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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
4部3章 スイレン編

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1766/1773

第1766話 全面対決の前触れ

 地下空中都市を訪れてより数日。ハルは自国に戻り、特等席である城の屋上からこの街と、その先に広がるゲームフィールドを眺めていた。


 そこでは匣船はこぶね各国の連合軍により、着々と開戦の準備が進められており、巨大なスラグ生物を中心とした戦力が整いつつある。

 それら総力をもって、この邪悪なハルの国を討ち滅ぼさんとしているのだ。


「毎度おなじみの展開だなあ。どうあがいても僕は、こうなってしまうのか」

「そーゆー風に誘導してる自覚はあるでしょー。自業自得ですよー」

「まあね。ヘイトを僕に集めることで、ある程度情勢をコントロール出来る。苦労はするけど、やり得だよカナリーちゃん」

「『このくらいしないとやり応えが無い』の、間違いじゃないですかー」

「そうかも知れない」


 つい激しい戦いが見込める強敵を求めてしまう。ゲーマーのさがだとでもいうのか。


 ともかく、このゲーム盤上のほとんどの勢力が、ハルを倒すために力を合わせ攻めて来る。

 ただしそれは決して美談とはなり得ない。共通の敵であるハルを討伐したその後は、残った土地を巡ってすぐに彼ら同士で争いを再開するのだろうから。


「こんな所で、何を黄昏たそがれているんだいハルくん。開戦は目の前だというのに、キミは今回も高みの見物かな?」

「いや。今回は直接出た方が良いだろうね。さすがに全勢力が相手では、この国の防衛力では手に余る」

「何しに来たんですかースイレンー。邪魔ですよー」

「そう言うなってカナリー。仲間じゃないか」

「保護観察処分が調子ちょーしに乗るんじゃありませんー」


 そんなハルに決断を迫るように、いつの間にか背後には爽やかなスイレンの姿があった。青い髪が高所の風に揺れる姿が様になるのが少々悔しい。


 とはいえ別に、ハルも決戦から逃げてここに居る訳ではない。戦いが始まれば、それこそこの場から直接飛び立ってでも参戦しよう。


「少し、考え事をしていてね。キミたちのスラグのことだ」

「そうか。考えてくれて嬉しいよ」

「地球に送ってやる気になったんですかー?」

「そうでもないけど」

「ないんですかー」

「おや。残念だね」

「……とはいえ、例の天羽君の話を聞いてね。少し思う所はあった。結局、それぞれの思惑おもわくはあるにせよ、今の世界を必死に生きているのは彼ら自身なんだから、僕がカミサマ気取りで力を与える、与えないを選ぶのも傲慢ごうまんなんじゃないかってね」

「それを選ぶ権利が、いや選択するだけの力がキミにはあると思うけれどねボクは」


 ハル自身も、自分で言うのは自惚うぬぼれではあると感じつつもそう感じている部分はある。

 しかし、だからといってそう何から何までハルが選択し制御するのは、管理者気分が抜けていないのではなかろうか。


「……それに、僕としてはさっさと一線から退しりぞいて隠居いんきょするのが目的なんだ。この際スラグでもなんでもブン投げて、後は好きにやらせてもいいのでは?」

「ダメじゃないかハルくん。そんな投げやりじゃあ。送るなら送るで、もっと責任をもってくれなくちゃあ」

「そのままいけば望みが叶うってのに、贅沢なやつですねー。なにさまですかー?」

「神様だね!」

「ですかー。私もですがー」


 気の抜けるやり取りに、ハルもつい笑みが吹き出る。その様子を見て、二人の神様も釣られて笑顔を浮かべるのだった。


「じゃあ、こういうのはどうかな? この戦いでハルくんが負けたら、報酬として地球にスラグを送ってあげる」

「それじゃー絶対に送る事はないですねー。ご愁傷様しゅうしょうさまでしたー」

「なら、キミが勝ったら支配者としての威光を見せつけるために地球へ送る」

「それも意味わかんないですねー?」

「……まあ、考えておくよ。ともかく確かに負ける気はまったくないから、やるとしても勝った時になるだろうけどね」


 そう、まずはそんな事よりも、目の前のこの戦いに集中しなければ。


 既にこの城の上から見える風景にも、開戦の予感を感じさせる事象じしょうが視界の中に捉えられる。


 東西の隣国を中心にして、出陣した兵士が陣を敷いている様子が視認できるのは勿論、その奥にはうっすらと巨大なスラグ生物の姿も見えた。

 例の恐ろしい顔をした頭を持つ牛のようなスラグに加え、既に何体かの配置が確認できる。


 特に目を引くのは、北側の地にそびえるように立ち上がる、あまりに巨大な人型のスラグ。

 空気遠近のもやに阻まれてなお、その迫力はこの地まで伝わって来る。


「……あれを見ると、やはりスラグなんて日本に送るべきではないと思えてくる」

「あっちであんなの出たら、大騒ぎですねー」

「逆に、ああした無法を許さぬ為に、キミがしっかり管理すべきとも思わないかい?」

「僕にそうやって仕事を押し付けるなよ。というか、そもそも最初から無法を許さぬように設計しておいて……?」

「逆にこっちではあれくらいやってもらわなきゃ」


 まあ、それもそうなのだが。この星ではリソースはいくらあっても足りないのだ。

 巨大生物だろうがなんだろうが、大人しく開拓に従事するなら細かい文句を言ってなどいられない。


「あんなのがこの先、どしどし集まって来るわけですねー。全員参戦ですかー?」

「いや、天羽君は勿論として、何人かは参戦見送りだね。ソラとミレ、ソウシ君も同盟国としてこちら側だ」

「まあ、彼らは逆にこちら側であるがゆえに、参戦というか巻き込まれるのは確実だろうけど」


 ……残念ながら、スイレンの言うとおりだ。ちょうどこの国の防波堤となる立地に国土を構えているために、戦火に巻き込まれるのは必至ひっし

 あの霧の先の巨人を含めて、北から押し寄せる戦力が一気にソラたちに襲い掛かる事となる。


「彼らをおとりにしているうちに、左右の対処をゆっくりと行うという訳だ」

「いやしないから、そんな鬼畜きちくなこと……」


 ハルが原因となった戦いなのだ。巻き込んでしまった以上は同盟国としてきちんと支援する。

 とはいえ、彼らの力と、ソウシの生み出したドラゴンタイプのスラグもまた、戦力として期待させてもらいたいが。


「あとは何処だいハルくん?」

「あとは、お騒がせのサコンの国かな」

「全方位を敵に回して立ち回っていましたからねー。今回も要請は拒否するみたいですねー」

「『勝手にやってろ』って感じだろうね。それに彼の力は守りに特化している、積極的に攻勢には回らずに、引きこもる気なんだろう」


 サコンの力は侵入者のスキルを完全に封じる、スキル禁止フィールド。あらゆるスキルも魔法も、その影響下では発動を封じられる。

 他国もまたそんな厄介な土地を相手に、戦力を割いている余裕はない。この激動の瞬間を前にしても、彼は悠々と自国のみに集中していられるという訳だ。


「そして、戦いが終われば火事場泥棒かじばどろぼうか。褒められた手ではないが、効率的かも知れない」

「スイレンはそーゆー姑息こそくなのが好きなんですかー? やっぱ胡散臭うさんくさい奴ですねー」

「そういう訳じゃないが、彼の力には興味がある。スラグもまた、特別製だしね」

「そういえばアレは、翡翠ひすい謹製だったか」


 スラグが起点となった能力には違いないが、そのスラグは植物タイプであり、内部には翡翠の作り出した本物の植物が封入されていた。

 それが今後、どのような影響をもたらす事になるのか、ハルとしても気になるところだ。


 そんな話題に上がったばかりの翡翠本人が、この屋上へと飛び出るように<転移>してきた。

 自身の名を呼ばれたと思って駆けつけたのかと思いきや、どうにもそんな感じではない。


 なんとも慌てた様子で駆け込んで来る翡翠を受け止めながら、ハルは何かあったのかと彼女を落ち着かせ尋ねるのであった。


「そ、そのですねっ! 大変なんですっ。戦闘が、始まりましたっ! はいっ!」

「おやー? 何処でですかー?」

「まだここからは、見えないね?」

「それが、まず戦火を切ったのは、例の天羽さんでしてっ!」

「あららー」


 ……どうやら平和主義をうたう割には、喧嘩けんかぱやい所もあるようだ。

 そんななんとも読めない天羽の行動を皮切りに、このゲームフィールド全土を巻き込んだ戦乱がスタートされていくのであった。





「現在、開いた戦端せんたんはそう大きくない。天羽君の地下都市を中心として、その周囲の国に展開されている兵力に、あのロボット兵が攻撃を仕掛けているって感じだね」


 ハルは皆の集合した大部屋のテーブルに、ゲーム内の地図マップを広げ戦況を解説する。

 黒い巨大な円、大穴に作られた都市からい出るように、次々と黒い点が無数に周囲に広がっている。


「まるでアリが巣から出て来てる感じだねぇ。これって、テンハーはハル君の味方をしてくれてるって事でいーの?」

「いや、どうだろう……」

「そうとも限りませんね……、自国の周辺に展開した物騒な方々を、排除したいだけとも捉えられますし……」

「もしくは、自らの唱える平和と全体の協調、これに従わない奴は全員敵だと、そう判断したとも言えそうね?」

「それはまたー、極端な話ですねー?」


 実際、天羽ならやりそうだと思ってしまう気持ちがハルにもあった。

 力で制圧し、強制的に平和をもたらす。そういう過激な選択も取りそうな男でもある。


 彼の日本を思う熱意に感心した矢先にこれでは、いささかガックリと来る所も無いではないが、これもまたそうした熱意ゆえの行動といえるのかも知れない。


「何にせよ、これを皮切りに一気に状況は動くよ。僕らも、すぐに戦闘準備を整えようか」

「はい!」

「りょーかいっ!」


 少々前倒しになったとはいえ、いずれは避けられぬ戦いだ。ハルたちはこのゲーム初の全面衝突に向け、気合を入れなおすのだった。

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。(2025/11/14)

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