒子が、ビーム状に見えているといったところだ。

 それが、敵の指定した特定のエリアへと到達すると、その場で一気に『反応』を起こす。その結果、まるで光の魔法が予兆なしに近くでいきなり発動したように見えるのだ。


 ハルはその原理を、順を追ってソウシらへと解説していった。


「ではあの、ハルさん? 要するにこの爆発の正体って、結局なんなんです?」

「うん。核融合だね」

「はいぃっ!?」

「また物騒なことだなっ!」

「男子ー。うるさーい。いまさら核程度でうろたえないのぉ」

「そうは言いますがねミレ……」

「前回の反物質乱れ撃ちを忘れたかぁー。あたしらはそれも、乗り越えた」


 ……まあ、物騒な攻撃である事には変わりはないが、確かに規模としては今さら感があるだろうか?


「つまり、この謎のオブジェなスラグの能力は、核融合反応を促進するフィールドを生み出す力ってことだろう。欲しいな、こいつ」

「ええ、ハル様。この能力があれば、我らがデビリッシュアークの効率も一気に向上します。生産コストダウン、生産スピードアップ! 今まで以上にあらゆる物が、作り放題になるでしょう!」

「にゃうにゃう!」

「言ってる場合か! さっさと撃破するからな! 捕獲しようとなど考えるなよ?」

「そんな……、ソウシ様……」


 本気で残念そうなアルベルトに構わず、ソウシは幾何学物体に向き直る。

 彼の空間遮断くうかんしゃだんによる防御は、この相手と非常に相性が良い。容赦してやる気にはならないだろう。


「……フッ、分かったぞ? つまりコイツは狙った場所に、それに見合った粒子を的確に飛ばす事に特化している」

「そうだね。だから、その経路をこうして遮断されてしまうと、そこでは何も起こせない訳だ」


 あくまで、特定の場所の核融合反応を起こしやすくした、そうした力であるようだ。

 その狙った場所に、トリガーとなる粒子を正確に放り込まないと、一切なにも起こらない。砂粒を投げた以下のダメージである。


「奇襲特化の、不意打ちしか出来ない哀れな奴よ! ふははは! タネが割れてしまえばこんなもの!」

「よー言うわ。ハル君がネタばらしする前は、『見えないよー見えないよー』ってビクビクしてたくせにー」

「うんあたしも見てた見てた。イキるなソウシぃ」

「黙れ! そんな事は言ってはいないっ! ……見ているがいい! 楽勝だということを証明してやる!」


 ソウシはそう言って勇ましく一歩を踏み出すと、なんと空間防御を解いてしまう。

 途端に正面でも爆発が生じ始めるが、宣言通り、タネが分かればどうという事はないとソウシはそれを全て無視した。


 そのまま、自らのしもべたるドラゴンを前に、彼は突撃を敢行する。

 ドラゴンの巨体に遮られた粒子は、望みの位置にまで届くことなく飛散する。つまりは、その背後に居る限りは絶対に安全が保障されるということだ。


 更に、そのまま竜は口から広範囲に火炎を放射する。その炎に巻かれ、もうほとんど全てのトリガー粒子は効果を消失していった。


 そして、宣言通り余裕の無傷で、彼は敵スラグに直接火炎を叩き込んだのだった。

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― 新着の感想 ―
期待していいなら「別に、あれを倒してしまっても構わんのだろう?」ぐらいの強気発言をして無双してほしいところですねー。BGMはEM○YAですよー。……縁起でもない? はて、何のことやらー。 対人戦だから…
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