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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
4部3章 スイレン編

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1763/1768

第1763話 地下天空都市へと社会科見学

 天羽てんはの作り出した機械の兵士は、銅の色、いや錆色さびいろをした外装に覆われた古めかしい見た目。

 しかし、その中身までゼンマイと歯車のカラクリ仕掛けという訳ではない。むしろ人工筋肉を含めた最先端の駆動くどう構造を備えていた。


 それを可能にするのが、天羽の属する御兜みかぶと家の技術力。

 伊達だてに、時代に逆行したサイボーグ技術の追及などを採算度外視で追及し続け、今日こんにちまで継承けいしょう発展させ続けてきた訳ではない。


「ソフィーちゃんも使っていたサイボーグの手足。ああした『趣味』や『福祉』の名目で培ってきた力か……」

「逆風は強かったでしょうに。気の長い話ね? しかし、まさに一族の悲願という訳ね?」

「だろうね」

「でもさでもさ? 今んとこただのゲームじゃん? 少なくともあの人らにとっては」

「そうですねー。しかし、危惧きぐされていたスラグの日本での再現生成が現実になれば、同じことが日本でも出来ちゃうかも知れませんよー?」

「ここで、そのお話と繋がってしまうのですね? で、では、もしかして天羽さんも匣船はこぶねの皆さまと組んでハルさんの国を襲う事も!?」

「どうだろうか? なんとなくそれは、彼らしくない気もするが……」


 とはいえ天羽もまた陰で暗躍する三家の一つ、御兜の後継者。自らの好みにそぐわぬ手段でも、家の利となる行動とあらば躊躇ためらわず選択するかも知れない。


 幸い、ハルの見立てでは平和主義者というか、力を振るう前にまずは会話にて解決を図ろうとするタイプだが。


 とはいえ、それは決して武力を振るわないという意味ではない。事実として既に他国との交戦経験もあり、武力で鉱山を手中に収めている。

 それに、あの機械兵士の量産体制を見ていると、明らかに今後の大規模な戦闘を想定しているように感じられた。


「ねーねーハル君。これってマズいんちゃうん? このスラグをエンジンとして、ダークマターのエネルギーでロボットを動かすって力。これ別にさ、裏三家がスラグ独占しなくても問題ないんじゃないん?」

「まるで表三家があるように言うんじゃあない……」

「でもそうね? 匣船が秘密裏ひみつりにスラグを生み出そうが、ハルが正式にスラグを流通させようが、彼らにとっては同じことだわ?」

「……ですね! むしろ、匣船さんがパワーバランスで有意に立たないぶん、正式流通の方が望ましいかも知れません!」

「疑似細胞スラグが既知きちの技術となったところで、ロボット技術は御兜が依然いぜん独占しているとも言えますからねー」


 エーテル技術に押され、他者がすっかり捨て去ってしまった機械工学を細々と引き継いで来たのが御兜家だ。

 それがここにきて驚異の巻き返しを見せるとしたら。それは御兜の完全な一人勝ちを意味する。


 スラグが一般化しようが機械技術では誰も御兜との溝を埋められない。そんな未来が易々と想像出来てしまう。


「これは、困りました……! わたくしたちがスラグさんを日本に持って行かなければ匣船さんの密輸が問題となり、正式に持ち込めば御兜さんの躍進やくしんを許すことに……!」

「どちらの道も、修羅しゅらの道ですねー。どうしますー、ハルさんー?」

「いやいや、まだどっちも決まった訳じゃないから……」

「状況を見つつ、最適な対処を取るしかないわね……」

「うーん。政治家的な回答」


 仕方がないのだ。ユキにそんな風に言われてしまっても、現状ハルとしてはそうとしか言えないのだから。


 彼らは、既に疑似細胞スラグとダークマターの力を知ってしまった。ここから、後戻りする選択肢など無いだろう。


「……まあ、世界の技術が上がる事に関しては僕も賛成なんだけど、っと、おや?」

「どったんハル君。おっ? なんか来るね?」


 そんな今後の不安を、『地下空中都市』の上空にて語り合っていたハルたち。

 そのハルたちに向けて、高速で接近する何者かの姿があった。


 警備の機械兵にサーチされたか、はたまたこの国は飛行機でも完成させていたのか。

 噴煙ふんえんを上げながら迫りくるその姿を、ハルたちは逃げることなく待ち受けるのであった。





「ああ! やっぱりハルさん達! これはどうも!」

「やあ、お邪魔させてもらっているよ天羽君。上から覗き見するようで済まないね」

「いえいえ! 言ってくだされば、きちんとお出迎えさせていただいたのですが! 辺鄙へんぴな所では、ありますが……」

「いや、立派な街じゃないか」


 これはお世辞ではない。本当に、この眼下にそびえる、いや埋まった都市は圧巻の出来。


 そんな鋼鉄の街の内部から、支配者である天羽本人がなにやら背中に装置を背負しょって飛び出してきた。


「……それは?」

「はい! これはですね! 試作中の、ジェットパックになってます!」

「……このゲームでは全員が高度な<飛行>スキルを使えるのに?」

「いやぁー、その。やっぱりこういうのロマンだと、そう思ってしまいまして……」

「まあ分かるよ」

「ですよね!」


 ハキハキと元気のいい、見た限りでは陰謀とはまるで無関係そうな好青年。それがこの御兜天羽という男だった。


 しかしやはり、その御兜由来の技術力は侮れない。

 このゲームに接続しスキルとして昇華されたのか、こうした複雑な装備も単独で自在に生産できる彼は、ある意味この世界を最も有効活用している日本人だといえよう。


「とっと……、しかしご覧のように、燃料にまだ不安が……」

「少しずつ高度が落ちてんねー」

「そうなんですよお恥ずかしい」


 噴煙を吐いていたことから見るに、これはスラグ動力ではなく既存の燃料か。持続性に難ありのようだ。


「とりあえず、こんな所で立ち話、いえ『飛び話』もなんですから! 皆様、我が街へとどうぞおいで下さい。ご案内しますよ?」

「……どうするの、ハル?」

「まあ、せっかくだし、お邪魔しちゃおうかな」

「やった!」


 うきうきと目を輝かせて、(普通に<飛行>で)降下を始める天羽に続いてハルたちも地下都市のふちへと下降して行く。

 天羽が共に居るからか、ロボット兵士は何の警戒のアクションを取ることもなかった。


 そうして、どうやら正面入り口にもなっているらしい、地下都市の収まった大穴を縦断する河川かせん。それを対岸に渡す架け橋となる巨大な水道橋の脇道を、ハルたちは歩いてゆく。


「圧巻だね。凄い迫力だ」

「この川の水が、我が都市の生命線です。生活用水、工業用水。ほとんどがこの川から調達されます。無論、橋の目的はそれだけにあらず、穴の内部が水浸しにならぬように、そして元のように対岸へとしっかり水を届けられるように、多くの用途を担っているんですよ!」


 誇らしげに語る天羽の解説に合わせ、ハルたちも間近でこの恐ろしく立派な水道橋を観察する。


 川は当然、素直に真っすぐと対岸まで流れる訳ではなく、橋の側面から次々と滝のように流れ落ちて行っている。

 それは支柱から円盤状に延びたこの都市の生活基盤となる第一層に受け止められ、そこからその層の水路を通って更に下の階層へと再び流れる滝を作る。

 他にも、直接もっと深い層へと直接なだれ落ちる長い滝になっている部分もあるようだ。


「ほえー。よー考えられてんなぁー」

「……素晴らしい設計力ね。流石は御兜みかぶとと言わざるを得ないわ?」

恐縮きょうしゅくです! 月乃様にも、よろしくお伝えください!」

「……ええ。考えておくわね」

「なんという、緻密ちみつな計算なのでしょう……!」

「ですねー。エーテルネットの補助なしにこの設計をやってのけるのは、脅威と言っていいでしょー」

「でもさでもさ? ここでこんなに取ったら、下流の水なくなっちゃわない?」

「ご安心ください! ここを、見てくださいね!」

「どこどこ?」


 ユキに続くように皆で、天羽の自信ありげに指し示した部分を覗き込むハルたち。

 そこには、まるで噴水のように水が噴き出す穴があり、逆に川に流れ込む小さな滝が形成されていた。


「このように、使用した水は浄化されてからポンプにより元の流れへと合流するんですよ! ……そうしないと、穴の中がやっぱり水浸しになっちゃいますしね」

「おお。そりゃそーだ」


 本当に、それはそうである。聞くほどに暮らしにくそうな場所に街を作ったものだ。


 しかし、そんな一見無駄ともいえる手間をかけてまで、この地の大空洞の中に宙に浮く階層都市を構えたのには理由があった。

 ハルが埋め戻すというのをわざわざ止めてまで、彼はそれを求めたのだ。


「それで、資源採取の方は順調なのかな?」

「ええ、それはもちろんです! いや、一時はどうなるかと思いましたがね。せっかくハルさんに手配をしていただいたというのに、顔向けできなくなるかと焦ってしまいました……!」

「いや僕の顔色とか気にする必要はないが……」


 天羽が思い出し顔を青ざめさせているのは、例の翡翠ひすいによる花の大繁殖だ。

 あの花はゲームフィールド全体を敷き詰めて広がり、それはこの大穴の中であっても例外ではなかった。


 天羽はその花を巻き込んで掘削くっさくを進めてよいものかと躊躇をし、結果都市の開発は当時ストップしたのだ。

 ハルとしては、厄介ごとが二種同時進行せずに何よりだったが。


「しかし今は、あの花には感謝しています」

「……君もあそこからスラグ能力を得て、その結果が街を守るロボット兵士ってことか」

「スラグというのですね! 私にピッタリだ!」

「確かにね」


 本来は、鉱石などを精製する際の不純物を指す言葉だ。確かにこの街や、それを治める天羽にぴったりな呼び名かも知れない。


「そのスラグの力を得たことにより、課題であったエネルギー問題も一気に飛躍を遂げました。今や兵士達は、休まず眠らず補給も必要としない、真に無敵の兵となったと言えるでしょう!」

「そのようだね。しかし、出力は足りているのかい? 僕の認識では、スラグの生み出すエネルギーは、あのサイズではたかが知れていると認識してるんだが」


 だからこそ、スラグ生物は皆大きい。ケットシーやハルたちの国に攻めて来た牛のような怪物をはじめ、その姿は巨大な物が大半を占めていた。


「よくぞ聞いてくださいました! そこで登場するのが、この地の底から採れる鉱石なんですよ! それを精製するとですね、なんと、スラグの生み出した力を電池のように溜めておく事が出来るのです!」

「なるほど……」


 そうして作られたのが、あの機械の兵士達。そういうことか。

 あれらは全身の装甲が、同時にエネルギータンクの役割を果たしている。そうハルは理解した。


 ……しかし気になるのは、その理屈。ハルの見立てでは、この地の素材にそんな特殊な力はない。

 これこそが、ハルが<物質化>では再現できない、<物質化>に足りない何かだというのだろうか?

※誤字修正を行いました。誤字報告、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
ドワーフ製造に任せてもさもさ量産体制を許すか、ハル様自ら持ち込んでミカブトロイドの量産を許すか輸入させないことで関与できていなかった織結家が他の二家にざまあするかの三択ですかー。どのみち裏三家に利する…
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