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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
4部3章 スイレン編

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1765/1773

第1765話 理想と無謀と夢と現実

 まるで子供のようにキラキラした目で、天羽てんはは自らの都市と力の集大成を紹介していく。まあ、実際に若くはあるのだが。


 とはいえ生み出されているのは殺人兵器そのものであり、彼がそれをどのように運用していく気なのかは、少々不安が残るのはいなめないハルだ。

 いや、所詮は陣取りゲームとしてデザインされたこのゲームフィールドなので、殺人兵器を大量生産する事自体は特に問題ないのだが。


「……なるほど。今後はこの機械兵士達が、次々に量産されていく事になるって訳だ」

「はい! ハルさんもびっくりする程の、量産体制を敷いてみせますよ! ……とは、言ってもですね。結局はワンオペなので、どうしても限度は出てしまうことになるのですが」


 最後は天羽の、手作業の組み立て速度次第になるという事だ。

 とはいえそこに至るまでの雑事は既に、街のNPC任せによる自動化が済んでいる。あとは天羽は、ひたすらこの大きな『プラモデル』に専念すればいい。


 ……まあ、プラスチック要素は何処にもないと思われるけれど。


「そんでそんで? テンハーはこのロボット使ってなにすん? やっぱ世界征服?」

「いえいえ! 滅相めっそうもありません! そんなつもりは毛頭もうとうないですよ!」

「でも、こうして兵隊を量産してんじゃん」

「確かにこれらが、便利で優秀な兵士である事は否定しません」


 聞きにくい事を、ユキがずばずばと質問してくれる。こういう所は有難くもあった。


 確かに天羽の行動は侵略準備にしか見えず、事実周囲の国々も彼を非常に警戒している。それ故にハルへの攻撃を躊躇っているのだ。

 しかし、彼自身は一応は平和主義であり、危うくはあるがその思想自体は本物であるとハルは考えていた。


 なので今の言葉も嘘ではなく、本心から侵略などは考えていないと見ていいだろう。

 ……ただし、それは“侵略は”しないというだけで、戦争そのものを考慮に入れていないという意味ではないと思われるが。


 そんな疑惑の視線を知ってか知らずか、天羽の主張は続いていく。


「しかし、優秀な兵士であるという事は、それだけ優秀な労働力でもあるということです。その力はこの地の開拓という本来の目的にも、十分に役立ってくれることでしょう!」

「確かにですねー。休まず眠らぬ鋼鉄の体という点では、労働力としても優秀ですねー?」

「しかもこのロボットさんなら、魔力の無い過酷な土地でも、開拓は可能そうですね?」

「お気付きになりましたか! そうです。これらであれば『外』の大地であっても、問題なく活動可能なはずですよ!」

「……天羽君は『外』に?」

「ええ。出たことがあります。というより、ほとんどのプレイヤーが一度は行った事があるんじゃないですかね。特に最近は手狭てぜまになってきていますから」


 まあ、それはそうだろう。いくら世界が一触即発いっしょくそくはつの開戦ムードになっているとはいえ、戦わずに新たな土地が手に入るならその方が良いに決まっている。

 どのプレイヤーも一度は、新天地を求めて魔力圏の外へと足を踏み出してみたはずだ。


 そして、無理をさとってすぐに中へと戻ってきた。


 暴風雨などという言葉では収まらぬまさに天変地異てんぺんちいの大雨と洪水が続く悪夢の大地。

 かと思えば、今度は雨が一滴も降らぬ灼熱しゃくねつの地獄が続く季節へと切り替わる。


 そんな地獄を攻略するよりも、戦いが起ころうとも他国を侵略して領土を勝ち取った方が安上がりに決まっていた。


「なるほど? ならば貴方は、この兵士達を使って手つかずの外の土地を開拓することに、平和的希望を見出しているという訳ね?」

「いえ。違いますけれど」

「ちがうんかーいっ」

「なら何だというのよ……、少しは期待したのが馬鹿だったわ……?」

「ああいえ、その、まったく違うという訳でもないんです。最終的には、私も外の世界を開拓したいと思っています!」

「ということはー、今はその時ではないとー?」

「そういうことです! このまま単身外へと飛び出しても、まだまだ効率は悪いまま。もっと準備が必要ですね!」

「まあ、その部分は同意するけど……」

「お外はとっても、厳しい世界でしたものね!」


 いくら頑丈で補給を必要としないロボット兵といえど、あの地獄のような環境に対抗しきれるとは思えない。

 今はそろそろ再びの雨季、と言うには生ぬるい嵐の季節。ロボット兵でも、足を取られてしまえば一巻の終わりである。


「私は、まずはこの土地でしっかり準備を行う必要があると考えています! 幸い、内部は安定しており資源も多い。全員で協力し取り組めば、遠からず設備は整うことでしょう!」

「でもさー。他の連中はチミに手を貸す気なんか無いと思うぜテンハー君? 攻め滅ぼしてお片付けしちゃった方が楽じゃないん?」

「いえいえ! 私一人では、とてもとても! なのでむしろ、出来る限りプレイヤーは減らしたくないと思っていますよ!」


 これは、本心からの言葉なのだろう。攻め滅ぼして、ティティーのように僻地へきちに飛ばしては、協力者が減ってしまうのでそれはしない。

 当然、自分が負けては元も子もないのでそれも拒否する。


 なんとも理想が高いというか、いってしまえばワガママな話だ。

 とはいえ、それを可能とするだけの戦力が、この国には備わりつつあるようにハルには思えた。


「みんなで協力することは、とっても大事なのです! ですが、わたくしには少々、難しいように思われるのですが……」

「確かに難しい。納得を得るには、非常に時間がかかるでしょう……」

「というか無理じゃん?」

「そうね? プレイヤーごとの、理想がそれぞれあるでしょうし」


 むしろ、その国ごとの個別の物理法則まで出てきてしまっている。文字通り、『物理的に』互いの理想は噛み合わない。


 そんな中で自分の理想とする手段を押し付けて協力を求めるのは、それこそ侵略に他ならない。

 天羽本人はその事に、気付いているのだろうか?


「それは裏を返せば、その分、取れる手段が豊富になるとも言えますよ! 各自の理想とする手段を組み合わせれば、きっとより画期的な一手が生まれるはずですね!」

「ポジティブだなあ……」

「反発して爆発しそうなきーすんだけどー」


 まあ、言っている事自体は非常に正しい。各自得意とする技術を持ち寄れば、何か新しい突破口が見える可能性もある。


 とはいえ、正直物が物だ。それぞれが別の宇宙から引っ張ってきたともいえる異常な物理法則。

 ユキの言うように、どうあがいても絶対に嚙み合わない不俱戴天ふぐたいてんの力だって普通にありそうだ。まあ、爆発するかは別として。


 しかし、天羽はきっとそれらも必ずまとめられるはずと、信じて疑わない強い意志をその瞳に秘めていた。これは若さか、あるいは押しつけがましい傲慢ごうまんさか。


「……まあ、その考え自体は間違っていないんだろうね。でも、容易には受け入れられず、反発はいずれ実力行使に転ずるのは理解しているね?」

「それは、仕方がありません……」

「理解はしているでしょう。だからこその、これだけの兵器ですものね?」

「むしろ世界征服して言う事聞かせちゃった方が早いんじゃねー?」

「それをしないのが、天羽さんの個性なんでしょうねー」


 ……とはいえ、結果的に同じ、いや時には最初から侵略するより悪い結果になりかねないのが危ういと感じるハルなのだが。


 とはいえ、その考えを改めさせる気もハルには特にない。

 結局のところ、これはゲームなのだ。どんな『縛りプレイ』を天羽が行ったところで、それは彼の自由。止めることはしない。


 それよりも問題視すべきは、彼がこの力を日本に持ち込もうとしている事。

 さすがにそちらは、理想論だけで何とかなる簡単な話で済ませてしまって良い訳がなかった。


「まあ、この世界の事は分かったよ。確かに、魔力圏外でも有効な技術はこの世界にとっても有用だ。あとサコンへのカウンターにもなるしね?」

「流れ弾で、やっつけられてしまったサコンさんなのです!」

「魔法禁止フィールドの天敵ですものねー」

「兵士が必要な際はお声がけください!」

「対話はどうしたのかしら……」


 意外と好戦的でもある天羽なのだった。話を聞かないならば容赦はしないというか、なんというか。


「必要になったらね。だけど、君は日本にもこいつを輸入しようとしているんだよね? あっちでも本当に、これは必要?」

「はい! 必要になるでしょう!」


 即答であった。そこには一切の迷いはない。打算や野望などのにごった気持ちはなく、限りなく純粋に澄んだ瞳で、『人々の生活の為になる』と彼は確信している。


「でもさー。あっちには戦争は無いぜー? 警備ロボットにってのも、今ので十分じゃね?」

「いえ、警備ロボットはあれはあれで、色々と問題があるのです。いえ、今はその話はいいですね! それを除いても、活用が期待されるシーンは多岐たきにわたりますよ」

「例えば例えば?」

「はい! それこそこの街のような、大規模な工業機械を多用する場合などですね! 確かにエーテル技術は万能ですが、こうした大きな出力を出し、重い物を動かす力には欠けていますので!」

「確かにね」

「そうね? 数少ない明確な、エーテルの弱点ではあるわね?」

「でしょう! そこでこの力が、きっと大きく役立つことでしょう!」

「日本を武力で支配したい訳ではなかったんですねー」

「とんでもない!」

「しっかり平和利用を、考えておられたのです」


 ハルとしてもこの話は、確かにと納得する部分は多い。

 誰よりもエーテルを知るからこそ、その弱点もよく分かっているハルだ。スラグがそこを補うことで、ハルたちの住む世界も更なる発展を遂げる可能性は大いにあった。


 ……ハル自身もまた、そうしたある種の世界の停滞ていたいを感じ、そこに退屈していたのではなかっただろうか。

 だからこそ魔法を夢見て魔法に憧れ、その結果この異世界に来ることになったのではなかったか。


 そんな自分と、目の前で熱く語る天羽の姿を無意識に重ねるハル。

 さて、彼の言うように、スラグを地球に持って行く事は本当に正しい事となるのか?

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― 新着の感想 ―
ハル様がびっくりする量産体制となると、年中無休一日二十六時間の量産体制とかでしょうかー。パン生地注入担当が限界を超えて謎のアディショナルタイムを使えばハル様でも驚かすことができるやもー? 逆に考えて…
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