第1768話 この地で育った全ての力
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御兜天羽の仕掛けたプレイヤー連合に対する襲撃は、すぐにゲーム全体へと波及する事となった。
ゲームフィールドは広大ではあるが、プレイヤーは全て外部にて繋がっている。通常のファンタジー世界のように、時間をかけて情報が伝わるのを待ってはくれなかった。
「うちらの周囲の国も、動き出したみたいだぜハル君。ソフィーちゃんから連絡きた」
「そうだね。僕らものんびりとこうして、天羽君の戦いを眺めてはいられない」
「私たちの国の近くには、今どのくらいの戦力が居るのかしら?」
「確か、まだまだ全体の半分も集まってないくらいだったはずなのです! そこで、集合途中の方々に天羽さんが戦いを挑んだので、混乱している状態ですね!」
「浮足立ってはいますが、もうこのまま動いちゃえーって感じですねー」
自国で作り出したスラグ生物達や、人間の、いやNPCの兵士達。それらを集結させるには時間が掛かり、準備が整っているのは多くて全体の半数。
しかし、天羽の参戦によってこのさき集結までどの程度かかるか読めなくなった。
ならばじっと待っているより、もうこのまま集った戦力のみで開戦してしまおうと思うのも自然な話だ。
「なにせ、彼らも連合とはいえそれぞれの所属する派閥があるからね」
「ですねー。他の派閥が揃う前に、手柄を独り占めですよー?」
そう思う者が出てくるのも自然な話。多くの者が同じ匣船家に仕えるエージェントではあるが、彼らも決して一枚岩ではない。
抜け目なく自家が優位に立てる瞬間を待ち構えており、チャンスを見つければ逃さないだろう。
「まーそれに、テンハーを叩く方に合流する部隊も出るだろーし。能力次第だが、ありゃ今の二体じゃキツそうだかんね」
「確かにそうね?」
「なかなか、倒しきるのはキツそうでした!」
削っても砕いても、ゾンビのように起き上がり戦線に復帰するロボット兵士。天羽の作り出したそれらは、一般的なイメージをはるかに凌ぐ不死身さを見せる。
あれを完全に活動停止に追い込むには、通常攻撃では明らかに威力不足。
しかも、もたもたしていると後から後から追加生産されかねなかった。
「……あっちにどれだけ援軍が流れるか。あるいは、逆に天羽君が全土にあのロボットを進軍させて行くのか」
「この世の終わりのようなイメージねぇ……」
そうして全ての街をロボット兵が制圧、駐留し、このフィールドは丸ごと天羽の生産工場と化してしまうのか。
……ファンタジー風の多様な街が並ぶ世界を期待するハルにとっては少々残念な光景だが、惑星開拓の面で見ると、それはそれでアリなのだろうか?
「まあ、今は先の事より、目の前の戦争をどう乗り切るかだね」
「そだねー。うちらが攻め滅ぼされでもしたら、なーんの意味もないぜぃ」
ハルたちは戦火の匂いが色濃くなった、自国上空へと再び<転移>した。
木々が鮮やかに紅葉に色づき、赤や黄色に染まった落ち葉と共に穏やかに運んで来る秋の空気に、ひりついた緊張感が混じっている。
あちこちに見えるのは、焼き芋をする焚火ではなく戦場の篝火か。
のんびりとは程遠いこの雰囲気。冷たくなった秋風もこころなしか肌を刺す鋭さを感じる。
「皆さん、慌ただしく動き回っているのです……!」
「開戦の予感を感じてるねぇ。国民一体となって、開戦準備中じゃ!」
「……そんなバーサーカー国家に育てた憶えはないんだけどなあ」
魔法国家として作ってしまったのが悪かったのか、それともハルの元々の気質が悪いとでもいうのか。襲来する外敵に対し国民は異常ともいえる戦意を見せている。
もはや正規兵も民間人も関係なく走り回り、来たる戦火に備えていた。
必要な物資を抱えて走り、川や用水路の水をせき止めて分岐する。
それらは全て、立てこもって長期戦をする備えであるようだ。
「相変わらずー、大樹の家の中に閉じこもって備えるんですねー。バーサーカーではあるけど、突撃はしないんですねー」
「冷静な、バーサーカーさんなのです!」
「一番ヤバそうな存在ね……?」
「ねーハル君。大樹に侵食された家の防御って、どんなもんなん? これもスラグなんだよね?」
「そうだね。例の、スラグの大きさがその出力に比例するって話から考えると、相当なエネルギーを秘めてるのかも知れない」
「だよね。どう見ても世界最大じゃんこれ」
いかに巨大な怪物の姿をしたスラグ生物であろうと、実は国一つ丸ごとスラグなこの国の大樹には及ばない。
この大樹を倒しきるのは、実は天羽のロボット兵団など比較にならぬほど厄介かも知れなかった。
そんな鉄壁の要塞に迫る巨大なスラグが複数。その多くは北の土地へと集っている。
前回の牛を含めもちろん東西にも連合軍の配置はあるが、そもそもの立地の関係上どうしてもそちらは手薄になりがち。
元々、巨大な円形のゲームフィールドの南側を、小さな半円で切り取った形で始まったのがハルたちの国だ。東西にはそもそもあまりスペースが無かった。
「……今は、かつてティティーの海が削り取った跡地に大半の軍が集まっているようだ」
「埋立地で、何もない平地ですもんねー」
本来は複雑な地形があり、そこを支配していたプレイヤーもいたのだが、その全てがティティーの『海』によって洗い流されてしまった。
領主であった者も仕方がないので、おあつらえ向きのその平原を集合場所として貸し出しているようだ。
「ソウシさんのドラゴンさんが、必死に睨みをきかせているのです……!」
「……そろそろ、ソウシ君に顔を見せた方がいいかもね?」
「うんうん。そろそろ泣いちゃうぜー、ソウ氏」
「泣かせておけばいいのよ」
……まあ、泣きはしないだろうが、出ていかなければ嫌味の一つでも言われてしまいそうだ。
それに、ハルとしてもただの便利な防波堤として北の同盟国を見捨てるつもりはない。
ハルたちは上空より、敵軍とハルの国に挟まれる形となった立地のその同盟国へと、降下し合流していくのであった。
*
「遅いぞお前たち。もう開戦間際だというのに、まったくノンキなものだな?」
「やあソウ氏、泣いてなくて偉いぞー。安心せい。私らが来たからにはもう大丈夫」
「誰が泣くかっ! ……フンッ。とうとうお前たちも、年貢の納め時か?」
「秋だしね。年貢の徴収の季節なのかも知れない」
「減らず口をきく余裕くらいはあるか。というかだな、自国の税制度くらいキッチリと把握しておけ!」
「そうでないとね、ソウシ君は」
今日も冴えわたるツッコミに、一人謎の満足感を得るハルだ。
そんなハルをしばらく訝しげに睨んでいたソウシだが、しばらくして諦めたかのようにため息をつくと、再び前方の軍勢へと向き直った。
「……それで? アレをどうする気だ、お前は。泣き言を言う気はさらさらないが、この国で食い止めきれはしないからな?」
「僕らもそこまで押し付ける気はさらさらないよ」
「前回同様にー、直前の平原が主戦場となりますねー」
「つくづく因果な地だ……」
そんなある意味呪われた土地の目の前に、国を構えてしまった自らの不幸を呪うソウシだ。
彼らの街もある程度発展していたのだが、今は大半の住人が避難しほぼ廃墟と化している。この先、恐らく遷都は免れぬだろう。
「こちらのNPCは退避したのね?」
「当たり前だ。あの気持ち悪い防壁を持つお前らの街とは違う。スラグ共が大挙して押し寄せれば、たちどころに踏みつぶされるだろうからな」
「賢明ね?」
「フッ、だが、みすみす通す気などないのは先に言った通りだがな。あくまで念の為の対処。当然、全てこの場で食い止めてやる気ではいる……」
「だいじょぶソウ氏? この後すぐ死にそうだけど」
「わたくしにも、分かります……! これは、“ふらぐ”なのです……!」
「誰がすぐ死ぬ雑魚だっ!」
そこまでは言っていないが、さすがに一人で立ち向かって勝利出来るとも思えない。
そして、ソウシにはそこまでする義理もない。確かに同盟国ではあるが、最優先すべきは自国の安全なのは間違いないのだ。
「……ぶっちゃけ、彼らは君たちは眼中にない。通り道にされるのを許容できるなら、戦いを避けるという手もある」
「分かっている。しかしだ、戦わずして白旗を振るなどオレのプライドが許さん」
「ええ、それに、素直に真っすぐ直進されてしまっては、街に甚大な被害が出ます。ここはせめて、『面倒だから迂回はするか』程度には思わせなくては」
「ソラ。来て大丈夫なの?」
「平気へいきー。もう避難の指揮は、しなくっても大丈夫だからー」
仁王立ちで敵軍を睨みつけるソウシに合流するように、この国の真の代表であるソラとミレもやって来る。
彼らも、最初にこの場に街を作ったその時から、ハルに与しその他すべての勢力と戦うことになる覚悟は済んでいたようだ。降伏し道を譲る気などさらさらないらしい。
そして、彼らも決してハルに守られるだけの無力な者たちではない。それどころか、ハルたちですら持ち得ぬ唯一無二の力を扱える貴重な戦力だ。
この地に張り巡らされた『防災』のフィールド。それは国土の破壊を前提とする戦争行為に対し、絶大な防御力を発揮する。
ある意味で、大樹のシェルターよりもずっと強固な防御力を備えているのかも知れない。
なにせ、あの『海』でさえギリギリとはいえ防ぎきった実績があるのだから。
「……さて、来ましたね。覚悟を決めなければ」
「まーだ覚悟してなかったのー? ソラ、おっそーいっ」
「うるさいですよミレ。覚悟はしてます。気合を、入れなおしていただけです!」
「その意気だ。じゃあ、行こうかみんな」
「フッ、まあ見ていろ、オレの力を」
最前線に居た、生物感の薄い幾何学的なスラグがまず行軍を開始した。
それに対抗し、ソウシも自らのドラゴン型のスラグを一歩前進させるのだった。
※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。(2025/11/14)




